死神
『死神』
死を司る者。
冥府における、魂の管理者。
『死の恐怖』
あなたは、もう、克服されましたか?
中学生になるかならないかの時期だった。
思春期と、呼ばれる年代。
世界が、一変した。
それまで、自分は、自分であり、唯一であった。
世界は、全宇宙であり、全てで一つであった。
正しい男として何の疑念も無い存在だった。
原因は、複数あった。
お葬式や、畜産の現場、学習要項やニュース。
様々に積み重なった結果、それは、起こった。
生命や死、人やその歴史、その他の生き物について。
自分は、何者なのか?
何の為に存在しているのか?
生き物にとっての宿命。
死。
それに対する恐怖。
誰もが、皆、通る道。
目をつぶり、思考停止して、他の事を考える。
そうすれば、恐怖しなくてすむ。
死を、考えなければいいだけ。
それだけの事。
だが、それは、出来なかった。
すでに、命と死について、囚われてしまっていた。
それに、逃げるわけには、いかない。
男として。
恐れや畏怖、そういったモノ。
それらに、立ち向かっていくのが、男というもの。
逃げない、逃げては、ならない。
まっすぐ、正面から、向き合う。
恐怖する感情の根源について。
世界の有り様そのものが、大幅に変化した原因。
急速に、世界が、広がった原因。
多種多様な視点を持ってしまったから。
相手の立場から、物事を観る、という思考能力。
そのレベルが、アップした事によるもの。
それまで、知っていただけで理解していなかった。
命について。
心身があり、身の命を、生命、心の命は、霊魂。
原罪や業。
自分自身、生き物としていつか、死すべき存在。
死に対する恐れや畏怖。
諦め、受け入れるしかない事実。
そして、生きる為に、無数の生命を奪っている事実。
植物や動物鳥類魚介類、その多くの生命と魂。
彼らの心や精神を、思考想像してしまったのだ。
それぞれが、生き生きと生きていた事を。
そして、無数の死を、心に描き出した。
喜怒哀楽や恐怖という感情の奔流。
絶句した。
食事が、とれなくなった。
風邪で体調を崩し、食欲がない状態に似た感じ。
食べれない、とても、食べる気分になれなかった。
心や精神の問題。
過去、無邪気に食してきた食事。
どれほどの生命と死が、その背後に存在するのか。
想像すればする程、恐怖が、増す。
そして、自身もいつか、死ぬ。
火葬にしろ何にしろ、骨となり、やがて土に還る。
闇の中に、骨だけの存在。
それは、まさに、死神のイメージ。
生きる為に食する事は、他の生命を、奪う事。
生きれば生きるほどに、増大していく他生物の死。
生きるとは、他者の命を、無数に刈りとる行為。
直接でなくても、社会そのものが、そうなっている。
一蓮托生。
更に、歴史を省みれば、戦い争いの数々。
自分は、何者で、人間社会とは、何なのか?
何のために、生きるのか?
その存在意義は?
最終、必ずやってくる死。
生きている限り逃れられない事実。
死という目的に向かい、ただ、生きるだけの存在?
世界が、全て、死で、埋めつくされた。
ありったけの死が、全世界に満ちあふれていた。
どうするのか?
覚悟を決めるかどうか、それだけだった。
死神として生きる事を、覚悟するかどうか。
すでに、自分が、死神の一員として生きてきた事実。
その事を、認め、受け入れ、継続するのかどうかだ。
覚悟。
死の覚悟。
申し訳ない、という想い。
死した生命は、二度と生き返らない。
これまで、死んでいった無数の命への感謝。
ごめんなさい、と、ありがとうの気持ち。
彼らの魂、それら全てを背負う。
生きる。
死したる全ての魂と共に。
彼らの犠牲を、無にしない為に。
感謝の気持ちと共に。
喜び、嬉しみ、楽しみといった幸せを、求める。
そして、知の欲求。
それは、結局、『ひと』とは、何か?
『人間』とは?
『人類』とは?
これら問いの答えは、経験により会得する事だ。
死神の自覚を持ち、人生を、経験する決意。
食べる。
感謝の念を、捧げて、手を合わせ合掌し黙祷。
「いただきます」
「ごちそうさまでした」
黙祷。
レクイエム。
自身の中に存在する命達。
細胞それぞれが、生命であり、霊魂。
数年もすれば、大部分の細胞が、死滅する。
同時に、新しい細胞が、誕生している。
自身にある無数の命の生滅を、自覚。
自分の中にある、造物主としての機能。
最高に素晴らしい、至高にして究極の芸術作品。
肉体そのもの、つまり、自身が、神である事の認識。
限りある命。
いつか、来るであろうその時まで、生きる。
死神や神としての自覚を持ち、生きながらえる。
そう死神としての役目を果たす。
守るべき命を、守る。
死を司る者の役目。
天寿命を、全うする為に。
死を司る者にとって、死は、支配する対象。
恐れたり畏怖する必要性は、全く無い。
完読感謝。
2017年2月王の王。
『命』=『この世をユートピアに』
『ひと』=『人』、『仁』
『人』は、物質、つまり、肉体や身体。
『仁』は、精神、つまり、霊魂や意志。
『人間』=『ひと』+『ひと』+『ひと』