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Domination  作者: かいむ
3/3

03

「なあ、これ話と違わんくないか?」

「ああ、まずいな……」


 灯夜と寛太は物陰に隠れて様子を伺っていた。

 その視線の先には公園。日が落ちてしばらく、大通りから離れたそこは静寂に包まれていた。

 ぽつりぽつりと街灯が道を照らす中、制服を着た少女がイヤホンで音楽を聞きながら歩いている。塾帰りか、遅い時間に慣れた足取りで公園内を突っ切って行く。

 そしてその後ろをつける影が一つ。マスクをした影は公園に入ってから足を早めて少女へと少しずつ近づいていく。


「どうなってんねや、しばらくはないって話やったやろ!」


 寛太が声を押し殺しながらも強い語調で詰め寄ってくる。目立つ金髪を隠すためニット帽を被った寛太は焦っているように見えた。


「俺に言われても……」


 寛太を押し戻しながらも、少女と怪しい影から視線を外さない。

 少女は後ろから近づく人影に気づく様子がない。慣れた道に安心しきっているのか無警戒だ。


「あかん、もう見てられんわ、俺は行くで」

「待てって、深海ふかみさんに確認取らないと」


 灯夜はインカムに呼びかける。

 相手は深海優歌(ゆうか)今回の任務において直接の上司となる人物だ。今はほのかと共に別の場所で同じ光景を見ているはずだ。


「深海さん、見えてますか。どうしましょう?」

『ええ、こちらからも見えてる……でも、この状況ではまだ早い。犯人だと確定したわけではないし、ましてや喰人鬼かどうかも確認が取れてない以上、行かす事は出来ないわ』

「やけど、このままやったらあの女の子が危ないんやで!」


 寛太が2人の会話に割り込む。拳を握りしめ今にも飛び出していこうかという格好だ。

 慌てて寛太の頭を押さえこむ。


「寛太の言うとおりこのまま放っておくわけにもいかないでしょう。どうするんですか?」

『今、本部に連絡して応援を呼んで貰ったわ。理想を言えば応援が到着してからがいいんだけど、間に合わないからこのまま助けるわ、とりあえず私が通行人を装って接近するからあなた達は周りを囲むように移動してちょうだい』

「了解です」


 その時、静かなその場に短い悲鳴が響いた。

 声の方へと目を向けると、少女は後ろから付いてきている怪しい男に気付いてその場から離れようと駆け出すところだった。

 怪しい影もすぐその後を追う。


「行くわ!」

「──おいっ」


 立ち上がった寛太を止めようと手を伸ばすが空を切る。

 寛太は灯夜を振り切ると走りだした。既にナイフを抜いている。強化された身体能力で不審者を追う。


「すみません、西が飛び出しました。俺も追います」

『ちょっと──』


 灯夜は強引に会話を終わらせると寛太の後に続いて飛び出した。

 その間にも短い悲鳴は繰り返される。前を行く寛太は一心不乱に少女と不審者の元へと向かう。

 前方では少女がついに不審者につかまった。少女は不審者に腕を捕まれ、公衆便所の壁に押し付けられる。

 まだ、不審者の頭に喰人鬼の特徴である角は出ていない。


「イヤァァァっ!!」


 少女のひときわ大きな悲鳴が響き、不審者はその少女の口を強引に塞ぐ。

 その時まばらな街灯の下に影が走る。

 ──寛太だ。


「死にさらせヤッ!!」


 強化された身体能力で常人ではありえないスピードで不審者へと迫る。その手には鬼角折──ナイフ。

 不審者はそこで寛太に気づいた。


「待──」


 灯夜はとっさに静止の声をかけようとした。

 それはこのまま寛太が突撃すれば少女が盾にされたり、されずとも怪我をする可能性があったから。そしてなにより相手が喰人鬼だと判明していない状態での鬼角折での攻撃は明らかな法律違反であるからだ。

