第五十一話 お風呂で指遊び
朝日に照らされて、巨大なシルエットの全容が現れてくる。
夜にはイルミネーションがキレイであったが、全体がよくは分からなかった。辺りが明るくなるに従い、それが見えてきたのだ。
ニャンコの言う通り、朝と夜では見えるものが違うのだな。
「おはようございます、モナカさん。イルミナルの朝の景色はいかがですか?」
「あ、おはようニャンコ。朝見ると、その大きさが良く分かるよねー。あれって、中の見学とか出来るの?」
隣まで寄ってきたニャンコに聞いてみる。
「中というのは無いんです。建物では無いので」
申し訳なさそうに言われてしまった。
「いやいや、気にしないで。そっかー、景色を楽しむだけの物か」
みなで朝食を済ませてから街ヘと入った。
第二都市のサンティと比べ、同等以上の規模と活気である。
人通りがあり、景色の動きが感じられるためか、街の中は少しは温かく感じた。
「さて、どうするか」
エシュリーがみなの顔を見回した。
宿泊先に決めたホテルのロビーで、プチ作戦会議。
議題は、このホテルに何泊するかということ。
「ナンバー〇〇一の予言に従いますと、普通に二十五泊ではないのでしょうか?」
ニャンコの言う通り、二十五日後にこの街で災厄が起きると言われているのだ。
それにわたしたちが関わるということも。
だが、何度も言うがこの国には観光に来たのであり、救援に来たわけでは無いのだ。
「二十五日も余裕があるんだから、他の街に一度行ってみてもいいんじゃない?」
「そうね、ニャンコの故郷とか」
リンの発言に、アリスが同意する。
「え!? わたしの故郷ですか!? なんか、恥ずかしいです」
ニャンコが顔を赤くしている。
よくよく考えると、自分の故郷に友達を連れて行くって、微妙だよな。いや、この場合はおばあちゃんちに行くというより、自宅に連れて行く感じだから、別に変でも無いのか。
「よし行こう」
「えええーっ!? モ、モナカさんも、来たいんですか?」
「他に観光名所ってあるの?」
「わたしの実家も、観光名所では無いんですが……」
ニャンコが提示した他の名所は、この大陸の最北端の岬、流氷が発生する巨大な湾、ニャンコの故郷に近い場所にある巨大な港町――
「あと、この国最高峰の霊山ギャリルヘルニスへの登山でしょうか」
「雪山登山はレジャーというより試練よねぇ……」
エベレスト制覇とかが真っ先に思い浮かんだ。
登山家であれば挑戦したいのだろうが、あいにく、わたしは登山家でも無いし、そこに山があっても登らない。
結局、首都には五日間だけ滞在、あとは部屋に入ってから入念な計画を立てることとなった。
「いらっしゃいませ、宿泊でしょうか?」
「うむ、六人泊まれるスウィートルームを四泊五日だ!」
たまにはということで、エシュリーの要望通りの最上階イルミナルビューの部屋へと宿泊することにした。
「ひろーい!」
「転ばないようにね」
走り出すテルトに注意しておく。
暖炉にはすでに火がともされており、とても暖かい。暖炉前のソファーで寝転んだら、起き上がれなくなりそうだ。
玄関を抜けると、巨大なダイニングになっている。
六人部屋なのに、テーブル席やソファーなど十数人が座れる空間だ。
隣の部屋がダイニングになっていて、カウンターキッチンも設備されていた。
面白いのは保冷庫で、大きな氷がセットされていて、その冷気で冷やすようになっている。
大きな水がめに水が満たされており、火にかければ温かい飲み物が用意できる。ガス電気水道設備の無いこの国ではとてもありがたい。
風呂場もあった。薪で温めるタイプだけど、これもめっちゃありがたい。久々の温かいお風呂だー。
寝室は二人部屋が三つ。
三つかー。
ということで、またもじゃんけんで部屋割り。
「やったー! モナカと一緒だー!」
アリスが実に分かりやすく飛び跳ねて喜んでいた。
「えー、エシュリーとか―」
「えーとはなんだ」
テルトとエシュリーの部屋って……大丈夫なんだろうか? まあ、寝るだけだしいいのかな?
