表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/107

第五十二話 ニャンコの故郷

 首都ではグルメとショッピングを存分に楽しんだ。

 寺院巡りもしたが、最初の街で見た大聖堂レベルのモノは無く、感動は今一つ。

 そして今、わたしたちはニャンコの故郷目指して、スピーダーを飛ばしている所であった。


「この毛皮で出来たシャツ、暖かくていいわ」


 首都で買ったシャツの効果で、外の風がそれほど気にならなくなっていた。


「全然風を通さないものね。ただ、屋内だと暑過ぎて蒸れちゃうけど」


 アリスが自分の着ているものを、まじまじと見ていた。

 防寒性が凄いので、全員分買ったのだ。

 ただ、アリスが言うように通気性が大変悪いため、ホテルとかレストランとか、しょっちゅう屋内に入る機会が多い場合には向いていない。北国の屋内は、暖炉効果でめちゃくちゃ暖かいのだ。

 逆に言えば、屋内に入らない旅の間は有効ということ。


「最初着た日、レストランに入ったら、あまりに暑くて、その場で脱ぎそうになったもんね」


「テルト、お子様だけどレストラン内で脱いじゃアダメでしょ」


「脱いでないじゃん」


 確かに、そのときは地獄であった。

 なんとか耐えたけど、すぐさまホテルに逃げ帰って脱いだっけ。


「ニャンコの故郷って、ここから二日くらいだっけ?」


「はい、途中にもいくつか街はありますので、どこかで一泊して行くことになりますが」


「小さな街なんだっけ?」


「今まで行ったような街とは違い、こじんまりとしてます。わたしの父が神父を務めております教会が一軒、あるくらいでしょうか」


 観光地としては微妙だろうけど、ニャンコの家族には会ってみたいな。


「教会というのは、ナンバー〇〇一ゼロゼロワンのか?」


「イルミナルとナンバー〇〇一ゼロゼロワン、両方を祭っています」


 エシュリーの問いに、ニャンコは普通に答えたけど、それって、教会でキリストと釈迦シャカを同時に祭ってあるようなものだ。すっごい違和感。


「ニャンコのご家族ってどんな方々なの?」


 アリスがニャンコに問いかける。


「父が神父をやっている以外は、いたって普通の家族です。妹が一人いまして、ワンコと申しますが、エシュリーさんくらいの年頃でしょうか。とてもおとなしく可愛い子です」


「ちょっと待ってニャンコ、妹ってワンコって言うの?」


「はいそうですが?」


 安直というのかな? いや、この国では普通なのかな? いやいや待て待て。

 葛藤しているわたしの顔を、ニャンコが不思議そうにのぞき込んできていた。


「えーとちなみに、ご両親の名前は?」


「父がチーマメ、母がペルッコです」


「両親はワンニャン関係無いのか」


「はい?」


 ニャンコが訳が分からないというように聞いてくるが、こっちの方が訳が分からない。

 意味は考えず、単語として覚えておこう。




 途中立ち寄った街――名前は忘れた――で一泊、そのままスピーダーで街道を突き進んでいると、前方にかなりの人数の一団が見えてきた。


「なんだろう?」


「ちょっと聞いてみようか」


 リンがスピーダーを、一団の最後尾に付けてくれた。そのまま一団のスピードに合わせる。

 一団は、鎧に身を包んだ軍隊であった。

 数は二千はいるんじゃなかろうか。

 わたしたちに気付いた兵士が、こちらへ振り向いた。


「君たちはなんだね?」


 乗っているのが美少女ばかりだからか、警戒はされていないようだ。


「旅人ですー! この先にある、えーと――」


「ペルシエルシマ」


 ニャンコが補足してくれる。


「そうそう、その街に行く途中なんです」


「そうかい。その街から南には行かない方がいいよ」


 兵士が謎の忠告をしてきた。


「何かあったんですか? こんなに沢山の兵士さんたちもいるし」


「君たちは聞いてないのかい?」


 驚きの顔の兵士に対して、わたしは首を振った。


「隣国のバーゼルに動きがあるようでね。国境付近は厳戒態勢で、我が国の兵団が集結しているところなんだ」


「ペルシエルシマは大丈夫ですか!?」


 ニャンコが身を乗り出して聞いた。


「まだ、戦闘行為は発生してないし、国境からかなり離れているから、被害は無いよ。本当に危なくなったらナンバー〇〇一ゼロゼロワンに来てもらうだろうしね」


「……そうですか」


 兵士は気楽に考えているようだけど、ニャンコは不安げである。


「この国にはナンバー〇〇一ゼロゼロワンがいますから、大丈夫ですよ」


 アリスの励ましの声にも、あまり浮かない雰囲気だ。


「……ええ、そうですよね」




「見えてきました!」


 ニャンコが身を乗り出して指をさすその先、城壁の無いのどかな小さな街が見えてきた。

