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第四話 聖女様とナンバー〇〇一

 徒歩で五日かかる街。

 普通の人の徒歩で五日であるから、わたしの全力疾走では一日で走破してしまったわけだ。

 ただ、疲れとかは無いにしても、一日中走り続けるのは精神的にキツいものがあった。

 そして――


「やっとついた~、お腹空いた……」


 ずーっと、わたしにおんぶされていた自称女神さまは、なにもしていないのに、ふらふらであった。


「わたしはお腹空いていないけど、何か食べたいわね。お金、どれくらい持ってる?」


「……」


「……」


 詰んだ。




「……ううぅぅ、なにも、あんなに……マジで、怒らなくても……」


 うちの女神さまは、お泣きになられていた。


「いくらなんでも準備し無さすぎでしょう! 一応は、元この国の女神様なんでしょ?」


「……うぇ、ひっく……神様がお金持ってるわけ、無いじゃん」


 見た目は可愛い幼女なんだけど、中身まで幼女化してないだろうか?




 お金が無いので意味も無く、街をぶらついてみたりする。

 なんかぶらついていると、いろんな人がチラチラとコチラを盗み見てきた。

 何かと思って振り向くと、あからさまに視線を逸らされる。なんだ?


「ねえエシュリー、なんか、わたしら見られてない?」


「それはそうでしょう、わたしら超可愛いんだから」


 うーん、そういえばそこはかとなく、熱い視線のような……


「はぁーい」


 適当に手を振ってみる。それを見た男どもが顔を赤くして目を逸らしていた。なんという優越感。


「もういっそ、男引っ掛けてお金もらってよ」


「さすがにそれは嫌だって」


 さて、本気でどうしようかな?


「あれ、なにかな?」


 エシュリーが指さした先を見ると、人だかりが見える。


「なんだろね」


 特にやることも無いので、近付いてみる。

 人だかりの中央には、白い女の子がいた。

 色白の肌に、白銀のロングヘア、赤い目、頭に青いリボンを付けた……巨乳の子であった。

 触ってみたいな。


「あの、わたしは……みなさんに、救いの手を差し伸べようと……」


 白い巨乳さんは、周りの人たちに何やら訴えていた。

 しかし、周りの人たちの表情は険しい。


「黙れ、異教徒め!」


「国へ帰れ!」


 みな口々に罵倒を浴びせている。あんまり穏やかそうでは無いな。


「なんだろうねぇ、エシュリー、分かる?」


「うーん、あの白い髪、北の国のシスターかな」


「北の国?」


「二宗派同時信仰の変な国だよ。国民はみな信仰心が厚いとか」


「エシュリーの国の民たちよりも?」


「うぅ……、わたしの信者たちも信心深かったですよ~、やつらに盗られるまでは……」


 なんか、触れちゃいけないこと言っちゃったかな?

 まあ、それはともかく、可愛い子だし助けてあげよう。


「みなさーん、ちょっとストーップ!」


 手を上げて人だかりの中に分けいる。


「なんだ、あんた……うぉ、すごい美少女だ!」


「おお、女神様の生まれ変わりか?」


「お母さん、あのお姉さんキレー」


 なんかいろんな反応が聞こえるな。

 こうやって注目されるのに慣れてないので、ちょっと恥ずかしい。


「あの、どうされたんですか?」


 白い少女に話しかけてみる。

 少女はハッとしたような表情を向けてきた。


「えっと、あなた方は?」


「わたしはモナカっていいます。見ての通り、普通の女の子です。こっちのは、小さい謎の子供です」


「なんで謎の子供……」


 エシュリーが小さな声で抗議の声を上げてくるが、なんとなく他人の前では、女神様の本名で呼ぶのはまずいのかなーと思って配慮したんだけど。


「わたしは、ニャンコといいます」


「え?」


「えっと……ニャンコ、です」


「それ、本名?」


「はい、こちらの国では、変わった名前に聞こえるらしいのですが……」


 つまりニャンコの国では普通なのか。その国の住人の名前、片っ端から聞いてみたいな。


「えっと、ニャンコ、さん? なんでこんなに揉めてるんですか?」


 ニャンコは、こちらにすがるような視線を向けてきた。


「実は……この国が東の大国に敗れたと聞き、戦争で疲弊したみなさまの心に安らぎを与えようと、我が神ナンバー〇〇一ゼロゼロワンの布教をしていたのです」


「ちょっと待って、なにその神さま名」


「えっと、ナンバー〇〇一ゼロゼロワンは偉大な神様ですよ?」


「〇〇一ってことは、二とか三とかいるんですか?」


「いえ、我が国の神様は、ナンバー〇〇一ゼロゼロワンとイルミナルの二柱です」


 この人の国の命名法が分からない。


「ねえ、モナカ」


「ん?」


「いくらエシュリー教が消えているとはいえ、異国の宗教、それも征服国とは関係ない北の国の神様とか、異教徒呼ばわりされても仕方ないくらい異端だよ」


 宗教のそういう考え方、良く分からないな。

 異教って、受け入れにくいんだ。

 うーん、どーしようか?


