第四十六話 信仰の力
「災厄ってなんでしょうか?」
ニャンコの言葉に、スプーンの動きを止めてしばし考えてみる。
今日の晩ご飯はホワイトシチューである。
「なんだろ? 考えたって分からないし、そんときに考えればいいんじゃない?」
とり肉とニンジンをまとめて口の中へと運ぶ。
スープにとろみがかなりあり、口の中にチーズの風味と共に広がっていく。
「ニャンコ、どうにもならないことは、考えても大変になるだけよ。とりあえず今は食事を楽しみましょう」
アリスの言葉に、ニャンコは無言でうなずき、厚手のクレープ生地に漬けた野菜と魚の燻製を挟んで、口にほおばる。
わたしも食べたけど、クレープとナンの中間みたいな触感で、野菜と燻製の味で十分にいけた。
「ナンバー〇〇一も言っておったな、わたしが救世主となると」
エシュリーはやや香草の風味の強い焼いた肉に食らいついていた。
なんでも、香草と一緒に酢漬けにした肉を焼いたものらしい。
「うーん、ちょっと違くなかった?」
わたしもエシュリーと同じお肉を食べてみる。ちょっと風味が独特なため、あまり大量には食べれないかな?
「ナンバー〇〇一は、わたしたちに行くようにおっしゃられていましたし、行くことで災厄を防ぐことが出来るのでしょう」
ニャンコはまたもスプーンの動きが止まってしまう。
「みなさん、お願いします。わたしの祖国を救うのにお手伝いください」
「そんな改まらなくたって、やってやるわ」
「そうそう、モナカはなんでもやっちゃう子だから」
「そーそー」
「ニャンコ、がんばるためにたくさん食べなよー」
「はい、テルトさん。たくさん食べます!」
勢いよくスープをかっこむニャンコ。
「そーそー、食べれるときに食べておく。それが力になるんだから」
「……リンは、ほんとにそんなに食べれるの?」
ミンチ肉の焼いたものにハムの盛り合わせ、エシュリーと同じく漬けた肉を焼いたもの、さらにビーフシチューにまで手を伸ばしている。
それをかなりの勢いで食べているのだ。
「食べれるときに食べなきゃあね」
「それだけ食べて体型を維持できるのが、うらやましいです」
アリスが自分のお腹を見ている。
「アリスは逆にもっとお肉付けてもいいと思うよ」
「モナカは太った子が好きなんですか?」
「いや、太ったというか、アリスは細すぎるかなーと思って」
「分かりました! もっと肉を付けて美味しく食べてもらうようにがんばります!」
アリスはチーズケーキとアップルパイを頼みだした。
「それは甘いものが食べたいだけでは?」
「モナカも食べよう!」
「うーん、ええい、食べちゃうか! みんなにも注文してやる!」
「え! わたしは、もう十分頂いているので……」
「ニャンコはもっと食べろー! というか、なんで同じ量食べてるのに、こんなにムチムチなんだ、けしからん」
胸を触ろうとしたけど、ちょっとためらって、太ももを掴んでやった。
「ちょっ! モナカさん、いきなり何を」
「モナカ、発情するな」
「発情しとらんわ、お子様は黙っとれー」
「そうだぞ、エシュリー」
「テルトも同じだー。テルトにはチョコケーキも頼んでやろう」
「わーい!」
「わたしはクリームソースのパスタを」
「リン、ほんとに大丈夫!?」
寒い日の暖かいご飯はとてもいいものだ。なお、リンは全部食べ切ってしまった。
あの体系で、どこに入ったのだろうか? ポーチみたく異次元に繋がってるのかな?
街の散策や買い物などをしていたら、あっという間に巨人が攻めてくるという日になっていた。
ナンバー〇〇一を乗せた馬車はすでに出発している。
少し遅めの朝食のあと、スピーダーに乗って国境の検問所まで逆戻り。
検問所には、多数の兵士が詰めかけており、馬車や馬が複数停められていた。
入れてもらえるのかなと思ったが、どうやらナンバー〇〇一が、わたしたちが来ると言っておいてくれたようだ。すんなりと入れてもらえた。
「ちなみに、どんな人が来るって言われていたんですか?」
「すごく可愛い女の子六人組がやって来ますと、言われておりました」
最初、兵隊さんが冗談で言ってるかと思ったが、超真面目な顔だったので、たぶんそのままの言葉を言われたんだろう。
ナンバー〇〇一は、まじで女好きとかでは無いのか?
