第二十八話 魔王との戦い
これから古の穴へ行こう! というところで、国王の元にさらなる緊急の知らせが届いた。
北の巨人族が大部隊を率いて、南進中だというのだ。
「神器が無いこのタイミングで進行してくるとは……」
国王様は難しい顔をしている。
「よく戦いが起こるの?」
この国の情勢とはいまいちよく分からん。
「北の巨人族と、南西の有翼人とは戦争中で、よく小競り合いがあるんだよ」
リンが説明してくれる。
「巨人と我々、両者とも神器ありなら互角の戦力、お互い神器無しだとうちが少し劣勢。向こうだけある場合には完敗だね」
嫌なタイミングでの進行なのか。
タイミング良すぎるなー。
「神器の在りかは、王族と公爵家の者なら知っている。神器の前の扉の認証は、王族のみパスできる。このための今回の誘拐と言うことも考えられる」
国王は報告に来た者に、北の国境線の防衛体制の強化のみを命じた。
「一連の事件の首謀者の黒ずくめが巨人? 大きいなんて情報無いですけど?」
「巨人は魔法使いでもある。魔法で姿はいくらでも変えられる」
この世界の巨人って、意外と頭脳派と言うか魔法使い属性あるんだねー。
ゲームとかだと、体力とパワーだけなのに。
「国王よ、神器をすぐ取り返さないと、戦況に大いに響くのであろう? すぐに行って取り返さないといけない。そのために我々は戦力的にも有利にしておきたい」
「どゆこと、エシュリー?」
何を言い始めたのやら。
国王様も予想付いていないご様子。
「戦力強化のために、この国で一番いい装備を進呈してもらいたい」
「そうゆうことか、わかった、至急手配しよう」
「こんな緊急時にパワーアップイベントか……」
取れる時にはどんどん取ろうということか。
装備レベルアップと言っても、エシュリーは毎度のこと神の衣が最強だと言い、テルトも魔法の結界が最強だからと辞退。リンも魔法少女の魔装があるため、結局前と同じように、わたしの武具とニャンコの神官衣だけ変更となった。
といっても、込められている魔力が上がっただけで見た目の変化は無し。
「さて、とっとと行ってアリスと神剣取り返すわよ!」
「よろしく頼む」
国王様に頭を下げられてしまった。
「モナカさん、グレイスさんもお忘れなきよう」
おっとそうだった。ニャンコに言われて思い出した。
「うん、ついでにグレイスも!」
「よし、テルトよ、やってくれ」
「あいよー」
エシュリーの指示に従い、テルトの呪文が発動した。
空間転移をした先は、塔の目の前であった。
この場所はいつ来ても、白と灰色と黒だけの音の全くない不気味な世界で気が滅入ってしまう。
ただ、以前来た時と違うところが一つ。
「塔の扉が無くなってる」
何をやってもびくともしなかった扉が、切り裂かれて開いていた。
「神剣リーシェインで切り裂いたんだろうな」
エシュリーは無警戒にそのまま入っていく。
「リン、敵はいる?」
「うーん、【気配感知】に引っかかるのは五つ、【敵感知】に引っかかるのは二つ」
「五つ?」
アリスとグレイスと黒ずくめもいるとして、あとは黒ずくめの配下かなんかか?
「神剣も【気配感知】に引っかかると思う」
では敵が二人か。
「敵が二人だけなら楽勝じゃない?」
「モナカ、もしも敵が神剣で攻撃して来たらがんばってくれ。さすがにわたしも、あれで切られたらダメージを受けてしまう」
「エシュリーもダメージ受けることがあるのか」
まあ、おんなじ神様だもんね、仕方ないね。
塔の中は巨大な部屋に階段だけがあった。家具も調度品も宝箱も何もない。
何もないけど、罠とか置かれてないかな?
「うーん、リン、エシュリー、罠感知とか出来る?」
「ない」
「同じく」
「エシュリー、先頭を歩いて」
「わたしは地雷探知機か!?」
文句を言いながらも素直に前を歩いてくれる。
結局罠は無くそのまま二階へ。
同じような構造で何もなく、さらに上へ。
「どこにいるんでしょうか?」
「お決まりだと最上階かな?」
さらにお決まりだと、各階層に何とか四天王とかいるものだが、それは配置されていなかった。
そんな感じでさらに五階層まで到達。
「この上の階にいそう」
リンの忠告に、みなに緊張が走る。
ニャンコが各種補助魔法を掛けてくれた。各魔法は数ポイント能力アップ程度の効果であるが、全種類掛ければ効果はばかにならない。
「行くわよ」
エシュリーを先頭に、ゆっくりと上がっていく。
「いた!」
その部屋に目当ての人たちが集結していた。
完全に目の焦点があっていないグレイスが神剣を持ち、アリスを脅すように突き付けていた。
アリスは正気があるらしく、黒ずくめともう一人を睨みつけていたが、わたしたちの姿を見つけ、笑顔を浮かべた。
黒ずくめと言われていた奴、確かに、黒いローブで身を包んで、顔も目以外布で隠してあり見えない。
「王宮で護衛をしていたやつらか?」
黒ずくめが問いかけてくる。
「ふははははっ! とうとう追い詰めたぞ! ここが貴様らの墓場と思え!」
エシュリー、それ正義の味方の発言と違う。
「モナカ、敵対反応があるのは、黒ずくめと、その隣にいる女の子だよ!」
「了解」
そう、黒ずくめの隣にもう一人いる。
わたしと同じ歳くらいかな? 色白で青髪ロングの美人さん。二本の角を頭から生やし、背中にはコウモリの羽。
ぱっと見、コスプレした女の子だけど、なんだろう?
