表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/142

封魔十八

 

「二学年合同集団実力検査を行う!」


 ある日、授業をしている最中、大声でそんなことが言われた。

 それを言ったのは校長だった。

 授業中なのを構わず、いきなりの宣言だった。


 嵐のように去っていく校長。

 それを見て、ミーファ教官はごねるように呟いた。


「初代の校長がああいう叫ぶ代表みたいなのを定めたんだ。学校の象徴たる校長は目立たないといけない、なんてことを言って。悪ふざけで言ったのにその次の校長が真にうけて……」


 達観したような言い方だった。


「まあ、仕事だし、機能してるからいいのか。いいかお前たち! 二学年合同集団実力検査が行われる! 詳細は……うむ、一週間後にやるからパーティ間の連携を強固にしておくことだ!」


 自分の背中に張られた紙をはがし、ミーファ教官がそう言った。



 ◇



 あれからソラファとの戦闘訓練は続いている。

 反応と予測はうまくなった。だが差はいっこうに縮まる気がしない。


 とりあえず、ライルたちと打ち合わせをして、今に至る。

 連携の練習をたくさんした。


 鋼の名門であるライルは前衛。

 法の名門のディンは後衛だ。


 平民ペアの俺とラタリアは中衛。遊撃のような形となる。


 今日がその実力検査の日だ。これはなにやら番人様が企画したものらしく、今までの年代はあまりやらなかったことらしい。


 そういうわけで、集合場所に向かう。


「中年のおっさんの真似やります!」


 遠目から何かを言っているライルが、見えた。ディンも一緒だ。

 俺たちのパーティはここで集合と聞いたので、ライルとディンは先についたのだろう。


「腰がいたいのう」

「それってどちらかというと年寄りでは?」


 漫才でもやってるのだろうか。

 だがディンのほうはノリノリというわけでもない。あくまで平然と、間違いを指摘しているだけだ。そんな冷静なディンは、どこまでも彼らしかった。


「いいか。おっさんっていうのはもうすぐ年寄りを迎えることを意識しだす頃なんだ。だからこうやって予行演習をすることもあるんだ」

「適当なこと言ってるでしょう」

「いや、ただの正論だよ」

「詭弁ですね」

「うん」


 詭弁だった。


「なにバカなことやってんの」


 ラタリアが登場する。ちょうど彼女も来たということは俺が一番最後か。

 あと少しなので急ごうと歩を早める。


「ああ、カルマが始めたことなんだよ。今トイレに行ってるけど」


 なにやらライルが言っている。

 ディンは何も言わなかった。


 否定はしてくれないようだ。


「あーそう」


 当然のようにラタリアは言う。

 俺の手の動かないところでこんな風に世界は動くものらしい。


「おまたせー」


 輪の中に入っていく。


 ぬけぬけとライルは「遅かったなー」と言った。


 とりあえずすべてを聞かなかったことにして話を切り出す。


「さて……とれあえず今回は本気で勝ちに行こうか」


 今回の成績はかなり重要なものだ。


 ――成績上位者には、ソウルウェポンとの契約権が与えられる。

 誰だって本気にならざる得ないだろう。


 ……それに、今回はヘクトールがいる。

 この試験は第一次成長期の子供間での成績を競う。早い段階だと十七で第二次成長期を迎えている者もいるから、そいつははずされるらしい。


 幸か不幸か、ヘクトールはまだ第一次成長期だった。


 各々が俺の言葉に反応を見せる。

「もちろんだ」とライルが言った。

 ディンとラタリアも頷く。


「今回の試験はパーティ戦だが、最初の位置がバラバラでスタートだからな。集合場所を決めておく必要がある」


 お互いがお互いを探し、早く合流するのは重要な要素だ。それもパーティとしての力だろう。

 戦いの場は広大な森の中だ。下見は済んでいるし、準備は万全。

 今回の試験は丸一日を使って行う。超長期戦だ。場所も広いことだし、お互いを見つけるのは難しいだろう。


