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封魔一族二

 封魔一族にはいくつもの能力がある。

 敵の目を欺く認識阻害の能力。

 纏うことで身体能力を飛躍的に上昇させる気、星装気。

 敵の動きを封じることができ、手から出すことができる封魔の鎖。


 どれをとっても、俺の能力は高い。

 それも全部、俺が業魔を飼っているからだ。

 この能力の高さは番人になるために役立つものであり……同時に、皆に好かれないであろう厄介な部分だ。


 そんなことを考える。

 だが俺は、番人になると決めている。

 尊敬する番人様みたいに、俺はなるのだ。


 ベイルとヘクトールと別れた俺は、自分の寮の前に来ていた。門をくぐれば、すぐに自分の部屋。

 寮の部屋の前にはその部屋の主がわかるようにと名前がかけられていた。


 カルマ・ラジック

 ディン・クシャル


 それを見て、思わず顔がひきつる。

 名門、と呼ばれるものが三つある。星の名門、鋼の名門、法の名門。


 クシャルは法の名門だ。あまり、仲良くできる自信がない。ベイルはすこし偉そうなやつだった。ヘクトールは違ったかもしれない。

 そもそも、特権階級にいるやつが俺をどうみるのだろうか? 忌み子に、なんと声をかけてくれる?


 悩んでも仕方ない。

 扉に手をかけ、部屋に入る。


 部屋は結構きれいだ。きちんと掃除されている。

 ベットに横たわる人物がいた。きっとディン・クシャルだろう。


「こんにちは」と声を掛ける。ディンと思われる人物は鋭い目つきで俺を見た。


「……はい」

「俺、カルマっていうんだ。そっちの名前は?」

「部屋の前に書かれてあるようにディンです。そのまま呼んでください」


 好感触かもしれない。


「僕は最初に言っておきますが」

「……ああ!」

「あまりなれなれしく接してこないようにお願いします」

「……え?」


 動揺が広がる。他人に拒否される感覚。


「あなたは忌み子です。僕としてはあまり関わりたくはない。しかし、ルームメイトとして関わらないといけない時もあります。その時は最低限の接触でとお願いしたいのです」

「…………そうか、わかった」

「すみませんね。あなたに対して嫌いだとか、そういう感情はありませんよ。でも、あなたの存在は……そういうものです」


 それは慰めなのか、なんなのか。

 ……いや、諦めるにはまだ早い。


「じゃあ、掃除当番を決めよう!」

「一週間の最初の四日を僕が、三日をあなたがお願いします」


 一瞬で会話がまとめられた。


「いや、それだと一日分ディンが損してるじゃないか」

「損もなにも、僕はあなたに頼みごとをしたじゃないですか。それを聞き届けられたのだから、それはすなわち借りです。僕はここで、それを返さなくてはなりません」

「えーと、その……そうだな」


 なにも言えない。


「では、よろしくお願いします」

「……ああ」


 ……ディンは、一度も俺の名前を呼ぶことはなかった。

 友達が増える兆しは、なかなか見えない。



 ◇




 俺たち生徒は武器庫に来ていた。今日はここで封魔一族の能力についてを聞かされる。そのあと、自分の武器を選ぶ時間だ。


「えーたぶん君たちも少しは知っていると思うが、封魔一族には四つの種族固有の能力がある」


 女教官がそういった。結構若い。俺たち封魔一族は十八から成人で、寿命は三百年ほどもある。星に連なる力で寿命が長くなっている、なんていわれているらしい。

 この女教官の年齢は三十いっていないようだ。老いが見え始めるのは二百年からなので、この教官の見た目は非常に若い。


「まず、私たちは魔法が使えない代わりに魔法が効きにくい。

 次に認識を阻害して、敵に気づかれないようにできる。

 次に星装気でもともと高い身体能力をさらに強化できる。

 次に鎖を生成でき、それを操って敵を縛りあげることができる。我々は人間に近いが、まったく別の種族だ」


 バサッとマントをはためかせ、女教官はそういった。実にさまになっている。


 いつか俺たちにもマントが生える。封魔一族は成人になると体からマントが生えるのだ。そこは封魔一族の特徴である魔法耐性が最も高い場所でもある。


 周りは興奮で包まれていた。鎖を出せるやつがちらほら自慢している。種族固有の能力に関しては、この十六という年から発現するものなので、ちょうどこの時期に学園に集められるのだ。ちょっと早く発現した奴は親から少しは教えてもらっていたのだろう。