 しばらく沈んでいたニャンコも、故郷を目の前にして、やっと笑顔を見せてくれた。


「あれがペルシャなんとかかー」


「ペルシエルシマです!」


 いろんな街名を聞いてて、何がなんやら分からなくなっているのだ。

 間違えてても大目に見て欲しい。


「ご家族はおうちにいるかしら?」


「うちの家族は、父以外は基本家にいますので問題ないと思います」


 携帯とか無いので、連絡が出来ないのだ。

 昔はいるかどうか分からない、移動中はドキドキだったんだろうな。

 今はお昼を少し回ったところ。お父さんはいないんだろう。


 スピーダーを街の出入り口に停めさせてもらい、食堂へと向かう。

 いきなり大人数で押しかけて、お昼ご飯をたかるわけにもいかない。


「ニャンコ、落ち着きなよ」


 トマトソースで和えた肉団子をほおばりながら、リンが声を掛けている。


「あ、あ、はい、ありがとうございます、リンさん」


 食堂で食べているとき、ニャンコは異常にそわそわしていた。

 無理も無いだろう、久しぶりの実家に、これから行くのだから。しかも友達を引き連れて。


「友達のお家に行くのって、初めてでドキドキしますね」


 アリスもそわそわしている。

 手に持ったスプーンがあんまり動いていない。


「初めて? グレイスのお家とかに行ったこと無いんだっけ?」


 コケモモジャムを塗ったパンにかぶり付きつつ、聞いてみる。


「グレイスとは、家族がらみの付き合いですし、物心つく前から何度も行っていたので、ドキドキ感は無かったのよ」


 なるほど、アリスはお姫様だし、家に遊びに行ける相手も少ないだろうしね。

 アリスが何かを思い付いたのか、ちょっと飛び跳ねた。


「あ、お土産を用意してなかった」


「あ、お構いなくです」


「ニャンコはそう言うけど、なんか持って行きたいよね」


「お土産? リン、なんか無い?」


 テルトがリンに無茶振りしだした。


「なんでわたし」


「だってー、いつもいろんな道具とか出してくるから、なんか持ってるのかなーって」


「確かに、リンって、何でも持ってそうだよね」


 わたしも話しに乗ってみる。

 アリスも、何か出てくるんじゃないかと、期待のまなざしを向けている。


「えー、うーん、なんかあるかなー?」


 ポーチの中を探し出した。

 いつも思うが、大量に入ってるポーチから、どうやって目当てのモノを引き出してるんだろう?


「土産か? 現金ならあるが」


「お土産として最悪だと思う」


 エシュリーは何を突然口走るか。


「お、これなんかどうかな?」


「うん?」


「じゃーん」


 取り出したのは、何やら白いボールであった。


「なーにそれ?」


 アリスが興味深そうに見回している。


「えっとー、それって……」


 ニャンコは思い当たるものがあるのか、えらく困った顔をしている。


「そう! 閃光弾!」


 リンの頭を軽くはたいておく。


「なんで友達のお土産が、閃光弾なのよ!」


「わたしも、激しく遠慮しておきます」


 リンは、心底意外というような顔をして、はたかれた箇所をさする。


「うーん、いいと思ったんだけどなー」


 なんでいいと思ったんだろう?

 またも、何か探し始めるリン。


「この村で何か買ってみるとか?」


「この村の人へのお土産にならないでしょ。エシュリーはおとなしくコケモモ食べてなさい」


 素直に、コケモモを食べ始めた。

 酸っぱい酸っぱいと言いってるけど、ヨーグルトソースと合わせれば、酸味もそこまで辛くないんだけどねえ。

 ビタミンミネラル豊富で、美肌効果もあるから体にいいんだぞ、コケモモ。


「お、ファルプス・ゲイルで買ったのがあった」


「どんなの?」


 リンの手元を覗き込む。

 白い箱にビンがセットで入ってる。食べ物のようだ。


「ジャムのセット?」


 アリスがそんな予想を立てた。


「肉ペーストのセットだよ」


「まあ、妥当……なのかな?」


 この国にも存在しそうだけど、まあファルプス・ゲイル産なのは間違え無いのだから。




 食事を終えて、いざニャンコの家へ。

 といっても広くない街なので、五分も歩かずに着いてしまった。


「ここが、わたしの家です。なんか、恥ずかしいですね」


 初めて友達呼ぶのって、ちょっと恥ずかしく思えちゃうよね。しかもアポ無しだ。

 ニャンコの家は平屋の一軒家で、白い柵で囲まれた小さな庭もあった。

 その横に教会が建っている。


「ちょ、ちょっと、家族に話して来ますので、待っていて下さいね」


 ニャンコがそそくさと、家の中へと消えていった。

 ニャンコのただいまの声と、それに応える声が聞こえた。家族は在宅中のようだ良かった。

 さて、どんな人たちなのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