レベル5
俺が剣を頭上に構えてガードしようとすると、じじいは杖をピタリと止め、今度は突きを打ってきた。
「うぐっ……」
強烈な一撃をみぞおちにもらい、目に涙が滲む。
「立つのだ」
「……」
俺はキレた。
寸止めとかじゃなくて、ガチで仕掛けてくるとは……
「っのやろおおおーっ!」
俺は相手がじじいだろうが、お構いなしに剣を振った。
ドガ、と地面に命中する。
くそ、と更に横なぎに剣を振るうも、空を斬る。
「剣筋が丸見えだ。 お前が稽古を怠ってきたのがバレバレだぞ」
……これはじじいに踊らされている。
俺は少し冷静になった。
剣を足元に捨て、カバンを拾い上げた。
「その手は食わねーよ。 俺、今から塾だから」
危うく知らず知らずの内に剣の稽古を受けるところだった。
俺がじじいに背を向けて歩き始めた時、またしても怒鳴り声が聞こえた。
「相手に背を向けるとは、何事だっ!」
俺はビクッ、としてじじいの方を見た。
「そんな調子では、期末試験など受けても結果は目に見えておるわ」
聞き捨てならないセリフだ。
「何でだよ」
「お前は焦っておる。 目の前の敵を倒さずして、どうやって先に進む? 苦手な科目を飛ばして勉強しても、成績が上がらないのと同じだ」
じじいは突然、自分の勉強論を語り始めた。
自分は学生のころは、学校の授業にのみ集中し、帰ってからは剣の素振りをやっていたらしい。
疲れて熟睡することで記憶が整理され、テストでは淀みなく問題を解いていけたとのことだ。
「塾の勉強など、期末には関係ない。 ワシはそうやって周りに差をつけてきた」
……マジかよ。
確かに、塾の勉強は無意味かも知れない。
もし素振り勉強法で成績が上がるなら……
「……剣、借りてくぜ」
俺はその日から、塾に行くと嘘をつき、公園で素振りを開始した。
学校では集中して授業受け、できる限りその場で暗記するようにした。
「ツムツム、お前まじめだな~」
天草を無視し、休み中もひたすら暗記。
そして、期末試験を迎えた。
教室は静まりかえっていた。
皆の緊張が伝わってくる。
「今日は歴史と英語だ…… 歴史ならあんだけ覚えたから、イケる!」
じじいの教えた通りなら、暗記したことがスラスラ出てくるハズだ。
俺は恐る恐る、どれだけ覚えているのか、思い出そうとした。
「……」
素振りのシーンがひたすら頭の中で繰り返される。
まるで、消そうとしても消えない単純なメロディーのごとく、頭から離れてくれなかった。