 ……実は俺はほとんどの能力が発現しているので、少し仲間とかに自慢したかった。


 友達がいないからできないけど。


『そんな卑屈な考えじゃ友達出来ないよ』と頭の中の妄想友人ソラちゃんが言った。


 うるせぇ! と心の中で叫ぶ。

 ソラちゃんはどこかに飛んで行った。


「よし、つまらん話は終わりだ! 武器を選んでいいぞ!」


 よく通る声で女教官が言った。

 その瞬間、生徒の目が光る。

 勢いよくスタートを切り、気に入りそうな武器がないか探し始める。

 運動会みたいなスタートだ。


「なあ、これ見てみろよ」とある生徒が言う。

「なんだ?」


 生徒が大鎌を見せた。封魔一族はなぜだか知らないが、鎌を好むものが多い。というよりも九割の封魔一族は鎌を好む。なぜかは俺も知らないが。


「この鎌のライン……よくない?」

「確かにそうだが……俺の選んだやつを見てくれよ。先端部分のとがり方がクールすぎる……!」


 どれも同じだぞ、と言ってやりたかった。


 俺もだいたいの封魔と同じく鎌を選ぶ。練習用とは言え本物の刃だ。俺は業物っぽいものを手にとった。ラインから先端にかけての造形が完璧だ。


 ああ、カッコよすぎる……。


 その他の周りを見てみると槍を選んでいる者もいた。

 鎌以外の得物を扱うのは鋼の名門、と決まっているのだか、おどおどしているところを見ると違うらしい。一割は鎌以外を好むやつもいるということだ。こういうやつは大抵、鋼の名門が開いている道場に通うことになる。


「よし、みんな選んだな?」と女教官が言った。


 だいたい完了したようだ。


「では、各自、ペアを作れ!」


 ……え?

 …………え?


 周りで続々とペアができ始める。突然のことに俺はキョドった。完全な不意打ちだった。

 結果はあまりにもわかりきったことだ。


 俺は……あぶれた……! ひとりになった……!


 頭の中の友人、ソラちゃんの気配を感じる。俺は頭を振ってなにも考えないようにした。

 俺は武器庫に取り残された。女教官と二人きりだった。


「あーその、なんだ」


 ごほんごほんと、女教官が咳払い。


「気を落とすな。私が一緒にやってやるから」


 あまりの優しさに泣きそうになった。




 ◇



 まず最初に思ったのは恥ずかしさだった。だが仕方がないことだった。


 ことの顛末はこうだ。まず、女教官が皆に指示をしたのだ。


「君たちが持っているのは本物の刃だ。重さになれてもらう必要があるからな。そこで、安全のためにこの『モッタン』というものを刃に塗ってもらう」


「もちもちだ」「あれ、もちもちじゃん」などの声がする。


 モッタンとは封魔一族の里でしか作れない作物だ。ゆでてもよし、煮てもよしで非常においしい食材となっている。また、刃に塗りつけて切れないようにもできる。その粘着力はめちゃくちゃ優秀で、戦闘訓練での必需品だ。

 俗称を『もちもち』といい、皆が大好きな作物だった。


「では……少年。私が教えるからみんなの見本としてモッタンを刃に塗ってくれ」


 そして俺が『みんなの前でお手本をすることになった』のだ。

 これだけでも十分恥ずかしい。だが問題は別にある。


 モッタン……もちもちの塗り方を、女教官に教えてもらっているのだ。

 その時に……手とかがあたる。


 生徒からの羨望の視線が注がれる。女教官はなんというか、結構美人だった。

 俺は番人様としかほとんど喋らない。他には番様の部下とたまに話すがそこに女性はいない。

 ようするに、俺は女への耐性がないのだ。

 健全な青少年の純粋さをなめないで欲しかった。

 少しは察してほしかった。

 俺の手は震えている。


「どうした、刃に触れるのは緊張するか?」

「だ、大丈夫です」

「まったく、仕方のない奴だ」


 そういって女教官が俺の手を包み込みながら作業を続ける。

 純粋な青少年こと俺は普通に動揺した。


「へ、平気です!」


 俺は仏のごとき心境ですべてを乗り切ろうとした。

 しかし、そんな修業はしたことがなかったので無理だった。


「強がらなくていい。そういう奴もたまにいる」

「も、もちもちです!」


 俺はわけのわからないことを口走っていた。

 本当は「もちろんです!」と言いたかったのだかそれもなんだか変だ。


「ふふふ」と女教官が笑う。


 始めて見せた微笑だった。

 だから生徒がすこし沸いた。

 俺向かってうらやまなんとか、みたいなことを言っている。

 やめてくれ……!

