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第三十六話 巨人デストロイ

 領主をぶん殴るだけなら、わたしだけでいいだろうと、同じメンバーでふたたびの領主の館へ。

 そんでやっぱり着ぐるみパジャマ姿で、館へと潜入することに。

 一度行ったことがあるので、スムーズに執務室の前へ。


「さすがにこの扉開けたら、気付くよねー」


「入ってすぐにぶん殴ればいい」


「うん、そうするわ」


 着ぐるみ破くといけないので、ここで脱ぐ。


「ではわたしは、それを着て待機しておこう」


 一人で着始めるエシュリー。

 とたんに、目の前にはちっちゃなハムスターが一匹。


「あ、初めて見たけど、ほんとにハムスターに見えるんだ」


 ちょっと気になり、エシュリーのほっぺたがありそうな位置に、手をかざしてみる。

 柔らかい感触がする。


「あ、ほっぺがあるのがわかるー」


「ぷにぷに遊ぶな」


 着ぐるみの手で掴まれる感触がした。

 これ、見た目だけをごまかしてるのか。


「いや、ごめんごめん、初めて見たから、どんなもんかなーって」


「はよ、領主ぶん殴ってくるのだ!」


「いくよー」


 扉をそっと開ける。

 手前に打ち合わせ用のテーブルセット、その奥に領主の机がある配置だ。

 そこに、目当ての領主らしき男が座っていた。


「うん? 誰だ?」


 男の誰何の声。

 そしてわたしの姿を目に留めた瞬間、目を見開いた。

 巨人以外が入ってくるとは、予想していなかったのだろう。

 どう対処していいのか分からないのか、口をパクパクさせて固まっている。


「えっと、領主のクンバーさん?」


「……あ、ああ、クンバー、だ……」


 いまだ驚きから回復していないようだ。


「悪徳領主?」


「誰が悪徳か! おい! 誰か来てくれ! こんなところに人間が入り込んでいるぞ!」


 あ、ショックから立ち直ったみたいだ。

 本人確認が取れたし、いいよね、もう。

 全力でクンバーに向かい走り、こぶしを振り上げた。


「この街の住人の恨みを思い知れーい!」


 クンバーの顔面にヒット!

 クンバーの体は、そのまま背後の窓ガラスを突き破り、表へ飛んでいった。


「モナカ! 兵士がやってきたぞ!」


「うわ、ビックリした!」


 急に足元から呼ばれて驚いた。

 見れば可愛らしいハムスターが、ちょこんと座っていた。


「脅かさないでよ、エシュリー!」


「いいから、来る兵士全部やっつけろ!」


 すぐに扉から巨人が二人入ってきた。

 鎧は着ていないが、こんぼうを持って、にじり寄ってくる。


「人間、どこから侵入した? クンバー様はどうした?」


 窓の外を指さしてやる。


「クンバーなら、外にふっ飛ばした」


「きさま!」


 一人が襲い掛かってくる。

 人間相手なら、一人で十分と思ったのだろう。

 確かに素早い一撃だったが、軽く避けてやる。

 態勢を立て直される前に、腹に拳を一撃入れる。

 背後の奴もまとめてふっ飛んでいく。


「わたし、クンバーを懲らしめるために来たの。あなたたち、クンバーの味方じゃないなら、ここは退散してよ」


「人間めーっ!」


 話をまったく聞かない二人が、またも突撃してきた。


「【神聖武器セイクリッドウェポン】」


 長大なこんぼうで、二人まとめてふっ飛ばす!

 二人とも入り口側の壁にぶつかり倒れこむ。


「この街は、善良なる統治者が乗っ取った。クンバーの手先なら、とっとと出ていきなさい!」


「人間め、図に乗るな! 【雷の矢ライトニング】!」


 巨人から放たれた雷がわたしを撃つが、まるで効かない。


「その程度の魔法、効かないわよ」


「ク、クソが!」


 さすがに諦めたか、二人とも逃げて行った。

 まだ脅しが弱いかなと思い、窓へと向かう。

 地面から起き上がろうとしているクンバーに向けて、魔法で作り出した大弓の矢を撃ち込む。

 盛大にふっ飛ぶクンバー。


「クンバー、この屋敷は乗っ取ったわ! とっとと消えなさい!」


 背後からいくつもの足音が聞こえる。

 振り返ると、さっきの奴が応援を呼んできたみたい。十人くらいいるかな?


