第十七話 魔法少女VS超美少女
翌日、街の外に出たわたしたちは、街道から離れた場所にいた。
流れ弾とか一般市民に当たると問題なので。
試合は、一対一で二試合行われる。
「四人とも、このくじを引くのだ」
エシュリーが、両手に各二本ずつ、紙の帯を持ってこちらへと向けてくる。
対戦相手はクジで決めることになっている。
わたしの引いたのは、先端が赤くなっていた。
「わたしの相手はモナカか」
「安心して、ケガさせないように注意するから」
「それはこちらのセリフだよ」
リンは、中々に自信があるようだけど、インパルス砲台でも勝てなかったわたし相手に、どこまでできることやら。
「わたしの相手はキルシュだな、死なない程度に遊んでやるから」
「幻魔とは言え、子供に負ける気はありませんわ!」
おおう、早くも火花を散らしとる。
「ルールは簡単、相手が降参するか、動けなくなったら勝ちだ」
「ケガをされましたら、わたしが癒して差し上げますので、気にせず存分に戦って下いね」
口調は優しいけど、言ってることは過激だぞ、ニャンコよ。
「まずはテルト、キルシュの試合だ」
前に出る、テルト。
キルシュは出る前に、こちらに振り向いた。
「幻魔の子供に勝つのは無論のこと、魔道具の成果よりも、わたしの成果の方が上なら、リンとの勝負はわたしが勝ち、ということですよね」
「そうだね、せいぜいがんばれよー」
キルシュはああいう性格だけど、リンも大概に自信ありまくりだな。
リンの言葉を受け流し、キルシュはテルトと対峙した。
「第一試合、テルト対キルシュ、始め!」
キルシュの姿が消え、テルトの後ろに出現する。【空間転移】か!
さらにキルシュが手をかざすと、テルトが吹き飛んだ。
「無詠唱ってところだけは、超能力は厄介だねえ」
空中に浮いたまま、余裕の声。
「悠長に呪文を唱えさせませんよ!」
大地に亀裂が入り、土石流となってテルトを襲う。
土砂が降り注いだ後には、なにも無かった。
「飲み込まれた? ……ちょっと、やりすぎてしまったかしら?」
キルシュが土砂に歩み寄ろうとした瞬間、いきなり数十メートルの炎の嵐が吹き荒れ、キルシュが声も無く焼かれる!
「いやー、あの土砂はビックリしたけど、見た目だけでなんとも無かったわ」
「ちょっ!? テルト!」
いつの間にいたのか、わたしのすぐ横にテルトが現れていた。
「審判さん、わたしの勝ちだよね?」
黒こげのキルシュはピクリとも動かない。
テルト、容赦無しか。
「勝者、テルトぉぉぉぉっ!」
エシュリーがテルトの腕をつかんで上げた。
なんか、ボクシングかなんかの勝者みたいだな。
キルシュの方を見ると、さっそくニャンコが向かって介抱を始めていた。
「テルト、呪文が間に合ったの?」
「土石流の中で唱えた。あれくらいの衝撃なら、わたしの物理結界を貫けないから」
「幻魔って、強いんだねぇ」
リンは初めて幻魔の強さを見るのだろう。興味津々である。
「とうぜん!」
薄い胸を張って、誇らしげである。
「まさか、あんなに簡単に負けるなんて……」
「あ、キルシュ。もう大丈夫なの?」
ケガは完治しているようだけど、衣服はボロボロである。
「まさに大破状態ね」
「なにそれ?」
「気にしないで」
異世界人には通じないシャレがあるのだ。
「どう? やっぱり超能力じゃあ手も足も出なかっただろ」
「……悔しいけど、幻魔とは言え、子供相手に手も足も出なかったんだから、ちょっとはリンの考えも半分くらいは尊重してあげてもいいわよ」
ツンデレか?
