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第四十四話 ギザギザ洋服店

 大通りに面したお店を探す。

 早く服をそろえたいから、どこでもいいなと思ってるんだけど、この国の服屋さんはショーウィンドウが無いのだ。

 店名だけでは当然どんな服を置いてあるか予測できないし、決めるための基準がない。

 アリスやリンと、あそこかなーここかなーとか言いながら、いくつも素通りしてしまっている。


「ええい、らちが明かん。わたしが決めてやろう。あそこだ!」


 エシュリーが待ちきれないのか、通りの左手側にあるとある一軒のお店を指さした。

 石造りのそのお店は、二階建てで、比較的大きな窓ガラスが前面にしつらえてあり、そこから服を着たマネキンの一部がチラリと覗いていた。

 通りへと突き出した小さな看板は、洋服の形をかたどっており、店名が彫られていた。

 ギザギザ洋服店。


「うーん、ニャンコ、あの店名は服屋でいいの?」


 問われたニャンコは、何を聞いてるのか理解できなかったようで首をかしげている。


「洋服店と書かれているので間違いないと思いますが?」


「ギザギザなの?」


「ギザギザさんが運営されているんではないでしょうか?」


 ギザギザって、人名なのか?

 てっきり、ギザギザの服が売られているかと思ったわ。

 ギザギザの服、あちこちに刺さりそうで痛いかも。


「そのお店に停めるよー」


 リンはスピーダーをお店側に寄らせて停めた。

 見ればあちこちに馬車が路上駐車されている。そのままでも違反切符は切られないだろう。

 スピーダーは魔法技師アーティファクターしか動かせないので、盗まれる可能性はほとんどない。

 手にグルグル巻きの服とか、防寒用に出していたもの全部まとめてトランクに押し込み、鍵を掛けた。防犯はバッチリだ。

 店内に入るまで、半そで状態になって寒い思いをしたが、入ってみるととても暖かで落ち着くことが出来た。

 店の奥に暖炉があり、それがこの暖かさの発生源ということだろう。

 店は奥行きがあり、見た目よりも品ぞろえは良さそうだった。なお、服はギザギザしてはいなかった。普通の服で安心した。

 自分の分と、あとエシュリーやテルトの分も見てあげないとな。


 買ったものにお店で着替えてやっと一息ついた感じ。これで落ち着いて街を歩ける。

 わたしはふわふわの白のニットに花柄のロングスカート、それに赤のチェック柄のダッフルコートを着込んだ。他にもインナーとスカートを三着ほど購入。


「わあ、モナカ可愛い!」


 着替え終わって出てきたアリス。

 お店でお揃いで買おうということで、インナーはわたしのと色違いである。それにベルト部分がレースアップされ、アクセントにボタンが縫い付けられている落ち着いた色の赤いロングスカートをはき、白のコートを羽織っていた。