「今いるこの位置を集合場所にしよう。できる限り戦闘は避けて、合流してから集団的に優位を保つ」


 俺たちがするのは手堅い戦法だ。無理に奇をてらう必要はない。おそらく周りもそうしてくるはずなので、本格的になるのは合流してからになりそうだ。


「じゃあ、そろそろいくか」


 お互いに指定の位置に向かう。

 また会おう、と声をかけあう。



 ◇



 ゴーン! と鐘がなり、開始の合図が鳴り響いた。


 周りには中途半端な認識阻害の陰術を展開している気配が複数。



 封魔一族は、影に潜み、刈り取る者。

 こういったゲリラ戦は封魔一族がもっとも有利とする戦場だ。そして、俺がもっとも得意な場面でもある。


 持っている武器にはもちもちが塗り付けられている。武器による攻撃があたったらその時点で脱落だ。あたったら首に巻いてある布をほどき、自主申告で脱落を申し出て、攻撃を当てた相手に渡す。


 最後に最も布を持っているチームが成績優秀者となる。バトルロワイヤル形式みたいなものだ。


 このルールだと自主申告をせず、ズルするやつが出るかもしれないが……封魔一族に限ってそんなことをするやつはいないか。


 あたりを見渡し、誰かが自分に気づいていないか確認する。

 拍子抜けするほどお互いがお互いに気づいていないようだ。

 戦闘は避け、合流が先だと言ったが、こんなにも余裕があるなら奇襲を仕掛けてもいいかもしれない。そう思うほどに、みんながみんな、無防備だ。

 特に、今、俺の目の前にいるやつは。


 ひとりの背後に回り、ゆっくりと近づいていく。


 この距離でも気づいている気配はなさそうだ。背後から現れ、軽く大鎌を当てる。


「うわ、びっくりした……」


 悔しそうに言いながら、布を手渡される。意外と簡単に、ことがうまく運んだ。


 いままで、はっきりと能力を比べたことがなかった。

 だがやはり、俺はほかの封魔一族よりも能力が高いらしい。鍛え続けてきたおかげもあるけれど、ずいぶんと楽に勝ててしまった。


 すこすごと帰っていく少年の背中を見送り、「がんばれよ」と言われる。どうやら彼は俺が忌み子だと知らないらしい。


 よし、と目的地に行こうと歩を進めようとする。

 その時、強い気配を感じた。


 ……いや、これはただ単に、気配を全く隠さなくなったという特殊なやつがいるだけだ。


 そちらのほうに走り、偵察。

 槍を片手に、大暴れしている奴がいた。

 しかし、強い。厄介な敵とみて、四人の封魔一族がかかっているのだが、むしろその数は減っていくばかりだ。

 ひとり、ふたりとその槍に薙ぎ払われ、三人目が特攻を仕掛けるも通用しない。


 四人目が逃走するも投槍によって仕留められる。

「いてっ」という声が上がったがケガはないだろう。もちもちは偉大だ。


 打撲ぐらいはありそうだが、封魔一族なら数日で治る。

 しかし、それにしても四人をいっぺんに相手勝つとは、なかなかの実力者だ。


 やられた少年少女が悔しげに布を男に投げつける。

 満面の笑みを浮かべながら、男はそれを受け取った。

 そうして戦闘は一時終わったかのように見えた、が。


 こちらに向かってくる気配がある。今、男は投げた槍を回収している最中だ。

 つまりは背後からの不意打ち、急襲。


 一見卑怯にも思えるからめ手。それは封魔一族にとって、決して批判されるものではない。むしろ褒められる。それはただの戦闘における発想とみなされるからだ。


 つまり、このことに問題はない。だが、問題は別にあった。


 素早く駆け、一直線に男へと向かう気配。きっと、実力であるこの男は、気づかないふりをしているだけだ。

 そしてこの一直線に向かっていく気配は、ちょうど俺の隠れている位置を通る、そんな状況。


 だが、少したりとも動けない。おそらく、男は俺と向かってくる気配に意識を集中している。つまり、俺がこの軌道からよけようと動くと、気づかれるかもしれないのだ。気づかれるわけがないと、高をくくっていたせいで、かなり男とかなり近い位置にいるから……たぶん気づかれるだろう。


