第二十九話 前線基地
王宮へと戻ると、王様たちやグレイスの家族一同、みんなが出迎えてくれた。
すべての人から感謝の嵐、ちょっと照れてしまう。
「モナカ殿、アリスを救出して頂き、ほんとうにありがとう」
「わたくしからも、グレイスを助けて頂き、誠にありがとうございます」
むせび泣くおっさん二人ににじり寄られ、ちょっと圧がつらい。
「い、いえいえ、こちらも護衛の任務を完遂出来てなによりですー」
「わたしからも、ありがとうモナカ!」
アリスがいきなり抱き付いてきた。
「お姉さま、帰ってきたよー」
今度は姉に抱き付きはじめた。
スキンシップの激しい子である。
「わたしからも、ありがとう」
グレイスがわたしに頭を下げてきた。
おや珍しい。考え方もこれをきっかけに変わってくるのかな?
「さて、そやつの尋問をせねばな」
国王はじめ、みんなの冷ややかな視線が一点に集中する。
件の首謀者である巨人族だ。
元の大きさのままだと邪魔くさいので、魔法で人間大になるように指示してある。
ついでに、うまーく話が進むように、口裏を合わせてもらってる。
魅了されていると、なんでもこっちの言うこと聞いてくれるので楽だ。
国王が衛兵を呼び、巨人の黒づくめを連行していった。
「国王様、姫様との再会の最中に申し訳ございませんが、神剣が戻りましたので、一刻も早く巨人の国との戦線に持っていかねばと思われますが」
衛兵の一人が、リンが持っている神剣について進言した。
確かに、誘拐窃盗事件はこれで解決だけど、巨人族との戦争が始まるんだよね。
「先ほどの巨人から進軍中止命令が出せれば、それで片付くが、まだ分からんからの」
「国王、その件だが、わたしたちが戦地に神剣を持って行こうではないか」
エシュリーがずずいと、前に出てきた。
「お前たちがか?」
「エシュリー、戦争に手を出す気なの?」
ちょっと不安になり、小声で耳打ちした。
「スピーダーならこの国のどんな車よりも早く戦地に着けるし、それになにより、国王には恩を売れるだけ売った方が後々得だよー」
打算が働いてるのか。
「おほん、国王、乗り掛かった舟だ、この件最後まで付き合おうじゃあないか」
「ふむ、ではお願いしようかの。お前たちなら下手な護衛よりも、安心して護送を任せられるだろうて」
巨人の尋問の結果、進軍はもう止められないということだった。
ちなみに襲撃や誘拐窃盗、全部巨人の仕業で、グレイスが私たちに襲撃をした件も巨人がそそのかした、という話にしている。これでグレイスは何のおとがめ無しになるわけだ。
嫌な奴ではあるが、こんな大事件にかかわっていたって話にしちゃうのは、可愛そうだったからね。
グレイスとは、時間も無かったので実際の詳しい話は出来ていないけど、経緯なんて今更どうでもいいわ。
みんなでスピーダーに乗り込み、いざ最前線へ。
王都の北北西、スピーダーで一時間ほどの位置に、国境の街リナールがあった。
敵国との国境の街と言うことで、国境側は軍事基地になっている。
街へは入らず、そのまま軍事基地に向かった。
基地とか、日本でも行ったこと無かったけど、建物が乱立し、戦闘車両があちこちに見える。飾り気の何もない、まさに男の職場だなーって感じだ。
基地に入ったわたしたちを出迎えてくれたのは、この基地の指揮官と言う人。マッチョな渋いおっさんだ。
「遠方はるばる届けてくれてありがとう」
「いえいえ、ついでに前線基地まで、このまま持って行きますよ」
「そうかい? それは助かる」
簡単な会話を済ませ、おやつ代わりのお茶菓子をむさぼって、そのままさらに前線基地へ。
さすがに日も落ちて来たのでスピーダーのライトアップ。
当然リンには安全運転でお願いした。
夜の道を時速五百キロとか、確実に死ねるからだ。
しかし今日は、朝にグレイス一家を呼びつけ、直後に誘拐事件が起き、午前中の残りの時間で探偵ごっこ、午後一で魔王と戦って、夕方に前線基地、ハードスケジュール過ぎる。
基地に着いたら何もせずに今日は休もう。そうしよう。
北との国境線が見えてくる辺りに、前線基地はあった。
それは巨大な要塞だった。
五階建てのかなりボリューミーな建物と、左右に何キロも続く巨大な壁。
壁の上には兵士の姿や砲台も見られる。
入り口で受付を終え、司令官に会わせてもらった。
さっきの街の指揮官と同じタイプなマッチョなナイスガイだ。軍人ってこのタイプが量産されているのかな?
