第三十九話 国王陛下への贈り物
そこは、巨大なホールであった。
平面的な広がりは、体育館以上はあるだろう。高さに至っては、ビル何階分の吹き抜けか、ちょっと分からない。
大理石では無いだろうが、白い磨かれた石でその空間は造られており、彫刻や黄金などの装飾が、華やかで荘厳な雰囲気を作り出していた。
宮廷魔術師団のデブラの次元の扉によって転移した先が、そこ――巨人族の王城、その謁見の間であった。
中央に赤いじゅうたんが敷かれ、その左右に数十人の武装した巨人の兵士が整列している。
じゅうたんの終わり、部屋の最奥にある玉座、そこに巨人の王が座っていた。
豪華な装飾の施された、青地の衣服をまとうその巨体は十メートルにもなろうか。今まで見てきた中で一番の巨体である。
その左右に、将軍と思われる者と、魔術師風の巨人がたたずんでいた。
「国王陛下、人間たちを連れてまいりました」
デブラはその場で一礼した。
わたしたちも行儀よく、礼をする。ちなみにツイートは同行が許されなかった。なんでも、人間とだけ話したいとかで。
国王はこちらに軽くうなづき返した。
「ご苦労だったデブラよ。下がって良いぞ」
「はっ!」
国王の横にいる魔術師風の巨人が、デブラに指示を出した。
テレポートで消えるデブラ。
「人間たちよ」
国王が初めて発した声は、重みがあり低めではあるが、遠くまで良く届くものであった。
「カルナ公爵を知っておるな? そやつから進言があった。人間が、我が巨人族の内情に介入してきていると」
あのおっちゃん、そのままでは敵わないと思って、上の人に告げ口したのか。ほんと、どうしようもない。
「国王よ、カルナ公爵の進言をうのみにして動くとは、何事だ」
エシュリーが果敢に国王に立ち向かった。
えらいぞエシュリー、けどそれで大事になったら、対処するのはわたしだぞ。
「まあ待て、小さき子よ。まだ話は終わっておらん」
「小さいとはなんだー! わたしはおまえほむみゅむが――」
エシュリーの口を押さえる。
「あ、おかまいなくー」
「あーっ、そ奴の言う通り、言われたままで、それをうのみにするほど、わしは愚かではない。調査隊を派遣し、すべてを探った。結果、カルナ公爵とその息子の不始末、それをグルアガッホの現領主と協力し、解決をしたということが分かった」
「おおっ! 理解してくれているんだ、ありがとー!」
「モナカさん、ちょっと国王様にはもう少し丁寧語で……」
「ああっ! すみません、思わず地が出てしまって……」
ニャンコに指摘され、恥ずかしくなる。
「かまわん、子供であれば多少の非礼は目をつぶろう。それに、元気なのは良いことだ」
「国王陛下がいい人で、助かります」
すると、国王の目つきが変わった。
「カルナ公爵にも非があるが、元はといえばグルアガッホの領主候補者が逃げ出した、それが問題でもある」
あああー、ツイートくんのそれは、擁護しにくいかなー。
「それは、えーと、当時いろいろあったというか……」
「さて、お前たちだ」
「へっ、ツイートの件は――」
エシュリーがそっと耳打ちしてきた。
「今回はツイートやカルナの件への罰則など、これ以上話さないようだ。その話しを進めたくないから、今回ツイートが来ることを拒否したんだろう」
うまむやで済まそうという気かな?
そっか、黙っておこう。
「お前たちについては、他にも調べがついている。ファルプス・ゲイルに送った間者を捕え、先の戦闘でも我が軍を退けるのに加担したようだな」
なんか周りが険悪な雰囲気になってきた。
「きさまらはファルプス・ゲイルの工作員かなにかか?」
「お待ちください、国王陛下様!」
「おぬしは、確か……」
「はい、わたくしの名はアリス・ファルプス・ゲイル、ファルプス・ゲイルの第二王女です」
周囲がざわめきだした。バラしちゃっていいのかな?
リンを見ると、こっそりとステッキを取り出していた。
「あなたの国の間者は、わたしとわたしの友人を誘拐し、さらに我が国の神器も盗みました。我が国においてそれは犯罪行為です。それを解決して頂いたのが、ここにいるモナカさんたちです。犯罪者を捕えることは何の問題も無いのではないでしょうか?」
必死な形相のアリスに対し、国王は笑みを浮かべていた。
「今は互いに戦争中。お互いにスパイ行為などしても当たり前。わしが聞いておるのは、その時の逆、貴様らがファルプス・ゲイルの間者かどうかということだ」
「間者ではありません! わたしたちはただの旅行者です。 この国は通過点に過ぎず、北の国へと行く途中であったのです」
「貴様、名を何と申す?」
「あ、申し訳ございません。わたしは北の国の出身者、ニャンコと申します。それとこちらのモナカさんとエシュリーさんは、アース国から来ておりますし、テルトは頭上の輪っかの示す通り幻魔です。確かにアリスさんとリンさんは、ファルプス・ゲイルの御出身の様ですが、この様なバラバラの出自の者同士では、間者にならないのではないでしょうか?」
「ふむ、なるほどな」
「あ、待って下さい。ニャンコ、巨人の国には確かに立ち寄っただけですが、国王陛下には一つ、お土産を持ってきているのです」
アリスのいきなりな発言。土産って、何も持ってきてなかったと思うけど……
ニャンコもエシュリーも困惑している、みんな知らないようだ。
「土産とな? 敵国の王族がか?」
「はい、これからも良きライバル国となるようにと思いまして。リン、アレの用意を」
「ホントにやるのかー」
リンがポーチから何やら取り出した。
いくつもの棒とか、うん? 鍵盤?
