レベル6
テストは惨敗だった。
歴史も英語もダメなら、もう他の科目に賭けるしかない。
そんなことを考えながら帰宅していると、丁度コンビニから昼飯を買って出てきたじじいを見かけた。
「あの野郎……」
俺はじじいに駆け寄り、叫んだ。
「何が素振りだ! 全然ダメじゃねぇか!」
しかし、じじいはさも聞こえてない、という風を装い、そのまま病院へ向かっていく。
「シカトかよ……」
俺はコンビニからビニール傘を抜き取り、じじいの後頭部目がけて振り下ろした。
ガアン! という音が響く。
「む、やりおるな」
じじいは寸前で杖を取り出し、反転して俺の攻撃を受け止めた。
「はあ、はあ…… お前のせいで、歴史も英語もボロボロだよ、くそっ」
俺は去り際に、もう二度と俺の前に現れるな、と言って歩き出した。
「ワシは、お前を諦めんぞ」
「……」
まだ言ってやがる。
これ以上、このじじいに関われば、俺の人生はマジでめちゃくちゃになる。
俺はUターンして、じじいの胸ぐらを掴んだ。
「何で俺なんだよ!」
「……現実逃避で異世界に行きたがる人間はいくらでもいる。 だが、そんな輩では魔物と渡り合うことはできん。 結局、元の世界に戻してくれとわめきたてる」
「だったら軍人とか、戦争の訓練受けてるやつを勧誘しろよ!」
じじいは俺の腕を振りほどき、そう簡単にはいかんのだ、と言った。
「若者だからこそ、異世界でも希望を見いだすことが出来るのだ」
……俺は少し考えた。
俺がこれから進もうとしてる世界は、それこそ異世界だ。
大学だって、社会だって、俺は知らない。
それでも、そこを目指している。
もし俺が社会人で、結婚もして、自分の幸せを掴んでいたとしたら……
「異世界に進むのに躊躇してしまうだろう?」
まるで俺の心を読んだように、じじいは言った。
「……悪いけど、俺はこっちの世界で頑張りたいんだ」
じじいはしばらく黙っていたが、俺の意思の曲げるのは難しいと思ったのか、こう呟いた。
「……分かった。 だが、覚えておけ。 お前の進路には、異世界という選択肢があることを。 もし、その気になったら、河原の家に来い」
河原の家って……
そんなとこに住んでんのかよ。
俺は家に帰り、明日の科目に向けて勉強を開始した。