「神剣を届けて頂きありがとう」
指揮官にそれを渡した。
「今の状況は?」
見た目十一歳の女の子が聞いてきたためか、少々面喰らっている指揮官さん。
どこぞの名探偵ではないが、エシュリーは見た目は子供、中身は齢数千歳のやっぱり子供なのである。
「哨戒している兵士からの報告で、敵の数は約一万。神器の所持の有無は不明。三日後に国境線に到達する予想だ」
「神剣を持って蹴散らしに行くんですか?」
「万が一、国境の向こう側で取り落とす危険を考え、神器は国内でのみ使用が許されている」
三日間は待機状態か。
「こちらの兵力は?」
「基地の前に、約二百台の戦闘車両。基地には壁沿いに大型砲台を備え付けておる。兵士は一万強と言ったところだ」
たくさんいるんだなー。
「兵隊さんの数が同じってことは、巨人たちと互角なの?」
「いや巨人一体と戦うのに、兵士が十人以上必要だろう。戦闘車両や砲台は十分に強いが、敵の数に比べて圧倒的に足りない。つまり、神器無しでは敵わないということだ」
「巨人ってそんなに強いの? わたしたち、あっさり倒したのに」
「モナカ、わたしたちの強さを忘れちゃあだめだぞ。おまえ一人でも戦車数台をスクラップにできてただろ。普通の人間には出来ない」
エシュリーの言葉になんとなーく納得。
というか、その言い方だとわたしがゴジラかなんかみたいじゃあないか。
「きみたちは巨人と戦ったことがあるのかね?」
エシュリーとのやり取りが気になったのか、司令官さんがそんなことを聞いてきた。
「はい、一体だけ。そこのテルト、えーとゴスロリの子がフルボッコにしてましたが」
「いえーい」
「ちなみに、テレポートが使える上位の巨人です」
リンが補足を加える。
司令官さんは少し考えこんでいる。
「その頭上の輪っか、テルトさんは幻魔なのかね?」
「そうだよ」
「申し訳ないが、戦争に勝つため。みなさんのお力をお借り出来ないか?」
うーん、確かにテルトの遠距離魔法とか、戦いに使えそうだね。
「わたしはいいかなーと思うけど、みんなはいい?」
「いいよ」
「わたしも。一応この国の国民だしね」
「わたしは異存ないですが、また守ってくださいね」
ニャンコが不安そうにエシュリーとか見ている。
この中で唯一、人外の能力を持ってないからなー。
「うむ、わたしに任せろ!」
わがチームの盾が、自信満々に答えてくれた。
さすがエシュリーさん頼りになりますねー。
「では、お引き受けします」
「ありがとう、よろしく頼む」
「よし、話が済んだことだし、食堂を案内してもらおうか」
エシュリー切り替えが早いわ。
そういえば、もう夕食の時刻もすこし過ぎちゃってるな。
食堂に通されたわたしたちは、軍隊飯を食べることに。
でかいチキンのソテーにマッシュポテト、サラダにミネストローネ風のスープ、それとクラッカー。まあ、わりと悪くなかった。
三日後の決戦まで、基地内を散策したり、兵士たちと近況とか世間話をしてみたり、普段味わえない軍隊の世界で観光旅行のような気分で過ごした。




