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封魔十四

 

 ぼやけた風景のなかで、昔のことを思い出していた。

 封神龍樹の下で、昔出会ったことのある女の子。


 彼女はおとなしい性格だった。俺がいつも彼女の手を引いて、外に連れ出した。

 秘境のお姫様とは誰だ? 決まってる。もう誰なのか、俺にはわかっている。


 それを邪魔するのは別の記憶だ。思い出さないほうがいい、と頭の中で響くのだ。


 期待するだけ無駄だ。お前は恵まれない子だ。

 どうせ裏切られるのなら、なにも期待せずに生きていこう。

 それが経験ってもんじゃないか?


 夢は暗転し、さらなる闇の中へ。


 俺がなにかを欲しいと願うとき、それは決まって現れる。


 ――業魔の門が開いている。


 待ち構えるかのように。いまかいまかと、俺を飲み込もうとしている。

 緑の炎で道が照らされていた。ゴブレットに灯る炎が、それを神聖にも悪魔的にも見せている。


 ぼんやりとそれを眺める。昔のことなんて、どうだっていいと、記憶が薄れ始める。

 今を見ればいいんだ、と考え、それに近づく。


 だがある程度進んだところで足は止まった。

 なぜ、だろう。


 それをくぐろうと思えばいつだってできた。だが、どうしようもなく怖い。

 くぐれば絶対的な力が手に入る。約束されている結果だ。なのに、なぜ俺はそうしない?


 最近の生活は安定してきていた。友人ができて。自分の力も着々とついてきていて。『今』はとても充実している。


 不安はあった。

 番人になれないかもしれない。

 番人様にいつか見捨てられてしまうかもしれない。

 友人も何もかも、失ってしまうかもしれない。


 それでも心に余裕を作ることができた。安定した生活のおかげで、のぼせあがる焦燥感から目を逸らすことができた。


 変わってしまうことが怖いのかもしれない。

 思えば、俺は理由を見つけては、いくつものことを怠ってきた。


 そもそも、業魔とはなんだ? この門はどういう意味で存在している?


 ――業魔は世界を救済する。最後に君臨し、永遠に世界を見守り続ける。


 おぼろげな知識と予感。俺はなにかを知っている。なのに、思い出せない。

 この空間はなんなのだろう。前もこんなことがあった。ここではまるで自分が自分ではないかのような存在に変容している気がする。その理由は、たぶん、業魔の門が近いからだ。


 門を開かなくても、近くにいるだけで影響を受ける。忌み子と呼ばれる存在は、例外なく能力が高い。


 俺はゆっくりと目を閉じる。なにかを知ろうとする。


 ――浮かんでくる、既視感に似た予想。


 運命というものがある。途中までは絶対的な線路が引かれている。だが、業魔ならそれだってねじまげることが可能だ。それが、業魔という存在なのだから。

 世界の理に支配されることがない、逆にそれを支配する存在。


 ……いいかげん向き合う頃合いなのかもしれない。調べようと思えばできるはずだ。

 確かに、難しいかもしれない。でも今だって、里からでて、外の世界に行って、この謎を解き明かすことはできる。そのはずなのだ。

 決して不可能ではない。子供だからと言い訳して、やらないだけで。


 封魔一族から生まれる業魔。人族からも、エルフからも、ドワーフからも生まれない。それが意味することは何だ? 封魔一族とは、いったい何者だ?