 困ったなあ、と思う。解決策が思い浮かばないし、悠長に考えている暇もない。

 踏みつけられることにした。


 駆け抜けていく気配。

 草木の茂みにいる俺にどんどん近づいてくる。


 もう男はこちらを振り向いていた。気づかないふりはやめたようだ。


「さあ、こい!」

「覚悟ぉおお!」


 対決の瞬間はすなわち俺が踏みつけられる瞬間でもある。

 暗がりやら草木の条件が絶妙だから、駆ける気配が近くに来ても、俺のことを認識してはくれないだろう。


 そしてその時は訪れた。

 思い切り踏みつけられる感触。「ぐえっ」と俺が呻く音。飛び出してきた少年が、バランスを崩して男の目の前でずっこける。


「……」

「……」


 男は飛び出してきた少年に優しく槍を当てた。

 そして俺のいる方を見た。


 飛び込んできた少年もこちらを見た。そしてなにかを理解したかのように頷き、「なにもいなかったよ」と言った。


 ばかやろう……!


「見つけたぞお!」

「……!」


 男はサッと、布を受け取りながら俺を追いかけてくる。

 俺は逃げた。


「まてやあああああ!」

「そんなこと言われて待つわけないだろ!」


 槍を使うことから鋼の名門だろう。服装的に学年は俺より上だ。

 かなりの使い手と見た。


 けれども、と俺は考える。


 ソラファと比べればそうでもない。

 思わず逃げてしまったが勝てない相手ではないだろう。


 自信があった。こいつは強いが、俺の敵じゃない。ソラファと比べてしまっているせいで軽視しすぎているのかもしれない。しかし……状況が状況だけに、今の俺は有利すぎる。


 それに、ずいぶんとほかの生徒を倒しているようでもある。それならチームのためにポイントを今のうちに稼ぐのも悪くないだろう。


 ただ倒してしまうのもつまらない。少し、工夫してみようか。


「遅いな! そんなんじゃいつまでたっても捕まらないぞ!」

「調子に乗るなよ!」


 相手を挑発。

 完全にこちらに狙わせ、俺は準備を始める。


 森の中だから、当然足場はよろしくない。しかし、俺はこういった地形に慣れている。

 封魔一族はバランス感覚が優れている。だからこんな地形もかなり速く走ることができる。

 そして、俺はその中でもさらに速い。

 当然だ。だって番人様にそういう風に鍛えられたんだから。


 そんな今までの積みかさねが、俺に自信を与えた。

 一番楽なのはやはり、目を盗んで逃げることだ。男のスピードを見てもそれをすることはたやすい。


 だが、せっかくなのだ。


 ――倒してみよう。


 くいっと手首をひねる。

 それと同時に、走っていた男がよろめいた。

 鎖の罠だ。走る途中にこっそりと仕掛けた鎖の搦め手。

 ほんとうならこけてもらう予定だったが、よろけるだけですんだのは、さすが封魔一族というところだろう。


 だがそれで十分だった。

 一瞬の隙、決定的な瞬間。


 急接近すれば相手のぎょっとした表情が目に入る。

 武器を振り回そうとするも足払いで体勢を崩してやった。


 苦し紛れの攻撃をかわして背後へ。

 逆手に持った大鎌を、首筋につきつける。


「……参った」


 ため息のようなひとこと。まさか負けるとは思ってなかったのだろう。


「一年なんかに負けるとはなあ」


 そう言い、俺の顔を見ると驚いた表情をした。


「お前、あの業魔のやつか。星装気が大したことないって聞いたけど、なかなか強いじゃねえか」


 言い方からして、あまり差別意識はないらしい。

 むしろ称賛さえ感じた。

 ……こそばゆい感覚だ。


「ん、ありがと」

「次は負けねえからな!」


 大量の布を渡される。気配を隠さず戦っていたからか、ずいぶんと倒した数が多いようだ。


「そう言えばヘクトールがお前のことを気にしてたぞ。俺が指摘したらあいつ、すぐ怒るけどな」

「……なんだって?」


 思わず聞き返す。

 ヘクトールが俺を気にしている? 星装気測定で俺の能力が大したことないと知ったからには、警戒されることはないと思ったのだが。


「なんで?」

「うーん。やっぱり世代的にライバルがいないからな、あいつ。強いて言うならお前がライバルになるかもしれないって感じなんだろう。俺が推測した感じだが。……認めたくないが、あいつは圧倒的だからな。たぶん、競い合う相手が欲しいんだろうよ」


