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第十三話 国境線

 旅は順調に進んで、今日あたりには国境を越えられそうだ。

 そう、ニャンコたちが言っていた、ぜひ見るべき世界の絶景である。

 前世では海外旅行にあこがれて、よく旅行雑誌とかで見ていたな。

 クフ王のピラミッド間近で見てみたい、モルディブのきれいな海で泳ぎたい、ウユニ塩湖で逆さ一文字を撮影したいって。結局どれも行けなかったけど。


「あ、モナカさん、見えてきましたよ」


 ニャンコの声に、意識が現実に戻される。

 夢想してたのが現代地球で、現実が異世界って、なんとも奇妙な話ではあるが。


 ニャンコの指さす先、というか前方なんだけど、そっちをよく見ると、何やら向こうの空全体が赤紫色に少し色付いているように見えた。

 朝焼けかなとも思えたが、今は午前十時ごろ。お日様も元気にしていらっしゃる。

 お日様と言うと、こっちの世界でも一個である。二個とかになってない。月も一個だな。星空の差は分からん。前世の世界は明るすぎて星とかろくに見えなかったし。


「うーん、空の色が変化してるのかな?」


「そうです、それが国境線です」


 そのまま馬車を走らせると、どんどん前方の色が濃くなっていく。


「モナカさん、左右を見ればハッキリわかりますよ」


 言われて首を右に左に回す。

 それで気付いた。色が付いている空と付いていない空の境界がハッキリしているのだ。


「国境は巨大な魔力の壁だよ」


 テルトが会話に入ってきた。


「魔力の壁?」


 さらに進んで見えてきた。

 大地を、赤紫色に輝く壁が分断しているのだ。

 壁の高さは、濃い部分だけなら十メートル程度。だけど、薄くなりながらどこまでも上に伸びている。

 左右の方はもっと壮大で、地平の彼方まで永遠に続いている。


「でかい……」


 何かに似てるなと思ったら、中国の万里の長城だ! ……行ったことはないけど。


「この壁って、上はどこまで続いてるのかな」


「はるか上、星界にまで到達しているよ。そしてこの壁が各国を分断しているんだ」


「いやいやテルト、そうじゃないぞ」


 あ、エシュリーが起きたようだ。


「神話の時代に、この世界は一度消滅したんだ。それをわたし含め十一の神々が、それぞれ別の異世界の一部を持ってきて、つなぎ合わせて作り直したんだ。この壁はつなぎ目だよ」


 壮大なドラマであるように言ってはいるが、要するにわたしの時と同じである。

 この世界の神様たちって、みんな何か困ったら、異世界から勝手にこちらへ引っ張ってくるクセが付いているんだ。

 非常に迷惑な存在である。


 成り立ちは実に問題だけど、近付くにつれ、その巨大さ、凄さが伝わってくる。


「ねえ、この壁って、どうやって抜けるの?」


「何もしませんよ。普通に素通り出来ちゃいます」


 ニャンコの言葉に、他の二人もうなづいている。

 うーん、魔力の壁とか、トラップみたいで入るのやだなー。

 わたしはちょっと気後れしちゃってるけど、馬たちは平気なものだ。普通に進んでいっている。


 さらに近付く。もう目の前だ。

 馬は怖がりもせず進んでいく。

 ええい、馬とみんなを信じて、このまま行ってやる!


 ついに馬の鼻先が壁に差し掛かった。

 そのまま、何の抵抗もなさそうに、するりと抜けていく。


「おいモナカ、目をつぶるなよ」


「うっさいわね。子供は寝ていなさい!」


 この女神はほんとうに――

 とか思っていたら、もうわたしの目の前に来ている!

 思わず目を閉じて息を止めてしまう。


「モナカさん、もう通過しましたよ」


 ニャンコの声に目をあける。


 そこは、森の中だった。


「え!? さっきまで荒野だったじゃん!」


 後ろを振り返る。

 荷馬車の最後尾が、ちょうど壁を抜けたところだった。


「モナカ、さっきも言った通り、この世界は別々の世界をつないで出来ている。国境を挟めば何もかも変わるんだ」


「ちょっと待って!」


 馬を止め、小走りでもう一回壁の向こうに抜けてみる。


「あれ? ほんとだ」


 壁の向こうは、さっきまでいた荒野だった。

 また壁を抜ける。森の中の街道だ。


「なにこれ面白い!」


 思わず何度も壁を行ったり来たりしてしまう。

 何度目か戻ったとき、いきなりみんなが笑っていた。なんだ?


