第五十話 イルミナルの塔
ぞろぞろと、長い長い行列が、沈黙の重い足並みをそろえて、ゆっくりと歩き出していく。
「みなさん、本当にありがとうございました」
ピコリンが深々と頭を下げた。
その後ろを長い長い行列、憲兵の連れた多くのごろつきの一団。
後ろに見えるのは怯え切ったボス、メキョラー。その後ろには催眠状態が未だ解けていない、巨人さん。
そういえば巨人さんの名前聞いてなかったな。
「やたらあっさりと終わっちゃって、拍子抜けだったねー」
リンがちょっと不満げだ。
リンは何にもしなかったからねー。
エシュリーが無言でわたしたちの前、ピコリンの正面に立った。
「あ、エシュリーさんも、ありがとうございます」
お礼を催促されたと思ったのか、再びお辞儀をするピコリン。
エシュリーはそれには反応せず、両手を差し出す。
「報酬」
「あわわわわああああぁぁぁぁぁっ!? や、やややっぱり、報酬ですか!?」
ピコリン面白いくらい狼狽してる。
そこにさらに詰め寄るエシュリー。
ピコリンの反応が面白いので、しばらくそのままにしておこう。正直、報酬無くてもいいかなーと思ってる。対して仕事してないし、今はお金持ちだしーわたしたち。
「はぁー、仕方ないです……。隊長にお願いしてきてみます」
「うむ。隊長によろしく言っておいてくれ。報酬が無ければ、モナカが第二のぺキョラーになると」
「ええええっ!? マジですか!」
またも狼狽するピコリンさん。
エシュリーは至極まじめな表情を崩さない。
「ああ、マジだ。 さあ、ゆくのだ巨大怪獣ペキョモナカー!」
「なんだそれは」
着ぐるみ怪獣のバイトでもすればいいのかしら?
「そういえば、連中をどこに連れて行くんだろ?」
テルトの質問に、ふと気付く。向かっている先が憲兵の詰め所ではなく正門方向だ。
「犯罪者はみんな首都へと連行して、そこで裁かれます」
「そうなの?」
「はい、犯罪者や凶暴な獣、攻め込んできた敵軍。すべて裁くのは我らが神、イルミナルの仕事なのです!」
わたしの問いに、ピコリンではなくニャンコが答えた。
片手を天に掲げるポーズまではいらないと思うんだけど……
「イルミナルって裁判の神様なの?」
「えっとー、裁判と言いますか――」
「刑務所の神様ですね」
ピコリンとニャンコが交互に回答してくれた。
刑務所の神様ってなんだそれ。
「イルミナルの能力は封印だ」
エシュリーが補足を入れてくれる。
「巨大な塔で、その中に受刑者を封じてしまうのだ」
「なんでも吸い込んじゃうのか。掃除機みたいだな」
「うわははははははっ! モナカ! それはいい! そ、掃除機の神様」
いきなり笑い出したのでビックリした。さっきの発言、笑いのツボあったかな? なんか琴線に触れたのかな?
「掃除機?」
ピコリンとニャンコはピンときて無いみたいだけど、言わぬが仏というやつだ。
と思ったら、エシュリーがニヤリと笑う。あっ。
「掃除機とは、ゴミを吸い取る機械のことだ」
そのエシュリーの説明に、二人が怒るかと思ったが、何やら納得顔である。
「つまり、この世のゴミ野郎を成敗ですね!」
笑顔のピコリン。
なんだその解釈?
憲兵の詰め所で隊長さんを締め――説得して、報酬一人金貨二十枚を無事ゲット。
「首都に行ったら、豪勢なご飯を食べましょう!」
「おー!」
アリスの提案に、みんな賛成!
翌日、さっそく王都へ出発!
ここからさらに一日の距離。夕方には着くだろう。
「首都イルミナルティアナは、昼間と夜、両方とも外から見るのがおすすめですよ」
相変わらず、人に覚えさせる気の無い都市名である。
まあ、それはともかく――
ニャンコの意見にならって、街からすこし離れた位置で野宿をしようという話しになった。
「【火炎】!」
「わぁーい!」
テルトの炎でキャンプファイヤーだ!
踊るためではない、寒いのだ。
野宿しようと言ったけど、首都近くって、今までよりもさらに寒かったのだ。高さ十メートルを超える炎を生み出したとしても、仕方ない。
「火ってさあ、火ってさあ、火の方を向いている面は熱いけど、反対側はさっむいよね」
「わかるー」
「はっ!」
わたしとリンの会話に、何かを思いついた風なテルト。
「つまり、二つ火を焚いて、その間に立てば……両面が熱い!」
「おおーっ!」
さっそくみんなでやぐらをもう一台組む。
「【火炎】!」
「わぁーい!」
みんなで歓声を上げる!