「めんどーだから、ちゃっちゃとやっちゃうよー!」


 十人をあっさりと返り討ちし、クンバーに言ったのと同じセリフを吐いて追い返す。


「こんなもんでいいかな?」


「うむ、ご苦労であったモナカよ」


 ハムスターにねぎらわれるのは、アニメ映画のキャラになった気分である。




「やったよー!」


 ツイートと屋敷の外で合流。


「よくやってくれた。今、クンバーたちが泣きながら走り去っていくのが目撃できた」


「次は本命ね!」




 街の外で、ガンドリアの街からの報復部隊を、みんなで待ってみる。


「すぐに来ますかねぇ?」


「ここからガンドリアまで徒歩で二時間。今日中には報復部隊はやってくるだろう」


 往復だけで四時間。たぶん早くても五時間後かな?

 なので、しばしのお昼休憩。

 午後はたくさん動くだろうと、お昼はしっかりと食べる。

 鉄串に大振りに切った食材を刺して焼く。バーベキューだ。

 ツイートの分は、大振りに切って焼いたステーキ肉にした。


「一人二本は焼くからねー、たくさん食べてねー」


 リンがテキパキと焼いてくれている。


「モナカさん、どうですか? わたしが切ったんですよ」


「うん、おいしいよー」


「よかったー」


 アリスとのいつものやり取り。

 塩コショウだけの味付けだから、腕も何もないかもしんないけど。


「き、きみたち……こんなところで、何をしているんだ?」


 巨人の門番たちがやってきた。

 街の外といっても、門の目の前で待っているのだ。

 あんま遠くで撃退しても、街の人たちに目撃されないからね。


「何をとはなんだ、われわれはお昼ご飯を食べているだけだ」


 エシュリーが両腕をあげて、威嚇するレッサーパンダのポーズをとる。


「あ、もしかしてお腹が空いていらっしゃるのでしょうか? お一ついかがですか?」


 ニャンコが差し出した串をにこやかに受け取る門番。


「これはありがとう、じゃなく! なんで街の目の前で、人間が食事をしているんだと聞いているのだ!」


 怒ってはいるが、しっかりと食い始めた。

 うーむ、バーベキューの力は偉大なり。


「オレたちはココで、ガンドリアの兵を迎え撃とうとしている」


 ツイートの返答に、門番たちが青ざめる。


「先ほど、クンバーと取り巻きどもがボロボロになって出て行ったのは……」


「わたしがやりましたが、何か?」


「なんてことをしてくれたんだ! クンバーの父親が報復部隊を差し向けてくるぞ!」


「だから、それを迎え撃つんですよ」


 肉にかぶり付く。ほどよく油がのっててうまい。


「きさま……!?」


「オレが全責任を取る、街の連中に迷惑はかけん」


 ツイートが門番をきつく睨み据える。


「……全責任はかぶってもらうぞ!」


 これ以上関わり合いになりたくないのか、門番たちは帰っていった。


「かっこいいじゃないですか、ツイートさん」


 アリスがグッドサインをツイートへ向けた。


「けど、戦闘はわたしたちが任されたから」


 テルトは熱いのが苦手なのか、何度も息を吹きかけながら、少しずつ野菜にかじりついていた。


「うむ、わたしたちに任せろ」


「エシュリーはニャンコとアリス、それとツイートをかばっててね」


 エシュリーの仕事は盾なわけで。


「わたしも戦いますよ!」


「アリスはダメでしょ」


「一対一なら引けを取りません」


「何十体来るか分からないからダメだって」


 わたしの言葉にアリスはほおを膨らませた。そんな表情も可愛い。

 ほんと、この子はお姫様のわりに過激派である。




「みんなー、来たみたいだよー!」


 遠視ファビジョンで、敵の接近をチェックしていたリンから、接近の知らせがあった。

 ご飯も食べたし、よし、やるか。


「リン、敵はどれほどだ?」


「うーんと、数百……千いるかもしれないね」


 よし。


「テルト、いつも通りお願いね」


「あいよー! 【炎の嵐ファイヤーストーム】!」


 接近してくる部隊が、巨大な炎に包まれた。

 さすがに頑丈な巨人族。この程度では誰も倒れていない。


「【炎の嵐ファイヤーストーム】!【炎の嵐ファイヤーストーム】!」


 連続放火。

 いきなり私たちの目の前に巨人が現れた!

