封魔二十
試験の終わりから、結果の清算までの流れは、実にスムーズだった。
各自の教室で成績優秀者を発表。
選ばれたのは四チームで、学年が下のパーティーは、一つしか入っていない。
そのパーティーは、俺たちのパーティーだ。
教室には戦闘指南主幹である教師、ミーファ教官がいた。
たぶん、心の中では大喜びしているんだろうが、ライルは彼女の弟なのでそういうわけにもいかないのだろう。
「よくやった。君たちは実に優秀だ。一つ上の学年がいる中で勝ち抜き、ソウルウェポン契約の権利を勝ち取った!」
あくまで威厳のある声でミーファ教官が言う。
まばらな拍手がそれに続く。しかし、思った以上に盛り上がりを見せない。
その原因は、たぶん俺だ。
「忌み子が混じってるぞ」
「あいつがズルしたんじゃないか?」
「しかも学年が下で優秀なパーティーはあそこひとつだしな」
聞きたくなくても、自然と声が聞こえてくる。封魔一族の聴力は、この近距離なら、ひそひそ話だって簡単に拾えてしまう。
その声には嫉妬がまじり、いわれのない批判が俺を弾劾していた。
どうやら彼ら彼女らは、ずいぶんとひどく、上級生にやられたようだった。一年もの経験の差があるのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。
嫉妬や羨望。
そういった負の感情の集まり。
たぶん、俺の力や実態を知る者が、誰もいないから起きている現象なのだろう。
俺は普通の忌み子と違い、星装気の能力が低い。普段の身体能力などの成績は優秀だが俺の身のこなしなどを見ている者はほとんどいない。
普通の生徒が知っている情報を見れば、俺と言う存在は不自然に見えるはずだ。
誰も俺の努力なんてしらない。呪いのような言葉と環境で、自分を追い詰め続けたことなんてわかってくれない。
……いや、俺のことはいいのだ。
問題は、情にあつい俺の友人だ。
皆が、ミーファ教官のほうを見ていたからよかったけれど、ライルの顔は相当なものだった。
ぶち切れ、怒っている。当然、俺が聞こえている内容はライルにも聞こえているのだ。
こいつのことだ。どうせ俺に対する誹謗中傷について腹が立っているのだろう。
そんなライルの肩をがっちりとディンが掴んでいる。彼が暴走しないように、そんな役割を担うように。
だから、俺の怒りはそこまでではない。ライルが怒ってくれている。
……こんな思いをさせて、申し訳ないとは思うけど。
ミーファ教官は迷っているようだった。この状況は明らかにおかしいものだったし、本当は止めるべきだろう。しかし、ライルが弟と言う事実が身動きを取れなくする。
えこひいき、なんて言われてしまえば最悪だ。この、『俺が敵のように認識されている状況』なら、事態は簡単に悪い方向へ動いてしまうだろう。
それでも、ミーファ教官は口を開いた。
たぶん、それは彼女の強い正義感からくるもので。
「なにやら文句を言っているものがいるが、彼らは自分自身の力で優秀者だと認められたのだ。根拠もなく悪く言うのは許さん」
強い口調。
しかし、それが反感を呼んだ。
「根拠」と誰か立ち上がって言った。
聡い声音、眼鏡を付けた少年。
ディンではない、法の名門の少年。
「教官、根拠なんて必要なんですか? なにかがあったとしても、そちらからなにもかもが隠せてしまうなら、根拠なんて見つかるはずもありません」
「そんなことを言い始めたら、なんだって言えてしまうじゃないか」
「そうですよ。ですが、なにかをするわけではありません。文句を口ずさみ、不満が漏れる。なにも起こらないまま、感情が先行するだけです」
少年は笑った。
「なにもしないんですよ。でも、不満を覚えるんです。だって、そこの忌み子のなにがすごいんです?」
ミーファ教官は何も言えないようだった。
