第十六話 超能力者
突然屋台をぶん投げてくるという荒業で登場したキルシュと言う女性。
年齢は二十歳前くらいだろうか。ウェーブのかかった黒髪。青いロングスカートに赤のチョッキを羽織っている。
その顔はキレイなんだけど、きつめの表情である。
いやこれは、怒っているのか?
「もう逃がさないわよ、リン!」
「いや、逃げたわけじゃないんだけど……」
迫るキルシュさんに対し、引いているリン。
「この暴力的な人、お知り合い?」
「知り合いと言えば、知り合いかな~」
なんとも歯切れが悪い。
「おいキサマ、何てことしてくれるのか! あやまれ! わたしにあやまれ!」
エシュリー、屋台をぶつけられたのが、だいぶ気に食わなかったようだ。いや当たり前か。
キルシュは、そんなエシュリーに一瞥をくれただけ。
「リン、この方たちは何? あなたの意見の賛同者かしら?」
リンの意見ってなんだ?
「いやいや、たまたまさっき会っただけの人たちだよ」
「あのー、よろしければあの方のご紹介と、今の状況の説明をして頂けませんか?」
「そ、そうだねー」
ニャンコにうながされ、改まり、姿勢を正すリン。
「こちら、キルシュ。この街の一般市民」
「その紹介では不足ですわ。わたしは、この街で最高の超能力者よ。以後お見知りおきを」
なんとなく上から目線の、あんまり関わり合いになりたくないタイプの人だな。
「えっとーわたしはモナカ、リンさんとはさっき会ったばかりの他人です」
「さらっと、無関係をアピールしたよね」
テルトよ、突っ込むな。
「モナカさん、ここで会ったのも何かの縁。お力になってあげた方が」
うーん、ただ面倒くさいだけにも思えるんだけど……
「モナカがあいつをやっつけるの?」
「目の前の邪魔者は問答無用で倒すとか、テルトみたいなことしないわよ」
「あなたたち、わたしを無視しないでちょうだい!」
キルシュさん、怒ってらしゃる。
「わたしは、リンとの決着をつけなければならないの!」
「おお、リンが戦うのか。応援するよ~」
「こらテルト、焚きつけるんじゃありません」
「有言実行あるのみ!」
キルシュさんが叫んだとたん、潰れた屋台や壊れたベンチが宙に浮いた。
呪文とか無しに。
「なにあれ!?」
「超能力、念じることで様々な超常現象を発生させる。ファルプス・ゲイル、この国は超能力者の王国だよ」
エシュリーの解説を聞きながら、浮かんでいる物体に注意を払う。
映画とかでよく見る【念力】か。
浮かんでいた物体が、何の前触れも無く、突然飛んで来た!
意識を集中させ、迎撃の構えを取ろうとした瞬間、ハート形の光が飛んできて、全部を撃墜してしまった。
「不本意だけど、やるしかないか」
おお、いつの間にか変身してる。
「やるわね、リン。けど、これでどうか、し、ら……」
キルシュを思い切り強く見つめてやる。魅了の力だ。
当事者ではないけど、巻き込まれるのも嫌なので、とっとと終わらせてやる。
キルシュはボーッと宙を見ていたかと思うと、ふいにこちらへと顔を向けてきた。
「あああ、モナカさま~」
「ああああっ、ちょっ! 強過ぎたか!? こら、ひっつくな!」
「どこまでも付いて行きますー」
魅了って、強いと文字通りこーなるのか。
「えーと、何をしたの? モナカも超能力者?」
「いや、超能力じゃないんだけど……」
「モナカは人を惚れさせるのが得意なんだ」
「その説明じゃ変な意味に取られるでしょ!」
魅了を解いても暴れ出すだけだから、仕方なくホテルまでリン共々連れてきた。
荷物からロープを取り出し、キルシュを縛ってから、魅了を解くことにした。
「【平静】」
偉大なる〇〇一とかの力を借りて、解呪してやる。