そしてリンとニャンコが同じ部屋となった。こちらはなんか安心できる。
当初の予定では、すぐにでも観光計画を打ち合わせる予定だったけど……
「お風呂準備しますね」
ニャンコがテルトを連れて二つのお風呂を用意してくれた。
久々なのだ、お風呂にまず入りたい! 清々と全身をキレイにしたいし、暖かいお湯にどっぷりつかりたい。
「そういえば、アメニティなかったよね」
リンがポーチから石けんやシャンプーなど、一通り出してくれる。
ほんと、ちゃんとしたお風呂だ。
「あれ? そういえば……」
リンの出したものを見て、気になってきた。
自分の体臭を嗅いでみる。
「モナカ、別に臭くないよー」
アリスが察したのか、そんなことを言って来てくれた。
「うーん、どうなんだろ? よく分かんないし、この際めっちゃキレイにしたいよね」
「なら、一緒に入りましょう! わたしがピッカピカにしてあげる!」
「そだね、一緒に入ろう」
「わーい!」
「あ、モナカさん、一緒に入るならエシュリーさんも入れてあげて下さい」
「わたしは赤ちゃんか!」
ニャンコの発言もあってか、わたし、アリス、エシュリーグルと、リン、ニャンコ、テルトグループでお風呂へ入ることに。
「ふへぇー」
「モナカ、なんか溶けてるみたい」
湯船のふちに腕をあずけ、そこに顔を乗せてのんびりしているわたしの姿って、溶けてるようにみえるのか。
確かに、溶けてしまいそうなくらい気持ちがいい。
寒い中、さっきまで野宿とかしてたのだ。いくらキャンプファイヤーで温まったとはいえ、気休めにしかなっていない。
「わたしが入っても、全然余裕だな」
エシュリーがわたしの横に入って来て、おんなじポーズで溶けだした。
「広いよねー。けど、後ろから見ると姉妹みたいだねー」
湯船に背をもたれているアリスが、そんなことをつぶやいた。
「似てるかなー?」
「うーん」
二人で見つめ合う。
エシュリーの髪はプラチナロングだ。わたしは黒のおかっぱ。肌の色もエシュリーの方が白いというか白人寄りというか。
「気持ちいいねー」
「そうだねー」
とりあえず考えるのをやめて、一緒に溶けてみた。
「あははははっ、一緒だねー」
アリス的にはそっくりに思えるのか。
エシュリーは目を細めて、気持ちよさそうに小さなお口から吐息を漏らす。
その息を小さく吐き出しているところへ、なんとなく指を突っ込んでみた。
「もひゅっ!」
一瞬息が吐けなくてビックリしたのか、エシュリーが直立した。
「あははははっ」
アリスが後ろで笑っている。
「にゃ、にゃにおふうのひゃ!」
指が口に入ったまま、エシュリーの両手がわたしのほっぺたをつねりだした。
力があんまりないので、全然痛みは無く、赤ちゃんに握られたみたいで、ちょっといい気持ち。
「いやー、可愛いお口だなーって思って」
「ぷはーっ! それでなんで突っ込むのだ!」
指がだ液でベタベタだ。当たり前だけど。
「いや、なんとなく」
「このー、わたしにも入れさせろー」
向かってくるエシュリーの手を掴んで、進行を妨害してやる。
アリスが無言でわたしの後ろに回ってきたけど、これってたぶん……
「わたしが入れちゃうー」
アリスの両手の指がわたしの口に入ってきた。
「にゃー」
思いっきり顔を振り回し脱出する。
「モナカが猫になったー」
「ならんわー! アリスー覚悟ー」
「きゃー!」
二人で抱き合いそのまま湯船に沈んだ。
「ぷはー」
「はあーっ、楽しかったー」
アリスは笑い疲れたのか、さっきのわたしみたく、湯船のふちで腕枕を始めた。
エシュリーは何ごとも無かったかのように、元の位置に戻っていた。
その姿をまじまじと見て、これも思い付きで、エシュリーの腕を取った。
「うん?」
エシュリーの指を食べてみた。
「ふぇ! モ、モナカ、舌が……指……くすぐったい……」
暴れ出したので解放してやる。
「なななな、なんだ!?」
「うん? これでおあいこ」
「うーん、おあいこ、かなー?」
わたしが食べてだ液でベタベタになった指を見つめて、それをこっちに向けてきた。
「汚れた」
「舐め取ってあげよう」
「意味ないわ!」
「なら、わたしがー」
「え!? ちょあっ! 飛びつくなー!」
「ほらほら、アリスお姉さんに見せてごらんなさい」
そんなこんなで、久々のお風呂ではしゃぎすぎ、見事に三人とも湯当たりしてしまった。
「リンー」
「どうしたの?」
わたしに水で濡れたタオルを掛けてくれたリンを呼び止める。
「どう?」
手をかざす。
「うん?」
「いい匂い?」
「はいはい、いい匂いになってるよ。だから、大人しく寝ていなさい」
リンがちょっと赤くなっているように見えた。おやおやー?
暖炉の熱がすべての部屋にいきわたっている。
暖かい布団にくるまれて、お昼ご飯までゆっくりと寝ていよう。
あらすじ、1~4修正させていただきました。
種族:超美少女の説明改訂。
超が付くほどの美少女。魔性のごとき魅了の力に、超再生能力による美肌効果、不老不死による永遠の美貌。
さらには希少種の美少女を悪い虫から守るための超パワー。
(2017/10/25)




