第三十話 巨人戦
「モナカ、できたよー」
「ありがとー!」
リンから渡されたチェインメイルを見る。
この前魔王に真っ二つにされたたやつだが、キレイに直っている。つなぎ目も見当たらない。
「リンって器用だよねー、これをすぐに直せちゃうんだから」
「ちょどいいミスリルの棒材を持ってたんでね。それを編み込むだけだから、そこまで苦労は無いよ」
鎧を装着、よし準備万端。
三日が経過した。いよいよ対決だ。
建物の屋上、見晴らし台でわたしたちは待機している。
作戦はいたってシンプル。
国境を越えてきたやつらを、片っ端からテルトの魔法で焼きまくる。うち漏らしを軍のみなさんと協力してやっつける。
それだけである。
「なんか、緊張しますねー」
「ニャンコは心配性なんだよ。テルトがどっかんどっかんやって、終わりなんだから」
「テルト、頼んだよ」
「あいよー」
ここには、護衛や通信のため他にも何名か兵士が待機していた。
わたしたちとは違い、緊張した面持ちで、一言も言葉を発していない。
二名ほど、国境付近を監視してくれている。双眼鏡は持っていない。なんでも超能力で遠見の力を使っているとか。
しばらく待っていると、一人の兵士が報告してきた。
「見えました! 前方、街道に敵の部隊確認!」
確かに肉眼でも、国境線からいくつもの人影が湧いて出てくるのが分かる。
「それじゃ、いっくよー【炎の嵐】!」
国境線付近に、半径百メートルはあろうかという巨大な炎の渦が発生した。
「【炎の嵐】!【炎の嵐】!【炎の嵐】!――」
最初に見えた人影は黒焦げっぽい。
国境線の向こうの人たちには、何が起こっているのかも分からないだろう。可哀想に。
「まずはこんなもんかな?」
「ありがとうございます!」
兵士たちがみんなテルトに頭を下げていた。
小さい子に屈強な男たちが頭を下げまくる光景は、なんというか微妙な気持ちにさせられる。
「あ、また来ました!」
見張りからの報告に見てみると、今度は全速力で向かってきているようだ。みんな走って国境線を抜けてきている。
「【電竜】!」
街道沿いに、雷が飛んでいく。
そのまま街道沿いに走ってきていた巨人たちを薙ぎ払う。
「【電竜】!【電竜】!【電竜】!ついでに【炎の嵐】!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
またもや感謝感激な兵士さんたち。
ちなみに通信担当の兵が、念話で状況を逐一本部へ伝えている。今のところ本部から追加依頼や作戦の変更などの連絡はない。このままやっちゃえばいいのか。
「ふははははっ! 圧倒的ではないか我が軍は!」
テルトの快進撃に、エシュリーも大盛り上がりだ。
「これで終わるなら、わたしたちヒマだねー」
「まったくですねー」
リンとニャンコはのんびりとくつろいでいた。
わたしもエシュリーも同じくなんもすることないんだけど。
「また敵影見えました!」
「まだ向かってくるんだ、がんばるねー」
もう退散しちぇばいいのに。
「敵影ロスト!」
「え? どうゆうこと?」
見張りの兵士の声に、意味が分からず思わず問い返してしまった。
そのわたしの目の前に、五メートルくらいの巨体が現れた。
手には巨大な斧を握り、高々と振り上げている。
「ちょっ!? まずい!」
振り下ろされた刃を、なんとか回避。
見回すと、この場にさらに二体出現していた。
「空間転移か!」
リンが慌ててポーチから銃を取り出し、応戦を始めた。
わたしも剣を抜く。
周囲からも悲鳴や爆発音が聞こえてくる。
壁の上にも何体か現れた様だ。
「空間転移できる上級兵で、奇襲をかけに来たようだな、モナカ、リン頼んだぞー」
エシュリーがニャンコをかばいつつ後ろへと下がっていった。
兵士たちが銃を撃ちまくっているが、巨人は多少の傷ではひるまない。
巨人の一振りで、三人の兵が吹き飛ばされた。
「ええい!」
剣を一閃。巨人の武器を叩き切り、返す刀で銅を薙いでやる。
巨人の突き出した手の平から、雷が飛んで来た。
まともに受けるが、ノーダメージ。
テルトや魔王に比べれば、全然弱い!
