YUMI
真:
それから、本当にアキは電話を取らず、いつも留守番電話だった。
ということは、着信拒否はされてないってことか。
何にせよ、このまんまで良い訳がない。
店長:今着いた雑誌、棚に並べて置いて。
真:はいー!わかりましたー。 雑誌って紙なのに、これだけ集まると重いもんだな。
紙は薄いから密度が高くなつちやうんだろなうな。
新人バイト:僕も手伝いましょうか。
真:バイトにも来ないし、なにやってるんだろうな。
新人バイト:手伝いましょうか?
真:ああ、あ、はい、お願いします。
新人バイト:
お、またこの子が表紙だ。さいきん売れてきてるなー。確かに美人だよね。
でも、まだ服に着られてる感じがありますね。
真:
そうなんですか?運ぶだけで、全く見てもいなかったな。
え!これ、由美さん!なんてね。あの人、こういうの嫌いそうだもんね。
新人バイト:
うん、YUMIっていう子だね。美人さんだよねー。って、なんだ、知ってじゃないですか。
店長:うれてるからねー。で、今度うちの店でサイン会やるよ!コラボ商品売り出すらしくてね。
真:え、本当ですか!
新人バイト:そんなにファンだったの?
真:え、ええ、なんかいいなぁと思ってたんですよ。
店長:そうかい?そうかー、そんじゃ、ポスターも上げよう。特別だよー。
真:それは別にいらないかな。
店長:え、そうなの?でも、これ持ってると、サインもらえるかもよ?
真:サインですか、はぁ、考えておきます。
店長:
なんだー?おいおい、新人とはいえ、もう売れるの間違いないよ!
アイドル追っかけ歴二十数年の私がいうんだよ?
真:それじゃ、もらっておきます。
店長:その方がいいよー、家宝になるよー
真:家宝ですか?あははは。
店長:それから、当日のお世話係、頼むね。
真:僕ですかー?
新人バイト:いいなぁ。お話できるんだー。うらやましいねー。
店長:ほら、店長ともなると上の方と色々お話があるのでね。プロモーションがどうとかさ。
真:はあ、なにをやれば良いんでしょう?
店長:ジュースとか、焼きそばパンとか、言われたら買いに走る!
真:そんな、学校の後輩じゃないんだから。
店長:そんな、感じってこと、くれぐれも、粗相の無いようにな。主任。
はいはい。まあ、レジ打ってるよりは増しかもな。 しかもモデルさんだって?これって役得だよな? いいですねー主任に早くなりたいなー。 僕が来てから初めてですよ、こんなイベント。 そうなんですか? 一回、ヒーローの着ぐるみがきたかな。 中身は言わずとしれず、ですがね。 そうなのかー、なんかしらやってるんですね。 こういう店も、企業努力を惜しんではならんよ。 ですよね。 ただでさえ、薄利多売な世界だからね。 こういうプレミアムな日は、他のものもどしどし売らないとね。 本屋って差別化が難しいですからね。 下手したら、ネット販売に。果ては電子書籍に負けちゃうからね。私は紙の匂いが好きだからね、今後もずっと、普通の本を買う予定だよ。 さて、モデルの髪の匂いはどんなかなー。 そっちの髪ですか! <週末由美来店>
新人バイト:わ、本当に来てる。すごいなー。やっぱスタイルいいねー!
真:それじゃ、いってきますね。あー、本日お世話係をさせていただきます。
由美:あら、まこっちゃんじゃない?こんなところでなにやってるの?
新人バイト:ええ!お知り合いなの?マジで?
真:え、ああー、やっぱり由美さんなんですか?その恰好と、お化粧、ちょっときつ目で別人かと思いましたよ。
由美:
なんか失礼なことをいきなり言われてない?私?ま、いいわ。
あのね、メイクの人に勝手にやられるんだから、しようがないでしょ?わかる?
真:そんなにおこらないで下さいよ。 ただ、この前と違うなーと思っただけですよ。
由美:
ふーん、ま、いいわ。あーもう、ちょっと聞いてよ!
街あるいてると、なんか、すぐにサインください!とか言われていやなのよ。
真:人気あるんじゃないですか。やって挙げたら、好感度上がるかもですよ。
ファンあってのものですよ。
由美:
サインって、なんかの契約だったらどうするの?
いきなり、全財産贈与します、とか!君、責任とってくれるの?
真:
ありえないでしょ、そんなこと。しかもそんなに露骨にきますかね?
わざわざ雑誌まで持って?ないない。
由美:知らないわよ。あーっもう!嫌なものは嫌。
真:そういうのって、有名税っていうもんじゃないんですかねー。
由美:なら、あなたが書きなさいよ!私の代わりに税金払って。
真:そう怒らないでくださいよー。 美人が台無し。
由美:何?
