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第1話 〜彼女との出会いは〜

【第1話】

20××年8月。俺—————Lv.59プレイヤー、アクトは広大な草原の中にいた。右手にはボロボロになった長剣。長剣とは言っても、彫刻が施された優美な物ではなく、使いやすさを重視した無骨なものだ。固有名は「ダマナル」。この前倒したモンスターからのドロップ品で、使い易かったのだが、連戦に次ぐ連戦で大分消耗し、当初のの輝きは薄れ、切れ味も落ちてきていた。おそらく、もう数回しか使えないだろう。一応、腰に投擲用のピックが数本装備してあるが、この広い平原では投げても避けられるのがオチだろう。つまり、今の俺の武器はこのダナマルだけということだ。もしこのだだっ広い草原の中で武器が無くなってしまったら、というところまで考え、俺はそこで思考を止めた。

ほんの数百メートル先に、モンスターの姿を捉えたからである。『ほんの数百メートル』と聞いて首をかしげる人も中にはいるだろうが、ゲームでは普通のことだ。

サウンド・エフェクト・オンライン、通称SEOには“スキル”というものが存在する。プレイヤーはそれを取得して、レベリングやこの世界での生活に役立てているというわけだ。スキルは多岐に及び、長剣や細剣などの戦闘系から、裁縫や料理など、生活に役立つものまで存在する。俺が取っているのは“索敵スキル”。これを使うと、たとえ敵が死角にいたとしても気配を察知することができ、集中や鍛錬次第ではたとえ自分が暗闇にいても、その効果の及ぶ範囲は数百メートルまで及ぶ。俺の練度ではまで400〜500メートルが限界だが、この世界で生き残っていくのにとても重宝している。俺はこのスキルの他に、近距離戦闘用の長剣スキルと、長距離戦闘用の投擲スキルを取っている。贅沢を言えば、この先のエリアにいるモンスター対策として、対魔術スキルも取りたいのだが、俺のレベルじゃまだスキルは三つしか取れないため、レベルが65に達してスキルスロットが一つ増えるまで我慢しているという状況だ。

モンスターへ攻撃をするため、距離を図ろうと視線をモンスターへと向ける。と同時に、俺の視界の左上に紫色のHPゲージが現れ、ターゲット状態になる。ターゲット状態と言うのは、相手を攻撃対象としてみなした状態のことだ。このゲージはモンスターもプレイヤーにも等しく存在する。つまり、モンスターにも俺のゲージが見えているという事だ。この世界のゲージはJOBによって色分けされていて、モンスターは紫、ヒーラー(回復を得意とするJOBのことだ)は緑、剣士は赤色……という風に分けられている。(もちろん他にもあるが)そしてゲージの上にはそのものの名前がつく。モンスターならその個体名が、プレイヤーならプレイヤーネームが、という感じだ。

俺がターゲットしたのは『トレファンブル・ボロス』通称トレボロと呼ばれる、このエリアでは雑魚扱いされているモンスターのうちの1つだ。例えるなら、某ゲームのあのス○イムだろうか。まぁ、かと言ってもこのエリアでの話だ。もちろん他のエリアへ行けば変わるし、そのプレイヤーのレベル次第でどうとでも変わる。初期プレイヤーに取っては倒すのも至難の技だと俺は勝手に思っている。俺のレベルは59。対するトレボロのレベルは35。周りはひらけた平原だから、トレボロ特有の突進攻撃も容易に避けられる。つまり攻撃を武器で受け止める必要がないため、武器を消耗した状態の俺には願っても無い好条件だ。

こいつを倒したら一度拠点としている街へ戻ろう……。そう思った俺は、無音で長剣を構え、攻撃のプレモーション(予備動作のことだ。)をとった。刀身が青のライトエフェクトを帯びて光り出す。その光に反応して、トレボロが振り向くーーーー

その刹那、トレボロは赤いライトエフェクトを煌めかせ(きらめかせ)、飛散した。恐らくトレボロの視界にゲージが表示されるよりも早かっただろう。

俺は半ば無意識に剣を左右に振って、それから音高く鞘にしまおうとして…

澄んだ音と共に、剣が折れた。

「………は?」

思わず気の抜けた声が出る。慌てて剣を体の前に持ってくると……

やはり折れている。上から見ても横から見ても、斜めから見ても薄目で見ても、どう見ても折れている。幼稚園児でもわかるくらいパッキリと、真っ二つにボッキリと。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

叫ぶ俺。沈黙する剣。やがて俺の愛剣ダナマルは、銀色の輝く破片となり、四散した。

「………これからどうしろって言うんだよ……」

そう。さっき言った通り、ここは平原。SEOの中では街や村など、特定のエリアや場所以外ではモンスターが跋扈ばっこする危険エリア、通称ダークテリトリーだ。もちろん平原はダークテリトリー。つまり、武器を持たないと死ぬ。そして俺は先ほど言ったこの平原では全くもって効果を発揮しないピック以外には、今武器を持ってない。

「……モンスターと会ったら死ぬな……。」

そう呟き、意識を集中させる。自然に索敵スキルが発動し、周囲のモンスターを探す。

「………いない…か…。」

ホッとして息を吐く。一刻も早くここから安全エリアへと移動したい俺は、ダッシュで移動を開始した。マントに簡素な皮装備、プレート類無しという装備が功を奏し、俺はこれまでで最速のスピードでダークテリトリーを駆け抜ける事に成功した。

