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封魔二十六

 

 魂の祠の『魂の審判室』。


 俺たちはそこに案内されていた。

 順番にライル、ディン、ラタリアが別々の部屋に行き、入っていく。

 俺だけは少し遠い部屋に案内された。部屋の数はそう多くないのかもしれない。


「こちらです」


 手を向けられた方の部屋へ。

 ここではずっといるだけでいい。なにかをする必要はないが、暇なら鍛錬もできるよう、部屋自体も頑丈にしてあるそうだ。


 俺は魂の審判室に入る。

 体が圧迫されるような感覚。しかし、大したことはなさそうだ。

 もしかしたら長時間いると、どんどんきつくなってくるのかもしれないが。


「この砂時計がなくなったら部屋を出て大丈夫です。では、これで」


 そう言って案内人は去っていった。

 さて、どうしようかと考える。


 武器が置かれ、結構な広さがある部屋。

 試し切り用と思われる丸太なんかが大量に置かれている。


 ……鍛えるか。


 イメージトレーニングを開始する。

 想像するのは三匹の中級悪魔だ。今俺が、ぎりぎり勝てるぐらいの相手。


 ぼんやり浮かぶ悪魔が俺を見つめている。

 と、その一匹が鋭く踏み出し、突進してきた。それが戦いの合図だった。


 速いが後先考えない一撃をするりとかわす。

 その先には別の悪魔。


 視界の右端からの攻撃をかわしながら反撃。その腕を断つ。


 苦悶の声は聞こえない。所詮イメージだ。不必要な情報は現れない。


 後方で待機していた三匹目の悪魔が魔法を放つ。

 俺は先ほど腕を斬った鎖で縛りあげ、悪魔を盾に。

 がんがんと降り注ぐ氷の槍を凌いだ。


 息もつかせぬ攻防。

 魔法の飛び交う中で、最初に突進してきた悪魔が再度突撃をかける。

 それはうまく身動きがとれない俺にとって脅威だったが、皮一枚でかわすことに成功する。


 やけに体の調子がいい。

 星装気を纏っていないのに早く動ける。

 これならもっと敵が強くても行けそうだ。


 大鎌を振り回す。

 放たれる魔法を迎撃しながら、悪魔の一匹を倒す。


 そして二匹目も。

 俺はその場で回転しながら力任せに悪魔を叩き切った。


 三匹目の悪魔は遠距離を得意とするタイプだ。単体なら敵じゃない。


 朧気纏いを発動させ、その目を盗む。

 対象を見失った悪魔はきょろきょろと辺りを見渡すが、いつの間にかその首は落ちていた。


 あまりにも歯ごたえがない。

 つい数週間前までは苦戦していた相手だがこんなにも簡単に倒せてしまっている。

 所詮、イメージの産物だからだろうか?


 それもあるかもしれない。

 しかし……急激に、やけに俺が強くなっている。


 原因はなぜだろう。


 この場所の特別性?

 星装気封印を一度解いたから?

 業魔の門に何度も近づいたから?