 ――業魔の門が開いている。


 じっと奥を覗き込む。そこには緑の綺麗な結晶があった。

 以前は見えなかった。だけど、今は見える。

 手を伸ばす。魅入られれるようにふらふらと近づいていく。


「やめろ」と言う声。

 仮面を被った、まるで死神のような姿。


「なんで? 俺はここから先にいかないといけないのに」

「そこになにがある? お前はなにもしらない。なにも、わかってない」

「わからないから進むんだ。全てを理解するために」


 振りほどく。


 焦ったように死神が言う。


「見捨てるぞ」

「……」

「お前を殺したくない。ずっと俺が育ててたのに、それでそんな結果になるのは嫌だ」


 どくん、と心臓が脈打つ音。


 ――見捨てられたくない。


 足元が崩壊していくような気分になる。

 俺のすべて。根底にあるもの。


「大丈夫だ、大丈夫だから……カルマ」


 俺の名を呼ぶ声。

 そこから愛情を感じて、少し落ち着く。

 良く知っている感覚だった。だが、それはおかしいのだ。


『彼』はここに入ることはできないはずだった。ここは俺だけの領域だ。業魔と向き合う、歪な魔が渦巻く危険な領域。

 何人たりとも存在が許されないはずだった。魂が耐えられるわけがない。なのに、なのに。


 狂おしいほどの恐怖がこみあげてくる。『彼』は俺じゃない。業魔を持たない者だ。

『彼』は世の中の理から外れていた。いくらなんでも普通ならばそんなことは、無理だ。まともじゃない。


 ――ならいったい、どんな代償を払っているのだろう?


 いつしか、言われた言葉がある。


 ――お前はひとりで戦わなくてはならない。誰も頼れない。本質的に、お前は孤独だ。俺は、手を貸してやれない。


 そうだ。俺の隣には、誰も並び立つことができない。

 わかっている。わかっているんだ。悲劇が確定的だってことぐらい。救いをいくら求めても、失うものが出てきてしまうって、俺は最初からわかっているんだ。


 ――業魔は、運命を予知する権化。


『彼』は消える。

 それが決められている運命だ。

 それが終わり、ようやく運命は動き始める。世界を救済するために。

『彼』がなにを背負っているのか、俺は何も知らない。



 ◇



 目が覚めたらもやもやしたものが胸に残っていた。それが気になって思い出そうとするが、思い出せない。

 なんだったっけか、と考えて答えを出す。


 たしか、今の生活が安定しているという話だ。それではだめなのだ。もっと自分を追い詰めないと、走り続けないと。


 問題なんて山ほどあった。

 向き合える山がひとつある。目を逸らしたい、心の傷を思い出す事柄。


 ――化け物を見るような、目。


 家族がいる。父と母と、ろくに喋ったことのない妹。幼すぎて大した話をしなかった。たしか、俺の三つ年下だ。彼女はどうしているのだろう? 自分の家から忌み子を排出して、困ったことになっていないだろうか?


 そんなこと、俺が考えたってどうにかできる問題でもない。でも、俺は知らなければならない。


 怠惰で知ることを放棄した、そんな意志の弱い存在でいちゃだめだ。向き合う余裕ができたなら、ちゃんと知ることにしよう。

 そう思って番人様に相談した。


「やめたほうがいいよ~」

「……なんで?」

「なんでってそりゃ、お前には無理だからさ」


 当然のようにそう言われる。

 それにショックを受けている自分がいた。


 今まで、俺は番人様に「できる」と言われても「できない」と言われたことはなかった。どんな無理難題でも、前例のない、そんなことでも番人様は本当にやり遂げられると信じて、俺にやらせていたのだ。『封魔一閃』を覚えされたのだってそうだ。あれは本来、第一次成長期中の子供が使える技じゃない。


「……」


 こんなことまで考えるのは考えすぎだろうか? だが、本来、こういう事柄に立ち向かう姿勢は番人様とって望む姿のはずだった。

『逃げるな、戦え』。

 ……よくそう言われたものだ。思えば、番人様は、俺の家族の問題について触れたことがほとんどない。

 強いて言うなら、「お前が番人になればそれも大丈夫だ」と言われたことがあるくらいだ。


 ……いや、考えすぎだ。

 番人様は、庇う理由がない俺をわざわざここまで育ててくれたんだ。

 こんなこと、思うだけでも間違ってる。


「どうしたの~、いまさらそんなこと」

「いや……その……」

「大丈夫だよ。いつか良くなるって~。こんなにもカルマは頑張ってるんだから~」

「……」


 やはり、変だ。努力すれば叶うなんて、番人様は一番否定していたのに。


 頑張ってるから両親とのこともいつか良くなるなんて、俺には思えない。番人様は、こんな希望的なことを、一度だって言ったことがなかったから。別に番人様のことを信じていないとか、逆らいたいわけじゃない。でも今までの習性は身に染みていて、そこからずれると一定の違和感を感じてしまう。


