第四十八話 小さな町のマフィア騒動
日が傾いたかなと思ったころ、小さな街が見えてきた。
本日の宿泊予定地点である。
壁は無く、村というには建物が多いのかなというレベルの、のどかなという言葉がピッタリの場所だ。
特に見どころは無さそうだし、一晩過ごしたら翌朝には経つであろう。
まあ、明日のことを考える前に、まずは宿探しと今晩のごはんのことを考えておこう。
ホテルというより、宿屋という名称の方がしっくりきそうな、二階建ての木造施設。そこの二人部屋を三部屋借りた。六人部屋が無かったのだ。小さい宿だし、しょうがないね。
「さて、誰と誰が一緒になるか」
アリスが一人で息巻いている。
全員女子だし、わたしとしては誰でもいいかなーと思っているのだけど。
「不公平にならないよう、じゃんけんで決めよう」
リンが提案する。この世界にもじゃんけんあるんだ。
念のためルールを聞いたが、普通にグーチョキパーのやつだった。
同じものを出した人同士で部屋を分けることに。
「モナカ、わたしはパーを出すわ。パーよパー」
「アリス、不正はダメだよ」
「なによテルト、あなたはいいの?」
「えーと、エシュリー以外なら……」
「ぅおい! その理由を後で聞かせてもらおうか!」
「まーまーみなさん、落ち着いて。……わたしはグーですかね」
「ニャンコは誰狙い!?」
そんなこんなでじゃんけん大会。
ピッタリ、二の二の二には中々なるものではなく、勝負は白熱していく。
「く、今度こそ! というかなんでモナカはわたしの独り言を聞いていないの!?」
「え、いやー、なんとなく」
当てようとしてくる相手をわざと外したくなるのは茶目っ気というか人情というか。
「アリス、次は無言で」
「わ、わかったわ、恨みっこ無しね」
「せーので――」
リンの掛け声とともに、やっと決着がついた。
「なんでー!?」
「まーそういう運命なんだよ」
「くすん、しょうがない。リン、よろしくね」
「こちらこそ」
「わたしたちもよろしくね、テルト」
「うん」
ということで――
「うーん、これも腐れ縁か」
「なんか不満でもあるのか」
「いえいえ、そんなこと御座いませんよ女神様」
エシュリーと同じ部屋になったのだった。一番長い付き合いなのに、何気に二人きりの夜って経験が無かったりする。いや、イヤラシイ意味ではなく。
「エシュリー、モナカにイヤラシイことしちゃだめだからね」
「しないわ!」
「なにを心配してるんだ」
晩ご飯は、近所の酒場兼食堂にということで、みんなで外出。
明かりが少ないため、空を仰ぎ見れば一面の星空。
夜は一段と冷え込み、わずかな風に身震いを起こしてしまう。
道行く人は少なく、その寒さを伝える風が揺らす葉擦れの音が耳に心地よく響き渡った――と思ったら、なにやら声が聞こえてくる。それも段々と大きくなってくる。近付いてきているようだ。
「何か来るね」
「向こうから、二人……かしら」
夜目のきく超能力者のリンとアリスが指し示す先。
目を凝らしてみると、何やらこちらに向かって走ってきているようだ。
前方を走るのは、巨漢の男。こいつは時々後ろを振り返りながらも、声は発していないようだ。
その後方に、一人の女性。その女性が声の主の様である。
「こらーっ! 待てーっ!」
その衣装は、大聖堂の街でも見たことのある、憲兵の衣装であった。
どうやら犯罪者と憲兵の追跡劇のようだ。
あ、憲兵のお姉さん、前のめり過ぎ……あ、転んだ。
「おら! どけえー!」
男がこちらに怒鳴り散らしながら向かってきた。
「リン」
「あいよ」
リンが脇に避けつつも、男の足を引っ掛ける。
「どうわああぅおっ!」
変な声を上げながら、わたしの前にスライディング。
「道が土で出来ていて良かったね。舗装道路なら表面が削れてたわよ」
自分で言ってみて想像して気持ち悪くなる。
その気持ちを込めて、目の前で倒れている男の背中を思い切り踏んづけてやった。
「げふっ!」
腹の空気が押し出されたような声が聞こえた。まあ、骨は折って無いのでガマンしろ。
エシュリーも寄ってきて、飛び乗った。
「ぐふっ!」
あ、のけぞった。
「悪は滅びろー」
テルトも小さい足で蹴りだした。ここまで来ると、相手の男がちょっと可愛そう。
「あ、あの……」
女性の声がかけられた。
前面が土だらけになった憲兵のお姉さんが復活して来たようだ。
「うむ、悪は滅ぼしておいたぞ」
足でグリグリしながら、エシュリーが胸を張る。
滅びては無いけどね。
「あの、その……捕まえて頂き、ありがとう、ございます……その……」
女性がすごく言いにくそうにしている。
「いえいえ、人間として当然のことをしたまでですよ」
わたしが笑顔で言うと、女性はますます困ったような表情を浮かべる。
「いえ、もうそろそろ解放してあげてもいいと思いまして……」
おやまあ、男が気を失ってる。
最近の男は軟弱だな。
わたしとエシュリーが足をどけて、女性に男を引き渡そうと差し出す。
「あーっ、えっと、ありがとうございます……っと、どうしましょうか……」
また悩みだした。
思うことがあれば、言ってもらいたいものだ。
「モナカさん、気絶した巨漢の男を、普通の女性は運べないと思いますよ」
「おお、ニャンコの言う通りだね。仕方ない、詰所まで運んであげよう」
「ありがとうございます!」
これが正解の答えだったようだ。
「輸送量は晩飯代で勘弁してやろう」
エシュリー、それは不正解では無いのか……
「いやー悪いですね、こんなにおごってもらって。おばさーん、この鳥の姿焼き追加で!」
「ははっ、まあ……お手柔らかに……」
結局あの後、ご飯をおごってもらうことになった。
人のお金で食べる飯は実にうまい。
「ここはとり肉が名物なのかな?」
鳥の丸焼きにそのままかぶりついてリンが問いかける。
「いえ、羊のお肉もたくさん作っていますよ」
追加で柑橘系のソースがかけられた、焼いたラム肉が運ばれてきた。
「えっと、先ほどはありがとうございました。わたしは、この街で憲兵隊副隊長をやっております、ピコリンと申します」
よし、名前には突っ込まないぞ!
