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第三十七話 新領主誕生

 ガンドリアの街まで徒歩で約二時間。

 歩きかー、スピーダーが壊れているのは、ほんと痛いな。


「モ、モナカ、まだかなー」


「まだだよ。というか、わたしにおんぶされてるのに、なんでそんな疲れ切った声をしているのよ」


「おぶわれている姿勢というのは、けして楽というわけでは無いのだよ」


「……降りる?」


「ごめんなさいモナカさまワガママいわないから、もーあるくのは嫌ですー」


 エシュリー、ちょっとは素直になったな。


「アリスは平気なの?」


 ツイートにおぶわれているアリスに問いかける。


「平気ですけど、おんぶされるなら、モナカの方が良かったなー」


「元気そうだね」


 つまりは今回はこの四人で遠征中。

 スピーダーをグルアガッホの街の建屋に移してもらえることになり、搬入作業に残る人員が必要なのと、アリスの、置いて行かれるのはもう嫌だ、置いてったら後から付いて行くーっ! という主張を考慮してこうなった。


 ガンドリアの街に着いてみると、まあデカい。

 元々サイズ感が人間と違うため、感覚的に分かり難かったけど、グルアガッホの街の数倍の広さがある。

 街は活気付いてて人通りも多い。

 目抜き通りには露店などもたくさん出ている。


「グルアガッホの街も、昔はこんなだったの?」


 わたしは例の着ぐるみを着て、ツイートに付いて行っている。

 エシュリーが抱っこされる形、アリスがわたしに背負われている状態だ。ちなみに落ちないように紐で結んである。なんか、子だくさんのお母さん状態だ。


「さすがに、これほどでは無かったが、現状と比べればこちらに近かったな」


 つまりは結構、荒廃しちゃってるのか。

 エシュリーがなんかモゾモゾ動いてる。


「どした、おトイレ?」


「ちゃうわ! 姿勢がどうにも安定しないんだ。モナカに手すりとか足掛けあればよかったけど」


「わたしはアトラクションの乗り物か!」


「わたしは満足していますよ?」


 なんかアリスもモゾモゾというか、わたしの頭に顔をうずめている。


「いい匂いです」


「かぐなー」


 前後がめちゃくちゃせわしないので、こっちも落ち着かない。

 周りが何もかも大きいので、歩いててだんだんとクラクラしてくる。

 道を歩く巨人たちにぶつからないか気になっちゃうし。なにせ彼らには、ハムスターとしか見られていない。


「公爵の屋敷ってどこらへん?」


「もうすぐだ……あった」


 それはグルアガッホの街の領主の館を、倍くらいにしたような建造物だった。

 二階建てで高さはそう変わらないが、横にデカいのだ。

 庭は小さく、草花は植えられていない。巨人からしたら花とか点にしか見えないのだろう。愛でようが無いか。


「なら手はず通り、ツイートは外で待ってて。行ってくるから」


「ああ、くれぐれも注意してくれ。公爵家だから護衛に上級レベルの巨人もいるだろうからな」


 ツイートとの別れのあいさつをすませ、建物内へ侵入する。


「エシュリー、つまりぶん殴って暴れて――」


「誘拐しちゃえばいい。話し合いはその後だ」


「アサシンみたいでドキドキですね」


「アリス、エシュリーにちゃんと守ってもらいなよ?」


「分かってます!」


 わたしに強く抱き付くアリス。分かってるのかなー?


