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第十八話 車を魔改造

 ホテルのラウンジで、隊商のリーダーのおっさんと、わたしたち五人が対面した。

 翌日になって、早速おっさんが会いに来たので、ラウンジで話そうとなったのだ。知らないおっちゃんを、自分たちの部屋に入れたくなかったんで。

 リンも一緒にも来てもらっていた。勝負の代償を、体を使って払ってもらわんとな。

 まあ、朝から落ち込んだ様子ではあった。あの魔装にかなーりの自信があっただけに、判定負けとはいえかなり応えた様だ。


「わたしの名はウラジミール。運送業を営んでいる者だ」


「わたしはモナカ、あと順にエシュリー、テルト、ニャンコ、それから落ち込んでるのがリン」


「わたしの紹介が酷いんですけどー」


 あ、反応した。

 リンはそれ以上何も言わず、炭酸オレンジジュースに口をつける。

 ウラジミールさんが、みんなの分をおごってくれるというので、みんなで好き勝手に注文したのだ。

 いくらいいと言われたからって、ジャンボパフェ頼むのはどうかと思うぞ、エシュリー。

 わたしも自分のクリームソーダのソフトクリーム部分をすくって食べた。

 冷たくて甘い、それに生クリームのような濃いミルクの風味が感じられる。かなりいいソフトクリームではなかろうか。


「昨日は、覗き見みたいな形になってしまい申し訳ありませんが、街道からみなさんの戦闘を見学させて頂きました」


「いやー、その節はどうも申し訳ございませんでした」


 四十五度で頭を下げておく。


「いえいえ、確かにあの爆発などは驚きましたが、すごい能力がおありだと思いまして――」


 わたしとニャンコはまじめに話を聞いてるけど、隣のお子様コンビが、さっきからカチャカチャと食器の音がうるさい。


「そのお力を見込んで、頼みたいことがあるのですが」


 ああ、依頼か。

 頼み事と言うことで、エシュリーが食いついたみたい。

 パフェに刺さっているトッポみたいなお菓子を何本もほおばりながら、視線をおっさんに向ける。


「ぼもみょうはいはいへひょうは」


「エシュリー、飲み込んでからしゃべりなさい」


「うんぐ、どのような依頼でしょうか」


「ええ、あー……この街から北西、ちょうど国の中央北に位置する街ダイア、そこの商工会の会長が知り合いでね。そいつから、腕利きがいたら紹介してくれと、言われているんだ」


「うーん、なんか危険な匂いがしますね」


「モナカ、リスクが高いほど収入がいいものだぞ」


「わたしは肉体仕事で稼ぐ派じゃないんだけどなー」


 まあ、話だけ聞いてみようと、先を促す。


「確かに危険な仕事の依頼だ。ダイアの街の近くに古の穴がある」


「古の穴?」


「神話時代、確かに世界は破滅したけど、カケラくらいはいくつか残ったわけよ。それが各国の領土にポツポツと虫食いの穴みたく残ってるから古の穴」


 女神様であるエシュリーの説明で分かった。


「そこが危険なんですね」


「その領域には大戦当時の魔物が巣くっていて、たまに結界から出てくることもある。だから輸送隊はそこを大きく外れたルートを取るし、定期的に穴の周囲の掃除もするわけだ」


 紛争地域を迂回する旅客機みたいな感じだ。


「だが、迂回して余計にかかる費用、定期的な掃除の費用、それらが積み重なると馬鹿に出来ない金額になってな。商工会の会長パトリシアが、いっそ穴の中の大掃除をしてしまおうと言い出したわけだ」


「会長って、髭のおじいちゃんとかじゃなくて、女性の方だったんだ!」


「モナカ、どこに反応しているんだよ」


 テルトが半眼で見てくるが、しょうがない。

 だって、会長って言ったら、白髪の髭の着物着たおじいちゃんの印象なんだもん!


「まだ三十代なのに会長までになった凄腕だ」


「うーん、あんまり無理して体壊しちゃわなければいいけど」


 三十代でがんばりまくってるって、自分の前世と重ねてしまう。


「まあ、そこの魔物退治をやって欲しいということだ。君たちだけじゃなく、他にも大勢雇っての大仕事になると思う」


「大所帯の一員として参加って、あんまり収入も多くなさそうだ」


 エシュリーがみるみるやる気を無くしていく。

 手はアイスの下敷きになってるブラウニーを掘り起こそうと、必死になっているが。

 上から順番に食べればいいものを。


「報酬は基本給プラス討伐数になるらしい、詳しいことは先方に聞いてもらえると助かる。確か基本給が日に金貨五枚、あとは一体に付き金貨五枚から二十枚だったと思う」


「うーむ……」


 エシュリーは考え込んでいる。

 何もしなくても毎日五万円もらえて、なにかしたら都度、五~二十万円のボーナスって聞くと、ヤバい仕事か何かと思えるレベルなんだけど、今のわたしたちにとっては高い金額に思えない。


