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第三十三話 巨人のツイート

 お姫様も乗っているため、安全運転ということで時速三百キロで移動中。

 三百キロでもめちゃくちゃ早いけれどね。


「あはははははっ! モナカ! これすっごく楽しいよね!」


 アリスはハイになっているのか、凄くテンション高くなっていらっしゃる。


「アリスって、こういうの好きなんだねー。ジェットコースターも好きそうだ!」


「ジェットコースター? ああ、前にモナカが言っていたやつね! ドドンパとかエエジャナイカとか。乗ってみたいなー!」


「よし! リン! 国へ戻ったらジェットコースターを庭に作ろう!」


「ええええっ!? あー見たことないけど、うーん、まあやってみるよー!」


「キャーッ! リンさん素敵ー!」


 アリスは感極まったのか、リンに背後から抱き付いた。


「ちょっ! アリス、リンから手を離せー! 危ない! 危ない!」


「わわあわあああぁぁぁっ、コ、コントロールがああああ」


 ロディオのごとく車体が暴れまわる。

 仕方ないね、時速三百キロだもん。


「アリス! 落ちるから! ちゃんと席ついて掴まって!」


「あははははははっ!」


 なんかぶっ飛んでないかい、お姫様……


「ああああっ! やばい!」


 リンの叫びと同時に、目の前の地面が隆起しているのが見えた。

 突然突き出した岩山に激突。

 勢い良く吹っ飛んでいくわたしたち。


「こなくそおおおおおおっ!」


 シートベルトを引きちぎり、アリス確保。

 空中を回転する間に、リンもベルトを引きちぎって救助。

 さらに落下している間に、アリスを口にくわえ、ニャンコたちの乗る座席を引っこ抜いて、そのままジャンプして脱出。

 地面に猛烈な勢いで回転しながら激突するスピーダーから、なんとか全員を救出するのに成功した。


「あ、あぶなかったー」


「死ぬかと思いましたー」


「きゅう」


 ニャンコはかろうじて意識あるようだけど、さすがに今回のはキツかったか、お子様二人は伸びている。


「モナカサンキュー」


「ノープロブレム。えっと、アリス、はしゃぎすぎると死ぬから。死ぬほどの速度で走ってるんだから」


「ああ、モナカにくわえられちゃったわ」


 なんかモジモジしだした。


「そこは、顔を赤くする場面じゃあないぞー」


 アリスはいろいろと暴走し過ぎである。


「けど、なにこれ?」


 リンは、隆起してわたしたちにぶち当たった岩を観察している。

 大きさは三メートルくらいかな?


「エシュリー、この辺りでは地面が飛び出してくるの?」


「そんな現象は無い」


 他のみんなも見回すが、全員肩をすくめている。なんだろう?

 すると、その岩が揺れ始めた。


「え? え? ちょっと……」


 近付いていたリンが慌ててわたしの方へ逃げてくる。

 岩が身じろぎをし、盛り上がって……いや、立ち上がろうとしている!?

 それに張り付いていた、土や草が剥がれ落ちていく。

 自身の手で、残った土を払い落としたその姿は――


「きょっ、巨人!?」


 リンの驚きの声の通り、そいつは巨人であった。


「アリス、わたしの後ろに隠れて!」


「しっかり守ってね。王子様」


「わたしは女だぞー」


 ニコニコしながらわたしの後ろに隠れるアリスに、突っ込みを入れておく。

 リンは銃を取り出し、テルトもいつでも呪文詠唱が出来るように構えている。エシュリーも構えてるけど、何をする気だ?

 臨戦態勢で待つが、巨人はぼーっと突っ立っているだけ。

 それからゆっくりと、首を左右に回す。周囲の確認かな?


「……あーっ……」


 ひどくゆっくりとした、のんびり声が巨人から漏れ出した。

 そのまま、腰を下ろしたかと思うと、大の字で寝転がってしまった。

 しばしの沈黙。


「えーっと、これはどういうことなのでしょうか?」


「わたしも分からないわよ、アリス」


 様子を見てても、寝ているだけである。

 顔は青年というより壮年って感じだ。黒髪でくせ毛、無精ヒゲが結構サマになっている。あまり生気が感じられないかな?

