封魔二十四
長いようで短かった旅が終わりを迎える。
あれから、みんなの結束が深まった。
そして、俺はみんなに感謝されている。
確かに、俺はあの時、皆を守ろうとしていたし、実際、結果は出せていた。
しかし、こうも感謝されると……むずかゆいものがある。
ライルなんかは「一生の借りだな、てか二回目だし」と言ってきた。
そういえばライルを助けるのはこれで二度目か。
しかし、そんなことは忘れてくれていい。
なぜかといえば、まあ、単純に気恥ずかしさがあるからだ。
友情のために命をはった! なんていうのは英雄譚や物語でよくある展開だ。
封魔一族なら一度は憧れる様なシチュエーションでもある。
しかし、こうも思い出すと……悶えてしまう。
なんで勝手に俺は黒歴史を作ったみたいになっているんだろうか。間違いなく良いことをしたはずなのに。
途中からは俺の意を汲んでか、ライルがからかいの方向に変えてくれた。
それはそれでなんだかアレだったが、ずいぶんとましになった。
とにかく、すんだことなので忘れることにする。
恩着せがましくなるのもよくない、なんてことも思ったりするので。
『魂の祠』に到着する。
まず感じるのは妙な雰囲気だ。
圧倒的な違和感を感じるとともに、染み込むような、やけになじむような、不思議な雰囲気。
建物は城のように大きかった。
探検とかしたら迷いそうだ。これを作るのは、さぞ大変だっただろう。
『魂の祠』自体はこの城のみたいな建物の地下にあるらしい。そこで実際にソウルウェポンを見て、おおよそどんな武器が合うか決めるそうだ。
それが将来必ず手に入るというわけではないので、これは審査みたいなものだと、ミーファ教官は言っていた。
封魔一族のたいていは、ソウルウェポンとの契約が行えるが、なかにはできないものもいる。
魂の容量、なんかが関係しているらしい。
優秀なものだと一個どころか二個もいけたりするそうだ。
そう言えばソラファもソウルウェポンを二つ持っていたな、と思う。
番人様はいわずもがな。
負けたくないな、という気持ちが沸き上がる。
……なにに張り合ってるんだか。
俺を先頭に、扉を叩く。
ライルたちは期待に満ちた顔だ。
俺もそうだが、やや代表みたいな扱いになっているので冷静なふりをする。こういうのはディンの方が得意そうだ。
「はい、どなたでしょうか」
ひょこっと若い封魔一族の女性が顔を出す。といっても、俺たちより年齢は上だ。
「成績優秀者認定を受けて、審査をしに来た者です」
「わかりました。では、こちらへ」
案内に従う。
入ってみればその外見の豪華さと比べて、中はずいぶんと質素だった。
そこから下の階にはいる。
不思議な雰囲気がひときわ強くなった。
魂、とやらの波動なのかもしれない。
「第二長老がお待ちです。どうぞ」
がっしりとした扉の前へ。
俺はそれを開き、目を細める。
大量の大鎌が壁に立てかけられている。
そこには少量ではあるが、剣や槍もあり、これらはすべてソウルウェポンなのだと、直感的にわかった。
蝋燭が行く先を導くように照らす。
赤い炎を揺らめかせたゴブレットが燃え、大きな椅子を照らしていた。
その光景に、既視感を覚える。
よく似た光景を知っている。轟々と燃える炎。緑のゴブレット。そして――待ち構える様に立っている、おどろおどろしい門。
俺は首を振ってその光景を吹き飛ばす。
「よく来たな若者よ」
その椅子には優しげな老人が座っていた。
白い髭や皺のようなから、ずいぶんと生きてきたことがわかる。これほどの容姿となると四百年ぐらい生きているかもしれない。
どうしようか、と少し迷ってからひざまずく。
この老人からは最高年齢者『貴き長老』と同じような雰囲気がしたからだ。
「お初お目にかかります」
「よいよい。形式やかたばったものは好かん。楽に姿勢をとり、楽に話すがよい」
そのほうがいいのかもしれない。
なにしろ、そこにはこの硬い雰囲気に絶対に似合わないものがあったからだ。
優しげな老人。しかし、厳格で、どことなく姿勢を正させるような、強さがにじみ出る様な年長者。
そう言った要素をすべてぶち壊すような存在が、ある。
「だーだー」
「おおー痛いのう痛いのう」
二歳ぐらいの、子供。
なんでここにいるのかわからない、そういう存在。
顎をさすりながら第二長老は言う。
「あまり、ひひひ孫に、怖いおじいちゃんの印象を与えたくないのでのう」
……微妙な気持ちになった。
◇
「(おい! どうするんだ!)」
ライルがひそひそ声で俺に言う。
端的に言えば対応をどうすればいいのか困っていた。
俺だってそうだ。
ここに来るまで、蝋燭で道を示され、ゴブレットやらなんやらの装飾品が並び、威厳のありそうな雰囲気がでていたではないか。
ソウルウェポンが敷き詰められたこの部屋で、異様な力を感じ、緊張に身をこわばらせていたではないか。
――しかし、俺たちの前に待っていたのはひひひ孫(第二長老によれば)を溺愛するおじいちゃんだった。
第二長老とは予想がつく通り、封魔一族の中で二番目に長生きをしているものがなる称号だ。
そんな老齢の者といえば、体は老いていても、らんらんと目を光らせ、しかし、口調に力がある、そんな老人を想像するではないか。
俺のこの心構えをどうしてくれるんだ。
ディンやラタリアも同じような感想を抱いているようだった。
驚きすぎて対応に困っているというか、そういう状況。
「(軽く丁寧語を混ぜながら気楽にいこう)」
そうライルたちに囁く。
たぶん、俺の判断は間違っていないはずだ。
俺たちがそんな葛藤をする間にも第二おじいちゃんは孫に遊ばれている。
その立派な髭を引っ張られて「痛いのう、痛いのう」なんて言いながら喜んでいる。
調子に乗って子供は結構強く髭を引っ張っているように見える。痛そうだ。
それにしても第一長老と第二長老でこんなに違うとは。
突然変異種か?
