オモイ ネガイ セツナサ
人を「好き」になるのは簡単だ。
でも、
人を「愛する」のは難しい。
なぜなら、
「好き」は自分を優先した感情であるのに対し、
「愛」は相手を優先した感情だからである。
他者を愛するという事は、他者の立場になって考えるという事である。
そして、
自分を愛せない者は、他者を愛せない。
あの日、初めて会ったときから、この想いは日を追うごとに強く、また強くなっていき。
そうして、私は彼の事を想っては、切なさを募らせてゆく。
あの人は、こんな私の気持ちには気付いていないだろう。あの人は今日も、また、皆と同じ様に私と接し、皆と同じ様に私を見ている。
「―嫌―」
皆と同じなんて、「嫌」。私だけは彼の「特別」になりたい。私だけは彼の「特別」で在りたい。あの子が彼にとって「皆と同じ」でも、私だけは「皆と違う」存在で在りたい。
彼が私にとって「皆と違う」、「特別」な存在で在る様に。
「おはよう、光一君。」
「おはよう、橘花さん。」
「もう、香でいいって、いつも言ってるのに。」
「いや、何と無くそっちの方がいいかな、って。」
「…そっ、か…。」
私が彼を下の名前で呼ぶのは、彼に少しでも近付きたいからである。そして、彼にも私を下の名前で呼んでほしいと、いつも思っている。
私が俯いているのを見ると、彼は「どうした?」と声をかけてくれた。でも、これは「私だから」ではない。これは、彼が「皆に対して」みせる優しさである。
「私だけ」のものじゃない。
私は彼を少し見上げて、「ううん。大丈夫。何でもない。」と言って、離れすぎず、かといって、近すぎない距離で、彼の隣を歩いた。
オソクナリマシタ
 




