表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/142

封魔二十一

 やはりというか、周囲の対応は特別変わることはなかった。

 まあ、前よりもはましな気もする。それで満足していいだろう。

 そのうちよくなるかもしれないし。


 ミーファ教官に呼ばれる。

 パーティ単位だ。つまり、俺とライル、ディンとラタリア。

 おそらく、成績優秀者となったから、ソウルウェポンの契約権についての話だろう。


 予想は的中した。


 教官として振る舞うミーファ教官は、あくまで厳しい声でこう言う。


「君たちには『魂の祠』にいってもらう。そこはソウルウェポンを管理する場所だ。今は契約しないが、そこでいろいろと審査してもらえ」


 俺たちは頷く。

 ついにきたか、という心境。


「いつ出発するかは自分たちで決めていい。森の中を子供だけで進むことになるから……」


 そう言って、一度言葉を途切れさせた。

 そして俺たちに近づき、小さな声でこう言う。


「はめを外して遊んできていいからな」


 まさかの言葉だった。


 そうしてミーファ教官が去っていく。


「たまんねえな」とライルが言った。


「ミーファ教官もあんなことをいうものなんですね。どうします?」

「バーべキューやろうぜ」

「本気ですか?」

「そりゃもちろん」


 ライルとディンがそんなことを話している。

 俺はラタリアの方を見る。


「なにかしたいか、要望みたいなのある?」

「べつに、ないわよ。好きにして」


 そうなるとライルの案が通りそうだ。


 俺たちはミーファ教官がおいていった地図を眺める。

 魂の祠までの道筋が、書いてあった。

 結構遠い。封魔一族とはいえ、最低でも三日はかかりそうだ。休憩とかそういうことも考えるともっとかかる。


 封魔一族の里は広い。それは森とかを挟んだ場所でも、ここら一帯は『里』として呼ばれているからという理由ではあるが……。

 封魔一族が生息するのはここ『封魔の森』だ。そこから外にいる封魔一族について、はすべて冒険者を志望したも者であり、他の場所に封魔一族は暮らしていない。


 森の中心には里がある。その周辺に小さな村がいくつかあるが、たいていの封魔一族は里に集中して暮らしていた。


「日程とかも組まなきゃなあ」

「それは僕がやりますよ。任せてください」

「ん、頼む」


 ディンに任せておけば大丈夫だろう。


 はいはーい、とライルが手をあげる。


「じゃあ、俺は食べ物とか持ってくるからまかせろ」

「不安だ……」

「なんでだよ!」


 なんとなくだ。


「私はどうしよう?」

「うーん、まあ、自分の持ち物を忘れないように?」

「特にやることはないのね」

「うん」


 俺もやることはあまりない。


「じゃあ、明日いくってことでいい?」

「どうでしょう。他の成績優秀者たちもいくでしょうし、期間を開けたほうがいいのでは?」

「うーんそうだな。まあ、どっちでもいいけど一週間ぐらいあけておこうか」


 そういうことになった。

 お互い頷きあい、解散する。



 ◇



「ふふふ、遅かったな」

「早いな、ライル」


 見れば彼は大きな荷物を抱えていた。

 ……そんな大荷物で、長時間歩けるのだろうか? 旅程では四日はかかるというのに。


「そんなにいろいろ持ってきて、なにが入ってるんだ?」

「食べ物!」

「……全部?」

「調理器具!」


 いろいろ入っているらしい。


「まあ、みんなのためを思って、多めに用意した方がいいとおもってな」

「ほんとは自分がたべたいだけだろ?」

「まあ、そういうことだな」

「お前の素直なところは嫌いじゃない」


 ライルにはそういうところがある。

 少なくとも俺は嫌いじゃない。