 ずいぶんとまた、特殊な考えだ。というより、俺とは考え方が違うだけなのかもしれないが。

 俺はヘクトールのことをライバル視している。だが本質的には俺は俺自身を試し、鍛えるのだ。


 勝ちたいという気持ちはある。

 負けたくないという気持ちはある。


 でも結局、それは自分を追い詰めるための手段のひとつとして、機能するものでしかない。

 ライバルが欲しい、なんてことは思ったことがない。俺がやることは結局、決まったものだから。

 ヘクトールはたまたはそこにいたからライバル視しているだけだ。

 ヘクトールがいなかったとしても、俺はきっとかわりを見つけるだろう。


「思うに、あいつは無敗すぎるからな。一度負けたほうがいいんだ。このままだとあいつは負けた時にぼろぼろになる気がする。ということで俺はお前を応援するよ」


 ……ずいぶんと考えられ、練られた言葉。

 ヘクトールもずいぶんいい友人を持ったものだ。鋼の名門はみんなこんなやつらばかりなのだろうか。いや、そもそも封魔一族だからいいやつっていうのも考えられるけど。


「勝てたら勝つよ」

「当たり前のことは当たり前ってか?」


 言葉遊び。

 真実は真実でしかないという、当然の事柄の繰り返し。

 ようするに、意味のない言葉だった。

 俺たちは笑いあう。


「名前は?」

「鋼の名門レジューデ・メチストスだ。お前は?」

「カルマ・ラジック」


 握手を交わす。


「またなー」

「おう! 今度は剣で戦ってやるぜ!」


 そう言って別れた。

 仲間たちは簡単にはやられないだろう。ラタリアも含めて、みんな優秀だ。

 まあ、姿をちゃんと隠している状態なら、やられていることはあるまい。



 ◇


 とんとん、と肩をたたいて目隠し。


「だーれだ?」

「バカルマ」

「!?」


 素早い切り返しだった。


「よく見つけれたなー。結構うまく隠れたと思ったんだが」


 茂みの中に身を横たえたライルがそう言った。


「いや、なかなか見つけるのは大変だったよ。ていかライル……寝てただろ? 自然と同化してたぞ」

「いや、その……前の日に、興奮しすぎて眠れなくて」

「……遠足前日の子供か」


 そういえば授業中の居眠り常習犯だったな、と思い出す。


「寝る子は育つ……」なんて言っているライルを無視してあたりを見渡す。


 集中すれば気配が二つあった。ディンとラタリアか、確定することはできないが、たぶん、あの二人だろう。


「二つ気配を見つけた」

「すけえなおまえ。そういえば実力隠してるみたいだったけど、いいのか?」

「あー。まあ、いいんだよ」

「ソウルウェポンの契約権。俺たちにも渡すためか?」

「それもある。でも俺の個人的な理由もあるから安心してくれよ」


 ライルはほっとしたようにため息をついた。

 まあ、ヘクトールがいるからが主な理由だ。もちろんみんなに優秀な成績を与えて、ソウルウェポンの契約権をあげたいな、という気持ちもある。わざわざ俺と一緒に過ごしてくれる仲間たちだ。それぐらいの恩返しはしたい。


