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大好きな彼の背中  作者: 宵賀
3章:一時的な再会
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第9話:架空の半年記念日、それは血

 If going out, then half a year today.


 と、実穂は得意な英語で英文を書いた。

 意味は“もし付き合っていれば今日で半年”というもの。


 11月15日の今日はそんな日でもある。

 あの時駄々をこねてさえいなければきっと今も付き合っていた事だろう。

 そして、今日という日を実穂と笠也はどのような日にするのか……。


 実穂は笠也の事を好きであることを今でも、そして未来でも心に刻み付けていた。

 だが、その未来は決して明るいものではない。

 笠也はついに桜子に告白をするのだ。



 実穂はずっと考えてきた。

 もし、交際がスタートした場合とそうではないこと。

 前者であれば、笠也の事はほおって置く。後者であれば近くにいてもらうということにした。


 が、実穂には絶対という言葉を知らない。

 桜子はいくらなんでも男に免疫がなくても、心のどこかでは笠也の事を好いているかもしれない。

 そして告白された際には、見事付き合うという可能性もある。


 桜子に限ってそれはない――と、実穂は信じようにも信じきれなかった。

 実穂の中は笠也との楽しかったり苦かったり、沢山の思い出が詰まっている。

 その思い出はきっと、桜子の返事1つで壊れてしまうものだと考え、実穂の笠也への思いを諦めなくてはいけない。


 ある程度、心の中では準備は出来ていると言っても、それは簡単にも壊れてしまうガラスの器な様なもの。

 少しの衝動でも耐え切れるわけがなく、粉々に砕け散ってしまう。

 今、それを支えているのは、思い出だけ。

 家に行った思い出の中、添い寝、キス、スキンシップでは支えきれない。



 ブー…ブー……


 静かな部屋の中、卓上にある携帯がメールの受信を告げるバイブが鳴った。

 実穂は握っていたシャ-ペンを離し、携帯に持ち変えるとボタンを連打しまくった。

 メールの送り主は笠也。

 本文を見たくない思いを心の端に寄せ、重々しく決定ボタンを押す。

 瞬時に現れる笠也からのメール。


――告白の答えはもらえなかったけど、「待ってる」って(あずま)さんに言ったよ。

  だから、実穂。

  俺のことを諦めて欲しい。


 こうなることは予想していた。

 笠也直々に「諦めてくれ」と言ってくるのは驚いたが、実穂は内心で潔く諦めようという決心がついた。

 とたんに、実穂の中で何かが渦めき始めた……。


 未練はない、スッキリした。気持ちは焦ることはない。……けど。


 実穂の目には涙が浮かんでこなかった。

 悲しくて仕方ないのに、悔しくて仕方いのに。涙は出てこない。


 グッと、手の平に力が入る。

 痛みが欲しい。いつかの痛みが欲しい……。

 実穂は机の引き出しに閉まってある小さなカッターを、この前使った物よりも切れ味が良いカッターを右手に持った。


 左手首の裾を上げると、前に切った後がまだ薄っすらと残っている。

 実穂はそんな傷痕よりも上、血管の上にカッターの刃先を乗っけると何もためらう事無く下に引いた。


 ……。

 目の前にはパックリと大ききな傷口。でも、部屋が寒いからか血は出てこないという謎。

 実穂は手が出てくる前に絆創膏を探し出した。

 確か、まだあのポーチの中に入っているはず……と、考えながらあまり左手を使わずに探して、やっとそれを見つけ出せたとき、今までにない血の量が吹き出ていた。


 今回は深いなぁ。と、思いつつも前回同様に血を舐め、絆創膏を丁寧に張る。

 しかし、ここで問題発生。

 あまりにも血の量が多いいのか絆創膏のガーゼの部分はすぐに真っ赤になってしまった。

 ため息をつきながら、もう一度新しい絆創膏を張る。


「みほぉー、ごはんよぉー?」


 せっかく治りかけた手首に、陰ながらの侘びを思いながら、実穂は夕食を食べにリビングへと向かった。

 架空の半年記念日は、実穂にとって血の色に染まっていた。


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