「けど、リンの魔道具はどうなの?」
「これから見せるから、行くよ、モナカ」
「う、うん」
テルト戦を見ても、まだまだ自信満々なのか。
油断し過ぎて負けないよう、注意しないと。
なにせ……負けたら金貨百枚の支払い、と言う約束をしちゃってるのだから。
わたしとリンは、十メートルほどの距離を置いて対峙した。
「例のステッキは出さないの?」
「せっかくの機会だし、いろいろと試したいと思って」
ポーチからボールのようなものを取り出す。
「あ! 爆竹!」
「違う! 閃光弾!」
キルシュの言葉をリンが訂正する。
うん? 閃光弾って……
リンが無造作に放り投げる。
瞬間、あたりが光に包まれた。
「ああぁぁっ! 気付いていたのに目で追っちゃった!」
視界ゼロ。だけど、後方から、何か来る!
横に飛ぶと同時に、わたしの頬を何かがかすめて飛んでいく。
前方から炸裂音。
「視界ゼロで、よくあれを避けれるな~」
後ろから、リンの声。
だんだんと視界が回復していく。
振り返ると、リンはショットガンのような武器を持っていた。あれを撃ったのか。
「視界復活!」
「復活早っ!」
「なら、今度はこっちから行くよ」
「ちょい待って、やっぱりステッキじゃないと厳しいみたい。これ、反則みたいな気がして、あんまり使いたくなかったんだけど」
手で制されて、思わず待っちゃうわたし。
銃をしまったポーチから、例のステッキを取り出す。
「メイガス! ヘブンゲート開放!」
見るのも三回目になると、だいぶ慣れてくるな、この魔法少女コス。
「ふぁいや!」
杖から飛んで来る魔法弾から身を避ける。
「なら今度はこちら! 【神聖武器】!」
巨大な弓を生み出す。
某ゲームのヘヴィボウカンより一回りでかい。
「シュートッ!」
エネルギーの矢が、リンへと飛んでいくが、あっさりと避けられてしまう。
「拡散のファイヤ!」
お返しとばかり、リンから無数のホーミング弾が飛んで来た!
避けようとするが、避け切れない!
思いっきりふっ飛ばされる。バーゼルの新型レーザー砲並みの威力だ。
遠距離攻撃では不利か。
全力の時速百キロメートルで、リンへ向かって走る!
だが、上空へと飛ばれて、距離を詰めることが出来なかった。
ならば!
大地を強く蹴り上げ、上空へと飛ぶ!
「えええっ! この距離まで飛べるの!?」
驚くリンに向け、剣を全力で打ち付ける!
杖で受けられたが、かまわずそのまま大地へと叩き落した。
リンの落下地点から、盛大な土煙が上がった。
「ちょっと強過ぎちゃったかなー?」
そう言った瞬間、土煙を割いて、魔力弾が飛んで来た!
避けられず、またも吹き飛ばされる。
「ちょっと、ダメージ大きいかも」
再生能力が働いてはいるが、同じ攻撃をもう一発食らったら終わりかも。
「すごいね、あれだけ攻撃受けて動けるんだ。やっぱり人間じゃあないね」
着地したわたしに、リンが失礼なことを言う。
確かにその通りかもしれないけど、お年頃の女の子には対して人間じゃあないとはいかがなものか。
「リンも、わたしの攻撃受けて全然平気じゃない。装甲車だって切り裂ける威力なのに」
「この魔装、存外防御力も高いんだよ。今の攻撃なら十発やそこら受けたって全然平気」
リンも大概異常だな。
「その魔装って、反則みたいって言ってたけど」
「この杖、わたしのお師匠様が神の力を込めて作ったもので、これ使って勝っても、わたしの実力での勝利じゃないかなーって思って」
「律義だねー。けど、こっちも反則技使うから気にしないで」
「そう? それならお言葉に甘えて、拡散のふぁいや!」
いきなり拡散弾かー!
今のまま食らったら倒れちゃうので、まずは回復!
「【全回復】!」
回復しつつも回避! 三発当たったけどなんとか耐えられた。
続いて別の神聖魔法を使う。
「【神聖武器】!」
この魔法、イメージした武器が出現するのだが。
イメージできれば、剣とか弓みたいな原始的な武器じゃなくたっていいのだ!
「なにそれ!」
リンが叫んで指さしたもの。
全長四メートル、羽の付いた巨大な筒。テレビで見たことがある、巡航ミサイルだ。
それが無慈悲にリンへと高速で飛んでいく!
「ファイヤ!」
ミサイルのスピードに対応しきれなかったか、迎撃できず!
