第四十話 ニャンコの戦い
昨日は久々に、目一杯歌って踊ったので、とても気持ちよく眠れた。
「あ、おはよーモナカ」
「おはよーアリス、みんな早いねー」
起きている他のメンツともあいさつを交わす。
みんな、顔を洗った後は保湿のために化粧水を付けている。
普段もそうだろうけど、ここ巨人の国は空気が乾燥していて、すぐに肌がカサつくというのだ。
アリスもリンもニャンコも念入りにケアしている。
エシュリーやテルトはまだ子供だし、いいだろうとは思ったが、ニャンコが丁寧に塗ってあげていた。
わたしは超美少女の体質とかで、いつも潤いのある、シミもニキビも無いスベスベ肌が維持できてしまっているのだが、みんながやってて自分だけやってないのは、なんというか、一人だけ女子力無さそうに思えてしまう。なので、形だけなんだけど、わたしも一緒に化粧水やらハンドクリームなど付けてみたりする。
付けても付けてなくても一緒、と分かっているため、それはそれで、なんか空しくなっちゃうけど。
いよいよ今日、グルアガッホの街を出発するのだ。
思えばいろいろと感慨深い。
まずベッド。これが人間サイズの三倍近くあって、三人で一つのベッドを使うことにしていたのだ。しかも、高さがあるため、いちいち上るのが面倒だった。エシュリーとか持ち上げるの大変だったなー。
イスも高いし、階段の段差も凄い。毎日がアスレチック状態であった。
トイレは思い出したくも無い。強いてあげるとしたら、エシュリーのトイレに毎回付き合わされたことというか、まあ、うん……いろいろ……
うん、苦労しか無かったな。
サイズって凄く重要だなと実感した日々であった。
自前の食器を使って、巨人の朝食――テーブルみたいな大きさの目玉焼きとか、スーツケースみたいな肉のブロックとか――を食べ終わった後、出発準備をした。
「モナカ、いろいろとありがとう。お前たちのおかげで、オレも、この街も救われた!」
「ツイートも、これから大変だろうけど、がんばってね」
ツイート他、多くの人に見送られながら、リンの操るスピーダーはゆっくりと加速していった。
「旅のさなかの別れというのは、寂しいものですね」
アリスが感慨深げに言った。
アリスにとっては、旅先で初めて会った異邦人か。
段々と、小さくなっていく街並みをずっと見ている。
「旅をしていれば、出会いと別れがあるもんだよ」
「モナカたちは、いろいろなお別れを経験しているのですか?」
ふと思い返してみる。
最初の街でお世話になった男爵やメイドさんたち。アーリアさんとか、ファルプスゲイルで出会った……あ、キルシュさん。ちょっと忘れそうになってたな。他にもいろいろ……
「確かに別れは沢山ありましたが、新しい出会いもたくさんありますよ。こうしてみんなで旅が出来ていますし」
「ニャンコの言う通り。仲間が増えるのはいいことだよね」
スピーダーは街道沿いを走っている。
国王の書状があれば、大体なんとかなるだろうし、第一、また街道以外を走って、誰かに起き上がられても困る。
途中一晩キャンプを張ったが、特に何ごとも無く国境付近の街へとたどり着いた。
王都に比べれば小さいが、グルアガッホよりは大きい、程々の大きさというところか。
最初門番に警戒されたが、国王の書状を見せて説明したら通してもらえた。
スピーダーを停め、街へとくりだす。
「うーん、まずったなー」
「モナカさん、なんとか押さえました!」
両手でナイフを持ち上げ、ニャンコがナイフで押さえている肉を切ろうと奮闘する。
レストランに来るとき、自前の食器を持ってき忘れたのだ。
つまりは、巨人向けの全長六十センチはあるナイフとフォークで、出されたステーキを切ろうと四苦八苦なのである。
「スープは失敗だったかなー」
リンが器からすくい出したスープを、テルトに与えている。
昔聞いた、あの世で超長いハシで食事するって言うお話しを思い出した。超長いから自分では食べれない。極楽では向かいの席の人と食べさせ合ってるから食べられるけど、地獄では自分だけが食べようとするから、誰も食べられないという。
「食べにくいけど、これはこれで楽しいよね!」
「うむ、パンは問題なくうまいな」
確かにパンはちぎって食べるだけだから、簡単だろうな。
しかし、わたしは肉が食べたいのだ!
「よっし切れたー!」
切れ端にかぶりつく。
めっちゃかみ切るのが大変だー。
作業に没頭していて気付かなかったけど、どうやら周りから注目されているようだ。他に人間居ないしね。
まあ、中にはこちらを気にしないで雑談している連中もいるけど。
「――お前も、隊長の愚痴に付き合わされたのか、大変だったな」
「ああ、戦って敗北ならまだ分かるが、そのまま帰ってきちまったんだからな。納得できなくて、愚痴の一つもこぼしたくなるだろう……」
隣の席のおっちゃん巨人の二人が何やらしみじみと話している。
どこの国のおっちゃんも、職場は大変なんだなー。
「次に北の国へ進軍する準備、もう整ってるんだったか?」
おや? 北の国?