彼は淡々と事実を述べただけだ。それに過ぎた反論をし、失敗してしまえば、それはただ生徒を攻撃した、というような雰囲気になってしまう。
事実はそうではないかもしれない。しかし、そう「みえて」しまうことが重要なのだ。
そういう意味では実に少年の言葉は賢かった。反撃を許さず、抑え込む悪意の言葉。
「……口に出せば嫌な思いをするやつがいる。だから、やめるんだ」
「しかし、自然と出てしまうものです。だって、その忌み子は、星装気の数値が低い」
星装気で戦闘能力を確認するのは、最も確実な道のひとつではある。
たしかに、常識に照らせば間違ってはいない。
「ならば」と彼は言う。
「実力を見せて欲しいものです。まあ、やらないと思いますが」
「……私刑は禁止されている。この里のルールだ」
「ええ、口に出しただけですよ。ご心配なく」
どこまでも、どこまでも。
実際にできないのがわかっていて、それなのにあえて口に出して。
これだと「忌み子は本当は弱い」とみんなが思ってしまうだろう。なにも知らない奴らから見ると。
「そうか。だが今は私が話している。これ以上の無駄口は許さん」
「わかりました」
素直に引き下がる。
本当に優れた話術だ。結局、ミーファ教官が力づくで黙らせた。
これでは印象もくそもない。最悪だ。
雰囲気は険悪そのものだった。
しかし、黒曜大理石の廊下からは騒がしい声が響いている。
二人分の声。
バーン! と、扉が開け放たれる。
「やあ!」
校長だった。
――そして、その背後いる者は。
「ば、ば、番人様!?」
ミーファ教官が驚いた声を上げる。
まさかの登場だった。こんなこと、前例があっただろうか。
たぶん、ない。いったいなぜ来たのか。なにをしに来たのか
番人様が明るく笑う。
「やっほ~」
校長も元気よく手を振った。
……ムードクラッシャーの勢ぞろい。そんな感想を抱いた。
辺りが一斉にざわめく。
番人様と言えば、封魔一族の英雄で象徴、おまけに最高権力者という高身すぎる存在。
子供たちの誰もが憧れる、そういう頂点。
「話は聞かせてもらった!」
「話は聞かせてもらったよ~」
仲、いいんだろうか?
校長と番人様は揃って笑顔でそう言う。
何が始まるんだろう?
「どちらにせよ、成績優秀者はどんなものか、生徒諸君に見てもらおうと考えていた!」
「そういうわけで、立候補順に今回の成績優秀者と戦って、それをみんなに見てもらお~。まあ、恥をかきたくないとは思うし、慎重にね?」
その瞬間、爆発的に手が挙がった。
恥をかく、なんてことは頭にないのだろう。番人様に見てもらえる。きっと、そんなことを思って、とにかく自分をアピールしている。
「じゃ~このクラスからは二人選ぶけど、君と君ね~」
指名する。その中には静かに手をあげている、先ほどの法の名門の少年が入っていた。
「今回の戦いをよく見ておくように! 君たちはもっと強くならねばならない! 未来のために!」
「未来のために~」
◇
突発的に起こった出来事だが、好都合だろう。
校長と番人様は「どちらにせよやろうとしていたことだ」と言った。たぶん、それは事実なのだ。そもそもこの成績の計り方を考えたのは番人様らしいし、校長もそれに協力していたというわけだ。
……しかし、結果だけを見ると番人様が俺を助けてくれたような気がしてならない。
なんだか、少しにやけてしまう。
おまけに俺が戦うのはあの口撃をしかけてきたあいつだ。実に幸運と言える。
ライルたちも戦う相手を割り当てられたようだ。同じ学年で、上級生ではないらしいので、たぶん、勝つだろう。
「カルマカルマ」
「なに、ディン?」
「カルマが戦う相手は僕が唯一嫌ってる相手です。遠慮なくぶっとばしていいですよ」
「おう、任せろ!」
朗らかにそういってみせる。
「カルマ! あいつ、ぶっころしちまえ!」
