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第五話 とっても固い幼女神様

 わたしたち三人の生活に、早くも問題が発生してしまった。


「わたしの路銀、あと金貨五枚と銀貨二枚です……」


 お昼ご飯後のまったりした時間を満喫していた食堂で、ニャンコの悲痛な声がむなしく響いた。

 ちなみに、日本円換算で約五万二千円ということだ。

 いや確かにこの何日か、わたしたちは宿屋でダラダラして飲み食いしまくっていたけど、うん、人のお金で食べるご飯はおいしかった。


「今まではお金をどうしてたの?」


 わたしに非難の声が向く前に、ニャンコに話を振る。


「金貨二十枚を持って旅立ちました。路銀が尽きる前に信者が集まって、そのお布施で暮らしていけるかなと思ってたんです」


 ニャンコめ、人にたかるつもりだったか。

 わたしとエシュリー? それは向こうに置いておく。


「モナカさん、信者になったのですから、もうそろそろお布施を下さい!」


「ちょっ! それはお布施になるのか!?」


 こちらに振らないで欲しい。

 社会人になってから久しぶりの、長期休暇満喫中なのだから。


「ニャンコ、わたしとモナカは銅貨一枚だって持ってないのよ」


「エシュリーさん、そこは威張ることでは無いかと思います」


 ニャンコが大金持ちってわけでも無いから、いつかはお金を稼がなきゃならないのよね。

 日本でもこの世界でも、世間は世知辛いわ。


「ニャンコ、エシュリー。お金の稼ぎ方って何かあるの?」


「わたしは、教会の奉仕とかで賃金を頂いておりました」


「お金を稼いだことなんてない」


 よく考えたら、わたし以外のこの二人は宗教関係の人間で、普通のお金の稼ぎ方を知らないのか。

 バイト? 面倒だな~。




 特に妙案も浮かばず、適当に街をぶらついている。

 もう、あれこれ理不尽については、どーでもいいかと思っている。

 お金はちょっとは心配だし、結婚もしていないのにエシュリーと言う扶養家族が出来てしまったし、お風呂が無いから水で濡らしたタオルで拭くくらいしか出来ないし、服は部屋干しだし……

 しかし! 時間に追われない、精神の擦り減らない生活って最高!


「うん? あれって何だろう?」


 大通りに人がわんさかと集まってきている。


「たしか今日、バーゼルの方々が来るって言ってましたね」


「バーゼル?」


 わたしがニャンコに聞き返すと、突然エシュリーが全力で地団駄踏みまくり、謎の踊りを始めた。


「あああっ!? わたしをぶっ殺したクソ国家だよ!」


 エシュリーさん、だいぶご立腹の様子である。


「わたしを殺した?」


「ニャンコはそこんところ気にしなくていいよ」


 意味は無いのかもしれないが、ニャンコにはエシュリーが、元この国の女神さまだと言っていない。

 まあ、魔法も使えないこの子供が女神と言われても、信じないかもしれないけど。




 遠目にも、こちらに進んでくる一団が見えてきた。

 まず、ジープの様な軽車両が一台。その後ろから、装甲車と――戦車みたいなのが来てる! その後ろに幌付きのトラックみたいなのが二台。

 その周りを武器を持った兵士が囲んでいる感じだ。

 使節団とかじゃなく、軍隊みたいだ。


「あ、エシュリーさん!」


 ニャンコの声に振り替えると、エシュリーがいなくなっていた。


「あれ? エシュリーはどこ?」


「あ、あの……あそこに……」


 恐る恐るといった感じで指さすニャンコ。

 その指した先、軍隊の行く手を阻むように、エシュリーが仁王立ちしていた。


「アホかー!?」




 バーゼルの一団の行く手を遮る様、通りのど真ん中で腰に手を当て、仁王立ちしているエシュリー。

 周りの見物人たちから、無茶はやめなさい、そこを早くどきな、といった声が響いているが動じていない。


「おい、邪魔だそこをどけ!」


 先頭を歩く兵士から、怒声が上がった。


「わたしにどけとは偉そうだな! バーゼルのゴミどもが、わたしの街へ土足で入り込むとは、いい度胸じゃあないか」


 エシュリー自身は凄んでいると思っているかもしれないが、見た目が十一歳の美幼女では、まるで迫力が出ていない。ただ可愛いだけである。

 そんなエシュリーに兵士が一人近寄っていき、銃身でいきなり殴った! 容赦無え!?


「ちょっ、エシュリー!」


 思わず心配になったが、エシュリーは微動だにせず、不敵な笑みを浮かべるだけ。


「こいつ!」


 兵士はなおも叩くが、顔などを殴っても、痕も付かず血も流れない。

 うん?