「アリスのもいいよね。スカートのベルト部分がオシャレ」


「うん、そーそー、ボタンもおっきくて可愛いし」


「モナカさーん、エシュリーさんとテルトのお着替え終わりましたよー」


 ニャンコが二人を連れてやってきた。

 ちなみにニャンコもせっかくだからとロングコートを買って着ていたりする。


「どう? モナカ」


 テルトは元の服装にプラスって感じだけど、タイツが透けない厚手の物に変わっており、黒のふちどりで白地に模様が入ったアプリケットコートを着ていた。

 頭に毛糸の帽子が乗っているのが、年相応で可愛らしい。


「うん、めっちゃ可愛い。帽子も買ったんだね」


「頭も寒いし」


「よし、えらいぞ」


 帽子の上からなでてやった。


「モナカよ、テルトだけでなくわたしも見るのだ」


 エシュリーのはいつもの神の衣に、同系色のロングポンチョといういで立ちだ。


「うーん、ポンチョだけ追加されてるだけだから、なんとも感想が」


「ええい、褒めるのだー!」


「あはははっ、うそうそ、そのポンチョ似合ってるよー。エシュリーらしい」


 エシュリーらしく、非常にお子様チックだ。


「らしいというのが少々引っかかるが、うむ、やはり素晴らしいのだな」


「わたしが選んであげたんですけどね」


「ニャンコお疲れ様ー。ニャンコのも、神官衣と違和感ないよね」


「聖職者が多いためか、それ用に合わせてデザインされているかもしれませんね」


 そういえば、ここは宗教の総本山だった。今のところ宗教色はあまり感じられないけど。

 アリスは、テルトの衣装とか興味津々に見ている。ゴスロリに合うコートのデザインが気に入っているようだ。

 残るはリンだけだけど、こうなるとどう褒めようかと身構えてしまう。


「お待たせー、みんなもう着替え済んだのか」


 店の試着室からの声。

 それに合わせて、お店にいる人たちからどよめきが巻き起こった。


「わあ、リンさんすっごいキレイ」


「キレイというか可愛いというか、とにかく凄いよね」


 さすがは他人が認める美少女リンちゃん。

 上下同じリボン柄の白いトップスとスカパン。そこに黒のパーカーを着ている。服自体は特別凄いというわけでは無いんだろうけど、リンが着るとファンシーキャラ的な可愛さが出てくる。


「みんなも超似合ってるじゃん」


「リンがめちゃ可愛いんだよ。いつもの服装も可愛かったけど」


「モナカもめちゃくちゃに可愛いと思うよ」


「うーん、一緒に歩くの、気が引けちゃうな」


「アリスだって可愛いのにー」


 誰が可愛いか論争はさておき、お店の人から写真撮影を要求された。

 わたしとリン、それとアリスだ。上から下まで全部このお店の服だし、可愛いから宣伝用に欲しいらしい。

 前にゴスロリ服買ったときのデジャブだ。

 宣伝に使わせる代わりにと、服は全部タダにしてもらった。可愛いのは何かとお得であるが、注目されたり写真撮られまくるのは、ちょっとむずがゆくはある。

 ちなみに写真撮影した女性店主が、ギザギザさんだった。


 その後、クツも新調し、ホテルも予約した。

 ホテルは六人泊まれるファミリータイプのものを選んだ。

 今回は文明レベルの違いのためか、冷蔵庫もテレビも無いし、お風呂も付いていなかった。お湯は注文すればもらえるらしいけど、しばらく体は拭くだけになるかなー。


「あー疲れたー」


 テルトがベッドの上で衣装を脱ぎだした。

 コートを脱いで、ベルトや小物を外し、上着を脱いでさらにはスカートにまで手をかけって……


「こら、全部脱ぐんじゃありません」


「肩が凝ったー」


「その年で凝るか!」


 言ってるそばから下着姿でベッドにダイブされてしまった。

 お子様は自由でいいものである。


「たしかに、防寒用の服って重くて疲れるわね。わたしもテルトにならっちゃおうかしら」


「アリス、習っちゃダメでしょう。お行儀よくしましょうね」


「知らなーい」


 早速脱ぎ始めちゃった。

 テルトのは気にならないけど、アリスくらいだと体のラインとかいろいろと気になってしまう。


「わたしも脱ぐわ」


 リンまで脱ぎ始めた。


「なんで!?、下着大会でもするのか?」


「いいわね、下着大会」


「良くないわー!」


 アリスが本気なのかどうだか分からない。

 すでに下着のまま、ベッドにダイブして、テルトとじゃれ合いはじめているし。


「巨人の国とか、ずっと緊張しっぱなしで、サイズ感も違ったし、野宿も多かったからね。ひさびさの完全なプライベート空間だからくつろぎたいんだよ」


 そんなもんなのかなー?


「モナカもニャンコも早く来なさいよー」


「わたしは先に大聖堂で面会の予約をしてきますよ」


「あ、ありがとうニャンコ」


 お礼を言っておく。

 やっぱ予約制かな? そうだよねえ、この国の神様だし。


「大聖堂まで乗せていく?」


「いえいえ、リンさんは休んでいてください。この宿からなら歩いても五分ほどなので」


「うむ、頼んだぞ」


 エシュリーは見ていない間に下着になって寝転んでいた。

 ニャンコが出て行ったあと、自分だけ仲間はずれな感じがして、結局わたしも脱いでダイブしてしまった。

 そしたらみんなにいじられてしまい散々な目に合ってしまった。

 くすぐったりつついたりしてくるな―!

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