真:いえ、美人は怒っても絵になるなぁ、あははは。
由美:あーあ、もう、ほんっと、嫌になっちゃう。なんでこんなことしてるの私。
真:なんででしょうね?
んー。 やっぱりモデルさんだね。なんだかんだで絵になるなー。
でも本当は結構、可愛い物も似合うんだよね!
えっと、ちょっと話たいことがあるんですが。
由美:ほぇ?私に話ってどうしたの?
真:
ほぇ?ってどこから声だしたんですか?
えーっと、アキが、すねちゃってて、電話に出ないんですよ。
由美:そうなのー?って、そういえばなんか、連絡来てたなー なんだったっけ? 最近忙しくて。
真:本当ですか?今すぐ見て!ほら!
由美:
ああ、分かったわよ。 マネージャー来てなくて良かったわねーほんと。こんな姿なんか見せられないわ。
真:いいから。早く確認してー!
由美:男なのにうるさわねー。ほう。あー、あなた、アキは諦めなさい。
真:えー!なんて書いてあるんですか!
由美:もう耐えられません。尼になりますってさ。
真:へ?尼!どこのお寺なんですか!
由美:
本気にしなさんなよー。 そんなわけないでしょー。
あなたの素直じゃない所が嫌いー!だってさ。
真:んーそうかなー?素直じゃないのかな?
由美:
私はアキとは違って正直よ。 だから単刀直入に行きましょうか。
アキじゃなくて私にしない?私を選んだらキスしてあげてもいいわよ。
真:何いっちゃってるんですか、そんな急に。
由美:では証拠を見せましょう。 こっち見て。
真:どうしたんですか?またまたー冗談でしょ?
由美:冗談なんかじゃないよ。んっ。
真:
へ?、本当にキスしてるじゃないですかー!なにやってるんですか!
会社にバレたらどうするんですか!
由美:あんた、なんの心配してるの? あーあ、アキが嫌になるのもわかるわー。
真:えーそんなー。
由美:
まぁ好きになるのもね。 さーて、冗談は置いて置いて。
今から電話するから、出たらすぐに変わりなさい。
えーっと、どこにいれたっけ?
真:多分、サイドの小さいポケットだと思いますよ。
由美:あらほんとだ、詳しいわね、人のバッグなのに。
真:何いってるんですか、前、バスの中で僕にカード探させたでしょ?
由美:あのときは助かったわ、ありがとう。 そんで起きたらあなたが隣で寝てて。
真:またまた、何いってるんですか、ちゃんとタクシーにのせたでしょ?
由美:そうだったね、ちぇっ。
真:今、ちぇっていいました?
由美:いってないわよ。地獄耳!
真:でもー、あの時のせいでアキとは喧嘩になったんですからね。
由美:あら、そうなのー?あの子らしいわね。ふふっ。あったあった。
真:そんな大きいストラップつけてても見つからないなんて。
由美:なんか言った?
真:電話見つかりましたよねー?早くかけましょうよ。
由美:自分でかけなよ。
真:人の電話だしプライバシーの侵害でしょ?そういうわけにはいきませんよ。
由美:
待って、わかったから。 これかな。ふふふんーと、何がでるかなー♪
ああ、マネージャー?私。この子とキスしちゃった!えへっ!
マネージャー:
ふーん、気分良さそうね。それじゃぁ本当なんだろうね。
分かったから、その子と変わっって。
由美:はい。かわっててさ。
真:へ?僕に?もう?
マネージャー:あーもしもし。あなた、責任とってもらいますよ!
真:えええ! なんですか!?
マネージャー:なんてね。キスの一回や二回、どうってことないわ。こちらは一切プライベートには関わらない契約なのぉ。
上手くやってよね。ただし、週刊誌には気をつけて。チャオー。
由美:どうだった?
真:どうって、会社のひとじゃないですか!
由美:あはははー良い顔してる。 さっきより全然良い顔。今こそほんとにチューしてあげたいわ!
真:酔ってるんですか?
由美:んなわけないでしょ? 仕事中よ、曲がりなりにもね。
ははーん、そかそかー。へそまげちゃったか。
おしえてあげましょう!こういう時はね、うふっ。
真:本当にそんな方法でいいんですか!
由美:絶対大丈夫だよ!上手くいったらなんかおごってね!
真:モデルさんにおごるのかー、そんな高級なものおごったら、生活がー!
由美:なに、そんな高級なものなんかいらないわよ。まあ、その辺のラーメンでも一緒にすすりましょうか。
真: そんなもんでいいんですか?
由美: そんなもんとは!今、日本中のラーメン屋を敵にまわしたわね、あなた。
真: いえいえ、ラーメンは大好物ですが。
由美: いいじゃないの、あまり食べたこと無いのよ。でも、まずい店だったら、美味しい店に当たるまでハシゴするわよ。
真: はいはいー。