「エシュリー?」


 なんというか、シュールな光景である。

 今では兵士二人がかりで殴りまくっているが、まるで効いてる様子が無い。


「きさまらザコの攻撃など、わたしに効くか!」


 結局兵士二人は疲れ切って息を荒くしただけで、何も出来なかった。

 うーん、神様っぽいところ、なのかな?


「貴様ら! 何をしている! はやくその子供をどけろ!」


 装甲車のハッチが開き、中から綺麗な女性が出てきた。

 地球にいたころのわたしと同い年くらいかな? 茶色いセミロングで切れ長の目をしており、軍服をキレイに着込んでいる。なんかカッコイイ。


「し、しかし、アーリア少佐。この子供、妙なことに何の攻撃も通じず……。おそらく、魔法か何かの効果かと……」


「ええいっ! どけ!」


 部下の発言を遮り、装甲車の中の人に何か言ってるアーリアさん。

 装甲車の機関砲が、エシュリーの方を向く。これはさすがにヤバいんじゃあ!?


「モナカ、出番よ!」


「わたしを巻き込むな!」


 そうは吐いたが仕方ない!

 一気に装甲車両まで走る!


 あと一歩のところで、機関砲が無数の銃弾を撃ち出した。間に合わなかったか!


「ぎゃあああぁぁっ」


 エシュリーの悲鳴。


「転んだー」


「そんだけ!?」


 機関砲の一斉射撃でも死なないようだ。頑丈だな。もしかして戦車砲受けても平気だったりして。

 機関砲の掃射は終わり、エシュリーのあまりにもな状況に、周りの兵士たちも唖然としている。

 よし、チャンス!

 機関砲に手が届き、一気に引きちぎった。


「きさまっ!」


 我に返った兵士が銃口を向けるが、遅い!

 片手で銃を握りつぶし、兵士を蹴り上げた!

 面白いようにはるか後方へとふっ飛んでいく。

 ちょっと威力が強すぎたかな?


「やっちゃえモナカ!」


「わたしの名前を連呼するな!」


 こいつらにわたしの名前だけ憶えられたりしたら嫌過ぎる。

 とりあえず証拠隠滅! 周りの兵士をさらに五人ほどふっ飛ばす。

 そんなわたしの目に飛び込んできたのは、


「戦車砲が動いた!?」


 人間にそんなもん撃つな!


「撃てっ!」


 アーリアさんの号令。

 わたしはとっさに後方に下がり、エシュリーを持ち上げてガードした。

 腕に強い衝撃を感じたが、なんとか大丈夫そうだ。


「わたしでガードするな!」


 戦車砲の弾と思われる鉄球を抱えて、抗議してくるエシュリー。

 最強の盾エシュリー、うむ、なかなかのもんである。


「あ、今のうちに」


 戦車砲がまた撃ちそうだったので、一気に走り込み、砲身を蹴り上げる。

 簡単に曲がった! これでもう撃てまい。


「きさまら、何者だ!?」


 アーリアさんの質問には答えず、装甲車の防壁を素手でぶち抜く。

 そのまま装甲を引きはがした。


「ふふふっ、我々が何かだって? わたしは神だ!」


 周りが静まり返った。

 エシュリーさん、さすがにその回答はみんな引きますって。


「あ、あの……、わたしたちは、確かに、神の信徒……です」


 ニャンコ、ちょっと震えてるな。


「そう、みなで偉大なる神、ナンバー〇〇一ぜろぜろわんを崇めようではないでしょうか!」


「きさまがナンバー〇〇一ゼロゼロワンとかいう変な神なのか?」


「ちっがあああああうううぅぅっ! エシュリー! 女神エシュリー様だ!」


 アーリアさんのナイスボケに、エシュリーのナイスツッコミが入った。


「おい、嬢ちゃん、いくら滅んでいるとはいえ、うちらの元神様を騙るのはよした方がいいぞ」


「騙りじゃないわあああっ!」


 もーぐだぐだである。


「とりあえず、こんな状態じゃあ、威厳もなにも無いし、出直したら?」


「くっ!」


 わたしのナイスなアイデアに、アーリアは苦虫をかみつぶした表情を浮かべる。

 その後、わたしの顔をじっと見つめてきた。


「な、なによ? 惚れた?」


「えっあ……な、何でもない! お前たち、引くぞ!」


 号令一下、全車両バックを始め、兵士たちも帰っていった。

 アーリアさん、顔赤かったな。

 女性すら虜にしてしまう、わたしの美貌が恐ろしい。

 

 後に残ったのは、この状況にどうリアクションすればいいか困っている住人たちと、祈りをささげているニャンコ、そして、わたしは本物だーっ! と暴れているエシュリーだけであった。

 なんてグダグダなんだろー。




 翌日、いつもの食堂でごはんを食べていたわたしたちに、この街の衛兵が会いに来たのだった。

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