第二十七話 黒ずくめ
「じゃーん、やはりここだろう!」
両手を目一杯広げ、その屋敷を誇らしげに紹介するエシュリー。
王宮からほど近い、大きな門の先、前庭を抜けるとあるその白い建物は、王宮ほどではないけれど、かなり立派なお屋敷である。
徒歩でも良かったが、国王様がわざわざ馬車を用意してくれて、それで着いたところだ。
「グレイスの家って、公爵家だけあって大きいのね」
正直、今回の事件で思いつく人物がグレイスしかいなかったので、来たというわけだ。
あれだけ大きなこと叩いていたのに、結局誰もが思いつく推理しかしていなかったのかエシュリーは。
「おそらく、ここにアリスがいて、グレイスがおのれかくなる上は! っとか言って向かってきて、わたしがそれをぶち倒して一件落着になるだろう。完璧な筋書きだ」
どこが完璧か。
昨日の今日で、単独でそんなことしないと思うんだけどな。
「たのもー! 誰かいないかー!」
エシュリーが扉をバンバン叩いて叫びまくる。だが無反応。
リンが無言で呼び鈴を押す。
しばらく待つと、扉が開いた。
「はい、どなたでしょうか?」
使用人らしき男が出迎えてくれた。
「グレイスに会いに来たんだけど」
「隠し立てするとタダではおかないぞ!」
尋問するのは自分の役目だとばかり、エシュリーがわたしの前に出る。
両腕を思いっきり振り上げ、ふんぞり返っている。
あれだ、レッサーパンダの威嚇行動みたいだ。
「グ、グレイスお嬢様のことを何か知っておられるのですか!?」
逆にこっちが聞かれてしまった。なんだ?
「何かあったんですか?」
リンが使用人に詰め寄る。
使用人がすごく動揺している。しばし悩んだ後口を開いた。
「あ、ああ、中に入って下さい。待合室で待っていて頂けませんか」
使用人は、酷く急ぎ足でわたしたちを待合室へ案内したかと思うと、ダッシュで出ていった。
「なんだろう?」
「気が動転しているように見えましたね。あまりいい予感はしません」
ニャンコの言葉に同意。少なくともここでは事件は終わりそうも無い。
待っていくばくもしないうちに、大勢の走ってくる足音が近付いてきた。
扉が壊れるんじゃないかという勢いで開き、グレイスのお父さん他、屋敷の人たちが大勢入ってきた。
「グ、グレイスに何か心当たりがあるのか!?」
「い、いやあ、公爵様、顔近いですから」
「何かあったのですか?」
リンが使用人にした質問を再度行う。
それを聞いた公爵様は、酷く失望したような、力が抜けたような感じで、その場で膝をついてしまった。
「君たちも何も知らないのか……」
「実は、王宮から戻ってから、グレイスが行方不明になってしまったんです!」
変わって、公爵夫人が説明してくれた。
「こっちでも!?」
「何か王宮でもあったのか?」
公爵様たちに、こちらの事情も説明しておく。
「そうなのか……王宮では姫様と神器、それにグレイスまでが同時にいなくなってしまったのか……」
力なくうなだれる公爵様。
今ある材料だけで推理しちゃうと、グレイスがアリスと神器を盗んで、どこかへ消えてしまったとなってしまう。先日のこともあるし、公爵様の脳裏に、そんな最悪ケースが思い浮かんでいるのかもしれない。
心中穏やかではないであろう。
「ふむ、モナカ、やはりわたしの推理通りだったな。グレイスが犯人だ」
「エシュリーは結論出すの早いって」
「モナカの言う通り、まだ最初の襲撃の犯人が見つかっていないし、証拠不足だ」
リンがわたしの発言をフォローしてくれる。
そう、それがまだ足りないパーツ。
「そもそもグレイスって、この前の殺し屋をどうやって雇ったんだ?」
テルトの意見、確かにそうだ。
馬車とかの手配と違うのだ。使用人に言って簡単に手配できるものではない。
「それは、わたしも真っ先に疑問に思い、屋敷の人間や出入りしているものすべてを探ったが、分からなかった」
公爵様の方でも、調査は進めていたのか。
「グレイス本人には聞かなかったの?」
「黒づくめの男に頼んだ、名前は聞いていないと言っていた。だが、そんな服装の人間の出入りは確認されていない」
屋敷の中で着替えて変装とか、ありそうな話である。推理ものとかで。
「旦那様、例の王宮関係者への襲撃事件についても……」
使用人が公爵様にフォローを入れる。
まだネタがあるようだ。