「行きましょう、モナカさん、エシュリーさん。困っている人がいるのなら助けないと」


 ニャンコが焚きつけてくる。

 エシュリーが顔を上げる。何かひらめいたようだ。


「募集って、いつからかけてる?」


「先週かららしいが、どうかしたのかい?」


「今のところ何名?」


「オレの知る限りでは、まだ一人も集まっていないようだ。最終的には、五十名くらいになるんじゃないかな?」


「リン!」


「ぶっ! ひゃいっ!」


 ジュースを飲んでる最中に大声で名指しされたため、変な声を出した後、少々むせている。


「あなた、魔法技師アーティファクターだったよね!」


「そ、そうだけど……」


「馬車をジェット戦闘機に出来る?」


「何語だそれは」


 魔改造ってレベルじゃないぞ。


「馬車じゃなくて、せめて車からの改造にして」


「よし! モナカ! 車買うぞ!」


「なんでええええ?」




「お買い上げ、大変ありがとうございました!」


 店員から丁寧なお礼を受けた。


「さすがはモナカ、太っ腹だな」


「免許の確認も保険手続きも無いもんだね、異世界って」


「モナカめっちゃお金持ちじゃないか! ちょっと譲ってよ!」


 初めて車買っちゃった。金貨五百枚を一括だ。

 とりあえずがわが欲しいということだったので、一番大きなやつを購入。なんか、トラックの荷台部分が座席になっている、観光地にあるかのような変な青い車だ。

 その車屋さんの工場の一部を、金貨二十枚で貸してもらって、突貫魔改造だ!

 

 この方が能力が上がるからと、魔法少女姿で車の改造を始めるリン。

 この中で、かろうじて車のことを知っているわたしがお手伝いをすることになった。

 しかし、魔法少女と十五歳の女の子が二人で車をいじってるって、傍から見たら実にシュールだろうな。




「できたー!」

 

 油で汚れた顔をタオルで拭くリン。なんだかんだでモノ作りが好きなのか、達成感のある笑顔である。


「あー、やっとできたのかー」


 その横で、わたしは適当に相づちを打った。

 エシュリーたちはみんな寝ていた。

 もう空が明るい。

 まだ日が暮れてないという意味でなく、一度夜になって朝を迎えたのだ。

 まさかの徹夜仕事である。


「エシュリー、起きろー、できたぞー」


 揺り動かしてみると、思ったよりも簡単に目を開いた。


「あ、おはよー」


「できたってよー」


「おおっ! 見せて!」


 エシュリーが、元車を見て回っている。


 なんというか、原形をとどめていない。

 タイヤを取っ払ったそれは、ホバークラフトというか、SF映画に出てくるスピーダー? みたいな乗り物になっている。

 エンジンは外されて、代わりにリンのポシェットから出てきた魔石を動力に組み込んでいる。

 座席は乗り心地のいいもの、ということで、ニャンコとテルトに家具屋で赤い革張りのソファーを買ってきてもらって、組み込んだ。

 大きな収納が後部座席裏に取り付けられている。

 外装は丸みを帯びており、ホワイトとミントのツートンカラー。

 内装のラッピングや小物の取り付けは、明け方近くにみんなでやったので、真夜中のテンションと言うか、ちょっとうるさいくらいになってしまったかも。

 ピンクを基調としたカラーシートで覆い、足元もピンクのじゅうたん。操縦桿みたいなものは、花柄ラッピング。あとは思い思いに小物を飾ってみた。

 コースターも備え付けた。缶ジュースは無かったけど、人数分タンブラーを買ったので、それに合わせた大きさにしている。


「やっとできたんですかー」


 眠そうな顔のニャンコ。テルトも起き出してまじまじと見ている。


「やっとって言うけど、一晩でこれは普通出来ないよ。わたしの腕のおかげだ」


 リンが威張ってそう言うけど、まあ、威張ってもおかしくない出来である。


「さて、行くか!」


「えええーっ!」


 エシュリーがとんでもないことを言う。


「ホテルに戻ろうよー、シャワー浴びたいし、着替えたい。あと、ご飯も食べよう」


 一旦ホテルに戻り仕切り直し。

 改めて、ファルプス・ゲイルの中央、ダイアの街へ出発だ!

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