 ソウルウェポンを手に入れれば、大概の好きな職種にはつけるだろう。例えば、番人様の率いる『暁の執行者』とか。ライルは優秀だし、将来は暁の執行者になりそうだ。


 そこで俺が番人になれば最高だな、と思う。なにもかもが完璧だ。


 仕掛けられている罠らしき鎖をよけながら気配の一つに近づいていく。

 途中、ライルがなんどか引っかかりそうになりながらも無事到着。

 ディンが座り込んで待っていた。


「全部かわされるとは、悔しいですね」

「まあ、ゆっくりきたしなー。急いでたらまた違った結果になったかもしれない」


 ディンは法の名門だから、鎖の扱いには慣れているということか。

 手には鎖を握っていることから、さっき通ってきた鎖に引っかかれば、吊るしあげられていたに違いない。頭脳戦とか得意そうなディンには、向いている戦術なのだろう。


 三つの気配が集まったらか、もうひとつの気配が俺たちに気づいたようだ。

 ほかのやつらに、気づかれないぐらいのスピードで近づいてくる。


「罠に引っかかりましたね」


 ディンが真顔で言う。

 引っかかったらしい。たぶん、ラタリアが。


「助けにいくかー」とライル。


 俺はディンの肩を叩く。


「わざわざ罠をしかけなくてもよかったんじゃないか?」

「まあ、念には念をいれたんです」


 慎重な奴だなあ、と思った。


 俺たち一行はゆっくりと森の中を歩いていく。

 だいたい十分足らずでついた。宙吊りになったラタリアがいた。


 すこしべそをかいている。

 そこそこの時間宙吊りだったから、辛かったのかもしれない。


「大丈夫かー?」とライルが言う。


「大丈夫なわけない!」


 ラタリアがそう叫ぶ。


「なんなのよ。私だけこんなのに引っかかって……。カルマはやけに強いし、アンタたちは名門だし。もう、いや」


 そういう彼女の服装を見ると土がついたりして汚れていた。

 ……様子を見るに、ここにくるまでに名門の誰かに叩きのめされたのかもしれない。プライドが傷つくぐらい、圧倒的に。


 ラタリアは普通の封魔一族だ。たぶん、俺たちの中では一番能力が低い……いや、ディンとライルが優秀すぎるのだ。名門の中でも優秀な彼らと比べるから、ラタリアは自分が優秀じゃないと言う。

 でも、ラタリアは普通の封魔一族よりもできるやつだ。


 ラタリアをおろしてやる。気まずい雰囲気。


「大丈夫?」と俺が聞く。


 ぷい、とそっぽを向かれた。そもそも、そこまで仲良くないのだから、わざわざ俺が踏み込むべきではないのかもしれない。


「……悪かったわ。ちょっと当たり散らしちゃった。ごめん」


 そう思っていたらラタリアが謝ってきた。

 急いで俺は答える。


「誰にだってそういう時はあるさ。大丈夫大丈夫さ」

「……うん、ありがと」


 意外なぐらいすんなりといった。

 封魔一族は仲間のことを思いやることができる。当たり散らすのが好きなわけではない。

 そういうものだ。


 明るい雰囲気に戻る。

 そこにはさきほどの険悪な雰囲気はない。


「よーし、じゃ、攻勢に打って出ようか」


 俺がそういうと、ライルが呼応する。


「俺が前衛だな。守りは任せろ」

「まあ、そこそこに援護はしますよ」

「私だって、やってやるわよ」


 移動を開始。

 先頭を務めるのは俺だ。索敵が一番得意なのが俺だから、そういう形になっている。なお、敵を見つけたらすぐに中衛に戻る。


「前に戦闘中の集団が二人。おいしいところをさらっていこうか。ディンとライルは逃げ道を塞いでくれ。俺とラタリアは遊撃に向かう」


 みんなが頷く。いざ、戦いの場へ。


 背後から奇襲をかけるようと回り込む。

 四対四で拮抗しているようだ。


 サッと、茂みから飛び出す。

 速攻で二人を倒す。

 驚いている間にもうひとりも。


 これで三対二対二の戦いだ。

 二人チームになったほうは逃走を開始する。

 あっちはライルとディンがいるから任せてもいいだろう。


 くいくい、と三人チームとなったリーダー格と思われる少年が余裕ぶって指でこちらを挑発してくる。

 一気に三人倒したがそこまで脅威と見られていないようだ。

 リーダー格の少年が言う。


「そっちはふたり。こっちは三人だ。逃げなくていいのか?」

「そりゃもちろん」


 ラタリアに「やろう」とアイコンタクト。

 こいつらは平均的なレベルの強さだ。俺たちなら勝てる。


 俺はニヤリと笑って見せる。

 戦いの前の高揚感。


「いくぜ、ラタリア!」

「任せなさい!」


 最初にラタリアが飛び込んでいく。

 大鎌を振るうモーションをとり、下がった。入れ替わるように俺がその場に走りこむ。


「はっ!」


 重なり合う大鎌が、俺の一撃を防ぐ。

 当人は防御せず、残りの二人が大鎌を交差させるようにして守り、防いだのだ。

 つまり、そいつが今から反撃してくるわけで。

 他の防御した二人は手がしびれたようで、反撃の様子はない。

 こいつひとりをしのげば問題ない!