ちょっとあいさつをしてやろうかと思ったが、打ち合わせ中ということで、それは断られてしまった。
「もう姿が見えてますね」
検問所の物見台。
わたしたちがそこに出ていったときには、すでに国境線を抜けた巨人たちの姿が見えていた。
前にもこうして巨人の進行を見ていたものだ。
あの時は、わたしたちが前線に出て戦っていたが、今回は見学である。実戦に参加しないせいか、今回は落ち着いて様子を見ることが出来た。
検問所より離れた位置で布陣を組んでいる巨人の数は、ファルプス・ゲイルで見たときと同じくらい、恐らく一万人前後であろう。
対するこちらも、備えられた大型の弓矢の準備などを進めていた。
「あ、出てきた」
テルトの指さす先、一番高い中央の物見台に、ナンバー〇〇一が姿を現した。
周囲の兵士から、大きな歓声が上がる。
「なにをする気だ?」
エシュリーの問いに、ニャンコが答える。
「ナンバー〇〇一は、全信者の力を合わせて、強大な魔法を放つことが出来るのです」
「幻魔の魔法みたいな感じかな?」
「たぶん、そんな感じだと思います」
見た目が普通のおっちゃんとはいえ、そこはやっぱり神様らしい、のかな?
「巨人が動き出したよ」
リンの言葉に前方を見ると、巨人の軍隊がゆっくりと前進していた。
大丈夫かな? いざとなったら加勢しようかな? 少し体に力が入る。
ナンバー〇〇一は、杖を振り上げ、何ごとかつぶやきだした。
「モナカ、なんて言ってるか分かる?」
「神聖魔法の言葉だけど、要約すると……みんなー、オラに力を分けてくれ!、かな」
「そ、そうなんだ」
何やら、アリスが微妙な表情を浮かべた。
「モナカさん、もう少しそれっぽく言ってあげて下さい。まるで適当なことを言ってるみたいじゃあないですか」
「うーん、例えば?」
「え! えっとー……わたしに力を分け与えるのだ信者たちよ、ですかねー」
「あんまり変わらないじゃん」
「そうでしょうか?」
そんな漫才をやっている間に、ナンバー〇〇一の呪文が完成した。
「【帰還】」
その一言が周囲に響き渡る。
巨人の軍勢全体に、赤紫のモヤが覆いかぶさった。
軍隊の進行が止まる。
そして、転進。ゆっくりと結界の向こうへと歩き去ってしまった。
「あさっりと終わっちゃったね」
規模のわりに静かな終わりに、リンが小声でそうつぶやいた。
それが引き金にでもなったかのように、周囲から大きな歓声が鳴り響いた。
「流石ではないか、ナンバー〇〇一よ」
「女神エシュリー、みなさんも来られていたのですね。はい、我ながら誰も傷つかず終わらせられたので、素晴らしいと思いますよ」
「流石です、ナンバー〇〇一」
「ニャンコさん、わたしだけの力ではありません。すべての国民の信仰の力が、わたしの魔法の力につながっているのです。わたしこそ、ニャンコさんやすべての信者に感謝いたします」
「もったいないお言葉です」
ニャンコは深々と頭を下げた。
見ると、周りの兵士たちも頭を下げている。
わたしも信者だからなー。一緒に頭を下げた。
「女神エシュリー、みなさん。今晩、大聖堂で戦勝の宴が催されます。質素な宴ではありますが、よろしければご参加ください」
「はい、喜んでお誘いをお受けいたします」
アリスが王家流の優雅なお辞儀をしてみせた。
わたしも見よう見真似でやってみたら、エシュリーが爆笑しやがったので、軽く頭に手刀を当ててやった。




