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第五十四話 港での異変

 ニャンコの故郷には四日ほど滞在した。

 一度街を散策したが、一日で回れてしまい、残りの日は毎日ニャンコの家にお世話になった。

 ニャンコは自分の稼ぎの一部を、家族に贈ったらしい。

 そのせいか、二日目以降の食事がやたらと豪勢になった。


 最終日、ニャンコの家族と別れを告げ、次の目的地へ。


「ニャンコの家族、良かったね」


「楽しんでいただけて何よりです」


 ニャンコは家族に会えたためか、表情がとても晴れやかである。


「街を出たら、急に寒く感じるね」


 テルトが身震いして縮こまった。


「確かにね。いっつも暖炉で暖まったニャンコの家にいたからねー」


 何度も行くうちに、ワンコもなついてくれるようになっていた。

 お別れの時は泣かれちゃって、ちょっと可愛そうに思えたけど。


「このまま街道沿いに、東へ行けばいいんだっけ?」


「はい、リンさんお願いします。徒歩で二日……スピーダーなら一時間程でしょうか? そこに港町ノベルジャンフォレットがあります」


 これから、期限まで首都には行かず、観光地巡りをする予定なのだ。

 北国の港町って、聞くだけで海鮮が美味しそうである。


「了解!」


 ニャンコの言葉を受け、リンがスピーダーを加速させた。


「安全運転でね~」


「善処しますー!」


 善処ではなく全力で守って欲しい。

 前に巨人の国でツイートにぶつかった経験を活かし、緊急自動浮遊システムを取り付けたと言っていたが。

 つまりは障害物が現れたら、急停止で無くその上を飛んで避けるというのだ。今のところ実際には使われていないし、これからも使って欲しくない機能である。


「うー、やっぱ寒いわねー」


 アリスがわたしに抱き付いてきた。


「こーしていると、暖かいわー」


 胸に顔をうずめられているけど、アリスが幸せそうな顔をしているし、しばらくこのままにしてあげよう。


「うーん、リン、前から言おうと思ってたけど、これ座席部分を覆えないかな?」


 北国旅行をオープンカーって、やっぱり大変だし。それ以前に、ホコリとか車内に入ってくるし、街中で走るときは目立ちまくって恥ずかしいしで、大変なんだわ。

 うーん、オープンカー好きな人は、なんで好きなんだろう? やっぱり、アメリカーンでカッコいいからかな?

 女の子のオシャレと同じだ。オシャレしたいなら快適さを犠牲にするべしってね。


「港寄ったら、首都に一回戻る? あそこなら広いスペースの建物が借りられるだろうから」


 さっそく予定が変わるが、仕方ない。

 なにせ次に行く予定は、この国というか大陸最北端で、流氷を見ようというのだから。

 このまま行ったら凍死者が出る、確実に。


「わたしはそれでお願いしたい。みんなは?」


 他一同からも賛同の声が上がった。

 港町の後、首都行きが決定した。




 スピーダーで一時間、なのですぐに着いてしまった。

 港町に着いて最初に思ったこと――これはあかん。

 海風が凄いのだ。さらに雪までちらついている。

 さえぎるものも少なく、ついでに人通りも少ない。

 今着ているモコモコ上着だけだと、防御面積が不足であり、あっちこっちが寒さ攻撃にさらされている。


「モナカ、早く、どこか、入ろう」


 カタコトになっているエシュリー。

 顔が凍っちゃったのかな?


「えーと、まず、宿屋よね」


 早く見つけたかったけど、気候のせいでみんなの歩みがめちゃ遅い。

 宿屋どこだろー、宿屋ー、やど――あった!

 それらしい看板を見つけ、みんなでなだれ込んだ。

 屋内は暖炉の熱で暖かくなっていた。温度差が激しく、一瞬、火傷したのかと思ってしまった。


「いらっしゃーい!」


 元気なおやじさんの声が、店の中全体に響き渡った。


「すみませーん、宿泊はするんですが、ちょっと寒過ぎたんで、少し暖まらせてー」




 宿屋で熱的な復活を遂げた。

 服の中に暖気をたっぷりと溜める感じで、重ね着しまくる。


「ズボンを買いましょう」


 スカートがよほどキツかったのか、アリスがそんな提案をする。

 厚手の生地のモノに変えてはいるけど、やっぱり


「この辺りですと、内側に鹿の皮を張り合わせた大き目の服が売られていると思います。わたしも、クツとか新調したいですね」


 ああ、エスキモーさんとかが履いてるモコモコのクツか。あれも欲しいかな?

 ニャンコと一緒に買おう。


「よし、服屋さんとクツ屋さんに行くぞー!」


「おー!」




 全員新調したら、上下モコモコで、ゴツイクツの姿になって、誰だ誰やら分かり難くなった。寒冷地帯装備だ。装備と言えば、最近

 オシャレでも何でもない格好である。

 しかし、めっちゃ暖かい。

 風はまるで通さないし、中は保温満点だ。


「少しは吹雪も収まってきたかなー?」


 港へとたどり着いた。

 北国の海って、波が荒そうなイメージだったけど、穏やかであった。

 風が止んでるからかな?

