Can The Undead be killed?
I 序章
結論として、彼は世界に嫌われた。
彼は決して死ぬことのない体だった。幼少期、住んでいたマンションの五階の部屋、その窓から転落しても、八歳の時、怒った友達がカッターを振り回し、運悪く首筋をぶった切られても、十三歳の時、工事現場の側で遊んでいて、上空から降ってきた鉄柱に頭を粉々にされても。
彼は死ななかった。
故に、親から、友達から、先生から、近所から、国から、世界から、好奇の視線を浴びせられた。その好奇の視線は、様々な種類に変化した。
神聖。「あの方は神様のようなお人だ」「なんて崇高な方だ」
羨望。「羨ましいよ、死なないとか」「良いなぁ」
侮蔑。「死なないなんてこの悪魔め!」「消えろ!」「神への冒涜だ!」
研究。「どうすれば死ぬんだ」「何故死なないんだ」
神論者からの評価は神聖と侮蔑の真っ二つ。一般人からの評価は羨望、侮蔑。そして世界からの評価は研究。国際倫理的には隠されて、裏で科学者達に研究されつくした。体中いじくられ、脳も弄ばれ、挙げ句の果てに何度も「殺さ」れ。
毒殺轢殺扼殺撲殺刺殺溺殺と思いつく限り殺され尽くしたが、死ななかった。
気味悪がられ、忌まれ、憎まれ、最終的には哲学者の大家がこう述べ、彼は嫌われ尽くした。「死なないなんて、何のために生きているんだ」と。
やがて、彼は忘れられ、記録の中の人となっても、老いず、衰えず、若々しく生きていた。 ただし、歯車のズレた状態で。そんな彼は、自分を殺す彼女に興味を持った。
彼女は暗躍し続けた。世界の裏で、人を殺め続けた。
最初はほんのわずかな切欠だった。切欠は人ですらなかった。十歳、たまたま見つけた蟻を、好奇心から右足で踏みつけて、すり潰した。
心の底から酩酊感と果てない快感が湧き上がった。嗚呼、嗚呼、自分は、私は、この生き物の生を蹂躙している。弄んでいる。支配している。そんな感情が彼女にとって快楽だった。
それ以来、バッタ、セミ、カエル、ネズミ、イヌと、次々に殺戮した。刹那に消え行く命、それを手先で操った。そして四年後、彼女は遂にヒトに手を出した。
ほかとは違った。
ナイフで肉を突き刺していく、柔らかい皮膚を突き抜け、筋肉に達する。神経を引き裂き、内臓を抉り。ほかとは違う感触。そして最大に違ったのは、悲鳴。自分に脅えている、自分を恐れている、自分に乞うている、そんな叫びが、彼女のすべてを満たした。同時に、感じて、嘲って、笑った。
無論、彼女は法の裁きを受けたが、「快楽殺人妃」として話題になった。そして彼女を必要とした闇に助けられ、闇に染まった。
そんな彼女は、死なない彼に興味を持った。