大爆発!
これで勝ちと思うが、念のため大弓状の神聖武器を構えて待機。
「いやー死ぬかと思ったよ」
魔装はボロボロになっていたが、まだ平然と立っている。
「生身であれ受けて平気とか、無茶苦茶な防御力じゃない!」
「不本意その二。一応わたしも超能力は使えるから、それで自身の体を硬くして、なんとか耐えた」
うーん、自信があるだけはある。あれでも平気か。
えい、先手必勝! リンに向かって弓矢を放つ!
だが飛んで逃げられた! 飛行スピードも速い!
リンに向かって剣を投げつける!
それはあっさり撃ち落とされるが、その隙にリンのいる高さまでジャンプ!
さらに新たな武器を生み出しながら。
今持ってるのは、筋力に見合った大きさの、巨大な棒。
「いっけー!」
フルスイング! リンはふっ飛ばされた!
さらに!
魔法で別の武器をイメージ! 神聖武器使えるな!
長大な砲身の先に強烈な輝き、バーゼルのインパルス砲だ!
「ふぁいやー!」
高圧縮されたエネルギー塊が、亜音速でリンへと向かう。
そこに、何かが飛んで来た。
エネルギー塊に飛んで来た何かが触れた瞬間、何やら変な反応が起きたのか、大爆発が起きた。
ちょっと起こしちゃいけないレベルの、直径が数百メーターあるんじゃないだろうかと言う巨大な破壊が、わたしの視界を白く染め上げる。
自由落下に任せて落ちていきながら、腕で目を覆った。
「モナカ、危ないよー」
着地したわたしに、テルトが言った。
「うん? どうしたのテルト。さっきの球体はあなたなの?」
「ほら、見てこ」
テルトが指さした先を見ると、街道にいる隊商が止まって、みんなで驚いた顔でこちらを見ていた。
「あ、街道近くまで来ちゃってたんだ」
いや気付かなかった。
もしかしたら巻き込んでたかもしれないと思うと、確かに危なかったなと思う。
「防いでくれたんだ、ありがとねテルト」
テルトに謝った後、隊商へと走った。
隊商の人たちは、まだ状況が飲み込めていないようだが、まずは謝っておく。
「申し訳ありませんでした。ちょっと身内で遊んでて、夢中になり過ぎてしまいました」
「……い、いやあ……というか、あれは……遊んでいたのか?」
髭のおじさんが、絞り出すような声で聞いてきた。
「はい、特に敵同士ではなく、知り合い同士で腕比べをしていただけでして」
まあ、さっきの巨大な衝撃波は、じゃれ合いのレベルでは無かったけど……
他になんと答えればいいのか。
「モナカさん、その人たち大丈夫でしたか?」
リンも走ってきた。
変身は解いて、いつもの格好に戻っている。
ボロボロの魔法少女服では人前には出れなかったのだろう。
「ふむ……」
対戦相手もフレンドリーにしてきてくれたので、なんとか分かってもらえそう……かな?
「モナカさん、と言ったね。後でお話したいことがあるんだ。お住まいとか教えて頂けないだろうか?」
「は、はあ……」
あれか? 損害賠償か何かか?
いやだなーと思いつつも、泊っているホテルを教えるしかなかった。
「結局、どちらが勝ったことになりますか?」
ニャンコが聞いてくる。
「隊商がいなければ、わたしの攻撃が当たって、わたしの勝ちだったよね!」
勢い込んでリンに詰め寄る。
「うーん、確かに、あれはヤバイと思ったからなー。モナカさんの勝ちでいいです」
よし! 金貨百枚ゲットだ!
「けど、金貨百枚も無いから、しばらくみなさんのところで働かせてもらいます」
そうなるのか。
「リンさん、悔しいですが、今のところはわたしの力で敵わない存在がいる。今のわたしよりあなたの方がお強い、ということは納得しました。ですが、それは現時点での話! いつかあなたを超えて、屈服させて見せますわ!」
キルシュさんが勢い込んでリンに言い放った。
そんなキルシュにわたしは一言。
「そういえば、元々そんな話だったね」
「忘れないでください!」
気分的にどっと疲れたので、キルシュの叫び声もどうでもよくなっていた。