第十話 新兵器 その一
まだ距離はあるが、真っ白巨大物体三つは、荒野の中ではかなり目立つ。
バーゼルの最新鋭兵器? よく分からないけど、今まで相手をした奴らとは明らかに違う。
なんというか、よくSF映画に出てくる宇宙人の侵略兵器みたいというか、UFOみたいというか。
浮かんでいるやつとか、飛行機のように速くも無く、かといってヘリコプターのような羽も無い。どうやって浮かんでいるのかサッパリだ。
「エシュリー、見た感じどう? あなたが戦ったことある奴?」
「まだ遠くて細部までは分からん。わたしが最後に戦ったやつに似ているが、それよりも小ぶりだな。威力はいくぶん小さいかもしれんが、原理は同じ兵器だろう」
「兵器の原理?」
「インパルス砲。レーザー砲の上位互換だ。レーザーは光を高出力で放つが、インパルス砲は陽子を圧縮して光速で放つ」
なるほど分からん。
「えーと?」
「レーザーの十億倍のエネルギー……えーと、乱暴に言うと、人口の太陽を作って、圧縮して打ち込んでくる」
「うーん、暑そうだ」
太陽って火の玉だもんね。
エシュリーが頭を抱えているが、微妙に意思疎通が図れなかったか?
「わたしも理解できなかったのですが、たとえば街に当たってしまったらどうなります?」
ニャンコが問いかける。
「わたしが戦ったのと同じなら、街なんてまるごと蒸発する。今来ている大きさなら、街の一区画が消し飛ぶくらいじゃないか?」
「街を背にして戦ったら、危ないじゃないですか!」
「うーん、そうだな……おい、幻魔の子供よ」
「なに~? 最弱女神様」
「誰が最弱だ! ってまあ、それは置いておいて、奴らが来たら空間転移で、わたしたちを奴らの後ろ側へ移動しろ」
おお! エシュリーが怒りをがまんした!
「わかった」
「おお、偉いぞテルト」
素直なテルトが可愛くなり、思わず頭をなでてしまう。
それを物欲しそうな目で見てくるエシュリー。
なのでついでになでてやる。
「エシュリーちゃんも偉かったでちゅねー」
「なんで赤ちゃん言葉なんだ!」
せっかくなでたのに怒られてしまった。
「お二人とも、漫才してないで、もうすぐ来ますよ!」
「漫才じゃないって!」
「モナカ、相手の機体に窓が無い」
エシュリーの指摘に、見直してみると、確かに窓が無いな。どうやって運転しているんだろ?
「おそらく外部センサーなどで外部状況を確認しているはず。肉眼で直接見ているわけでは無いから、あなたの魅了の力は効かないわよ」
「切り札が使えないかー」
不正防止が過剰になっていくご時世であるな。
巨体のわりに、近付いてきても、えらく静かであった。プロペラ音もエンジン音も無い。
エアーホッケーみたく、空気圧で浮かんでるのかと思ったが、地面の草などまったくなびいていない。謎の移動方式である。
アーリア少佐、今日も出てこないかなーと思ったが、出てくる気配なし。
ならば、待つ理由も無し。
「テルト、お願いね」
「オーケー、モナカさん!」
テルトの可愛い呪文詠唱が流れ、視界が一瞬明るくなった。
空間転移で敵の背後に回る。
バーゼルの部隊の移動が停止、すぐさまこちらに方向転換してきた。
「みなさんに、偉大なるナンバー〇〇一の加護を授けましょう」
ニャンコが呪文詠唱を始めた。
「【身体強化】【命中率上昇】【防御】【聖なる盾】……」
身体能力が上昇していくのが感じられた。
「よし、エシュリーはニャンコを守ってね。行くわよ、テルト!」
「おー」
可愛い掛け声を聞きつつ、バーゼルの兵器に向かって走る。まずは一番でかい、砲座を持ってる地上の奴だ!
わたしの動きに気付いてか、主砲の光球が光り輝く。
撃ってくる!?
思った瞬間、バーゼルの軍勢をまるごと包み込む火球が出現した。
「ぎゃあああああっ!」
わたしも巻き込まれた。
急いで地面に転がり、火を消す。ちょっと火傷したけど、すぐに再生。
「テルト! わたしを巻き込むな!」
「モナカがわたしの標的に、突っ込んでいったんじゃないか!」
いかん、連携がまるでとれてない……
「モナカ! 避けて!」
エシュリーの叫び声。
敵を見るといまだに健在。
主砲の輝きが撃ち出された!
まさに圧縮された太陽だ! 直視できない強烈な光を放つ光球をギリギリでかわす!
後方へ飛んでいった光球が大爆発! 強烈な爆風と、核みたいなきのこ雲が昇っていくのが見えた。
これ直撃したら死なないか!?
「みんな大丈夫?」
「モナカ! 飛行物体が来てる!」
エシュリーから注意の声が飛ぶ。
音が全くしないから気付かなかった。
二機の飛行体からレーザーが放たれる。
「【雷の矢】!」
横からの雷に打たれて、飛ばされる。
「大丈夫? モナカ」
テルトが魔法で飛ばして助けてくれたようではあるが……
「大丈夫と言うか、けっこうダメージ食らったけど」
なんかさっきから、テルトの魔法でばっかりダメージ食らっている気がするんだが。
「【回復】!」
ニャンコがすかさず回復魔法。
さすが! 完全に癒えた。
敵はインパルス砲が充填中、インパルス砲台の副砲レーザーと、飛行体のレーザーが次々と襲ってくるが、テルトは空間転移で消え、わたしもなんとか体術で避けた。
さてこいつら、どうやって倒すか。