 作業は無事完了した。鎌の刃はもちもちに覆われ、殺傷力は皆無となった。


「よし、では君たちも始めてくれ」


 生徒たちが作業に取り掛かり始める。


「手が汚れたな。少年、私たちは手を洗いに行こう」

「はい、もちもちです」


 また間違えた。俺は馬鹿だ。


「またそれか?」


 女教官が少し口角をあげてそう言う。

 まあいっか、と思った。


 俺たちはトイレへと向かった。手を洗い終わって戻ってくると、ばったり他の生徒に鉢合わせた。もちもちで汚れた手を洗い流しに来たようだ。


「なあ、おまえ」とそいつが言う。


 友達になれるか! と俺は期待した。


「ずいぶんいい気になってるんだな」


 その言葉には、期待していたものよりもずいぶんと落差があった。


 俺が忌み子だから、だから近づこうとすることさえ嫌がられるんだろうか?

 そんなことねえだろ! と心の中で叫び、一歩進もうとする。なんとか仲良くなろうとして。


 でも足は動かなかった。

 望んでいるはずの行動を、俺の体は取ってはくれなかった。

 ……どうしても、他人からの拒絶を感じると、怯えが走る。


 呆然として、動けないままでいると、そいつはいっそ憎々しげなほどの気配を漂わせ、こう言った。


「――忌み子のくせに」


 それを聞いて、心の底で、鈍い音がした。



 …………。


 心が折れかけた。

 でも、屈服は許されなかった。

 縮こまって傷ついて、そんなことになるよりかは、まだ怒りの感情を胸に抱くほうが、俺にとっては正しいはずなのだ。


 でもどうしようもなく、傷つくのだ。

 差別は辛い。俺は普通に仲良くしたいのに、相手はそうは思ってくれない。


 俺はなにも答えなかった。返事をせず、なにもせずに戻った。

 俺は笑う。辛い時こそ笑うように、と。


 なにもなかったんだ、と自分に言い聞かせる。

 番人様が言っていたことだ。


『自分がかわいそうなやつだなんて認めちゃいけない。嘘の仮面を被り、笑え』


 だから俺は自然な笑顔を浮かべる。俺はかわいそうなやつなんかじゃない。

 例え嘘でもずっと嘘をつき続ければ本物になる。だから俺は、自然な表情で笑うんだ。


 女教官がまた指示を始める。軽くうちあってみろとのことだ。相手の力量を考え、差がありそうな奴はちゃんと加減するように、と注意を促す。


 俺は武器を手に取る。


「よし、思い切り来ていいぞ少年」


 俺の相手は変わらず女教官だ。

 ……俺はひとりでいたから、女教官と組むことになったんだ。

 それだけなのに。

 頭がガンガンと痛む。意識が混濁しそうになる。

 ぽんやりとする。倒れてしまいたい。


 ――こんな時に、やけに頭が冴える。


 相手が俺のことを見定めようとしているのがわかる。

 女教官は俺に普通に接してくれた。でも、それは彼女が大人だからだ。

 表に出さないだけで、本当は警戒している。

 悪意や敵意、そういったものが過敏なほど感じ取れるのは、業魔を飼っているからこそなのだろう。


「こないならこちらからいくぞ」


 はっ、と意識が戻る。

 女教官の得物は剣だった。


 ――鋭い一撃。


 後になって思えば、それは俺の勘違いだった。いきなり見えたから、早く感じただけで。


 俺はとっさに大鎌を振るう。番人様に鍛えられた、普通じゃない一撃だった。

 女教官はなんとか受け流した。

 そして、勘違いなんかじゃない、本当に鋭い一撃を繰り出した。

 きっと俺が強すぎる一撃を放ったから、自然と体が反応したんだろう。

 女教官の驚愕の表情。

 間違えてしまったという顔。


 ――ぎりぎりで身をひねってかわす。


 あまりの苛烈さにわき腹が少し切れる。


 俺は目の前の存在を敵として認識しようとして、にらめつけようとして……目を閉じた。

 馬鹿なことをしてしまった。「忌み子のくせに」なんていわれた程度で平静を失っていた。


「大丈夫か!」と女教官の声。

「平気です」

「ほんとうにすまない! すぐに医務室に行こう」


 女教官のマントに包まれながら、医務室に向かう。

 それを振り払いたい衝動に駆られた。

 本当は寂しいくせに、誰かを拒絶したい、そんな感覚。


 バカみたいだ、と思う。

 俺はおとなしく一緒に医務室に向かった。

 こんなことで動揺してしまう自分の心の弱さが、嫌でたまらなかった。



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