「国王陛下、準備に少々お時間を頂きます」
「待て、何をする気だ!」
「まあ待て、ドレッグ将軍。何をするか興味がある」
「はぁ……」
国王は興味津々だろうけど、こっちはサッパリである。
その間にも、リンが黙々と部品を組み立てていく。
「モナカ、一緒にお願い!」
「えっ!? わたしもなんかするの?」
事前に言っておいて欲しいものである。
「出来たよー」
完成したソレに、リンがスタンバイしている。
見た所、シンセサイザーにドラムセットをくっつけたような、楽器一式だ。
「……アリス、すごーく嫌な予感がするんだけど」
「国王陛下、お土産というのは歌と踊りです」
「やっぱりかあああああっ!」
「モナカ、一緒に踊ろう!」
いや待ってこれ、あれか、前にとあるテーマパークで見たことあるけど、歌と踊りで敵を倒す的なそんなファンタジーかますんですか?
「ううっ、これやめれないよねー」
「無理だよー」
無邪気にすっごいいい笑顔をされてしまった。
「えー、今から披露するのは、ファンタズミック・フェスティバルという曲です!」
「よりにもよってそれかー!」
アイドルの電波ソングとか!? しかもこんなお偉いさんがいっぱいいる中で、練習無しのぶっつけ本番でか!?
「大丈夫だモナカ、超美少女は歌って踊れる国民的アイドルの別称でもあるのだ」
「エシュリー、それは真面目に言ってるの!? それともギャグなのか!?」
「さ、モナカ、準備はいい?」
「まったく良くない……」
「じゃあ、音楽スタート!」
リンの掛け声で、伴奏が始まってしまった。
わたしの歌しか聞いてない割に、めっちゃ近い音楽が流れてる~なんでだー!
「モナカ! いっくよー! ファイッ! ファイッ! もっともとファイッ!」
アリスが歌い出したんで、腹をくくる。
ええいもうヤケだ! 歌ってやれー!
「どーんと♪ハングリーで♪勝ちまくれー!」
わたしたちの横で、突然、テルトが呪文を唱えだした。
「【演出幻影】!」
周囲に極彩色の映像が生み出される。
光の爆発や無数の閃光など、物凄い演出効果である。
「イヤーッ! イヤーッ! ハイ! ハイ! ハイ!」
リンの演奏も激しいもので、もうテンション上げまくり!
というか、テンション上げないと恥ずかしさで死ぬ。
人生で一番長い四分間だった。
まさか一番だけでなく、フルバージョンでやることになるとは……
「あははははっ、疲れたー!」
アリスは、楽しそうにその場に座り込んでしまった。
「はーっ、面白かったー」
リンも意外とノリノリであった。
ニャンコもへたり込んでいる。
途中から、こちらの勢いに飲まれててか。ニャンコだけでなく、周りの兵士たちも踊ってしまっていたのである。
「ははははははっ! 最高の贈り物であったぞ、姫君!」
良かったー、国王にも好評だったわー。
「はい! ありがとうございます!」
「これで、間者だどうだと言うのもキモが小さいのう。今回は不当としよう」
「ははははははっ! ようやく理解したか、巨人族の王よ!」
エシュリー……いやまあ、最後にはエシュリーも踊ってくれたし、今回のには十分貢献したか。
「ふむ、こちらだけ贈り物を頂くだけでは、ちと釣り合わんな。おい、書くものを」
国王が何やらしたためてくれる。
「これがあれば、いつでもわしに会えるようにしておこう」
「ありがとうございます」
アリスが代表でそれを受け取った。
「うむ、図らずも楽しい時間が過ごせた。こちらからも礼を言う」
楽しんでもらえて何よりだ。わたしはもう思い出したくはない。
「もし、また寄ることがあれば、また土産を持ってきてくれ」
「分かりました、今度はまた素晴らしいお土産をお持ちしますね!」
「アリス! またやるの!? せめて事前には教えてよー」
「ふふふっ、いきなりやるから面白いんですよ!」
意外と悪魔っ子な一面があるのか……
久々に歌いまくったし、帰ったらハチミツ入りのお茶が飲みたいな。それで、何も思い出さずに寝てやるんだー!
グルアガッホに戻り、ツイートたちに事の顛末を報告すると、国王に披露した贈り物に興味を持たれてしまい、結局もう一回やる羽目になってしまった……