「まあ、素敵なお名前ですね。わたしはニャンコと申します」
言いたいことはいろいろあるけれど、気にせずみんなも自己紹介する。
「みなさんが捕まえてくれた男、あれはメキョラー一家の手下です」
「メキョラーってなんじゃい!?」
思わず叫んでしまった。
「えええとおお!? この街の、チンピラ一味です……」
ピコリンがちょっと怯えている。いけないいけない。
「ボスの名前がメキョラーといいます」
「まあ、恐ろしいお名前ですね」
ニャンコが真剣な顔で聞いている。この国の人たちの感性に、ちょっと付いて行けそうもない。
アリスは、なんか笑いをこらえているみたい。メキョラーがツボに入ったのかな?
アリスの耳にそっとささやいてみる。
「……メキョラー」
「ぅん!?」
あ、なんかジタバタもがいてる。ちょっと反応が可愛い。
見かねたのか、リンがアリスを抱きかかえて、背中をさすっている。
「こんな小さな街にも悪の組織とかあるのね」
「あるんですよ、残念なことに」
「お前たちの仕事であろう、とっとと捕まえてしまえばよい」
エシュリーがまるっきり他人事のように話す。
大き目のカップに入ったコーンスープを飲んでいるエシュリーに、何やらテルトがそっと近付いて行く。
わき腹を思い切りつついた。
「ぶふおおおぉぉぉーっ!」
「うわああああぁぁぁぁ、きちゃない」
解き放たれたコーンスープが、ピコリンに覆いかぶさる。
クリームソースで色白美人さんだ。
「テルトおおおおっ!」
「にゃはははははっ!」
お子様二人がじゃれ合い始めた。
ニャンコがピコリンを拭いてあげている。
「大丈夫ですか?」
「いえいえ、お構いなく……」
物おじしないたくましい子だ。
「えっと、どこまで話したか……そうそう、メキョラー一家ですが、実は問題発生しまして、この街の憲兵の力では取り押さえられなくなり、今ではやりたい放題されている次第です」
「やりたい放題? 特に荒れている様子は無かったけど?」
街の様子はいたって平穏だったと思われたのだけど。
ピコリンが沈痛な面持ちで顔を伏せる。
「憲兵隊の詰め所の扉へ落書きとか、わたしなど女性隊員へのセクハラ行為など……」
規模小さいな。しかも憲兵だけか、被害者は。
うん? セクハラ?
「もしかして、今日捕まえた男って、チカンってこと?」
「はい、おしりを触られました」
「可哀想なことをしたな」
全力で踏んだことを思い出す。
「ええ、本当に可哀想なわたし」
「いや、あなたではなく……」
「しかも、最近では怪しい麻薬の密輸に手を染めだしたようなのです」
「なんで一気に犯罪レベルが上がるんだ」
極端なやつであるメキョラー……怪獣みたいな名前だな。
「問題とは何なのだ?」
さっきまでニャンコに、お店の中でふざけないようにと、テルトと一緒に説教されていたエシュリーが、真面目な顔でピコリンに詰め寄る。
エシュリーよ、威厳はまったく保たれていないぞ。
「はい、えっとですね、用心棒として巨人族を雇ったようなんです」
「巨人族? なんでこの国にいるの?」
「ノラ巨人さんはたまにいますよ。戦争中とはいえ、お隣の国ですし、国境線すべてを監視しきれないですし」
危険なノラである。
しかし、巨人……わたしたちなら数体まとめて相手できるけど、一般ピープルでは中々にキツイ相手であろう。
「それで、差し出がましいようですが、みなさんにご協力をお願いできないでしょうか? 先ほどの逮捕劇から察するに、みなさんかなりのツワモノとお見受けしましたので」
「うむ、良かろう」
「エシュリー、頼み事聞くの?」
「モナカは無視するのか?」
「それは……そうだけど……」
今は観光の途中なんだけどなー。
「わたしはやります!」
自分の国だからか、ニャンコは張り切っている。
「そうね、やりましょう!」
いつの間にか復活したアリスも賛同した。
「まあ、やるということよねえ」
テルトやリンもうなずいてくれる。
「あ、ありがとうございます!」
ピコリンに両手を思いっきり握られた。
「あ、ダメよ! モナカと握手したいなら一回金貨一枚よ!」
「わたしはどこのアイドルだ! ピコリンも、金貨本当に出さなくていいから!」
「それで、報酬は?」
エシュリーのお決まりの質問だ。
「えっとー、麻薬の大量輸送の防止ということで、国からも報奨金が出ると思いますので……金貨二十枚でいかがでしょうか?」
「うむ、一人金貨二十枚の合計で百二十枚だな、それで手を打とう!」
「え!? いや、一人ではなくぜいい――」
「よし、百二十枚で約束を取り付けた! チンピラ狩りだ!」
何か言おうとしたピコリンの言葉は、エシュリーの大声にかき消されたのだった。