「でわ! さっそく、間に入ってみまーす!」
「おーっ!」
みんなの拍手を受けながら、間に入ってみるが――
「あうわっちいいいいいっ! これむりだああああっ!」
全力で退避した。
「あ、熱かったの!? 大丈夫モナカ!」
「あ、うん、大丈夫。そんで、なんで、わたし両側から叩かれてるの?」
なんでか、アリスがわたしの前を、リンが後ろを叩いてきた。
「モナカの熱を飛ばそうと」
「う、うーん、ありがとう」
失敗したのは、炎の距離が近かったからだろう。ベストな火間の距離、それこそがこの国にいる間に見つけねばならない命題である!
使命感を燃やしつつも、眼下に広がる首都の情景に視線を向けてみる。
ここに着いた時には、すでに日が落ちかけていた。
つまり最初に見た街の情景は――夜景であった。
「キレイというか、凄いよね」
アリスもわたしと同じ方向に視線を向けていた。
「うん、他に高い建物が無いせいか、ひときわ目立つよね」
「そう、あれが我が国の二人目の神、イルミナルです!」
ニャンコの言う神様、生命とはかけ離れた姿をしたそれが、巨大な威圧感を周囲に振りまいていた。
城壁に囲まれた巨大な街並み、その中央に天空へと延びる巨大な塔があった。高さは三百メートル、東京タワーと同じくらいである。
漆黒の四角柱。頂点は尖塔になっている。
その巨大さもさることながら、一番目を見張るのは、地面から塔の上方、全体の五分の四までを隙間なく覆う、光り輝く文字だ。いや、文字というか文字のような模様かな? 少なくともわたしには読めない。
その光のせいで、下だけライトアップされてキレイなのに、頂上が暗くて目立っていない。
「中途半端に光ってるね。全部光らせればいいのに」
「光らせる魔力をケチってるのかな?」
リンとテルトが口々に、その違和感ある情景に感想を述べた。
「あれは、下から順番に輝いて行くのです」
「どゆこと? ニャンコ」
「イルミナルの能力は、自身の中に、物も生物も魔力もエネルギーも、すべてを封じる力なのです」
「早い話が、あの文字一つ一つが独房だ」
エシュリーがニャンコの説明に続く。
「たとえば、この前捕まえたチンピラたちも?」
「はい、この国では罪人はイルミナルに封印される運命なのです」
「封印されたら、ごはんとかは?」
「魔力の形に返還されるということで、最後の日まではあのままです」
「国の負担が少なくていいわね。脱走とかも無理そうだし」
アリスがそんな、ちょっと王族っぽい感想を述べた。
悪い人とかみーんな、塔のイルミネーションの一つになっちゃうのか。陰気臭い刑務所とかより、よっぽど幻想的である。
「ニャンコ、最後の日って?」
リンが疑問を口にした。刑期ってどれくらいなのかな? わたしも気になった。
「ニャンコよ、イルミナルの塔に刻まれた文字の数は?」
「はい、一千八十万文字です。ちなみに、封印が完了している文字は約八百六十万文字と言われております」
「つまりだ、残り二百二十万文字が光り輝くと、最後の日が訪れる」
「その通りです!」
「うん? 定員いったらどうなるの?」
「イルミナルが、神器から神へと復活なされるのです!」
コンプリートすると神様特典が出てくるのか。
「二百二十万って、残りの数も大概だけど、よく八百万も埋めたよねー」
どんな作業かはしらないけど、今までに八百万回も繰り返したのか。考えるだけで嫌になる。
「この最北の国シャルハルバナルには、当時はいくつもの国が襲撃を仕掛けて来ていたのです。巨人族はナンバー〇〇一が防いでくれていましたが――」
説明に熱がこもっているのか、全力で両手を振って体を回転させて、その凄さを全身で表そうとしているみたいだ。
「――南東の科学国バーゼルや、遥か南西、ファルプス・ゲイルよりも南にある湿原国家ディグレイス・メイルズ、それらの軍勢を何度も何度も飲み込んでおりますの!」
全力で両腕を上げて体をエビぞりにしているニャンコ。背骨折れないかな?
「つまりはそれが、イルミナルの業だ」
エシュリーがきつい目でイルミナルを見つめていた。
「業?」
「悪人も軍人も何もかもを、何百年も封じっぱなしなんだ。過剰刑期にもほどがあろう」
「なるほど……」
「あまりいいものでもないね」
リンの言葉に、アリスもうなづく。
ニャンコは少し、困り顔だ。自身の信仰している神様だからね。
ナンバー〇〇一の言葉を思い出した。「今の制度は極端すぎると思っております」って、これのことを言っていたのか。
最近、ニコニコ動画のキララ系一挙を見ているせいで更新遅くなってます、申し訳ない。