「なあ番人様」

「なんだい?」

「今行くべきだと思うんだよ。逃げずに、立ち向かわなきゃ。ずるずる引き伸ばしにするのは、ダメだと思う」


 両親との復縁と言っても、そのあとそこで過ごすことはしないだろう。忌み子である俺がまた関係を持てば、迷惑がかかることはわかってる。だからそう何度も会うことにはならない。ただ、少し話して、謝って……それで終わりだ。


 陰術には自信があるから、気を付ければ周囲にばれることはほぼないと言っていい。両親に会いたいというのは俺の気持ちでしかないが、迷惑はかからないはずだ。


「……」

「……父さんと母さんのことが今でも大好きだ。どうしても仲直りしたい。ダメかな?」


 番人様は微笑んだ。でも、それは少し歪んで見える。

 たぶん、番人様は、俺の選択が正しいとは思っていない。


「歓迎されると思うのか? いまお前がここにいるということは、お前の両親から引き取りたいという話がでていないということだ。そんな親のことなんて、見捨ててしまえばいい」


 ――苛烈な言葉。


 思わず怯む。ここまで番人様が言っている。番人様は俺の親に恩があるようだった。それが理由で俺を引き取ったのだと。

 でも、それは昔の話なのかもしれない。

 今はむしろ……嫌っているのではないか?


 昔のことを思い出す。

 俺に、優しくしてくれたこと。注がれた愛情を、今でも覚えている。


 彼らはバカ親と言ってもいいほど、俺を溺愛していた。なにをするにも過保護で、擦りむいただけでも本気で心配してくれた。封魔一族なら、その程度の傷、すぐに治るっていうのに。


 もう愛されていないのだろうか? 状況的にはそうなのだと脳は伝えている。しかし、なにか事情があるのではないか、と思わずにはいられないのだ。それほどまでに両親の愛情は深いものだったから。


「認めてくれよ、お願いだ」

「……やりたきゃやればいい」


 ぶっきらぼうな様子に、不安を覚える。

 見捨てられたような感覚。


 激しい迷いを感じる。頭の芯から酔っぱらうような、ふらふらになりそうな気分の悪さ。

 いろんなことを考えて、両親が俺を受け入れてくれないかもしれないということも考えた。だが、俺の思いの根幹にあるのは「きっと受け入れてくれるだろう」ということだ。


 俺がしたのは決して許されないことだ。だが、父さんと母さんなら、きっと許してくれる。盲目的なまでに、そう信じた。


「番人様、俺、どうしたらいいかな?」

「知るかよ、俺を頼るな」


 切り捨てるように、そう言った。

 いつもと違う雰囲気の番人様に動揺する。まるで、今の番人様は仮面を被っているときのように冷酷だ。


 番人様がこちらを見つめる。


「一度痛い目にあえばいい。そうすればなにもかもわかるさ」




 ◇



 家族に、会いに行く。

 番人様の言葉が耳に残っていた。それでもやらなければならないと思ったから、俺は今、走っている。


 昔いた家は、ここからだと随分遠かった。普通にいくと時間がかかりすぎてしまうだろう。封魔一族は走ってもその身体能力の高さから相当な速度が出せるが、最短距離を行こうとすると森にぶち当たってしまい、そんな足場では大した速度も出せない。


 解決策はひとつだ。木を飛び移って高速で移動する。

 こんな距離をそんな移動方法で行けば当然、体力の消耗は激しいものとなるが……なに、修行の一環だ。


「……ぐ、死にそうなぐらい疲れるな」


 たったひとりでぼやく。

 なんとか渡り切ったので目的地まであと少しだ。

 ……少し休憩しよう。


 鳥のさえずりと木々から差し込む光が心地よい。

 目を閉じればいろいろな生物の鼓動を感じる。封魔一族の感知能力は、小さな動物にだって反応できる。


 昔はよく、番人様とこういう修行をしたものだった。数えきれないアリの行動を感知したり、虫が歩き回っているのを把握したり。あまりにも多すぎる情報量に頭がパンクしそうになったものだった。