「えっと、ニャンコ」


「はい」


「布教諦めちゃって」


「ええええっ!? そんな、簡単に……」


「そーすれば、争いは起きない。ここの住人に安らいで欲しいんでしょう? なら、それで衝突が避けられて安らかになるわよ」


「うぅ……、あっさりと……」


「宣教徒に布教やめろとか、暴言だねぇ~」


「謎の子供は黙ってなさい。なら、わたしがその信者になってあげましょうか? 〇〇一ゼロゼロワンとかいうのの」


「わあああぁぁぁ、モナカが浮気した~」


「ええい、黙れ!」


「えっと、モナカさん、信者になってくれるんですか?」


「え、ええ。その代わり、一つお願いがあるんだけどいい?」


「はい、出来る範囲のことなら! モナカさんのような可愛い方が信者になってくださるのでしたら、一旦布教は休止致しますね」


「ねね、謎の子供さん。二神教もありよね」


「二神教と言うか二宗派同時信仰だね。いいよー、もう、なんでも」


 エシュリー、いじけてるけど、まあほっとけばいいか。


「モナカさん、それで、お願いと言うのは?」




「豚の姿焼き一つ追加ねー!」


「モナカ、このポテト揚げ、味付けが抜群でうまいよー」


 街のとある飯屋。

 ニャンコを連れてとりあえずご飯でも、ということになった。

 お願いと言うのは、つまり、たかりなのだが……

 それはしょうがない。先立つものが無いと、何も出来ないんだから。

 ちなみに、わたしとエシュリーのみならずニャンコもなかなかグラマラスボディというかえっちぃというか、さらに大量の注文もあいまって、店にいる人たちから大注目だ。

 ちと、食べにくいな。美少女って気疲れしそうだね。


「えっと、みなさん、お腹減っていたんですね……」


 ニャンコはトマトサラダをつつきながら、あきれ半分と言った感じで、そうこぼす。

 しょうがないじゃないか。こっちは丸一日飲まず食わずだったのだ。

 しかも、外見だけとはいえ、十一歳と十五歳、育ち盛りなのだ、わたしたちは。

 わたしと同い年くらいのニャンコは、あんまり食べてないようだけど。


「それでは改めまして、北の国でプリーストをしております、ニャンコと申します」


「わたしは栗入くりいりモナカ、種族は超美少女、自称十五歳」


 給仕が持ってきた豚を切り分けながら、自己紹介を進める。

 この全体にかけられた甘辛のとろみのあるソースが、豚肉によく合う。


「わたしはエシュリー、種族は神、歳は二千歳くらいかな?」


 パンにチーズを塗り、ほおばっているエシュリー。

 そういえば日本だと、チーズがやや高いから、あんなに山もりでパンに付けるとかしてなかったな。

 ここのチーズは一種類だけしか食べてないけど、色は普通の乳白色。こってりと深い味わいで、程よい塩気がパンなどと一緒に食べると、ちょうど良い。


「お二方とも、面白い方なのですね」


 ニャンコは笑ってるけど、全部本当なんだよな。いや、エシュリーの歳はホントかウソか判断付かないけど。


「それで、モナカさん。ナンバー〇〇一ゼロゼロワンを信仰いただけるんですよね?」


そんなことも言ったな。


「それはどういう教義なの?」


「ナンバー〇〇一ゼロゼロワンを敬え、信じろ。その信仰心が強い程、強力な神聖魔法が使えるというものです」


「教義、なのかな?それ?」


 普通は、豊穣とか恋愛とかを司ってて、それに関係したものがあると思うんだけど。


「ナンバー〇〇一ゼロゼロワンの姿形も分からないし、信じろと言っても……」


「はい、これがお姿です」


 ケースに大事に入れられた写真を渡された。


「どれどれ?」


 ニャンコと同じく白い肌の白髪で赤眼なんだけど、他には特に特徴の無い普通のおっさんの写真だった。うーん、新興宗教かなんかかな?


「えーと、実際にいるの?」


「はい、みなと仲良く暮らしています」


 最近流行りの地域密着型ってやつかな?

 まあ、隣のこの子供も実在している神様だし、一緒に暮らしているのが普通な世界なのかなココ。


 あれ?


「そいえば、エシュリー教の教義って?」


「ムカツク敵は真正面からぶっ飛ばせ」


「ダメ過ぎる……いやまあ、教義と言えば教義か」


 力が無いからダメではなく、元からダメなのかなエシュリー。


「そういえばニャンコ、神聖魔法って?」


「ナンバー〇〇一ゼロゼロワンの力を借りて行使する魔法です。主に、癒しとか浄化とか補助魔法などがあります」


 癒し系は助かる。

 ゲームでも、回復手がいないパーティーとかキツイもんね。


「しかし、ナンバー〇〇一ゼロゼロワンの写真しか見てないし、信仰できるのかなこれ?」


「それなら、分かるまでわたしが毎日お教えして差し上げますわ」


「毎日ってことは、付いてくるの?」


「ダメでしょうか?」


 わたしには断る理由はない。特に、貴重な金づるなのだ。

 エシュリーの方に視線を向けると、無言でうなずいている。


「オーケーよ。これからよろしくね」


 右手を差し出す。

 しかし、ニャンコは手を握ってこない。そういう風習が無いのかな?


「えっと、モナカさん……できればその……手を拭いていただけるとありがたいんですが」


 右手はブタのタレでベタベタであった。これは失礼。

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