 少なくとも、襲ってくる様子はない。


「モナカ、こいつに敵対反応は無いよ」


 超能力で感知したのだろう。リンは早々に銃をしまっている。


「眠かったんでしょうか?」


 ニャンコが巨人の顔を覗き込んでいる。

 目は閉じられていないが、半開き状態だ。


「つついても起きないかな? つんつん!」


「おーいー、起きろー」


 とうとう、お子様二人がイタズラを始めてしまった。


「テルト、エシュリー! イタズラしちゃダメでしょう!」


「はーい」


「イタズラとは失礼な! 正確な状況把握が必要だから行っている行為なのであって――」


「黙るのだ、しゃらーっぷ!」


「うぐぐぐぐっ」


 エシュリーがそのままわたしの方へ小走りに近付いてきた。

 そのまま袖を引っ張られる。


「なら、モナカがなんとかしてよー」


「エシュリーちゃん可愛い」


「ちゃんとか言うなー」


 アリスにまでからかわれるとは。

 まあ、ご指名受けたし、このままではどうしようもないので、なんとかするか。


「リン、反応はどうなの?」


「さっきも言った通り、敵対反応なし。生命反応はあるから生きてる」


「モナカさん」


 ふいに服の背中を引っ張られた。


「はい?」


「わたしも超能力は使えるので、わたしにも頼ってくださいね」


 すごい訴える目で見つめられてしまった。


「えっと……うん、頼るようにするね」


「よろしい」


 服から手を離され、解放された。

 なんだろ、このムズムズするやり取り。


「モナカ、巨人~」


「はいはい、分かったから」


 近寄ってみるが、あんまり動く気配がない。

 どうしたものか、うーん……もう、考えてもしょうがないか。

 巨人の頭を掴み、思いっきりシェイクしてやる。


「巨人さーん! 朝ですよー! 起きてー!」


「わたしのやり方と何が違うんだー!」


 エシュリーの抗議の声は無視。だってーこれしか方法思いつかなかったもん。

 巨人が目を見開いた。


「おおうっ!?」


 思わず後ずさる。

 そのまま巨体をゆっくりと起き上がらせた。


「……は、……」


「は?」


 何か言いたそうだ、口をパクパクさせている。

 固唾をのんで、じっと聞き耳を立てる。


「腹が、減った……」


 空腹で倒れていたようだ。




 ひっくり返っているスピーダーを起こし、食材を引っ張り出して、ついでだからわたしたちも一緒に、早めのお昼ごはんにすることに。

 確か、空腹の人にいきなり大量に食わせてはダメって聞いたことあるな。

 大鍋で、香草と薬草、それと米を一緒に炊き、雑炊にする。

 その間に、ニャンコがバケツで水をあげていた。馬のエサやりみたいだな。

 巨人は一気にそれを飲み干してしまう。

 わたしの横ではテルトの組んだ窯で、エシュリー指導の元、アリスが魚を焼いていた。


「巨人さん、熱いけどどうぞ」


 出来上がった雑炊を、鍋ごと巨人に渡す。

 取っ手を持ったまま、取り分け用の大スプーンで器用に食べてくれている。

 まだ力が出ないのか、まともな言葉は発してもらっていない。


 巨人の食べる姿を見ながら、わたしたちは焼き魚とチーズとカットフルーツで昼食にした。

 魚は多少焦げ付いていたけど、中が生より遥かにいい。まあ及第点かな。


「モナカ、お魚おいしい?」


「うん、いけるよー」


「よかった!」


 アリスはほんとうに嬉しそうである。

 食事の後、リンはスピーダーの調子を見てくると抜け、ニャンコは巨人にさらにバケツ一杯の水をくれてやっていた。


「ふぅ……」


 巨人の口から言葉が漏れた。


「あ、巨人さん、元気になられましたか?」


「ありがとう、見知らぬ人間の方たちよ」


 ニャンコと会話が出来ている! やっと復活か!


「よし、ニャンコよ大儀であった。あとはわたしに任せろ!」


 エシュリーがニャンコを押しのけて前に出る。

 巨人に指を突き付ける。


「おぬしは何者だ! なんで地面から現れたのだ! 正直に言わないと、そこのモナカという恐ろしいバケモノが、お前を地獄の彼方へと送るであろう」


「人をバケモノ呼ばわりするなー!」


 巨人は何か考えてるような仕草をする。言葉を選んでいるのかな?


「オレの名はツイート。グルアガッホという街の出身だ。……ずっと寝ていて、今、起きた所だ」


「寝ていた? なんで地中に?」


「地中に寝ていない。地面の上で寝ていたが、いつの間にか、土が覆いかぶさっていたのだろう」


「誰かがかけたの?」


 砂風呂状態か?

 子供のころは親にやったりしてたけど。


「……たぶん、自然にかかったのだろう……」


「えっと……いつ頃から、寝ておられたんですか?」


 ニャンコの質問に、巨人のツイートはしばし、天を仰ぎ、思い出そうとしているようだった。


「ハッキリとは分からない……十年か、二十年か……あるいは、もっとか……」


「えーっ、そんなに寝てて、死なないんだ」


 時間の感覚が人間と違うようだ。


「モナカ、巨人というのは千年は生きる。人と違って年をとっても肉体は劣化せず、強くなる一方なんだ。十年やそこら寝ていても、死にはしないだろう」


「そうなのかー」


 巨人って、案外すごいんだな。


「あ、まず先に聞いておきたいのですが、わたしたちに危害を加えたりしますか?」


 アリスがズバリな質問を投げかけた。

 ツイートは、キョトンとした顔をした後、渋い笑みを浮かべた。


「意味も無く襲わないよ。魔物とかでもない限り」


「安心しました。わたしたちも襲わないので安心してください」


「そこの、モナカというやつは、恐ろしいと聞いたが?」


 笑みを浮かべながら答えてる。分かってて言っているんだろう。


「エシュリー!」


「ちょっ! 怒るな! あれは一種の駆け引きなにょはにゃああぁぁ」


 口に指を突っ込んで、左右に引っ張ってやった。

 じたばた暴れるが、許さぬー。


「ははははっ、面白い連中なんだな、きみたちは」


「はい、面白い連中なんです」


「特にモナカとエシュリーのコンビがね」


「テルト、わたしらは漫才コンビか!?」


 エシュリーは開放して、話に戻る。


「なんで何十年もこんなところで寝てたんですか?」


「それは……いろいろとあったんだ……」


 うつむかれてしまった。

 聞かれたくないことなのだろう。


「そっちはどう?」


 スピーダーの調子を見ていたリンが戻ってきた。


「ちょうど話し始めた所。そっちは?」


「駆動関係は問題ないけど、フロントガラスとか粉々だよ。どっかで修理しないとね」


「そっかー」


 思わぬところで足止めを食らってしまった。

 アリスは、巨人から情報が聞き出せないか、お話を続けている。

 これから巨人にかかわる厄介ごとが発生するんだろうか?

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