 そうやってギリギリまで自分の脳を追い詰めて、強引に能力を底上げした。


 そう言えばソラちゃんを最近見ないな、と思う。

 いつでもどこでも、ずっといられるように、というコンセプトのもとに作り出した妄想友人。空がどこにでもあるからという理由で、適当にそこから名付けた。


 少し寂しい気分にもなる。たぶん、もう俺には友人がいて、満たされていて、そのおかげで彼女は出てこなくなったのだ。きっとこれは良いことのはずだ。切り替えよう。


 少し軽くなった腰を上げて、家に向かう。

 昔、俺がいた場所。

 どういう対応になるのだろう? はじめはやはり怖がられるのだろうか?


 覚悟を持って臨もう。引き腰になっちゃだめだ。最初はいい感じにならないに決まってる。でも頑張って距離を詰めて、仲良く話して、昔みたいに父さん、母さんと呼びたい。


 ……番人様の言葉を思い出す。


 どうせ無理だと、絶対に無理だと切り捨てるような言い方。初めての否定だった。それはたしかに、俺の決意を揺るがせた。


 冷静になるべきなのかもしれない。両親は俺のことをもう愛していないのだ。今の状況が、それを示しているではないか。


 ……でも、いまさら引き下がれない。ここまで来てしまった。なのに今やめれば……それはなんだか、逃げてしまうみたいで。

 どツボにはまる考え方だ。

 でも、俺は――。


 広く開けた場所にでた。緑の多い草原。

 ここからかなり遠い場所で、大勢の封魔一族の影達が見える。たぶん、俺より年下の子だ。


 その中で孤立している子がいた。性別はかろうじて女だと分かった。いくら俺が封魔一族だとしても、遠すぎてそれぐらいしかわからない。


 俺が、あれぐらいの年齢の時。

 その時、俺はひとりぼっちだった。

 孤独の中で、彷徨っていた幼少期。

 番人様は仕事のせいで毎回隣にいてくれるわけではなかった。俺はいままでの長い間、たったひとりで過ごした――。


 そんな自分の姿と、あの孤立している子を重ねてしまう。それで少し、感情的になった。助けてやりたい、と。


 なにやってんだか、と首をふる。

 忌み子がそんなことをしたって余計に状況が悪くなるだけだ。どうせなにもできないくせに、同情だけを知らない奴に向けて……ばかばかしい。


 ……切り替えよう。俺はまず、自分のことを解決しなければ。


 家が見えた。鋼の名門の職人が作った、石造りの、少し特別な家。


 ノックしてみる。心臓がばくばく音を立てている。

 返事がない。もう少し強めに叩く。結果は同じ。


 誰もいないようだ。出かけているのだろうか。


 周囲をうろうろしながら過ごす。逃げたくなってくる。拒絶されるのは目に見えてる。でも、両親は俺のことを愛してくれていた。その愛情は嘘ではないはずだ。


 俺が孤独にあんなにも苦しんだのは、両親の温かみを知っていたから。それでそれを失って、悲しくて、辛くて。


 今もはっきりと覚えている。両親の愛情は本物だった。それならば、復縁は不可能ではないはずだ。


 ……きた。


 長い黒髪が見えた。俺と同じ髪の色。

 長いまつげとほっそりと華奢な体つきは、女の子らしく、可愛らしく見えた。

 名前はティカ。ほとんど話したことのない、俺の妹。


 予想外の出来事だった。さっきまで両親になにを話すかを考えていたが、来たのは妹のほうだ。

 内心慌てる。

 いったいどうすればいい? ばかだ、これぐらいのこと、予想しておくべきだった。


「あの……だれですか?」


 困惑したようにあちらから話しかけてくる。このような事態は珍しいのだろう。

 迷って緊張して、それでも平静なふりをして、俺は口を開く。


「一応その……君の兄だ」

「……え」


 表情が歪む。それがどんな感情なのか読み取ろうとした。


 恐怖? 怒り? 喜び? それとも……。


「……なんでいまさら、戻ってきたのよ」


 強い意志を秘めた黒い瞳。

 まるで立ち向かうかのような、そういう類の。