「そんなにいろいろもってこなくても、近くの魔獣とか捕まえて食べればいいのに」

「食にはこだわるほうなんだ」

「まあ、おいしいに限ったことはないけどな」


 魔獣の肉を適当に焼いて塩をかければおいしいのであまり気にしてはいない。

 基本的に魔獣はこの森の一部にしか生息していないが、俺たちの進路はそこを通ることになる。

 危険ではないか? と思うかもしれないがそうでもない。

 一応、俺たちは各自の武器を持参しているし、人族ならまだしも、封魔一族が魔獣に苦戦することはありえない。


 まあ、不寝番の役をするやつが眠りこけると普通に危険なので、そこだけ注意が必要だ。


「おまたせ」という声。


 ラタリアがやってきていた。

 後方にはディンいる。


「なんでそんなに荷物があるのよ?」


 まず気になるのはそこだろうな、と思う。

 俺も最初にそう思ったのだから当然と言えば当然だ


「俺は食にこだわり、健全で強靭な肉体――」

「わかったわかった」

「わかってないだろ!」

「わかってないかも」


 わかりたくもなさそうだ。


 出発する。

 皆で緑の自然を見ながら歩いた。

 平穏な雰囲気だ。ここは、まだ魔獣がでる場所ではないので、普通の動物をなんどか見かける機会があった。


「あ、鹿だ」


 と俺は言う。


「おいしそうだよな」


 ライルは食欲しか頭にないらしい。


「かわいい……」


 とラタリア。

 なんだか意外な面だ。


 鳥が心地よく鳴いている。

 俺はこの鳴き声が結構好きだ。


 番人様との修行の時、細かい生き物の気配をできる限り感じ取り、それをひたすら行うという地獄のような修行がある。その時、癒しとなったのは鳥の澄んだ鳴き声だった。

 歌うようなさえずりは、気分を安らかにさせる。こういうもののおかげで、俺は修行を続けられたのかもしれない。


 ……そう言えば、昔ソラファと一緒にいた時も、よく鳥のさえずりを聞いていた。

 同じ空を見上げ、ちょっと会話しながらも穏やかに過ごして。


 今では彼女とするのは戦いの指南だけだ。

 なんだかなあ、と思う。

 しかし、こんなものなのだろう。

 所詮、過去は過去。過ぎてしまったことは、終わってしまったことだ。



 日が落ち、夕焼けが皆の顔を照らす。


「なんだか青春っぽいよな」


 そんなことを呟いてみる。


「俺と一緒に夕日に向かって走るか?」

「よーし!」

「ほんとにやるんです?」


 そうだな、とライルは言う。


「これはいわば必要儀式だ。雰囲気が必要なんだよ、俺たちは思い出を作っているんだー、みたいな。だから夕日に向かって走ろうぜ?」


 詭弁家らしく、彼はそう言う。


「走ろうぜ?」と俺も真似して言ってみた。


「……まあ、いいでしょう」


 なんだかんだでこういうくだらないことにも付き合ってくれるのは、ディンの美徳だと思う。


 そう言えばラタリアの意見を聞いてなかったな、と見やると、彼女は袖をまくって、「よーし」と言っていた。準備は万端のようだった。


 予想外の反応に俺はラタリアを見つめてしまう。


「な、なによ。悪い?」

「いや、すごくいい」


 活発な女の子って素敵だ。


 ラタリアの頬が赤く染まっている。

 なんだが今日だけで意外な一面をいくつか見れた気がする。みんなでこうやって旅みたいなことをするといろいろわかるんだなあ、と満足感。

 最悪、このまま帰っても俺は幸せなままだろう。


「いくぞおおおお!」


 そう言ってライルが突然走り出す。


「おいずるいぞ! フライングだ!」

「荷物が多い分ハンデだ! 許せ!」


 そう言ううちにも距離が開いていく。


「まてえええ!」


 追いかける。


「ちょ、アンタたちはやい」


 後ろからラタリアの声が聞こえてくるが、ライルを捕まえるのが先だ。


「ふはははは! 捕まえてみろ!」