 なにか予兆があったかと言われればあったような気もするし、なかったと言われればなかったような気もする。

 ようするになにもわからなかった。


 まあ、強くなったのはいいことだからあまり気に病む必要もないのかもしれない。


 運動を終えて背伸びをする。

 一仕事終えたからか、充実感を感じていた。


 その時、なにかの気配を感じた。

 この城みたいな屋敷は何だか変だ。

 魂が集まっているからか、この場所では探査能力が落ちているし、気配のおおよその場所はつかめても、はっきりしない。


 誰が来たんだろう、と俺が入ってきた扉を見やる。

 その扉が勢いよく開かれる。


「やっほ~カルマ~」


 番人様が、立っていた。



 ◇



 思わず身をすくませる。

 俺は番人様にかけられた封印を解いてしまっていた。今は元通りになっている。


 あの時は怒られはしなかったが、皆がいる手前そうしなかっただけかもしれない。

 いや、怒られるわけがない。俺はみんなを守るために力を開放したのだ。たぶん……たぶんだけど大丈夫なはずだ。

 頭ではわかっている。しかし、番人様の言いつけを破ったと思うとどうしても恐怖を感じてしまう。


「いや~カルマ! 友達を守ったのはよくやった!」


 褒められる。

 しかし、封印のことについては言及がない。


 どうしても不安で俺はそのことを口にした。


「あの……番人様、封印を解いたことなんだけど……」

「ん? あ~ナイス判断。頑として俺のいうことを聞くガチガチ君にならずに、その場でしっかり判断したのは見事だったよ~」


 ほっとする。

 叱られることはなさそうだ。

 俺の判断は正しかったらしい。


「ていうかさ……カルマ、女の子に抱き着かれてたよね? きゃー!」


 ……このやろう、と思う。


 そう言えばあの時、あとで番人様にからかわれそうだな、と思ったことを思い出した。


「そんなんじゃないって」

「きゃー!」

「うるせえ!」


 思わず叫んでしまう。

 こういった話は苦手だ。


 番人様は腹を抱えて笑い焦げる。

 いつか復讐してやろうとは思っているがこの手のものに関しては勝てる気がしない。

 せめてもの抵抗として、パキリの蜜を番人様のマントに塗りたくってやるぐらいしかできない。

 ついでに、ほんとにやったら、次の日の朝、俺の顔がべたべたになっていた。


 番人様が転げまわるのをやめる。

 そして静かにこう言った。


「ソラファのことはどうするんだ?」

「……どうするって」


 なにができるっていうんだろう。

 彼女はもはや遠い存在だ。


 認めたくはないが、俺は忌み子という低い立場だ。

 一方ソラファは確実に次の歌姫になるだろう。


 俺がソラファに教われているのは、あくまで番人様のコネであり、それ以上でもそれ以下でもない。


 遠すぎるのだ。

 技術が、立場が、お互いに対する感情が。


「好きだったんじゃないのか?」

「……昔のことだよ。今はもう、忘れた」


 ほろ苦い経験だ。

 幼いころ、一緒に手をつないで歩いた記憶。


 ――ずっと一緒にいようね。


 鳥のさえずりを聞きながら「幸せだね」と笑いあった出来事。

 最初に彼女を外に連れ出した。

 たどたどしいながらも、彼女は笑ってくれた。

 彼女の名前が、好きだった。


 ソラファは昔から表情の少ない子だった。おとなしかったといってもいい。

 しかし、少なくともたまには笑ってくれる子だったのだ。

 それに比べて今はどうだ?


 俺に再会した時も、話しているときも、彼女はちっとも楽しそうじゃない。

 それは単純に俺がつまらないやつだから、ということもあるかもしれない。


 しかし、今のソラファからは感情が感じられない。

 常に冷静で、自分を見失わない氷のように冷たい美貌の彼女。


 遠すぎるのだ、と俺は思った。


「忘れた、か」


 番人様が呟く。


 ほんとはなにもかも忘れたわけじゃない。

 しかし、今となってはその記憶は苦しいのだ。


 彼女は何も言ってはくれない。

 いっそのこと、昔のことなんてなにもかも忘れてしまいたい。


 今は今、昔は昔。

 俺は今の仲間がいれば、それでいい。


「まあ、恋愛なんて個人の自由だけどな。お前はソラファにどんな気持ちなのか聞いてみたことがあるのか?」


 動揺する。

 まるで番人様は、俺のことを咎めているようだった。


「ないよ。別に何とも思ってないでしょ。でも、ソラファはまじめだから一生懸命職務を全うしてくれるよ。いつだって――」

「聞いてみろ」

「……え?」

「聞いてみろってんだ! この間抜け! ばか! バカルマ!」


 なんだか少しふざけた雰囲気を醸し出しながらも、そう言って番人様は去っていった。


 聞いてみろ、か。

 もしかしたらソラファが俺に対してなにか思うところがあるかもしれない。


 ……期待なんかしない。

 ソラファが俺のことを考えてほしい、なんていうのは、所詮俺の願望でしかない。


 世の中は、願ったことのたいていが叶わないようにできているも。

 どうせ失敗する、と考えていた方がましだ。


 しかし、ひそかに期待する自分もいた。

 どうしてもその思いを捨てることができない。

 無駄だってわかってるのに。どうせうまくいくわけないのに。


 ――だって俺は忌み子だ。みんなから嫌われていて、ひとりぼっちで、それで……。


 頭を振ってその考えを弾き飛ばす。

 ネガティブな考えだ。俺はそんなやつになりたくない。


 不幸だ不幸だ、なんて考えていても幸せになれるわけがない。

 もっと明るくいかないと。


「わっはっはー!」


 とれあえず誰もいないけど笑ってみる。

 鏡があったのでピースサイン。


 ……急激に虚しくなってきた。


 いや、だが少し明るい気分にもなってきた。

 やはり笑顔はいい。困ったときはとりあえず笑っておこう。


 しかし、心配なのは、このひとりで突然笑いだして鏡でピースをする、俺の奇行が誰かに見られていないかどうか。

 番人様とかは、わざと立ち去ったふりをするかもしれない。実はこの外で笑っているかもしれない。


 少し怖いが、外を覗こうと扉を開けてみる。


 ……誰もいない。


 ほっと溜息をついて、背後を振り返る。

 すると天井にぶら下がっていた人物と目があった。

 長いマント。さっきまでこの部屋にいて、立ち去った人物。


「なにやってんだ?」

「うわああああああああ!」














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