「モナカ、リン、気を付けろ! あの女の子、めちゃくちゃ強いぞ」
テルトが珍しく警告してくる。
「うむ、あれは塔に封印されていたやつだな、魔王だ」
エシュリーが何ごとも無いかのようにポツリとこぼす。
「魔王? 可愛い女の子にしか見えないけど」
「わたしだって神だけど、可愛い女の子だろ」
的確な事例ですねわかりました。
「ごちゃごちゃとうるさい! ヴェルチ、やってしまえ!」
ヴェルチと言われた魔王がこちらへゆっくりと歩いてくる。
「なんで魔王が黒ずくめの言うこと聞いてるの?」
「おそらく、神剣の力を利用して支配したのだろう」
「神剣って万能なのね」
「だから神剣なのだ」
「二人とも、来るよ!」
テルトに警告される。
ヴェルチは手の平をかざす。すると赤い三メートルはあるかという槍が生まれた。
一気に向かってくる、速い!
思わず近くのエシュリーでガード!
「おい!?」
エシュリーの抗議は無視!
だが、ガードごと壁まで吹き飛ばされてしまった。
「げはっ!」
エシュリーが声を上げた。
見ると神の衣とやらに穴が開いている。
「ちょっ!? ごめん! 大丈夫?」
服には穴が開いたが、本人は大丈夫な様だ、ゆっくりと立ち上がった。
「ちょっと、あれはきついな。わたしもダメージを食らってしまった」
「エシュリーでもダメージくらうんだ」
レーザー砲や戦車砲以上のパワーってことか。エシュリー盾は使用できないな。
ちょっと申し訳なかったので、ニャンコに渡して回復魔法を掛けてもらう。
魔王ヴェルチの方を見ると、リンとテルトが戦っていた。
物理結界があるためか、テルトが前衛に出て、攻撃のすべてを受けている。
リンの魔力弾は簡単に避けられ、テルトの単発型の光弾は受けてもまるで傷ついていない。
「おい、エシュリー、こいつめちゃくちゃ魔法抵抗高いぞ」
ヴェルチの魔槍はテルトの結界自体は貫いているが、その下に着ている魔力の鎧までは貫通しきっていない。
テルトでもギリギリ受けれている状態か。
「神々とも戦っていたやつらだからな。最高レベルの魔法でしか抵抗は破れないぞ」
近くにアリスやグレイスがいるから、広範囲に影響がある大規模攻撃は撃てないのだろう。
神聖武器で大弓を作り出し、狙撃!
リンに夢中になっているかなと思ったが、あっさりと避けられてしまう。
「回避能力も高いわねえ」
「突っ込んで行ったらどうだ」
「他人事だと思って」
新品の武器を取り出し、ヴェルチに突撃!
ヴェルチが何ごとかつぶやくと、赤い輝きが高速で飛んで来た!
新品の鎧を吹き飛ばし、さらには後方の壁に大穴が開く。
今の魔法、インパルス砲並みの威力じゃなかろうか?
その魔法を放ったスキを突き、リンが散弾の魔力弾を放つ、これはさすがに避け切れないか、数弾が当たった。
「当たったけど、散弾だとロクに傷つかないのかー」
小さいかすり傷が付いただけだった。
見た目は普通の服着た女の子なのに、めちゃくちゃ硬い。
「わたしも、そいやー!」
突撃再開! ヴェルチを全力で突く!
腹に突き当たった剣は、少しめり込んだだけで止まる。鉄かなんかで出来ているのか!?
動かなくなったわたしめがけて槍を一閃、速すぎて避けられない!
鎧が真っ二つにされてチョッキみたいになっちゃった。
その間も、テルトはいろんな術を試しているようだが、全然効果無し。初めてだな、テルトが何も出来ないって。
「テルト! 先に倒せる相手をやってしまえ!」
エシュリーの言葉に、テルトは空間転移で黒ずくめの前へ。
「ちっ! ヴェルチ! この幻魔をぶち殺せ!」
黒ずくめが指示するが遅い。
テルトは素早く呪文を唱える。
「【魔力弾】!」
「【魔力障壁】!」
テルトと黒ずくめの魔法が同時に発動。
テルトの魔力弾は、黒ずくめの障壁で止められてしまう。
「わたしも参加させてもらうよ」
リンが黒ずくめに全力でロッドを振りかぶる!