「いったな!」


 俺たちは走っている。

 これぞ青春なのかもしれない。

 そんなことを思いながら、俺は笑っていた。




 ◇


 はぐれた。


「おい、どうしてくれる」

「……」

「どうしてくれる!」

「あー、旅には予想外のことはつきもの、だよな?」

「いや、そうだけど」


 ラタリアとディンの姿は見えない。

 今は夜だ。魔獣は夜行性だ。もし、うかつに存在を大きく示してこの位置を知らせたり、大声をあげたりしたら、魔獣がよってくるだろう。

 今、俺とライルは魔獣のテリトリーに入り込んでしまっていた。予定では昼のうちにぬけるつもりだったのに。


 荷物を下したライルがその場に座り込む。


「もう一歩も歩けん……カルマ、すまんが捜索頼めるか?」

「わかった」


 荷物を背負って走っていた分、ライルの疲労は濃い。


 失敗したなあ、と思う。

 そもそも俺がバカ単純にライルについていったのもダメだった。いや、楽しかったのだが、ちょっと夢中になりすぎた。


「青春の代償……」とライルが呟く。


 一瞬かっこよく聞こえたが、よく考えれば、別にそうでもなかった。


「あーライル。一応気配隠しとけよ? 夜は魔獣が活発になるから、数が多いとケガではすまなくなるかもしれない」

「わかってるよ」

「あと変に動いたりしないでくれよ? 迷子になるからな」

「お前は五歳児の母親か」


 ライルは試験の時も平気で寝る様なやつなので不安なのだ。


「そのことはいうな!」


 声に出てたらしい。


 俺はディンとラタリアの捜索を開始する。


 すぐに見つけることができた。そう遠くない位置に、いた。


 ラタリアはぴんぴんしていた。むしろ疲れているのは男のほうで、ディンは歩くのもやっとという状態。鎖で戦う法の名門だから、こういう肉体系のことにはあまり強くないのかもしれない。

 そんな満身創痍な彼は恨みがましい目でこう言う。


「……ばかなんですか?」


 それについて、特に否定する要因がないことは悲しいことだ。


「まあまあ、一度しかない十六の夏だし」

「あんまり僕らの寿命でそれを考えるのもどうかと思いますけどね」

「たしかに」


 青春っぽいとかなんとかいってバカをやっていたのは自覚している。


「じゃ、いこっか」

「わかりました」

「そうね」


 ライルのもとに戻ってくる。

 予定調和的というか、なんというか。

 予想通り、彼はぐっすりと寝ていた。

 足と手を組み、こっくりこっくりと頭を揺らしている。結構、器用な寝方。


 ……どれぐらいの時間離れていたんだっけ? 三十分ぐらいか?


 それにしてもライルは眠るのが好きなようだ。

 はしゃぎ疲れたんだなあ、仕方ないなあ……なんていう風にはならない。


「起きろアホー」


 軽く揺さぶる。

 ライルはゆっくりと目を開けた。


「……」

「……」

「……違うぞ?」

「なにが?」

「俺は寝てない」

「へえ」

「修行僧みたいなもんだ。そうそう座禅。精神を研ぎ澄ませていたんだ」

「それはよかった」


 もう、こういうものだと割り切ることにしよう。


「おい、反応適当だな。もっと丁重にツッコミを入れてくれ。ウサギは構ってくれないと死んじゃうんだぞ」

「たしかに、こんなところで寝てたら魔獣に襲われてほんとに死ぬな」


 たしかに、と彼は頷く。

 まったくもってその通りだ、なんて付け加えながら。


「とれあえずここらで野営しようか」


 それに対して皆がうんうん、と頷く。異論はなさそうだ。


 野営の準備を始める。


 まずは獣がよってこないように火を焚き始める。魔獣はほかの普通の動物と比べたら好戦的だが、火を嫌う。よほどやばいやつでなければ近寄ってくることはないだろうし、よほどやばいやつなんてこの辺りには生息していない。


