表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/107

第十五話 魔法少女が現れた

 みんなで近くのベンチに座ってホットドッグを食べることに。

 屋台で会った子も、誘ってしまった。

 ナンパではない。現地の人とのふれあいだ。


「ごめんねー、会ったばかりで誘っちゃって。この国に来たのが初めてで、いろいろ聞きたかったから」


「いいですよ。最近、一人でご飯が多かったから。たまには、こういうのもいいかも」


 言いながら、ホットドッグにかぶりついている。

 わたしもひと口。

 パンはふっくらで、ソーセージは太めかな。ハーブの風味が独特だ。ソースは辛みのあるチリソース的なものでうまい。


「お一人住まいなんでしょうか? えっと、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「リン。魔法技師アーティファクターをやってるの。この国の出身ではあるけど、地元の人間じゃなくて、今は武者修行中よ」


 わたしたちも全員自己紹介をする。ここには旅で来ていると濁しておいた。

 エシュリーの神宣言は冗談と思われたかスルーされたが、テルトの幻魔というのには反応される。


「幻魔って初めて見たわ。頭の上の輪っかも本物なんだね」


「わたしの国の連中、あんまり表に出ないからね」


「世の中じゃあ、幻魔と星界人は遭遇イコール死って言われてて、怖がられてるから」


「バケモノじゃないんだから、そんなに怖がらなくてもいいのに」


 エシュリーはそれを見て、ぐぬぬっって顔してる。

 自分の方が遥かに凄いぞって言いたいのだろうか?


「わたしの方が遥かにすごいぞ! 証明してやろう!」


 テルトに向けて指をつきつける。

 なんか対抗心に燃えた様だけど、エシュリーに出来る芸って何かあったか?


「なにするの?」


 当のテルトは涼しい顔で答えた。




「さあ来い!」


「本気でやっちゃって、大丈夫?」


 リンの問いかけに、わたしは静かに首を縦に振った。

 人気のない路地裏。

 エシュリーが仁王立ちで立ち、わたしたちはそれに対峙した状態だ。


 今のエシュリーの長所は、豊富な知識と頑丈さだけ。

 延々と知識を披露するのも、すごさとはちょっと違うようにも思えるので、頑丈さで思い知らせようとしているみたい。

 小さい子を殴りつけるというのは、絵面的にアレなので、こんな路地裏に来たわけだ。


 リンは、ベルトポーチに手を突っ込んで、そこからステッキを取り出した。


「えええっ! なんでその小さいポーチに、そんな長いの入ってるわけ?」


 手品かな?


「わたし、魔法技師アーティファクターって言ったじゃん。魔道具アーティファクトっていう特殊な道具を作る専門家。このポーチは収納袋コンテナポーチって言って、中が異次元と繋がっているの」


「そのステッキも?」


 先端に宝石が付いていて、羽の装飾があり、言っては何だけど、おもちゃの変身ステッキみたいだ。


「そうだけど、まずは軽く」


 言って、そのままエシュリーに殴りかかる。

 ステッキの直撃を顔面に受けても、平然としているエシュリー。

 見た目が十一歳女の子の顔面に向けて、いきなり棒で殴りつけるリンも、いろんな意味ですごいが……


「ふふふふっ、どうだ」


「確かに殴った感触が、普通じゃ無いよね。本気出すか」


 リンがステッキを構えた。


「メイガス! ヘブンゲート開放!」


 ステッキに付いている宝石が輝き、そこから飛び出てきたリボンに、リンの体が包まれていく。

 輝きが収まったとき、それがいた。

 ピンクのフリルドレス、白い羽と、ロッド状に大きくなった元ステッキ。

 あれだ、変身魔法美少女とか、そういうやつだ。


「リン……あなた、その年で、それ?」


「うっさい! わたしだってちょっと恥ずかしいんだから!」


 ならなんで、その格好になるようにしてるんだ?


