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封魔二十九

 その部屋で寝泊まりし、その部屋で食い。

 そしてまた朝が来た。


 そうするといつもの案内人がやってくる。

 物静かそうな彼女はまずゆっくりと頭を下げ、俺たちを導くためにこう言った。


「審査が終わりました。第二長老の元に集まっていただきたいので、ついてきてください」


 そうして俺たちは彼女のあとをついていく。

 武器で飾られた部屋、ゴブレットと灯が道を照らす臨場的な場所。

 炎で影が揺らめいている。


 ここに来るのは二度目だが、やはり、狐に包まれたような感覚を覚えてしまう。


 台座に座り、第二長老が座っていた。

 そこには彼が溺愛する孫がいない。


 今回は真剣な場面なのだろうか、なんてことを思う。

 前回は空気の張りつめ方が変だった。別に真剣にやってほしいとか、そういうわけではない。しかし、納得がいかなかったのは事実だ。


 厳粛そうな白い髭。力なく老いた肢体に、目だけに力が籠る、封魔一族の中で二番目に長生きをしている第二長老。


 彼はゆっくりと立ち上がる。

 特別ななにかなんてないはずなのに、思わず息をのむような迫力。


「お前たちは全員合格じゃ」


 それに皆、気が緩んだ。

 ライルなんかはあからさまだったし、ディンもラタリアもそう言ったものがにじみ出ている。


 先頭を歩いていていたので表情が見えたわけではないが、雰囲気で察することができた。


「そして、お前たちにはこの試練を乗り越えた証を与えよう。ついてきなさい」


 そうして背後の扉を握り、開ける。


 案内人のひとが、「どうぞ」と言わんばかりに手で扉を指した。

 どうやら彼女はついてこないらしい。


「いこうか」と俺は言う。


 黙ってみんなが頷いた。


 のっそりと第二長老についていく。

 大人と子供の行列。

 どんどん地下深くに潜っていっている。

 秘匿の場所。魂の保管庫。

 そんな言葉が頭に浮かんだ。


 歩きながら、第二長老が言う。


「おぬしらはやはり優秀なようだ。みな、ソウルウェポンを二つ持てるほどの魂許容量を持って居る。とくに、業魔の方は……理論上、四つはいける数値が出ている」

「俺が、ですか?」


「ああ」と第二長老が言う。


「『世界に変革が訪れる。封魔に滅びの時が来る。業魔は世界を救済せん』」


 彼は続ける。


「こんな予言があるぐらいには能力が高いらしい。はっきり言って、おぬしは魂に関してはずば抜けておる。魂の大きさは星装気の向上に影響する。まだまだ、おぬしは強くなるのじゃろうな」

「あ、ありがとうございます」


 それが本当なら、喜ばしいことこの上ない。

 俺はヘクト―ルに星装気の面で劣っていた。しかし、多少はその差を縮めることができるかもしれない。


 まもなく、俺たちはその場所についた。


 ――怨念めいた力の凝縮。


 とぐろを巻くような圧迫感。

 思わず、吐きそうになる。

 だが周りのみんなはなんともない。


 胸を抑えたくなったが、それでは仲間が心配するだろう。

 ぐっと堪え、平然とする。


「カルマ、大丈夫か」


 無駄だった。

 ライルはなんだかんだで気づくということに長けている。


 ある種の申し訳なさを抱えながら「大丈夫だよ」と言った。


 たぶん、辛いだけでなにか害になっているわけではないはずだ。


 そんな俺の様子を第二長老はじっと見つめていた。

 目が合うと逸らされる。

 別に、大して気にすることでもない。


「おぬし達は『ハーフ・ソウルウェポン』というのを知っておるか? まあ、知らんだろうから説明しておこう。一口で言えば、ソウルウェポンと比べて性能の劣る、失敗作のようなものじゃな。ただし、そう悪いことばかりではない。本来ソウルウェポンは主との結びつきが強すぎるため、ソウルウェポンの破壊は主の狂死を意味する。ソウルウェポンは魂に植え付ける、と言ったイメージじゃが、ハーフ・ソウルウェポンは魂に粘着させる、というようなイメージじゃな。引きはがすのも痛いと言えば痛いが、耐えられんほどではない」