「はっ! わたしは、何を? って、ほどいてーっ! 犯されるー!」
「こら! 人聞きの悪いことを言うな!」
「ごめんよーキルシュ。しばらくそのままでいてよ」
申し訳なさそうなリンに対し、殺意充満の視線が向けられる。
「さて、リン。状況を説明するのだ」
エシュリーが仕切り出した。
「三日前。ちょっとした理由で、犬の群れに追われたんだ」
「なんで!?」
わたしの疑問に答えたのは、リンでは無くキルシュ。
「そこの女は、自分が作った爆竹を、こともあろうに番犬のいる大きな屋敷、つまりわたしの家の庭に放り込んだのよ」
「ちょっ!」
「爆竹じゃない、失敗作が破裂しただけだ」
リン、けっこう常識人だと思ってたのに……
「で、そこに現れたのがキルシュ。彼女が超能力で犬を静めてくれたんだ」
「なによ、キルシュっていい人じゃない」
「確かに、そこでわたしがお礼をして終わりになるはずだった。普通なら」
「普通なら?」
「キルシュは、動物のコントロールも出来ないなんて、まだまだ修行不足ですねって、言ってきたんだ」
一言多い系か。
「あれは、もっと励んで立派になりなさいという激励だったのよ。けど、それに対してリンが言った言葉の方が酷かったじゃない! 超能力なんてローテク磨いたってしょうがない。魔法技師としての技術を磨く方がよほど役に立つって!」
「それはその通りだ。王国最強の超能力者でもかすり傷も付けられないバケモノは、この世にごまんといるんだから」
「それは、この街一番の超能力者を自負するわたしへの挑戦状。だからあの時、散々口論した後、決闘を申し込んだのです!」
「決闘したの?」
「決闘申し込まれたときに我に返って、めんどくさそうだったから、全力で逃げたんだ」
「それがさっきのに繋がるわけだ」
なんか今の会話で再熱したみたいで、お互い睨み合っとる。
「もう決闘しちゃいなよ」
「テルトさん、煽ってはいけません。お二人が大怪我されたらどうするんですか」
「実際には、わたしが一方的にやっちゃう感じになるけどね」
リンは何やら自信満々である。
それに怒るのは当然キルシュさん。
「なんですって! そこまで言うのなら、今度こそハッキリ白黒つけましょう!」
言った瞬間、キルシュを縛っていたロープがほどけた。
おお手品か! と思ったが超能力か。
「二人とも待った!」
エシュリーが二人の間に割って入った。
「リン、超能力でも敵わない相手がいるって言ったな」
「うん、だからわたしは魔法技師になったんだ」
「超能力だって、高位の使え手になれば、どんな敵にだって勝てるはずよ!」
キルシュさんが吠えている。
いきなりベッドとか飛ばさないか冷や冷やもんである。
「敵わない相手と言うと何が考えられるの?」
「うむ、いろいろ考えられるが……古竜や上級の巨人、それに……」
エシュリーがテルトとわたしを見る。
「幻魔や超美少女あたりがそうなるのかな?」
「よし! やっぱりわたし強い!」
「テルトはともかく、わたしにまで話を振るな!」
「ちょうどここに実物がいるんだ。超能力と魔道具どちらかで勝つことが出来るか、勝負したらどうか?」
「望むところです!」
「モナカさん、負けませんよ!」
「え!? わたしやっぱやるの!?」
「ついでにこの試合に賞金を懸けよう。勝った方が負けた方に金貨百枚!」
「受けましょう! 燃えますわね!」
「えー、わたしそんなにお金ないよー」
「手持ちが無いなら体で払ってもらおう」
エシュリーそれエロマンガ……
かくて、わたしとテルト、リンとキルシュとの異種族異職業格闘技戦が幕を切るのであった。
しかし、がめつい。エシュリーさんめっちゃお金にがめつい。