 内部構造はツイートも知らないとかで、公爵を見つけるまで家探しが必要だ。


「モナカさんの魅了の力で、手近な巨人を操れませんか?」


「無理だな。巨人はかなりの精神耐性がある」


 わたしの代わりにエシュリーが答える。


「そーなんですかー、モナカの魅力が分からないなんて、ダメですね」


「アリス、各部屋に人がいるかチェックしてみて」


「それなら、もっといい術があります!」


 言って、開いている顔の部分から腕を突き出した。


「モナカ、階段の手すり辺りに移動して」


「う、うん」


 何か分からないけど、言われた通りに行動する。

 アリスの手が、階段の手すりに触れる。


「【残留思念サイコメトリー】」


 あ、サイコメトリーってあれか、物に残された記憶を探るって言う。そんな推理もの、昔見たな。


「モナカさん、公爵の顔が分かりました。壮年のたくましい男です」


「うーん、不特定多数過ぎる特徴だな……」


「わたしが見れば分かります! それと、こいつかなりの悪党ですね。利権を得たり、コネを増やすために、弱者を虐げたり、人の弱みを探り出して陥れたり。それに自身の親族に有利になるような働きかけもしているようです」


「まあ、グルアガッホの街の惨状を見ればそうよねー」


「これで、【気配感知センスオーラ】【透視シーングスルー】を駆使すれば、居場所が掴めます!」


「おお、さすがは姫! すごいぞ」


 エシュリーの賛辞に、ちょっと得意げなアリス。


「……モナカは?」


「……あ、ああううん、凄いよアリス」


「ええー、そんなに褒められると照れちゃうよー」


 なんだこの茶番。

 それと人の背中で体をくねらせないで欲しいな。ぞわぞわしちゃう。


 というわけで、アリスの活躍で無事公爵の部屋を発見できた。


「よし、今回も強襲だ、モナカ」


「よーし!」


 着ぐるみの中、二人の間をうまくすり抜けて、わたしだけ離脱。ちょっと転げてしまった。


「モナカ! パンツ見えちゃった! 白!」


「報告せんでいい!」


 一気に扉を開けて中へ!

 中は応接間のようになっており、公爵と見られる男と――その息子のクンガーもいる!?


「な、なんだね!? なんで人間がこんなところに!」


「えっ? ……うわあああぁぁぁぁっ! パ、パパパパパッ! こいつだ! ボクを襲ったのは!」


 クンガーは早くも逃げ腰で、部屋の奥へと走って逃げてしまった。


「やーやー、クンガーくん、会うのは二回目だねえ。今日は公爵様の方に用があったんだけどね」


 公爵は無言で、手元の鈴を激しく鳴り響かせた。

 すぐに廊下から走ってくる音が聞こえてくる。

 増援が来る前に!


「とりゃああああっ!」


 わたしの靴裏が、公爵の顔面にめり込んだ。

 そのまま倒れる公爵様。


「ぐはあああっ……」


「パ、パパアアアアァァァッ!」


「そこのパパ、パパ言ってる子のせいで、グルアガッホの街が酷いことになってるの。復興を手伝いなさい!」


「それが、人にものを頼む態度か! それに、あんな小さい町なぞ知るか! 人間風情が、身の程を知れ!」


「なら無理やり連れて行くだけよ!」


「公爵様!」


 わたしが公爵の襟首を引っ張り上げた所で、人が押しかけてきた。


「ケガしたくなければ、黙って見ていなさい」


 忠告は無視され、呪文が唱えられる。


「【雷の矢ライトニング】!」


 数人が同じ術を完成させ、撃ってきた。

 例によって完全無効。


「通じないから、そんな術」


 そう言った瞬間、殺気が感じられた。

 とっさにその場を離れる。その場所を、剣先が通り過ぎた。

 突然現れた巨人が、剣で薙いできたのだ。


「【空間転移テレポート】って、上級か」


「隊長! やっちゃってください!」


 扉付近にいる巨人たちからの熱い声援。

 けど、可哀想だけど。


「おりゃーっ!」


 目の前の上級巨人の腹をぶん殴る。

 前かがみになった瞬間に、回し蹴りでほおをぶったたく。倒れた背中を思いっきり踏み抜く!