 失敗作。

 なぜか、それがよく耳につく。


 だが、悪いことばかりではないそうだ。

 ソウルウェポンは主との同化によって、重さを半分無視でき、特殊な能力もついているが、その破壊は主の発狂だ。


 簡単に壊れることはないが、激戦ならば、壊れてしまうこともある。大抵はよっぽどの無理で、対ドラゴンとの戦闘ではそれが起きやすい。

 といっても、そんな戦闘もほとんどないし、ここ百年では狂死した例も聞かないが。


「ハーフ・ソウルウェポンは魂との癒着度が低いため、武器の現出がやや遅い。しかし、我が身の一部のように扱える……つまり、重さを半分無視できるから、諸君らは劇的に強くなるじゃろうな。……それを今、与えよう」


 それに皆が湧く。

 今のは単なる講義かなにかなのだと思っていた。

 しかし、第二長老は「与える」と言った。

 つまり、今もらえるのだ。


 予想していたことではなかった。

 これは褒美にしても嬉しすぎる。こうなると、俺たちは同世代でもやけに強い部類となるのではないだろうか? まあ、普通の授業の時とかは使ってはならない、みたいなことをあとで言われそうではあるが。


 手をあげる人影があった。それはディンだ。


「なぜ、わざわざ僕らはそんなにも貴重なものを頂けるのですか?」


 余計なことをいうな、とばかりにライルが小突く。

 ディンは動じない。


「成績優秀者のご褒美じゃよ、と言っても納得はしないのじゃろうな」

「はい」

「……あまりおおっぴらに話さないで欲しいことじゃが、おぬしらには言っておこう。他の者たちは舞い上がってそんなことを聞きもせんかったぞ……。頭がキレるとでもいえばいいのかなんなのやら。感情を抑えるのが得意なようだな、有望な若者よ」


 重々しく、第二長老はそう言った。

 それにディンは見つめ返すだけだ。


 確かに、いくら俺たちの成績がよくても、わざわざハーフ・ソウルウェポンなんて貴重なものを渡すのは、変と言えば変だ。

 暁の執行者にはソウルウェポン持っていないものも多くいる。普通、そっちにこういった武器を渡すのが自然だろう。


 しかし、俺たちはハーフ・ソウルウェポンを受け取ることができる。やるにしても、もっと遅くでもいいのに。

 ディンが言いたいのは、こういうことだろう。


「未来において、戦力の増強が必要なのだ。うすうす感じておるだろう? おぬしたちの世代辺りから、教育の熱が大きくなっている。より強く、封魔一族の若者を育てようとカリキュラムが変化していっておるのだ」