 そういう危険なやつがでたら番人様や、暁の執行者あたりが刈り取っている。ここらに生息するのは数ばかりが多い、弱い個体のやつぐらいだ。


 そんなこんなで準備は完了した。


 ライルが荷物をどん! と土に打ち付ける。


「それじゃあお待ちかねのディナータイムだな」


 おそらく待ちかねていたのはライルぐらいだ。


「もう寝ません?」


 ディンは疲れ果てている。


「ばかやろう! 今からが本番じゃないか! ここで寝てどうする!」

「お前がいうな……!」


 と俺が突っ込む。

 ほんとにライルはここで寝てたからな……。


 ライルは鍋を出した。それを設置し、火を起こす。

 さらに水をいれ、おもむろに肉を入れ始めた。


「ほら、お前らもなんかいれろ。闇鍋するぞ」

「闇鍋?」

「鍋に自分が好きな食材をいれていくんだ。各自が好き勝手やっていい。で、それをみんなで食べる」


 そう言いながらも箸をみんなに配っていく。箸は人族が開発したものではあるが、この程度なら鋼の名門の連中だって作れるから数はたくさんある。


 ライルが持ってきた食材を見てみる。なるほど、たしかにいろんなものがあった。

 魚に肉、人族の作ったお菓子に、ほんの少しだけの野菜。封魔一族の里でとれるパキリや、もちもちなんかもいれてある。


 俺は肉ともちもちを入れた。湯気が立ち、ぐつぐつと茹でられていく食材。

 出来上がった肉に塩をかけ、食べてみる。

 ジューシーな肉汁が口の中に広がっていく。


「普通においしいな」

「だろ?」


 もちもちが柔らかくなってきたので食べてみる。食感がもちもちだ(当たり前だ)。

 そう言えばミーファ教官との授業でもちもちを使ったなあ、なんて思い出す。たしか俺は途中でテンパって、もちろんです! と言いたかったところを「もちもちです!」とか意味の分からない言語を喋ってしまった。

 ……恥ずかしくなってきた。今食べてる塩の味がしょっぱく感じる。


 さらに俺は箸を進める。おいしい。

 残念ながら俺にはグルメ力がないのでそれっぽい感想をいうことができない。

 だが、ただただ、うまいということは確実だ。もちもちを米に見立てて肉を食べれる、なんていう、とんだ贅沢。

 ほどよい硬さと柔らかさ。もちもちに肉の味が染み込んでいて素晴らしい。


 他のみんなも食材を入れ始める。

 ライルは魚をいれていた。ラタリアは野菜だ。

 そしてディンはお菓子をいれていた。


 ……ん?


「気でも狂ったのか!」


 思わず叫ぶ。貴重品なのになにをやってるんだ。


「……くっ」

「くっ、じゃねえよ」


 悔しそうなディン。彼が何に悔しがっているのかまるで理解できなかった。

 ……たぶん、彼は疲れているんだろう。


 ライルが手をあげて制する。


「まあまあ、まだ試合は始まったばかりだ。まだ終わっちゃいない」

「いや、終わりだろ」

「あきらめるんじゃねえ!」


 気圧される。謎の熱意。


「なんとかここから挽回するんだよ! 俺たちがやらなくてどうするんだ!」


 食材に対する熱意だろうか。


「そうだな。まだ、いけるよな」

「おう、その意気だ!」


 俺はとれあえずパキリを入れる。パキリは万能だ。これを入れておけばきっと間違いない。たぶん。


「ええ……この状況で果物いれるの……」とラタリア。


「甘さには甘さで対抗するしかないじゃないか」

「そう……」


 ラタリアがどんよりとした目で鍋を見る。

 腐った汚水の上に、ぷかぷかと浮かぶパキリ。

 ……まだ大丈夫だよな?


 気が付けばディンは少し離れたところで横になっていた。

 闇鍋の内容をぶち壊した主犯のくせに。


 俺はすぐにディンを起こしに行く。

 ゆさゆさと揺らされ、ディンが眠そうに薄目を開けた。


「絶対に逃がさないからな」

「……はい」


 もう全員道連れにするしかない。


 そうして俺たちは闇鍋と奮闘した。長い闘いだった。明らかに不毛だった。


「なあ」とライルが言う。


「臭くね?」

「……」

「……」

「……」


 諦めて捨てることにした。


 俺はグロい色素を漂わせた鍋の中身を見ながらこう言う。


「途中まではよかったのに……」


「たしかに」とライルが頷く。

 賛成するようにディンも頷いた。

 ……うむ。


「もう寝ようか」

「そうですね。不寝番は僕がやります」

「任せた。もう二度とお菓子をぶち込むじゃないぞ」

「……たまにはいたずら心をみせちゃだめですか?」

「だめだ」


 そうしてみんなその場に横になる。

 疲れていたせいか、すぐに意識は消えていった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