 その瞬間、ジジジジジと不気味な音が灯夜の耳を叩いた。

 不審者へと目を向けるとその頭に角が──。


「──やれっ!」


 灯夜はそう叫ぶと追随する。

 不審者は直ぐ側まで迫った寛太を見て少女を突き飛ばすようにその場を離れた。


「イヤァ!」


 よろめく少女の悲鳴を耳に寛太は不審者──喰人鬼に迫る。

 喰人鬼の頭には角が2本。一般的に喰人鬼の角の数はその強さに比例すると言われている。二本角は寛太たち新人には少々荷が重い相手だ。

 迫る寛太に向けて喰人鬼は腕を向ける。とっさに逸らした頭のあった場所を何かが通過する。権能だ。


「大丈夫か?」


 灯夜は少女の元へと向かうと無事を確認する。見た感じでは少女に大きな怪我はなさそうだった。

 少女は恐怖に震えて首をカクカクと上下させるのみ。

 その時ほのかと優歌が駆けつけるのが見えた。彼女らに少女を任せることにする。


「深海さん、任せました!」

「ちょっと!」


 優歌の攻めるような声は無視して寛太と別方向から喰人鬼へと向かう。

 権能の攻撃を感じて足の止まった寛太を尻目に喰人鬼は更に距離を取ろうとする。


「西! 距離を空けさせるな」

「っ、分かっとる!」


 寛太は慌てて喰人鬼を追う。だが、喰人鬼が腕を向ける度に権能を警戒して足が止まる。その差は縮まらない。

 やきもきする寛太を尻目に灯夜は回り込んで横から喰人鬼へと迫る。

 それに気付いている喰人鬼だが焦った様子はない。


「O対策法に則り確保する!」


 今更とも言える言葉を口にしながら寛太へと腕を向けている喰人鬼に灯夜が飛びかかる。

 鬼角折で斬りつけるが素早い動きで避けられる。喰人鬼の二本角だけあってその身体能力もまた人外の領域。

 その隙に今度は寛太が喰人鬼に斬りかかる。

 喰人鬼はそれをしゃがんで避けると寛太の足を払う。


「うわッ!」


 あっさりと転がった寛太に向けて喰人鬼が手を向ける。権能が来る。

 灯夜は防ぐために突っ込む。喰人鬼にタックルを仕掛けてその狙いを逸らした。寛太の頭上で何かが爆ぜる。


「何してんだ!」


 そのまま喰人鬼と格闘戦を繰り広げながら怒鳴りつける。


「分かってるんや、俺やって分かってるけど……」


 寛太は立ち上がりながら呟く。

 そして灯夜と喰人鬼の格闘戦に入り込む隙間を探す。

 そんな中、遠くから響いてくるサイレンの音。更に優歌も襲われていた少女をほのかに任せて加勢に向かってくる。

 それを見て喰人鬼は鋭い蹴りで灯夜を突き放す。


「クソっ」

「逃がさん!」


 灯夜を突き飛ばしそのまま逃げ出そうとする喰人鬼にすかさず寛太が突っ込む。

 寛太は向けられた喰人鬼の手を見て、権能が来ると理解したがそのまま突っ込んだ。この喰人鬼の権能がどのようなものなのかちゃんと分かってないが、それでも今までの感じからいって耐えられると。

 喰人鬼はその腕を寛太の足元へ向け権能が発動する。


「ウオオオオオオオオオッ!!!!!」


 何かが足にぶつかる。痛みは少ない。いける!

 寛太が確信した時、足が地面に引き止められた。

 ガクンと突っ伏し見事に転ぶ。


「なんっ──デェ!?」

「どうした」


 体勢を立て直した灯夜が聞く。

 寛太は立ち上がろうとするが軽い衝撃があった足が地面に張り付いたように動かない。

 既に喰人鬼は逃げ出している。


「あかん! 足が動かん!」

「どういうことだよ!」


 灯夜は迷った末寛太の元へ向かった。


「どうしたんだよ」

「俺のことなんかええから、アイツを追ってくれ!」

「俺1人じゃ抑えきれない。どうせ逃げられる」


 必死に叫ぶ寛太に対して力なく首を振った。

 既に喰人鬼の姿は見えなくなっている。


「くそがぁぁぁ!!!!!」


 寛太は拳を地面に叩きつけて叫んだ。

 公園にはサイレンの音が響き渡っていた。


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