「なぜ戦力の維持が必要なのです? 人間ですか? それともドラゴン? なにやら情勢が怪しいという話は、少なくとも僕の耳には入っていません」

「……ああ、現状は悪くない。ただ、この方針は番人様の主導によるものだ」

「番人様が、ですか?」

「理由を知っているものはおらん。戦争でも始めるのつもりなのか、なんなのか……まあ、そんなことにはならないとは思うが、とにかく若い世代を強くする方針らしい」


 疑わしそうな、声。

 そんな様子をわずかに感じ取る。


 誰一人として、そんな様子には気づいていないようだった。

 しかし、そう言った感情に、番人様を師に持つ俺は、嫌でも気づいてしまう。

 そして、ショックを受けた。


 番人様は誰からも尊敬されていて、信頼は揺るがない。

 ずっとそう思っていたし、ほとんどそれは事実だった。

 しかし、第二長老はそうは思わないらしい。


「まあ、番人様ならなにか考えでもあるんですかね」


 そう言ってディンは話を切った。


 番人様を疑うこと。

 それはこの里において極めて異常なことだ。


 番人様の強さと、里への貢献ぶりを、封魔一族ならば誰でも知っている。

 いつだって生還してきたことも、彼のおかげで遠征の犠牲者は片手で数えるぐらいにしかでていないことも。


 それでも彼のことを悪く言うものがいるとしたら――きっと、嫉妬だ。

 そう考えると納得した。

 素晴らしいからこそ抱いてしまう心境もある、そんな感じに。


「今から時間をやろう。どの武器が自分に合うか考え、ゆっくりと選ぶがいい」



 ◇



「この槍、ほんとやばいな。この尖り方はどんなものでも貫きそうだ」


 最後まで選ぶ武器を悩んでいたのはライルだった。

 俺、ディン、ラタリアは鋼の名門ではないので、武器は大鎌一択となっている。


 しかし、彼は鋼の名門なので槍と言ってもいろいろあるせいか、時間がかかった。

 槍にも短いタイプと、長いタイプがある。

 彼は迷いに迷って、投槍に適したものを選んでいた。


 俺はようやく選び終えたライルに、小言を言うべく、肩を叩いて振り向かせる。


「品物選びに迷う女子みたいだったな」


 しかし、そんな俺のひとことに抗議が入った。


「私は誰よりも早く選んだんだけど……?」


 女子代表、ラタリアがそう言った。

 それもそうだな、と思った。


「ていうかカルマ、私とディンよりも選ぶの遅かったわよね?」


 ……それもそうだな、と思った。


「俺のこといえないのな、お前」

「そんなことないし……。ていうか武器は俺のやつが一番カッコいいし」


 そういうと周りの雰囲気が変わった。

 なんだか一斉に周囲を敵に回してしまったような感覚。


「僕のが一番ですよ」とディンが言う。

「俺のだろ!」とライルが叫ぶ。

「私のだし!」とラタリアも言った。


 そうして突然、武器についての議論が白熱する。

 一見落ち着いて自分の武器の良さについて話しているように見えるが、正直自分ものが一番だとしか認める気がない、熱狂した様子。


「私の大鎌の曲がり方とか、敵を切るのに最善な形をしてるわよ! わかる? 『最善』よ!」

「僕に言わせれば大鎌と言っても大きすぎますね。それが最善とは……やれやれ」

「なんですって?」

「まあまあ。そんなことより俺の槍が一番カッコいいから、それでよくないか?」


 むろん、俺も例外ではなかった。


 とれあえず叫んでみる。


「俺の大鎌見てくれよ! めっちゃカッコいい!」


 誰も見てくれなかった。


 そんなこんなで議論は続く。

 ラタリアは女の子だが大鎌に誇りを持つ辺り、封魔一族なのだなあ、と思った。

 封魔一族はカッコいいものがなんとなく好きだ。


 それにライルはもちろんとしても、ディンがそこまで武器にこだわる性格だったとは意外だ。法の名門は鎖で戦うから、武器に対する熱意は少ないものだとばかり思っていた。


 そんな風に皆を眺めて、少し早く、無駄な議論をしているな、と気づく。

 なぜかって俺の大鎌を見てくれる奴が誰もいなかったから。


 白熱した雰囲気を抑えるべく、ぱんぱん、と手を叩く。

 注目の視線。


「皆良さがあって皆良い。それでいいじゃないか」


 我ながらいいこと言った、とちょっと満足。


 納得の雰囲気が漂い始めていた。

 確かによく見ればいいところがそれぞれある。そんなことを互いに言い合う。

 しかし、それをぶち壊す人物がいた、


「でもそれって皆似たような大鎌じゃないか……?」


 唯一槍を使う、鋼の名門、ライル。

 彼が大鎌派を敵に回した瞬間であった。


「もう一回、言ってくれない?」とラタリア。


 俺も大鎌派なので、かばう気にはなれない。


「ほとんど同じ形状の大鎌同士でいろいろ言うのって、おかしくないか?」

「なにいってるのよ。はあ、ほんっとわかってないわね。槍なんかに触れれる時点で頭がおかしいとは思ってたわ」

「なんだと? そうか、お前は槍の美しさを知らないんだろ? ここで、思い知らせてやる!」


 そう言って柄の部分をラタリアに押し付け始める。無理やり槍を触ってもらおうというわけか。


 封魔一族のほとんどは、大鎌以外の武器に強い拒否感を覚えるので、これはそこそこの嫌がらせだ。あくどすぎないぐらいの、ちょうどいい嫌がらせ。

 いや、なにがちょうどいいのかは知らないが。


「ちょっ、やめ、キャ!」

「ふはははは!」


 目を閉じて聞いてみるとなんだか地獄絵図見たい会話の内容が聞こえた。

 これではライルがセクハラを行う変態みたいに聞こえる。


 俺は目を開けてみる。そこは、やっぱり地獄絵図だった。


 結構必死の形相だった。それをディンが止めている。

 微笑ましいなあ、と蚊帳の外でひとり俺はほくそ笑む。


 しかし、このまま放っておくのも夢見が悪いので、とれあえずなにかしようと進み出る。


「あわわわわわ」とわざとらしく慌ててみる。


 誰も注目する気配はない。


「もっと俺にかまってくれよ!」


 そうして四つどもえの戦いが始まった。

 最終的にはほとんどただのじゃれあいだった。




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