魔法障壁では物理は防げないのか、そのまま吹き飛ばされる黒ずくめ。
ちなみに、この間、わたしがヴェルチを一人で受け持っていたりする。
攻撃を諦め、防御に重視。そうしないと、こいつの攻撃がまったく防ぎきれない。
「ちょっと、誰かこっちも手伝えー!」
テルトがグレイスの洗脳を解き、リンはアリスの縄を解いていた。
「このまま逃げてしまってもいいんだがな」
「わたしが逃げるスキが全くないわー!」
エシュリーめ、やっぱりこいつを盾にするべきか?
リンの魔力弾がヴェルチの背中に着弾。一瞬攻撃が止んだ。
「モナカ、飛ばすよー!」
テルトが空間転移で飛ばしてきたそれを受け取った。
神剣リーシェイン。
「リーシェイン! 力を貸せ!」
『やれやれ、分かったよエシュリー』
自分の体に強大な力が流れ込むのが分かった。
ヴェルチの魔槍を、見ないで簡単に避けることが出来た。
がら空きになった腹に一閃! 簡単に切り裂けた!
ヴェルチが呪文を唱えるが、発動前にこちらの呪文が間に合い、その式をかき消す。
さらに剣で両腕を切り落としてやる。
そこに、リンの魔力弾が背後に着弾!
こちらに飛んで来たヴェルチの体を、神剣で刺し貫く。
形容しがたい謎の悲鳴を上げながら、ヴェルチは黒い塵となり、消えていった。
「終わった、のかな?」
「さすがは神剣、最下級とはいえ魔王に圧勝か」
拍手しながら歩いてくるエシュリー。何様だおのれは。
ニャンコはわたしたちの体の傷を見てくれた。
「鎧、新しくしたばかりなのに、もうボロボロだ」
「わたしが直してあげるよ」
「ホント!? リン、助かるわー」
持つべきものは魔法技師である。
「モナカさんたち、ありがとう」
ぐったりとしたグレイスを肩に貸しながら、アリスがこちらへと来た。
「アリス、大丈夫?」
「はい、ご心配おかけしました。グレイスはまだ意識がハッキリするまで、時間がかかりそうですが」
何かで精神を支配されていたのかな?
グレイスはぼーっとして、ヨダレ垂れてたりしてる。
この状況を見ると、ちょっと可愛そうに思えるな。
「詳しい話は、王宮に戻ってからにしよう。みんなが心配しているし、神剣も緊急で必要だからな?」
「神剣が必要って、どういうことですか、エシュリー」
アリスが疑問の声を上げたとき、背後から魔力弾が飛んで来た!
それをリンが迎撃する。
「きさまら、逃がさんぞ」
黒づくめがゆっくりと立ち上がる。
「あれ、あの一撃を受けても死なないのか。巨人族って頑丈だな」
「え!? 巨人族ですの?」
アリスは気付かなかったようだ。
「おーい、黒ずくめさん。ラストバトル終わった後の戦闘って、だるいだけで嫌がられますよー」
「うるさい!」
言って、ローブを脱ぎ捨てた。
現れたのは筋肉ムキムキの男だ。人によっては好きなんだろうが、わたしは筋肉ムキムキは苦手だな。
「あんまりその体見たくないので、服着て下さい」
言ったが無視される。
すると、その体が一気に膨張し、巨大化した!
変身シーン気持ち悪い! 筋肉嫌いにとっては最悪である。
「アリスは見ちゃだめだよー」
「はい、ずっとモナカさんを見ていますね」
それはなんなんだろう。
元黒ずくめは全長五メートルの巨人に変身していた。
「巨人は、強靭な肉体と高度な魔法能力を持っている、注意しろ」
「分かったわ」
「【炎の嵐】」
「ぎゃああああああっ!」
テルトが問答無用に放った大規模魔法に、巨人が大声を上げた。
「アリスたちがこっちにいるから、大規模魔法も普通に撃てて楽だわ」
ああ、向こうの方に巨人しかいないからね。
大規模魔法だっと、巨人の魔力障壁も貫通しちゃうんだ。
「【炎の嵐】【炎の嵐】【炎の嵐】」
連続放火により、巨人は動かなくなった。
やっぱり、つまらない戦闘になっただけだった。
「さて、こいつはどうするか」
エシュリーが踏んづけながら聞いてくる。ほんと、弱った相手にはとことん強気だ。
「魔法が使えるから、生け捕りのまま連れて帰っても、逃げられそうだね」
テルトの言うことはもっともだ。空間転移されたら逃げられてしまう。
「モナカさんが魅了したらどうでしょうか?」
ニャンコの提案に、みなはいい案だとばかりにうなずいているが、わたしは心底嫌だな。
「このでかいおっさんを誘惑するのー?」
「わたしは、モナカさんがどんな恋愛経験があったとしても、軽蔑したりしません!」
アリス、なんかフォローしているようだけど、全然フォローになってないぞ。
しかし他にいい案も無いので、仕方なく魅了し、王宮へと連れていくことになった。