そう言ったのはライルだ。どうも鬱憤がたまっているらしい。
結構本気で言っている。
そんなライルの状態をみて、我に返ったようにディンが忠告してくる。
「……あんまり派手にやらないように。特に痛めつけたりしたら印象は最悪なのでさらっと勝ってくださいね」
さっきと言っていることが真逆だ。まあ、さっきのが彼らしくなかったといえばそうなのだが。
一方ラタリアは「まあ、頑張れば?」と言う言葉をくれた。
……これは信頼されてるんだかされてないんだか。
まあ、いい方向にとらえよう。
先発は俺だ。
多くの生徒が見守る中、リングのなかに足を踏み入れる。ここから出たら負け、もちもち付きの武器が当てられても負けだ。
「いやはや、幸運でしたよ」
そう少年が言う。
なにが? と俺は答える。
「明らかに弱いあなたと当たれたことです。おかげで僕はそこそこ高い評価を受けれますしね」
やる前から勝ちを確信しているようだ。
元気なやつだなあ、なんて考えてあくびをする。
相手はそれにイラついたようだ。
「あなたのチームメンバーは優秀な者ばかり。うらやましいものです。おんぶにだっこで優秀な成績をもらえるなんてね!」
「……おまえ、いいかげんにしろよ」
「なにを? だって、あなたは忌み子でしょう?」
その言い方にいいかげんかちんときた。
いやいやダメだ。スマートに勝てばいい。
ディンがわざわざ俺のことを考えて忠告してくれたんだ。それを無下にするわけにはいかない。
顔の筋肉がひきつるのを抑え、深呼吸。
審判はミーファ教官だ。
俺と少年の間に立ち、剣を地に立てている。
「お互い、名を」
「法の名門ギーラ・クシャル」
「カルマ・ラジック」
お互いに離れる。
ギーラは法の名門なのだから得意なのは遠距離、鎖による攻撃だ。
しかし、やけに自信があるのが気になる。本気で俺が弱いと考えているのだろうか?
それもあるかもしれない。しかし、ほかにもなにかあると、考えた方がいい気がする……。
「せっかく成績優秀者に選ばれたのに、みんなの前で負けるとは残念ですね」
安い挑発。
その意図は読めているが、腹が立つものは腹が立つ。
ほんとうに嫌なやつだ。
どうしてやろうか、と考えるが、ディンの言葉を思い出す。
ここで余計に痛めつけたりなんかしたら、それこそ俺は悪魔的な忌み子だ。なんとかして、さらっと終わらせよう。
「では、構え……はじめ!」
ミーファ教官が開始の声をあげる。
俺はそれと同時にスタートを切る。
ギーラが笑っている。
「遅いですね。まるで牛だ」
「ほざけ」
四本の鎖を飛ばしてくる。
さすが法の名門というべきか、鎖の扱いは相当うまい。
スピードもよくでている。
逃げ場をなくすように曲がりうねる鎖。そのうち一本に、吸魔の鎖がうまく混ぜられていて、なかなか手ごわい。
なぜこんなやつが成績優秀者に選ばれなかったんだろう。
たぶん、仲間の違いということか……。
予想とは違い、その包囲網に似た攻撃を、なかなか突破できない。
一応、捕まるようなへまは犯さない。
けれど、近づいていけばいくほど、難度は当然高くなっていく。
思わず舌打ちしたくなる心境。
「いつまで逃げてるんです? それだけがとりえなんですか?」
余裕ぶった声。
しかし内心はそこまで余裕ではないだろう。
この距離は法の名門にとって有利な距離だ。それをこんなにも長い時間、保っておきながら、鎖はまるであたらない。
「忌み子は逃げるのだけはうまいんですね」
だからこうして挑発してくるわけだ。冷静さを失わせ、さらに有利な状況をつくる。
意識の片隅にこういった思考を置いておかないとぶち切れて突っ込んでしまいそうだ。ずいぶんと口達者なやつ。
……だが、本当にそれだけだろうか?
思えばギーラとかいう目の前の敵は、ずいぶんと俺に対して勝算があるようだった。実際に俺のことについて知っている?