「ていやー!」
さらにめった斬りにして、動けなくした。
リンの方を見ると、すでに魔法少女に変身し、あっさりと倒してしまっていた。
「残り一体」
見ると、テルトの魔法の縄で縛られていた。
「ココは大丈夫だよー」
「敵が広域に展開し、高速で進行中!」
見張りの兵士がさっそく仕事を再開かと思いきや、何やら良くない報告っぽい。
見ると、数十人ひと固まりで、バラバラに進行してきているみたいだ。しかも、報告通りすっごい速い!
「魔法で移動速度をアップしているんだろう」
リンの説明に納得がいく。
「巨人の兵士って、全員魔法使いなんだねえ」
「だから厄介なんだよ」
なるほどー。
「テルト、作戦再開!」
「あれだけ広くて速いと、うち漏らしそう。そんときは兵隊さんたちがんばってね」
「モナカ、わたしたちは壁の上の援護をしに行こう」
リンは言って、さっさと向かって行った。
「わたしも行ってくるから、なんかあったら呼んでね」
「は、はい、行ってらっしゃい」
ニャンコに見送られ、リンとは反対側、西側の壁へと向かう。
その間にも、テルトの広域魔法が前方へと撃ちまくってくれている。
壁の上の兵士たちをみると、巨人に吹き飛ばされている人もいるが、遠くからライフルで奮闘しているのもいる。
巨人の方が強いが、こちらの方が数が圧倒的に多いため、そこまでの苦戦ではなさそうだ。
「助けに来たよー!」
神聖武器の大弓を連射し、手近な巨人を撃退。
さらにもう一体も剣で切り倒す。
巨人から魔法を何発か撃たれたが、かすり傷程度で、すぐに再生した。
「ありがとうございます! 助かりました!」
兵士たちは礼を言い、残る巨人たちに向かって走って行った。
がんばるなー。
突然、砲撃の音が鳴り響いた。
何ごとかと壁の外を見てみれば、巨人たちがもう目の前まで迫ってきていた。
先ほどの音は、それを迎撃する、戦闘車両や砲台の射撃音だったようだ。
巨人たちはどんどん吹き飛ばされているが、絶対数が違い過ぎる。
すぐに距離を詰められ、戦闘車両が次々と破壊されていく。
「モナカ、ちょっと戻ってきて!」
リンの声が、頭の中で響いた。
初めて体感したけど、これが念話か。
「オーケー、今行くね!」
こっちの声が向こうに届くのかは分からないが、取り合えず声に出して返した。
「モナカ、司令官から作戦指示。敵の大将が後方にいるのが確認出来たって。魔法障壁で防御しているようだから魔法が効きにくいみたい。直接行って倒してきてって」
「わかった。わたしがテルトと一緒に行くわ。リンはここの防衛をお願いね」
「任せて!」
戦略ゲームの多人数プレイなら、攻防に分かれるプレイもありだよね。
テルトの空間転移で一気に敵の本陣へ。
インパルス砲を出現させ、一気に吹き飛ばす!
「【魔力球】!」
さらにテルトが魔力弾を無数に生み出し撃ち込んだ。
「やったかな」
「【炎の嵐!」
テルトよりも野太い声で魔法が放たれ、わたしたちは炎に包まれた。
体は大丈夫だけど、衣服がボロボロだ。
あ、鎧は燃えてないのでストリップにはなっていない、あしからず。
炎が止んだ先には、やたら目立つ鎧を着た巨人が一体。
取り巻き連中はやっつけたけど、巨人の将軍は耐えていたようだ。
「テルトは大丈夫?」
「ちょっとダメージ食らったけど、まだまだ平気」
「じゃあ、やっちゃおう!」
「おーっ!」
わたしは剣を抜いて飛び込む。テルトは魔法の詠唱開始。
将軍は、巨大なハンマーでわたしをとらえようとするが、それは難なく避ける。
一気に腹をかっさばく。
「【魔力球】」
テルトの魔法がとどめとなり、将軍はその場に倒れた。
倒れた将軍を連れて要塞の屋上へ空間転移。
テルトが上空で大爆発を起こし、全員の注目を集めさせる。
さらに、テルトの魔法で声をめちゃくちゃ大きくしてもらう。
「敵将! 討ち取ったりーっ!」
将軍を高々と持ち上げ、宣言し、壁の外、戦闘の真っただ中に放り投げた。
巨人たちは大将を回収し、面白いように潔く、撤退していった。
「勝ったーっ!」
「イエーイッ!」
みんなとハイタッチ。
巨人族の進行はこうして抑えられたのだった。