「……ごめん」


 そんな言葉しか出なかった。今まで考えていたことが霧散していく。

 気圧される。こんな時に強くない自分が、情けなくなる。


 ティカは――妹は、怒っても、怖がってもいなかった。


「そんなこと、言われたって……いったい、なにがしたいの?」

「その、あの、父さんと母さんと仲直りしたくてそれで、その」

「そのためにわざわざ会いに来たんだ」

「……うん」


「随分と、時間が経ってから来たんだね」と妹は言った。


 たしかにその通りだった。本来はもっと早くに来るべきだったのだ。でも俺にはその余裕がなかった。

 しかし、それは言い訳に過ぎない。根本的に、悪いのは俺だ。


「ごめん……もっと早く来るべきだった」

「そうでもないよ。アンタはずっと、ここに来なくてよかった」


 拒絶の意志。


「お父さんとお母さんに会いたいって? アンタの気持ちなんてどうだっていいよ。もう、お父さんとお母さんの前には現れないで」

「……そんなの」

「せっかく、乗り越えたのに。なのにいまさら戻ってこないでよ! いまさら知らないわよ!」


 たぶん、俺は両親にトラウマものの恐怖を産み付けた。実の息子に圧倒され、蹂躙されるなど……想像したくないぐらいに、惨い。

 そういうことを。


「ほんとうに……ごめん」

「ごめん? そんなのどうだっていいよ……。もう、ここにはこないで」


 涙の溜まった瞳。


「アンタがここに来たら、またお父さんもお母さんも傷つく。だから……お願いだから、もうやめてよ」


 妹のなにかを守ろうとする態度。


 ――俺はそれを知っている。


 愛情。なにかを守ろうとする行為。

 両親が俺にくれたもの。番人様が俺に感じさせてくれるもの。


 妹がしているのはそういうことだった。両親のことを思ったが故の、守るための行動。


 俺はなにも知らない。両親が今までどうしてきたのか。妹がどんな思いで俺のことを聞かされていたのか。

 きっと俺のせいで傷ついた両親の姿を見ているはずだった。だからきっと、妹は俺の存在を許さない。

 両親を愛しているから、もう傷ついてほしくないから。


 崩れていくものがあった。どんなことがあっても俺は両親と復縁するつもりでいた。でも、所詮俺は忌み子だ。最近友達ができたからって、忘れていたのかもしれない。


 妹は俺の存在は両親を傷つけるといった。今更遅いと。もう終わったことなのだと。


 思わずばつの悪い笑みを浮かべる。なんでこうもうまくいかないんだろう。忌み子と言う肩書が、すべてを邪魔する。

 ライルの時の状況と似ている。しかし、まるで違う状況だった。


「もう父さんと母さんは、昔のことを乗り越えて、普通に過ごしてるんだよね?」

「うん。もう終わったことだから。もう終わったままでいいの」

「そっか」


 背を向けた。泣きそうな顔を見られないように、俺が傷ついているなんて、悟られないように。

 こんなことを思う資格なんてないのはわかってる。それでも……。


 番人様の言う通りの結果になった。俺は、痛い目にあったのだ。

 俺のことはもう終わったことで、両親は清算し終えている。いまさら行ったってことをややこしくするだけ。また、父さんと母さんが傷ついてしまう。


 俺の居場所はもうない。このまま引き下がれば円満だ。すぺて丸く収まる。たぶん、それでいいのだ。


『お母さん大好き!』なんて言っていた幼い自分を思い出す。


 もう終わってしまったことだ。父さんと母さんとの再会は叶わないし、もうそのつもりもない。


 でもきっと、俺が番人になればすべて叶うはずだ。そうなれば父さんと母さんと、また笑って話せるはずだ。


 番人になるというのはそういうことだ。里一番の権力者。きっと、なにもかも許される、誇りに思ってもらえる。

 だから俺は、いっそう決意を固めるしかなかった。



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