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凶作

「アキラくん、楽しいことは自分で見つけるものなんだよ」


と、葉山は賢しげにそう言った。


「……なんで急に?」

「だってそうでしょ?」


例えば、自分で動かなければなにかがやってくることはない。待ってるままじゃなにも始まらない。欲しいものがあるなら、ちゃんと考えて行動しなくてはならない。


「はあ」

「○○くんっていつもつまらなそうな顔してるよね」

「そうでもないでしょ」

「そう?」


まるでお見通しだとでもいうかのように、彼女は笑った。

歳は一つとして変わらないのに、彼女はいつもそういう言い方をする。


カフェのバイト、俺たちはよく帰りにこうして喋る。今日はお疲れ、だとか、大変だっね、だとか、そういうことを。付け加えて葉山は奮起したかのようになにかを始めたがるような発言をすることもある。


「例えば夏祭りに一人で行ったりだとかさ!」

「いってらっしゃい」

「例えば一人で海に行くとかさ!」

「屋上で一人で叫ぶとか」

「えー」


不興を買った。どうやら俺と彼女の感覚は少々違ったものらしい。


そもそも俺たちはノリが違うのだ。かたや外出大賛成の活発派。かたや引きこもり大肯定の引きこもり派。

バイトというものを始めると、同じ高校というだけの理由で仲良くなることがある。

高校に上がりたての春先から、バイトをはじめてはや二か月。趣味が合わないのに、俺たちの間には立派な交友関係がある。


「俺のじゃいやかよ」

「やー、そうじゃないよ? でもなんか……暗いじゃんそういうの」

「相容れないな」

「アキラくんがこっちに合わせてよ」

「残念だけどそういう才能はないんだ」

「頭を叩けば才能が開花することもあるらしいよ」

「これ以上俺の頭を悪くしないでくれ」


あはは、と葉山が楽しげに笑ったところで、「学生ー、ほらそろそろ帰れよー」と間延びした店長の声が聞こえた。「はーい」と葉山が返事をしてバックルームの扉を開ける。そこから三百円が乗せられた手のひらがにゅっと伸びて、いつもの儀式を済ませるみたいに葉山がありがたくそれを頂いた。

店長のことは好きだ。店が忙しい日は、こうやって飲み物を奢ってくれることがある。


「……なんていうかさ」


歩き始めて葉山の背中に声をかけると、「ん?」と彼女は律義に振り返った。


「俺だって外に出かけたりして、楽しい高校生活を送ってみたいなって思うこともあるよ」

「もしかしてアキラくんヴァンパイアなの?」


俺は葉山の言葉を無視した。


「でもあんまり楽しくないんだ。外って暑いし、移動がだるいし、労力に見合わないって思うんだ。部屋でゲームするだけで十分な幸福感が得られるのに、労力をかけたそれがその幸福値を上回れるもんなのかな」

「……アキラくんってさ」


葉山は見たことのない、眉を顰めた、困ったような顔をしていた。

それは厳しく諫めるような、されど共感と諦念の狭間にあるような、そして自分の言葉に自信が持てないかのような、そんな表情で。


「一回さ、やってみればいいんじゃない? おもっきり疲れて遊んで、へとへとになって寝る。今日の幸福値はいくつだったかなーなんて考える暇がないぐらいのやつを」

「いや、なんかそこまで理屈っぽくというか、世の中を斜めに見てるわけじゃないんだけど」

「ひよるな!」


彼女が喚く。


「どうせ世の中つまんないみたいに考えてるくせに! やっても無駄だって思ってるくせに!」

「や、そこまででは……」

「前置きするな! 予防線を張るな! どうせ似たようなこと考えてるんだから、一回私の言う通りやってみればいい」


確かに、彼女の言うことは間違っていないのかもしれない。

けれど自分で自分を動かすにはどうにも……消費するエネルギーが多すぎる。だからいつも、途中で頓挫する。いつだって、友達と遊ぶのは向こうから持ち掛けられたときだ。だってそれで、不自由を覚えたことはない。


「じゃあ一緒にデートするか?」

「よし! ……え?」

「なにその反応」

「恥ずかしいなって」


嫌そうだった。


「お前はなんだ。さっきから俺を一人で夏祭り行かせようとしたり、海に行かせようとしたり。鬼か。責任を持て責任を」

「まあ、そこまでいうなら、仕方がないと言わなくもない」


彼女はあっさりと折れた。


「さっきの微妙な拒否反応はなんだったんだ……」

「一回断っとくことで私の清楚ポイント・ガード固いポイント・高値の華ポイントを向上させとこうかな的な」

「ドキドキするからそんな駆け引きはしないでくれ」

「えー」


俺たちは軽口を言い合う。

きっと俺たちは刺激に飢えている。なにかが起こることを願ってる。

たぶんそこだけは、お互いに似たものを感じてる。


夜十時の暗い街の中、彼女の姿を街頭が照らした。髪の長さはミディアム。すらりと伸びたからだに、女の子にしては高い身長。目鼻立ちが整っていて、若干西洋系の血が入っていると告白されても不思議に思わらない。


仕事終わりのテンションに飲まれた彼女は、くるりとその場で一回転。


「今なんで回った?」

「私の優雅さ・テンションの高さ・ご機嫌度をアピールしとこうかな的な」

「そのアピールいるのか……?」


一緒に帰ろっか、と彼女はにこにことしたままで言う。

どこか気の抜けない思いをしながら、俺は思わずため息をついた。
















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