第三話 超美少女になれた
「いやーモナカ、助かるよ」
「なんでこうなった!?」
爆音を避けながら、エシュリーを抱きかかえて疾走している。
エシュリーの足は遅かった。見た目通り十歳程度の幼女の全力疾走である。
対してわたし――過去の自分は運動苦手だったはずだけど、めちゃくちゃ早く走れるうえ、持久力もハンパ無いのか、全然疲れやしない。
「エシュリー抱いてても重さを感じないし、やたら速く走れるしで、なんなの?」
若返ったから身体能力が向上したっていうわけではない。なにせ――
「おー速い! 今、時速百キロは超えてるね」
つまり百メートル走三秒台である。軽く人間やめているレベルだ。
「このまま一気に街を抜けちゃおう。街を出ちゃえば少しはゆっくりできるし」
「ホントかなー? まあ、行くしかないけど」
エシュリーの道案内で、わたしは街の外へ向け、ひたすら走るのであった。
さすがは時速百キロ、あっという間に街の外まで行けた。
街の外は荒野であり、まばらに木や草が見えるだけであった。
そして、街の入口から遥か彼方へと、街道が延々と伸びている。
「ご苦労さん、モナカ」
「ホントに、こんだけ尽くしたんなら、なんか褒美とかあっても、いいと思うわ」
無理やり殺され、異世界に連れてこられ、信者にされた挙句、強制マラソンである。
酷い仕打ちだ。
「それで、わたしはどうなっちゃってるわけ? なんか、変にパワフルなんだけど」
「モナカのステータス、わたしには見えるんだけど――」
「ステータス? ゲームみたいな?」
「モナカが信者になってくれたおかげで、神の目というか、魔法的感覚は取り戻せてるんだ」
入ってくれたというか、強制入信なんだけど。
「モナカをこちらに転生させる際に、種族を設定し忘れてたんだな。で、ランダムで決まっちゃったみたいだ」
エシュリーは笑って話しているが、人間に転生すると決まってたわけじゃあないのか? 種族ランダムとか怖すぎるんですが。ゲームならともかく、現実の自分が一生、種族:オークとかにでもなったら自殺ものだ。
「モナカは、種族:超美少女だ!」
「は? それは種族なのか?」
まあ、美少女って言われて悪い気はしないけど……
「超が付くほどの美少女! 魔性のごとき魅了の力に、お肌にとっての大正義、超修復能力で永遠の美肌効果! にきびやシミなどさようならだ。そして永遠の若さ! つまりは不老不死だ!」
「えっとー、このパワーは?」
「美少女に寄ってくる悪い虫を撃退出来ないと、絶滅危惧種になっちゃうからね! 外敵から身を守れるように戦闘能力が上がっているんだよ。具体的に言うと、人間の五倍くらいに」
「ただのバケモノじゃないか」
「バケモノがなんだ! 永遠にキレイなままなんだぞ!」
「え! あ、そうか不老不死で美肌効果……永遠の十五歳美少女!? 素敵すぎる……」
永遠の子供、ネバーランドの住人だ。
結婚とか老後とか心配しなくていいんだ!
「さて――」
エシュリーが何か言うのをさえぎって、抱いてそのまま大きく横に飛ぶ。
上から変な音が聞こえてきたのだ。
瞬間、さっきまで立っていた場所に、無数の弾丸が降り注いだ。
上空を見上げると、なんだろう、飛行機見たいのが飛んでいる。
「敵国の無人機だね。こんなところにまで進行してるなんて。しかし、問答無用で撃つとか、ひどいなー」
「エシュリー、魔法とかで撃ち落としたり出来ない?」
「無理、魔法全然使えない」
女神様、案外使いものにならないのでは?
周囲を確認、ちょっと大きめの石が落ちていたので拾ってみる。
適当な大きさ、一メートルくらいのやつ。
「ていっ!」
片手でぶん投げる!
高速で飛んでいった巨石が、無人機を粉々に打ち砕いた。
「一発で当てられた!」
どう投げれば当たるかの軌道が、感覚で分かっちゃったのだ。
これも身体能力向上の成果かな?
「モナカ、お疲れさん」
「うーん、ゆっくりお話しも出来ないんだね」
「無人機のカメラで映されているなら、撃墜した相手を捕まえに来るかもしれないしね」
エシュリーの言葉に、ちょっと違和感を覚える。
「さっきから、無人機とかカメラとか、異世界にしては近代的だね」
異世界というと、剣と魔法の世界が普通と思ってたのだけど。
「やつらは魔法を使わず、科学を信奉しているんだ。嫌な奴らだ」
「科学な奴らは嫌いなの?」
「その科学とかで作ったインパルス砲とか言うやつで、わたしは撃墜されちゃったんだ。そのせいでこの国の支配権を奴らの神に盗られちゃったんだ! マジムカツクわー!」
そーいう意味で嫌いなのか。
「さて、そろそろ行きますか」
「街道をまっすぐ進めば、隣町に着く。そこまで行くぞ」
「どのくらいの距離?」
「歩きで五日くらい」
「……」
科学が欲しい。車とか列車とか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。