 あれ? 波って風で起きるんだっけ? あ、月の引力とかか。この世界の月は軟弱なんだな。もっと鍛えるべきである。

 寒空の港って、静かなイメージもあるけど、実際に来てみたら、大勢の漁師が仕事をしており、中々に活気付いていた。

 丁度、船が港に着いたところの様で、魚の水揚げの真っ最中である。


「ほー、港って初めて見るけど、結構動きとか激しいんだね」


 テルトが珍しそうにその様子を見ていた。


「わたしは昔、港町に行ったことがあるけど、ここよりは穏やかだった気がするわ」


「ファルプス・ゲイルの港は、波も穏やかだし、ここみたく手作業でなく機械を多く使っているからね」


「アリスもリンも自分の国の港には行ったことあるんだ」


「わたしは、ファルプス・ゲイルだけじゃなくて、妖精国とかも見たことあるよ。あっちは魔道具アーティファクトを動力とした、ちょっと変わった船があったけどね」


「そーなんだ」


「わたしも、海には何度も出てたからな。よく見ている」


 エシュリーは対抗心でもあるのか、何度もってところを強調してきた。


「わたしも、こんなに近くですし、ここには何度も来ていますよ」


「ニャンコはそうだよねー。地元だし」


「えーと、わたしだけ? 港初体験は」


 テルトがわたしに視線を向けてきた。モナカはどうか、ってことだろう。


「わたしも、直で行ったことないかな? 映像とか本では見たことあるけど」


「おー、仲間だー!」


 テルトとハイタッチを交わす。

 港初体験同盟の結成である。


「港を見学した後に、晩ご飯を食べに行きます?」


「ニャンコの意見にサンセー!」


「あれ? なんかあったのかな?」


 リンが水揚げ作業の現場を指さす。

 何やら、人だかりが出来ている。表情を見ると、みんな困っているようだ。


「うーん、わたしたち、観光で来てるんだよー?」


「この格好で人と会うの、ちょっと恥ずかしいわねぇ」


 そう言いながらも、アリスがそちらへと歩き出してしまった。


「わたしたちも行きましょう」


「ちょっ、ニャンコ、引っ張らなくても行くって。ほら、エシュリーも」


「ちょっ、引っ張るな! テルトも来い!」


「うわわわわっ」


 ということで、四両編成の列車状態で現場へ向かうこととなった。




 ぞろぞろと集まってくる美少女集団に驚いたか、そこにいる漁師たちみんなが驚きの表情でこちらに視線を向けていた。

 集まってるのは七人ほど、みんなムキムキのおっさんだ。

 色白で銀髪なのでほっそりとしたイメージのあるこの国の人たちだけど、ちゃんと筋肉付くんだな。

 なんか、最近イメージが間違いまくってるわ。


「何かあったんですか?」


 リンが精いっぱいの笑顔で質問する。

 可愛い女の子に笑顔を向けられたら、抵抗は不可能であろう。

 漁師の一人が口を開いた。


「おお、よその国の人たちか? 可愛いむすめが、なんでこんな港に来ているんだ?」


「観光ですよ、観光」


 わたしも、リンの隣に立って、笑顔を見せてやる。ついでに小首もかしげて威力倍増。

 おお、とか、どよめきが巻き起こった。


「惚れたか? うん? しかし、このモナカちゃん、そう安い女じゃないので諦めてくれ――って、顔してるね」


「テルト! 人の心を読むな!」


 人がせっかく、気持ち良くなっていたというに。

 漁師さんたち、一瞬固まっちゃったじゃないか。


「えっと……何があったかだったよな」


 あ、復活した。


「そーそー」


 漁師たちが何やら顔を見合わせている。


「あんま、女の子に見せるもんじゃあないよなあ……」


「ああ、驚いちまうだろう……」


 なんだなんだ・ 卑猥ひわいなものか?


「大丈夫だ! われわれは、巨人やドラゴンを見たって驚きはしないぞ!」


 エシュリーがめちゃ自信満々に漁師たちに相手にふんぞり返った。


「ドラゴンが釣れたんですか?」


「いやニャンコ、エシュリーのは比喩だから……」


 地球だったら、ドラゴンの死体が釣れたら、UMAとしてオカルト雑誌の一面を飾るだろう。

 漁師たちは、少しためらったが、やがて納得したのか、水揚げされた網の中身を見せてくれた。


「こんなモノが掛ったんだ……不気味だろう?」


「ひっ!」


 アリスが思わず悲鳴を上げて後ろへと引いた。

 ニャンコも無言で後ろへと逃げる。


「なんだろね、コレ」


 リンは勇敢にも、それを突く。

 漁師の持っている物は、体長50センチ程の魚である。

 赤い色をしており、カサゴのような形をしている。

 そして、その右半分が――機械で出来ていた。

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