まさか、それならこんな戦いを挑んでくるはずがない。こいつは頭がいい。負ける戦いはしないはずだ。
時間が経つにつれて、ずいぶんと鎖の飛ぶパターンを把握しできるようになってきた。
もう、完全に見切っている。所詮、鎖は飛び道具。
星装気を纏える量が少なく、スピードの遅い俺でも、見切っていられればかわすことは簡単だ。いうならば、こいつと同じぐらいの実力の鋼の名門がいたら、そっちの方が苦戦を強いられるだろう。
意外と余裕だったな、と思い、鎖の群れに飛び込もうとする。
しかし、嫌な予感がして躊躇した。
こいつは賢いやつのはずだ。負ける戦いはしないはず。それならば――。
なにか、ある。
「情けないやつ」
ギーラが俺のことをバカにしたように言う。
一見、これは俺が逃げ回っていてなにもできていないように見える光景だ。ギーラは攻撃できているのに、俺はなにもできていない。
そういう意味を込めた皮肉だ。お前からはなにもできない、情けないやつだ、と。
……いろいろ考えたって無駄だ。
こいつにはなにかあるのかもしれない。しかし、それで俺が負けるのか?
それはないだろう。
なにしろ――。
ギーラの鎖を扱う動作。巧みで洗練され、操られる鎖の数々。
それはたしかに、称賛されてもいいほどの練度だ。自分の長所を知り、それをしっかりと鍛え上げた証。
だが、それがいったいなんだっていうんだ?
こいつには覇気がない。
戦いはいわゆる遊びで、名門のアドバンテージから、修羅に踏み込んだことがないのだ。
――己の集中力が高まっていく。
呪いのような言葉を受けて生きてきた。
俺は番人にならなければならない。
そのためにひたすら自分を追い詰めた。
こいつには辛酸をなめた経験がない。
――痛みをぬるま湯のなかでしか味わったことがない、甘い環境。
そう、こいつの殺意にはなにも乗っていない。それは戦いに必要とされるものだ。
いうなれば絶対に殺してやるという覚悟や狂気。
こいつには必然性が欠けている。
「いいかげんに――」
ギーラが口を開いた瞬間、俺は一歩踏み出した。
俺が不利な点といえば大鎌で鎖を切断できないことだ。
しかし、払うことならできる。
「ぬるい」
右、左。頭上からも襲い来る鎖の数々。
それを大鎌を振り回し、すべて撃ち落とす。
生きた蛇が力尽きる様に、鎖はその場に倒れ落ちた。
ギーラは瞬時に新たな鎖を精製し、発射する。
すべての行動がよく見えた。
相手のわずかな焦り、しかし、なにかを待っているような。
――関係ない。
突っ込む。
鎖をかわし、前へ。
距離がどんどん詰められていく。
障害物のない空間で好き勝手に暴れ来る鎖。それらすべてを撃ち落とすという動作を、三回繰り返す。
そうすれば自然と次の鎖を放つ隙はなくなっていた。
ここは、俺の間合いだ。
あいつから、今の俺はどんなふうに見えているんだろう。
にやり、とギーラが笑う。
手を前にかざし、俺に向ける。しかし、その手から放たれるであろう鎖は、もう間に合わない。
――終わりだ。
そう思っていた。
それは間違いだった。
たしかに、ギーラは俺に勝つための手段を用意してきていたのだ。
「絶魔」
放たれるのは普通は使い物にならない技。
しかし、それはしっかり弾を形成しており、当たればよろけるぐらいはするだろう。
――けど。
体を捻りながら跳ねる。
ぎりぎりで通り過ぎていく絶魔をかわし、空中へ。
そのまま相手の背後に立ち、大鎌を首筋に突き付けた。
「惜しかったな」
そう、囁く。
「カルマの勝ち!」
ミーファ教官の判定。
そうすれば大喜びをしているライルたちの姿が見えた。
「よっしゃああああああ! いいぞー! カルマー!」
ライルがはしゃいでいる。
ディンやラタリアとハイタッチだ。
あまりにライルがはしゃいでいるせいか、なんだかディンもラタリアも気おくれしているような素振りを見せるが……少し、嬉しそうにライルの手を叩いていた。