前方に街が見え始める。おそらくあと数十秒でつけるだろうと思い、俺の足は無意識的に速度を落とし始める。

————それが間違いだった。

「———————っ!?」

突如、右腕に激痛が走り、衝撃と共に吹き飛ばされる。もちろん受け身などとれるはずもなく、そのまま地面へと叩きつけられる。

おかしい。さっき索敵スキルで探した時には、周囲には敵はいなかったはずなのに…。そう思いながら体を持ち上げ、攻撃の主を探す。自分のHPゲージが3分の1ほど減っているのを見ると、相手はかなりの高レベルモンスターのはずだ。

「どこだ……!どこにいる……!」

懸命に探すが、俺の視界にモンスターの姿は一向に映らない。

————————その時だった。

「危ない!!」

誰かの声がした。瞬間、体が宙に浮く。モンスターによるものではない。何か、風の力で持ち上げられたような感覚だ。

「……!?」

危ない?何が危ないのだろう?そう考えた俺は、恐らくこの風を引き起こした張本人であろう声の主を探す。声色からして女だと思うが、こんなエリアまで女プレイヤーがくるのはそうそうないはずだ。死に際の幻聴か…?

そう思った俺の眼の前を、黒い影が横切る。プレイヤーではない。

「何だよ…あれ……?」

まず、デカイ。恐らく5メートルは余裕で越しているだろう。口には太古に存在したといわれているサーベルタイガーも顔負けの長く、鋭い牙と爪。恐らく、俺はアレで引っかかれたのだろう。爪にはまだ新しい血が付いている。そして、俺が1番驚いたのは、そいつの背中に生えている、

————二本の羽だった。神話に出てくる悪魔のような翼が、そいつの体を空中で支えていた。俺は恐る恐る視線を動かし、カーソルをそいつへと合わせた。個体名は『ロスト・フィティッチ』。レベルは78。予想はしていたが、それを遥かに超える強さに、俺は驚愕した。

しかし、その驚愕はすぐに別の感情に変わった。

巨体の陰に、小さな影が見えたのだ。フードを目深に被っているため、どんな顔かはわからない。時々、轟音と共にその周囲に色とりどりのライトエフェクトが飛び交う。戦い方からして、魔法使いだろうか?いや、魔法使いは接近戦は好まないはずだ。しかし、あのライトエフェクトは魔法を使うか、特殊なアビリティをもつ古代武器ウェポンだけがなせるもののはず…。

そこまで考えたところで、俺は思考を止めた。影が動き、何かを操作したのだ。左手を振ったということは、恐らくメニューを開いたのだろう。しかし、なぜこのタイミングで…?という疑問は、すぐ解決した。

彼女(おそらく、だが)が取り出したのは魔法使いが使うような金属で出来た杖だった。そこから伸びた長い青色のリボンが特徴的だった。見た感じ、レアリティは高そうな武器だが、さすがに杖では接近戦は戦えない。敵の攻撃を防ごうとして、衝撃に耐えられず折られるのがオチだろう。

そんな俺の思考を読んだのか、彼女は一度モンスターから距離を取った。

…と思ったのもつかの間、杖をまるで剣のように中段に構え、モンスターに向かって一直線に駆けていく。

「やぁぁぁぁぁっっ!」

そして、気合いとともに杖を真横に振り抜いた。マントがなびき、フードが後ろへと取れる。杖と同じ、深い深い青色の髪が、風に揺れてとても綺麗だった。

————が、なにやってんの!?というのが俺の素直な感想だった。剣ならまだしも、杖であんな高レベルモンスターに傷を与えられる訳がない。死んだな、、と思いつつ、俺は少女が殺される瞬間を見たくないと思い、思わず目を閉じた。

しかし、いつまでたってもオブジェクトの破砕音はしない。恐る恐る目を開いてみると、そこには

————地にひれ伏し、自慢の翼を折られ、背中に杖を刺されているロスト・フィティッチと、その杖を満足そうに踏みつける少女がいた。

「いやおかしいだろ!?」

俺は思わず叫んだ。その声に反応して、少女がこちらを見る。目があう。少女がにっこりと笑う。

————やばいやつだ。

俺は瞬時に警戒レベルを最大まで引き上げ、臨戦態勢をとった。相手が少女だからと言って油断はできない。だって彼女は、モンスターを踏みつけ、満点の笑みを浮かべていたのだから…。

そんな事は何も知らない少女は、俺に向かって左手をかかげた。

殺される。そう俺は覚悟した。しかし、俺の体はふわふわと宙を浮き、地面へとゆっくり着地した。

少女がモンスターから足を離し、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。そして、笑顔でこう言った。

「…やっと見つけた。私の《パトロン》。これから私と一緒に来てもらうわよ。」

「へ………?」

こうして、職業剣士、レベル59プレイヤーの俺、アクトと、職業不明、レベルも不明、そして恐らく変な性癖を持つであろう少女の冒険は始まった。


Go to next area…

どうでしたでしょうか。まだまだ謎の多い少年少女。これからの物語では、彼らの秘密に触れつつ、どんどん新しいプレイヤーも出て来ます。

どうぞ、これからもよろしくお願いします。

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