「向こうの神とやらに対抗するため、王都から魔術師を増援させるとか言ってたが――」
「北の国を襲ったのですか!?」
ニャンコが巨人たちに、声を荒げて問いかけた。
「うん? なんだ人間かよ、珍しいな」
ニャンコをジロジロと見ながら、酒を飲んでいる。
「お答え下さい! シャルハルバナルは、わたしの祖国は、どうなったのでしょうか?」
ニャンコの言葉に、巨人たちの表情が変わる。
驚いた表情というか、一瞬理解できなかったようだ。
「……おまえ、北の国のやつか?」
「なんで、そんな奴がこんなところに……」
徐々に空気が変わっていく、それがニャンコにも感じられたのか、少し引き下がる。
「はい、わたしは北の国シャルハルバナルの人間です。あなたたちの敵、ということになるのでしょうか?」
リンがそっと耳打ちしてきた。
「モナカ、やばくなったら……」
「うん、フォローする」
わたしたちがニャンコの後ろでこっそりと臨戦態勢をとっている中、巨人たちの話は進む。
「ああ、敵だ」
言った巨人は席から立ちあがっていた。
「お前の祖国がどうなったかって? オレたちは魔法一つ放つことも出来ず、追い返されたんだよ!」
もう一人もかなり険悪なムードだ。
「わたしも、自分の祖国が攻撃されたとあっては、怒らずにはいられません。よろしいでしょう、表に出て決着を付けましょう!」
ニャンコがいつになく攻撃的だ!
自国が攻撃されたことを怒ってるのかな?
「ああ、話が早い。ただ、ここでやっても店からの苦情で、まーた隊長に怒られちまうからな」
「付いてこい」
二人は勘定を払って表へと出ていった。
お金は払っていくのか、律義だな。
「ニャンコ、大丈夫なんですか? モナカたちに変わってもらいます?」
アリスがニャンコに提案するが、ニャンコはそれを手で制した。
「これは、わたしの問題ですので。それにいつもモナカさんたちにやってもらってばかりですし、たまにはやらせてください」
「そこまで言うのならお任せします。ですが、危なくなったら助けに入りますから」
「ありがとうございます」
街中ではまずいと思ったのか、郊外まで案内される。
すでに真っ暗ではあるが、巨人の一人が呪文を唱えた。
「【明かり】」
十分な光量が、あたりの闇を払う。
「お前たち、全員北の国の者か?」
「いえ、シャルハルバナルの出身者はわたしだけです。ですので、わたしだけが相手をします」
「ふん、お仲間も手出ししたっていいがな。人間の子供くらい、何人いたって問題にはならん」
あからさまに舐めた口をきいてくれる。
「ねえモナカ、ニャンコはああ言ってたけど、一人で戦えるの?」
「うーん、神聖魔法は補助と回復メインだから、攻撃手段が無いと思うんだけど……」
「それじゃあ、負けちゃうんじゃない?」
テルトも珍しく心配顔だ。
「まあ、やらせてみよう。本人の気の済むまでは」
エシュリーの言葉にうなずく。
ヤバくなったら、わたしやリンが間に入る予定だ。
戦いは、ニャンコの魔法から始まった。
「【神聖武器】」
ニャンコの手に、ハンマーのようなものが生まれる。
「へやあああああっ!」
全力で殴りに向かうが、あっさりと避けられた。
「あー、戦闘スキルゼロだからな」
「エシュリーはパラメーターが分かるんだっけ?」
「うむ、分かるぞ。ちなみにニャンコは神聖魔法以外にスキルは持ってない!」
うーん、早くもダメか?
「へっ! なんだそれは。こっちから行くぞ!」
巨人たちは魔法も使わず、殴りかかっていく。魔法を使う相手じゃないと考えたのか。
「【神聖防具】!ならびに【聖なる盾】!」
連続魔法。
巨人たちの拳は、盾に阻まれ、あるいは魔法の鎧で受け止められた。
「うーん、思ったよりはがんばる」
「けど防御だけできても、勝てないんじゃあ?」
リンの言うことは最もだ。良くて引き分けかな?
巨人たちは攻撃を仕掛けまくるが、防御に徹したニャンコにダメージを与えられていない。
「くそ、仕方ない」
呪文の詠唱を始めた。
まずい、今ニャンコが発動させているのは物理防御用、魔法には効果無い。
「隙が出来ましたね! 【帰還】!」
ニャンコの術が発動したと同時、巨人二人を白い靄のようなものが包み込んだ。
巨人たちは呪文詠唱をやめ、力なくゆっくりと街ヘと戻っていった。
帰還――相手に帰ろうと思わせる呪文である。
「やりました!」
「ニャンコの勝ちー!」
テルトがニャンコに飛び込んでいった。
「ふー、緊張した。ニャンコ、お疲れさま」
「ありがとうリンさん、みなさんも、わがままを聞いていただき、ありがとうございました」
「うむ、勝つには勝ったが、あやつらが正気に戻ったらどうなるやら……」
「ちょっとーエシュリー。フラグ立てないでよ!」
その日、夕食を取りに出かけたとき。
「見つけたぞ!」
わたしたちを指さしてきたのは、先ほどの二人プラス、お仲間だろう五人がおまけで付いてきていた。
「やはり来たか」
「楽しそうにしないでよ、エシュリー」
もう面倒ごとには巻き込まれたくないわー。