「ええい! 魔力弾いっくよー! ほいや!」


 ハート形の赤い魔力弾が、エシュリーへ向かって飛んでいく。


「にゃああああっ!」


 華麗にふっ飛ぶエシュリー。


「わ、わたしを吹き飛ばすとは、なかなかでは無いか」


「えええっ! あれを受けて傷一つ無いの!?」


「エシュリーは、戦車砲やレーザー砲でも無傷だから」


「もういちど! ふぁいや!」


「にゃあああ!」


「あはははははっ! エシュリーって、やっぱりすごーい! 【光弾フォビット】!」


「ぎゃあああっ! なんでテルトが加わる!?」


 何度吹き飛ばされても、立ち上がってくる。すごい子である。

 検証なのか、おもしろがっているのか、リンとテルトがどんどか撃ちまくっている。


「モナカさん、あれ、いいんでしょうか?」


「怪我人が出るわけでもないし、いいんでない?」


「なんでなんで? ふぁいや!」


「ぎゃあああっ、なんでとか言って、遊んでるだろー!」


 何度目か分からない、エシュリーの悲鳴が響き渡った。




「うーん、ショックだなー。これでも修行して、強くなった気でいたのに」


 残念そうな表情のリンは、服装はすでに戻っている。

 場所は先ほどのベンチで、今度はみんな手にクレープを持っていたりする。


「わはははっ、わたしのすごさが分かったか! だが、今後はあまり人をポンポン飛ばすんじゃないぞ」


「エシュリーはやっぱり面白いわー」


 テルトはチーズケーキ入りの生クリームクレープに、おいしそうにかぶり付く。


「モナカさんも強いですよね」


「こっちに振るな、わたしは吹き飛ばされたくないぞ」


 チョコクレープをほおばるニャンコに、抗議する。

 わたしもクレープをひと口。カスタードと生クリーム、それにチョコソースをかけたシンプルチョイス。けど、これがクリーミーなくちどけで、甘さの飢えを満たしてくれるのだ。


「わたしはこれから、東の国へ行くつもりだったんだけど、もう戦闘とか行われていないんだよね?」


「はい、もう勝敗はついてしまっていて、全領土がバーゼルのものになってしまってるかと」


「うーん、それだと修行にならないか。遅すぎたかな」


「リンは、戦いがしたかったの?」


「倒したい奴がいて、強くなりたいのよ」


 可愛い女の子なのに、少年漫画みたいな目標をもってるんだな。


「あああっ! バナナとるなー」


「いいじゃん、一つくらい」


 テルトがエシュリーからバナナを強奪したようだ。


「エシュリーは大人しくしてなさい」


「なんでわたしだけー」


 なんか泣いとる。

 本当に神様だろうか?


「わたしたちはお金を稼いで、生活基盤を築きたいと思っているの」


「モナカたちは、お金に困っているの?」


「今の所持金は金貨七千枚くらい。けど一生安泰じゃないから、もっと欲しいのよ」


「なんか、年寄りっぽい考え方だねー」


 うるさいわ。


「この街でも、いくらでもお仕事はあると思うけど……」


「できれば短期間に楽に大金を稼いで、あとは隠居したい」


 普通の仕事は嫌である。

 なんで異世界に来てまで社畜をしなければならないのか。

 そんなことを考えていたら、なにやら周囲が騒がしい。

 そちらを振り返る。


「って! あぶなっ!」


 とっさにニャンコとリンを抱えて飛ぶ!

 飛んで来た屋台に、ベンチが粉砕された。


「ちょっと! なんでわたしは助けない!」


「モナカ薄情だな」


 噴煙の中からあがってくる抗議の声。

 そう言われても、わたしも腕が二本しかないし、取捨選択で一番大丈夫そうなのを置いておくしかなかったのだ。


「な、なんなんですか、これは!?」


 ニャンコも驚いてるが、わたしも驚いている。

 まだ着いて初日である。こんなことされる覚えがない。


「あー、これはもしや……」


 右腕に抱えていたリンから、聞き捨てならない言葉が聞こえた。


「リンが何かやらかしたの?」


「いや、わたしが悪いわけでは無く――」


「リン! とうとう見つけたわよ!」


 飛んで来た方角から、リンがご指名されている。

 当人を見てみると、心底嫌そうな引きつり笑いを浮かべていた。


「やあ、キルシュか。元気だねぇ……」


 現れた女性に対し、リンが手を振って応えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