「エシュリー、なに笑ってるの?」


「モナカには声、聞こえてなかっただろ?」


 言いながら笑っている。なんと無礼な。

 試しにもう一度壁を抜ける。


「ほんとだ、笑い声が聞こえなくなった」


 なるほど、別世界なのか。

 またもや森の方へ移動。


「それで、何を笑っていたの?」


「さてな」


「おい!」


「えっと、エシュリーさんが、モナカって子供だよなって」


「こら! エシュリー!」


「だってー、はしゃぎまくってるんだもん」


 うーん、この行動は大人げなかったか?

 いやけど、今は実質十五歳なんだから、子供でいいじゃないか!


「もー、さっさと行くわよ」


 馬車に乗り込み、馬を歩かせた。


「まーけど、確かに凄いわコレ」


 地球の絶景は見る機会が無かったけど、これより凄いものは無いんじゃないかな?

 だって、国を丸ごと、いや、世界の一部をまるごと包んでいる壁なんて!




 街道を進むと、広場があった。屋根付きのテーブルやかまどが設置されており、休憩所として最適だ。

 そこで一旦馬車を止め、チーズや果物など、火を通さなくて食べれるもので簡単な昼食を取った。


 さらに馬車を進めると、森の出口が見えてきた。

 だがその出口に、何やら建物が見える。

 石造りの建物かなと思ったが、どうやらコンクリート建築のようだ。

 街の入口のような、巨大な門になっている。

 物見台には巨大な銃砲が設置されており、銃を持った兵士が多数いた。


「なんなのかな?」


「検問ですね」


 他に道は無いので、そのまま馬車を進める。


「おい、そこの馬車止まれ!」


 一人の兵士に呼び止められた。

 やましいことは何も無いし、素直に従っておく。


「あ、テルト、エシュリーの口塞いでおいて」


「あいよ」


「ちょっ! なにをすっ……ふがごごむうぅぅ……」


「エシュリーが話をこじらせるような予感したから、事前に対策しておいたまでよ」


 馬車を止めていると、数人の兵士が走ってきた。みんな顔が険しい。

 その中でも年配の、位の高そうな人が聞いてくる。


「これはこれは、キレイなお嬢さんですな。それで、君たちは何者かね?」


「わたしたち? 旅人、かな?」


「我が国への来訪目的は?」


「観光です」


 ふと、旅行ガイドに書いてある、入国審査のやりとりを思い出す。

 確か、仕事ですとか言うと手続きが面倒だったと思う。とりあえず旅行目的にすれば怪しまれないだろう。

 そういえば、パスポートもビザも無いしESTAも当然未申請だけど、この世界では身分証ってどうなるんだろう?


「ふむ、馬車の中身は?」


「えーと、旅の仲間三人と、食べ物とかかな」


「見させて頂こう」


 若い兵士が入ってきて、中の荷物を入念に確認している。

 なんか、突然男の人に入ってこられると、身構えてしまう。


「隊長、特に怪しいものはありません」


「そうか。馬車をこのまま砦の馬屋に止めてくれ。少し手続きがあるのでな」


 言われるままに馬車を移動させ馬屋に止める。

 わたしたちは案内され、砦の中へ。


「こちらの用紙に必要事項を書いてくれたまえ」


「はい。ニャンコお願いね」


「わ、わたしですか!?」


 手渡された書類をニャンコに渡す。

 しかし、言葉が通じててもドキドキするものだな、入国審査って。

 これがアメリカだったら英語だし、テンパりそうだ。


「向こうはどうなっているかね?」


「えっと、アース国、ですか?」


「……残念ながら、今はバーゼルだよ」


 そっか、戦争で負けたんだっけ。終戦の時に来たから実感わかないや。


「うーんと、街の人たちは普通に生活してたし、ごはんもおいしかったです」


「バーゼルの部隊が、向こうの街に駐留してなかったか?」


「まだ駐留してなかったですね。何度か来てましたが」


 アーリアさん、今も元気にしてるかな。


「そうか。いや、我が国はアークと親密な関係を結んでいてな。そこが滅ぼされたとなると、次は我が国がバーゼルと国境を隣り合わせにすることになる。緊張感が高まっているところなのだよ」


 審査官は神経使って大変そうだな。

 せめてブラックでないことだけは祈っておこう。


 ニャンコの書いた書類を元に、この国で使用できる仮身分証を発行してもらった。クレジットカードみたいな形状だ。

 なんでも、入国と国内での活動の自由は保障されるけど、税金を払って無いので社会保障は受けられないとか。異世界で税金とか社会保障とかいう言葉、聞きたくなかったなー。

 ともあれ、わたしたちは信用されたみたいで、無事、国を渡ることが出来た。


 カードにこの国の国名が書かれてあった。


「ファルプス・ゲイル?」


 これが新天地の名前だ。

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