 またこのパターンか! 空間転移テレポートでの強襲!

 数は五人か。


「リン、撃退するよ!」


「了解!」


 すでに魔法少女状態のリンが、手近な一体に魔力弾を撃ち込む。

 わたしも腰の剣を抜き、一体に切りつける。

 さらに前に踏み込んで、もう一体にも切りつけ、わたしに注意を向けさせる。


「テルト、気を付けて!」


 テルトは向かってくる相手に魔力弾を撃ち込んで、吹き飛ばした。

 残る一体は、リンが魔力弾を放ち、退ける。

 さらに五体、巨人が空間転移テレポートで現れた! うざい!


「拡散の、ファイヤ!」


 リンの拡散弾が、現れた全員に着弾。

 テルトは最初に現れたやつを倒して、新たな呪文を唱えだした。


「リン、モナカ、注意してね! 【極大爆破アルティメット】!」


 万華鏡の中のような、極彩色の光で周囲が彩られた。

 周辺の空気、鳴り響く音、すべてが停滞し――可聴域の限界ではと思える高音が辺りを包み込んだ。

 耐えきれず、吹き飛ばされる。

 視界が戻ったそこには、巨大なクレーターが出現していた。

 クレーターはキラキラと輝いている。あまりの高温高圧でガラスになったんだろう。


「上級の巨人が全滅したよ、やったね!」


「やったね! じゃなーい! 死ぬかと思ったわー!」


「モナカ! あれ――」


 唐突に、リンがどこかを指示した。

 街の城壁が一部ふっ飛んでいた。


「いやー、不可抗力」


「テルト、もっと弱いのでもいけたんじゃないの?」


「うざったくてー。てへぺろ」


 見た目は無邪気な子供なんだけど……

 この子はそういえば、歩く時限爆弾だったな。


 まだ前方から進軍してくる奴らは、逃げ出すまでテルトの炎の嵐ファイヤーストームの餌食にしてやった。


「勝った、のか?」


 ツイートたちが近付いてきた。


「完全勝利よ!」


「あのー、モナカさん、街の外壁は、どうしましょう?」


「テルトが修理費出すわよ」


「ちょっ! モナカ! 子供に厳しくないか!」


 教育的指導と言うものである。


「なに、この損害は街の方で保障させるさ」


 ツイートが街の方へと歩き出すので付いて行く。

 門番に話を通し、今度は隠れずにそのまま中へ。




 住民たちを集め、説明会が開かれた。

 ツイートは、自身の正体を街の住人に伝え謝罪した後、クンバーを追い出した顛末を説明した。


「クンバーに変わり、オレがこの街を守ろう。数十年前に投げ出した責任、今から全うしたいと思う。みなに理解してもらいたい」


 集まった住民たちからは、微妙な反応。


「うーん、うまくいかないもんかな?」


「今まで圧政で疲弊していた中で、何十年も前の候補者が突然出てきて、これから統治してやるって言われても、反応に困るんでしょう」


 アリスの言う通りなのかも。


「ふむ、もうひと働きしようではないか」


「また暴れるの?」


 エシュリーにテルトが無邪気に返した。


「エシュリー、何かするの?」


「公式に、ツイートをこの街の領主にするよう認めさせればいい」


「どういうこと?」


「ガンドリアの街の公爵に、統治者をクンバーからツイートに変えるよう、この場で言ってもらう」


「ええー!? どうやって?」


 リンが驚きの声を上げるが、それはそうだろう。わたしもビックリだ。

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