俺は身の前で膝をついているやつを見る。
ギーラは茫然としていた。
それもそうだ。絶魔からは、鎖と違って発射のタメが感じられない。鎖と比べれば、事前察知が難しいのだ。
それゆえに優秀だが、威力の低い技。つまり、命中率重視の、そういう技だ。
それを俺はかわした。絶魔の存在は一部の者しか知らないから、普通なら絶対かわせないと思っていたのだろう。
実際には、俺は絶魔のことを知っていたが、そんな可能性は万が一つも考えていなかったのだから同じことだ。
まさか、俺でさえ使えないまともに使えない技を使えるとは。
ある種の天才であることはたしかだろう。
「いったい、どうやって」
「反射神経」
「そんな……そんなのばかげてる! ……まさか、それが忌み子としての」
俺は穏やかに笑って首を振る。
それはただ単に、鍛え上げて手に入れたものだ。
気の研鑽。
ひたすら尖った環境に身を置き続けた。悪魔と戦わされ、ぎりぎりの死闘だって演じて見せた――。
けど、そんなことを話したって信じないだろう。
それに理解としてもらうつもりもない。
どうせなにをいっても無駄だ。特にこいつは、そういうやつだ。
「卑怯な……」
恨みがましく呟くギーラ。
それに対して俺はこう言ってやる。
「負け犬の遠吠え」
「……っ!」
こういう時、勝利っていうのは便利だ。
終わってしまったことは、もう変えることができない。それに文句をつけたとしても、滑稽なだけだ。もう、ギーラがなにかを言ってくることはないだろう。
悔しそうに歯噛みするギーラ。
土を握りしめ、必死になにかをこらえる様な表情。
……。
「まあ、なんていうか。最後のはびっくりさせられたよ。かわせたのは半分運だ」
「なにを……?」
「お前も十分すごかったよ。えーと、嫌味とかじゃないからな?」
恐る恐るそう言う。
まあ、絶魔を使えるというのは才能で間違いない。それにはきっと、努力だって必要だろう。
ギーラは不思議そうな顔をした。
しかし、すぐにしかめっ面をする。
「まあ、僕はあなたのことを誤解していたかもしれません……少しだけ」
吐き捨てる様な言い方。
思わず俺は笑ってしまう。
「そうか?」
「ええ、僕は嫌われているのでね。うらやましかったんですよ。それだけです、それじゃあ」
そんな言葉を置いて去っていく。
彼を慰めるパーティーメンバーは、いなかった。
……少しだけ。
あいつの嫌味な言い方にも理由が、あったのかもしれない。
名門のお家事情なんて、俺は知らないし、関係のないことだ。
あまり、考えても意味はないのだろう。
俺はライルたちの元に戻る。
「いえーい! カルマ、いえーい!」
ライルのハイテンションは続いていた。
少しだけ戸惑ったが、俺も乗っかる。
「いえーい!」
「やっほーい!
そんな様子を、離れたところからディンとラタリアが見ていた。
おまえらカップルかよ、と言いたくなる。
「まあ、逆転劇みたいで面白かったですよ」
ディンは冷静にそう言った。
「そんなに不利に見えた?」
「まあ、一見そう見えましたが、勝つのはわかってましたよ。最後の妙な技には驚かされましたが……それ以上に、よくあれをかわしたものです」
「てへへ」
照れる。
「気持ちわるっ」
とライルからありがたい言葉をもらった。
俺は真顔になった。
それを見てラタリアがくすくすと笑っている。
まあ、なんだろう。
なんだかすべてうまくいった気がする。
「じゃ、俺もいってきますわー」
そう言ってライルは武器を手に、リングの中に上がっていった。
結果については特にいうことはない。
ディンもラタリアも一緒で、普通に勝利した。
周囲からの印象は、少し変わった気がする。
俺が実力を示したおかげで、疑っていたやつらは罪悪感を覚えたのだろう。当たりはずいぶんと軽くなった。
これからは普通に接してくれるだろうか? と思ったが、たぶんそこまではよくならない。
でも少なくとも、印象は改善されたはずだ。