俺たちにの前に来た者たちにもこんな姿を見せたんだろうか。
……いや、もなにも考えまい。
会話が途切れている。
なんとなく気まずい。子供と遊んでいるおじいちゃんからは、なにかを言ってくる気配がない。
俺から切り出さなくては。
「お孫さん、かわいらしいですね」
そんなことを言った。
第二長老が静かになり、目が細められていく。
やばいぞ、地雷踏んだか、と焦る。
背後からライルが小突いてくる。
わかってるよ。余計なこと言ったってことぐらい。それはいいから助けてくれ!
そんな心の声を飲み込む。
次の打開策を考える。
なにか、なにかないか。
当然この短時間では間に合わず、第二長老が口を開いた。
「そうか! わかってくれるか! 気立ての良い若者じゃな!」
……杞憂だったらしい。
なんでこんな怖い思いをしなきゃならないんだ。
第二長老は髭が深い。つまり、その口元が見えず、目だけ見ると、怒っているかどうか、判断がつかない。
……やっかいなおじいちゃんだ。
切実に誰かに代わって欲しかった。
ディンよ、代わってくれ、と願うが、いきなり彼が俺の前に立ってくれるわけもない。
当たり前だった。
「それで、俺たちはどうしたらいいんでしょうか」
慎重に聞く。
威厳のある目線に見つめられて背筋がシュッとなる。
答えは返ってこない。
「……?」
困ったような顔をしていた。
ボケ老人さながらの表情だった。
普通にムカついた。
「お、おおーう。そうじゃった。忘れとったわい。審査、審査じゃな」
早くも疲れを感じる。
番人様で変人耐性はついていると思っていたがまだまだらしい。
「うむ、特別な部屋に案内する。そこで一日中耐えておれ。魂への負荷にどれだけ耐えられるかのテストじゃ。ギブアップは、叫べば儂の手のものが終了させるから、それまでのテストじゃ。厳しいものとなるぞ。存分に気合を入れ、励むとよい。ふぉっふぉ――」
静かな高笑いは中断された。
嬉しそうな子供に髪の毛を引っ張られたからだ。
なんだか表情が切羽詰まっていた。
髪の毛の方は危ない状態なのだと、俺たちは理解した。
……ちょっと笑いそうだ。
「じーじー! だいすきー!」
「うむ……髪はやめてくれな。そういうことだ。お前たち、外に出てもいいぞ」
俺は悔しさを覚えていた。
この光景になごんでしまったのだ。
謎の敗北感が俺を襲う。
「いいお孫さんですね」と言っておいた。
ふむ、と満足げな表情をされる。
たぶん、すべての髪が引きちぎられても、この第二長老は本望だろう。
この子供が大きくなったら全力でツルツル頭の第二長老に謝ってそうだ。いや、彼が禿げるとはまだ決まったことではないが。
俺たちは外に出る。
お互いの顔を見やる。
「なんだかさ」とライルが言う。
「失望したわけじゃないんだけど、微妙な気分だ」
「俺もだ……次はディンが対応してくれ」
「嫌です」
「俺も嫌なんだけど……!」
速攻の否定だった。
「まあ、子供はかわいかったわよね」とラタリアが言う。
男三人は頷いた。それについては同意だった。
案内が現れる。
「各自、部屋を手配しました。順番に部屋にお連れするのでついてきてください」
頷く。
厳しいとは聞いたが、どんなことが起こるのやら。
期待と緊張を抱えながら、案内についていく。