 俺は下がりながら鎖を放つ。

 先ほど守られた相手の足に絡みつき、引っ張るが、星装気を開放していない俺では力が足りないようだ。

 その場に踏んばられ、耐えられる。


「ラタリア!」


 がらあきの防御となった俺の前にラタリアが現れる。

 反撃の一撃を受け止め、その次に、彼女は相手の足に絡みついた鎖を引っ張った。

 俺もそれに力を合わせる。


 結果は当然だが、相手は転倒することになった。


「はい、ひとり」


 ラタリアが軽く大鎌を当てる。

 スムーズな動作だ。やはり彼女は優秀な方に入る。


 残りの二人は怯んでいるようだ。あっさりとリーダー格のやつがやられ、優勢だった状況は互角になっている。

 いや、心理的には互角どころか不利だろう。


「くそっ、あいつ、忌み子のやつだぞ……!」


 ――そういわれてショックを受ける。


 ひさしぶりに言われた言葉だ。

 いい加減慣れたいのに、突如として動揺が襲ってくる。

 最初から心構えしておかないと、どうしても傷ついてしまう。

 悪意が籠っていなくても、その言葉は俺にとっての悪意そのものだ。


「うおおおおおお!」

「たああああああ!」


 捨て身、と言った感じで二人が同時に突っ込んでくる。

 ラタリアが大鎌を構えるのが見えた。

 俺も同じことをしなければならないのだ。


 たぶん、逃げることならできるのだろう。しかし、そうするとラタリアがやられてしまう。

 しっかり援護をしなければならない。わかっている、わかっているのだけれど、力が入らない。


 ――シャラララ、と鎖の音。


 三本の鎖が相手の動きを妨害し、さらに飛来した槍がもうひとりにあたった。


「やあっ!」


 とどめとばかりにラタリアが大鎌を振るう。

 見事にヒットし、ひとりが華麗にぶっとんでいった。

 これで全滅。


「ぼさっとすんなよカルマー」


 肩を叩いてくるのはライル。ディンもあとから参上した。

 ほっとする。危ないところだった。

 こんなのでやられたら……申し訳なさ過ぎて死にたくなる。今だって罪悪感がすごいが。


「向こうの二人も片づけましたよ。これでひとまず終わりですかね」


 眼鏡をくいっと持ち上げながらそう言った。


「ディン、ライル、助かった」


 と声をかける。


「あとラタリアもありがとうな。大活躍だったじゃないか」


 俺は三人倒したがそれはすべて不意打ちによるものだ。

 ラタリアはそういうの抜きに、二人も倒している。


「あ、ありがと」とラタリアは少しもじもじしながら言った。


 褒められることになれていないのかもしれない。


 忌み子と呼ばれることに、心構えはできた。次は大丈夫なはずだ、たぶん。

 本当に、気を抜くとすぐにこれだ……。反省はしている。だが本当に、次は対応できるだろうか?


 うっそうと茂る森の中。

 布を渡して帰っていく少年少女。

 そういえば一番気が抜けやすいのは戦いの終わりだったな、なんてことを思う。


 ――巧妙に隠れている気配。


 なかなか陰術がうまい。誰だか知らないが、俺以外のパーティメンバーには気づかれてはいないようだ。


「あーあ、気づかれちゃったか」


 突然、そんな声がする。

 木の上からさっと打ちてくる影。


 目の吊り上がった少女が、そこにいた。おそらく、上級生の。


「まあ、別にいいんだけどね」


 わざと気配を目立たせるネコ目の少女。誰かを呼んでいるのだ、なんてことは嫌でも気づく。

 わざわざそんなことをする時点で相当腕に自信があるのだろう。さっきの鋼の名門の、レジューデみたいに。


 果たしてそいつは現れた。

 整った容姿、金色の瞳。第一次成長期のはずなのにやけに大人びた雰囲気。


「……ヘクトール」


 おそらく、俺が番人になるための最大の障壁。

 そいつが、ここに現れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