 衝撃で床に亀裂が入る。


「ぐげええっ」


 変な悲鳴を上げて、隊長さんは動かなくなってしまった。

 残った巨人連中に視線を向ける。


「そんで? 次はだれかな?」


 残りの連中は、あっさりと逃げて行った。


「さあさあ、公爵様。死にたくなければ、わたしと一緒に行きましょうね?」


「……わかった」


 公爵は観念したか、あっさりと応じてくれた。


「わしが差し向けた部隊、あれもお前がやったのか?」


「まーね」


 どうやっても敵わないと悟ったか、その後は無言であった。

 エシュリーとアリスを回収し、表で待っていたツイートと一緒に、グルアガッホの街へと向かう。


 公爵にはヒモをくくり付け、引っ張っていく。

 エシュリーとアリスはツイートに任せた。


「帰りはモナカにと思ったのにー」


「しょうがないじゃん、公爵引っ張っていかなきゃいけないし。おんぶは、また夜にでもしてあげるから」


「ほんと! わーい!」


 すっかり元気になった。楽なもんだ。




 その後は案外楽に済んだ。

 クンガーの統治に嫌気がさしていた領主の館の人間を説得し、フォローしてもらった。

 公爵のお墨付きもあり、晴れて、住民たちはツイートを受け入れたのだ。

 ツイートを良く思ったというより、現状から変わりたかったというのが本音みたいだけど。


 次に街の執行役員とツイート、公爵を集めて、エシュリーが話を進めた。


「これからの街の統治方法は、後で勝手に話せ。おい、公爵よ、貴様の愚息がこの街の税収を横流ししていたことは調べがついている」


 みなににらまれ、ただただ聞き入れるしかない公爵。ちょっと哀れかなとも思っちゃう。


「本来なら、王都へ進言し、お家取り潰し、というのが筋だろうが、ここは寛大なツイート領主の御威光の元、それは保留とする。代わりに、今まで横流しした分の金を全部返還しろ」


「わ、わかったから、命だけは助けてくれぬか……」


 わたしに向かって土下座してきた公爵。


「モナカさん、どんな恐ろしいことをしたのですか?」


「そこまでしてないって! ニャンコ、引かないで!」


 してない、してないはずだ。だって、今までと同じやり方だもん。


「今度悪さしたら、わたしらが飛んできて、ガンドリアの街を火の海にしちゃうよ?」


 テルトが本気ともとれる脅しを刺す。


「こやつは幻魔だ。公爵なら博識で知っておろう? あの歩く時限爆弾といわれている幻魔だ。怒らすとこわいぞ?」


 エシュリー、悪役の態度だぞ。


「わかった、金は返そう。今後互いに干渉しない。それでいいな?」


「ああ、オレはそれで納得だ。いいなみんな」


 執行役員の面子は、まだ不満はあるようだけども、妥協点ということで、不承不承ツイートの言葉に了承した。


「カルナ公爵、ご理解いただき感謝する。何人かカルナ公爵に護衛を付けてやってくれ」


 護衛というか監視というか、数人に連れられ退席する公爵。


「さて、モナカたち。今回の件はいろいろと対応してもらい本当に助かった。心より礼を言おう」


「いえいえ、そんなー」


「本来なら、多額の報奨金でも出したいが、生憎財政難でな、理解して頂きたい。その代わり、そちらの乗り物の修理には全力で協力しよう。旅に必要な物資も補給させる。また、修理が終わるまでの間の宿や飯も保証しよう」


「わかった、その手配はよろしく頼む」


 おや、エシュリーがそれだけの報酬で許すとは。


「エシュリー、てっきり今回も多額の報酬をせがむと思ったよ」


「巨人族とのコネなんて、まず普通は持てない。それだけでも大収穫だよ。それに、もっと大きな収穫も期待できるかもしれない」


 言って、エシュリーが邪悪な笑みを浮かべた。

 この子は本当に女神様なんだろうか?

 大きな収穫って、もっと大事に巻き込まれるってことなのかな?

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