「王宮関係者への襲撃についても調べは進めており、まだ直接の関係は取れていないが、最近、殺し屋等のつてを探す、怪しい黒づくめの男が、スラム街などで目撃されるようになったという」
「どっちも黒づくめの男なんですね」
「つまり黒づくめが犯人だな! 今度こそ新犯人を突き止めたぞ!」
ニャンコのつぶやきに何を思ったのか、エシュリーがドヤ顔で言い放つ。
「黒づくめじゃあ、結局誰か分からないじゃない。誰だって黒づくめになれるんだから」
今までこの街で登場した人物って、王族一家にグレイス一家、あとはグレイスの取り巻き、くらいかなー? あとはせいぜいクレープ屋のお姉さんだけど、あの人が犯人とか言うオチなら暴動もんである。伏線が無さすぎだろう。
情報がそれ以上得られなかったので、一旦公爵家を発つ。
グレイスの取り巻きの家にも行ったが、そちらは両方の失踪事件を初めて知ったみたいで、何も情報が無かった。黒づくめも見たこと無いという。
一度王宮に戻る。
そろそろお昼なので、一次休憩である。
「おお、モナカ殿戻られたか。して、アリスは見つかったのか?」
期待顔の王様には申し訳ないが、今の調査状況を伝える。
「いえ、見つかりませんでした。しかもグレイスも失踪しているようです」
「なんと、グレイスも行方不明なのか!?」
「申し訳ございません、見つけることが出来ず」
「お腹空いたから、先にご飯にしよう」
エシュリーがまったく空気読まない発言を吐きやがった。
「エシュリー、今大変な時だから、少し静かにしてようねー」
口に両指突っ込んで、思いっきり左右に引っ張ってやる。
「いはいいはいまっへもなはやへへー」
とりあえず許してやろう。
「まあ、一度食事休憩として、気分を改めた方がいいな」
国王様の取り計らいで、お昼ごはんとなった。
食堂でアリスを除くいつものメンバーで食事が始まる。
王宮での昼食はアフタヌーンティを見越して、少な目にされている。
丸いミートパイに、エビのビスク、レンズ豆とナスといちじくのサラダ、それとジャガイモとチーズのコロッケ。
「――というわけで、黒づくめが怪しいんじゃないかと思われます」
午前中の調査報告をする。
エビのビスクをひとすすり。クリーミーなスープって、気持ちをホッとさせてくれる。
「それで、神剣なんだが……」
コロッケを切り開いていた手を止め、国王様がおっしゃられる。
「場所は分かるんだよ」
「えええええっ!?」
もう場所が特定されたのか。
「さすがは国王様、迅速な調査対応ですね」
リンが感心した風に言う。
「いや、調査も何も、超能力を使えば詳しく知っている物品のありかを見つけ出すことは造作無い」
「ええええっ、それなんで早く行ってくれなかったんですか!?」
「そちらのエシュリー殿が自信満々で出ていかれたので、何か心当たりがあるのかと思ってな」
「エシュリー!」
「わたしは知らないぞ! 付いてきたのはお前たちだ」
何食わぬ顔でミートパイをパクついている。
悪びれないなー。
「えーと、どこですか?」
「これだ、【幻覚】」
国王の一声で、中空に地図が浮かび上がる。
その一点が赤く点滅している。
「この点の場所ですか?」
「うむ、この近くにダイアという街があってな、そこに念話で調査依頼はかけておる」
超能力って便利だなー。
というか、ダイヤの街?
「モナカさん、あの赤い点の位置ってもしかして……」
ニャンコの言葉に、思い当たるのは一つだけだな。
「もしかして、古の穴の位置ですか?」
「おお、モナカ殿詳しいな。いかにも、反応があるのは古の穴の中心だ」
「またあそこに行くのかー」
うーん、もう魔物は狩りつくしているのは知ってるけど、なんというか、イベントの終わった迷宮に行くのってだるいよね。
「全速力ならスピーダーで一日で行けるね」
「い、一日中全速力ですか……」
「うー、リバースしそー」
リンの言葉に、ニャンコとエシュリーの表情が曇る。
しかもエシュリー、食事中にリバースとか言うな!
「もっと早く行けるよ」
コロッケを切り分けずにそのままかぶり付いているテルトが、軽く発言する。
「どうやるの?」
「空間転移」
「ああ」
確かにそれなら一瞬だ。
「よし、食事が終わったら早速乗り込むぞ!」
「おー!」
エシュリーの言葉に、わたしたち五人は腕を振り上げた。




