第34話:笠也からの愛
卒業式が終って、2日間のボランティアを終えて帰ってきた実穂は、その2日間の間に笠也との仲を復活させていた。
当の本人のことなのに、ボランティアの忙しさで何があったのかよく覚えていない…という、自分に都合の良い事情を立てる。
元からそういう子なので、自分でも分かっているのだが、いい加減治した方が良い癖だと思っている。
「で。で、ですよねぇ」
心の中ボランティアの振り返りを思っていた最中の事。
携帯の画面を見て、実穂は一瞬固まる。
愛しい元カレ様のメールを見て顔が引きつるのを感じた。
――明日おうち…来る?
実穂はきっと、笠也はフられて悲しんでるんだなーって思った。
慰めに行ってやろうと、佐々木には悪いが内緒で行くことにした。
……それがちょっとまずいかったのは、後々分かった事だったが。
――何か格好とか変だったら玄関に入れる前に帰ってもらうからね。
え?
返事出したら、そう返信が返ってきて言われた。
「謎な笠也……」
実穂は少々迷いながら明日の服装とか、シチュエーションなどを考え始めた。
少ないお金を使ってお菓子をあげてやろうとも思ったから、明日は早く家を出てお菓子を買ってあげて、甘えないで、逆に甘えさせてあげよう。
そうやって笠也を思っているうちに、ふと、胸が熱くなった。
手にギュッと力を込めて、その気持ちを奥に追いやる。
「お菓子は」
何がいいだろうと考えていても、何故か実穂には悲しんでいる笠也の姿が、瞳の奥で浮かぶ。
2年も片想いしていた子にフられた笠也の気持ちは、実穂には決して分からない。
今までどんな経緯で、笠也が桜子に好意を抱いていたのか。
きっと、実穂がそれを分かってしまえば、今までの苦しい気持ちとではとても比べ物にならない。
――苦しくたっていいんだもん。苦しいのはいつか忘れてしまうんだから。
ふぅっと、息をついて実穂はベッドに体を投げ出して電気を消した。
「お菓子…なにがいいのかなって迷ったんだけどね」
マシュマロとクッキーとチョコ棒を笠也の家のテーブルに広げる。
10分も棚の前で迷った結果、10個中3個に絞ったのだと、目を光らせて言ってみた。
――とりあえずは侵入成功っと
ここで本日の格好を心の中で説明。
髪は昨夜入念に解かしたかいがあって、サラサラヘア。
黒タイツに青のミニスカに、七部のロングティーシャツです。
「今日の実穂は悪くないよ」
と、言って笠也はチョコ棒を取って実穂の頭を撫でる。
なるほど、チョコが気に入ってるのね。
口元をやんわりと緩ませて、笠也は食べてゆく。
実穂はマシュマロの袋を開け、イスに座って仲良く食べた。
まだ、実穂は足の裏がフローリングにつかない。
足をフラフラさせながらマシュマロを頬張っていると……。
「実穂、行儀悪い。追い出す」
「え!?」
お菓子をテーブルの上に置いたまま、実穂は軽々と腕を引っ張られて、玄関までつれてこられてしまった。
「嫌だ嫌だ!帰んない!」
「行儀悪い実穂がいけない」
「ごめん、ごめんんさい。い、いい子にするからぁー」
その時笠也の顔を見てよかったのだろうか。
1人で慌てふためく実穂を見て、優しげな笑みを浮かべていた。
「いい子にする、本当に?」
「ほ……ほんとぉ」
実穂は自分でも、黒タイツに包まれた足が震える事無くフローリングの上を滑っていた事が脳裏で悟る。
だから、笠也が引っ張る方向に素直に動いてしまうのだ。
いくら実穂が嫌だと言っても、タイツを履いた足は笠也が止まらない限り滑る。
「じゃあ、抗わないでね」
「うん…」
本当に追い出されるかと思ったんだから!
という実穂の心を先方に通じたのか、笠也の表情は変わる事無く、また頭を撫でてくれる。
「これ好き」
「そっか」
実穂は笠也に撫でられるのが好き。これは、笠也だけの特権だ。
そんな事を思っていると、ふと笠也が玄関先なのに唇を重ね合わせてきた。
こんなとこでするのは、とても…いや、かなり珍しい。
唇が離れてるとふと、自分の唇は甘いチョコの味がした。
「甘い…」
ふわっと、実穂の意識は飛ぶ。
唇をペロペロと舌で舐め遊んでいると、笠也が何か羨ましそうな目でこちらを見ている。
「おなか減った」
「お菓子~!」
実穂は浮かんでいた意識を瞬時にかき集め、お菓子が置いてあるリビングへ直行。
鼻歌を歌いながら、再びマシュマロを口の中に入れていると後ろから笠也が実穂の頬をつまむ。
「ふにぃー」
マシュマロを食べながら頬を弄られるとすっごく嫌なんだけどね、ほんとは嬉しいんだ。
という、言葉の裏を考えながら笠也に弄られる頬を気にする。
でも、やはりマシュマロを頬張る実穂を見て笠也はすぐにそれをやめてしまった。
「寝る」
「ほぇ?」
慌てて笠也の後を追っかける。リビングを後にする前に電気を消して、パタパタと家の中を走る。
笠也は薄い掛け布団にくるんで寝ていた。
それを実穂はぐいぐい押して、「おきろぉ」と呼びかける。
でも、起きない笠也を見て、軽く頭らへんを叩いて見せた。
「えい」
コツという音が鳴るだけで、なんにもならない……と、思った時、笠也が無理矢理実穂の腕を掴み、そのまま自分の寝床の住人とさせた。
殺されるんじゃないかという勢いで視界が変わる。
……少し怖かったが。
「な、なにさ」
布団に引きずり込まれると、横向きに寝かされ正面には笠也が。
今日の彼の格好は……パジャマ?らしき物。
「それパジャマなの?」
「そうだよ」
「欲しい」
実穂は笠也のパジャマが欲しい。バカみたいなことを本当に言った。
肌に触れているものは全て欲しいと、そんな独占欲に気づいたのはいつからだろうか。
「いいよ」
黒いパーカーのファスナーを下ろし始め、起用にそれを取るといつのまにかに後ろを向いている実穂に渡してあげた。
「もらっちゃたぁー」
実穂は実穂で、笠也の物が手に入って嬉しいという態度を取る。
「実穂も」
「なにが」
「実穂も脱いで」
プツっと、何かが外れる音がした。
笠也の腕が服の中に侵入していて、なんだかいつもと違う気もした。
もぞもぞと実穂は掛け布団の中で服を脱ぎ始め、脱いでから笠也のパーカーを着る。
チャックを全部閉めて、それから起き上がって、自分の服をたたむ。
「たたんだの」
「そっかそっか」
すっぽりと笠也に抱かれて、彼の心臓の音を聞く。
とっくんとっくんと、静かに鳴っている。
ふと、実穂は言って見た。
「寝取られてたー」
「違うよ実穂」
「取られたー」
違うでしょ?と、優しく囁かれ、上を向くと、額にキスをされた。
そして、実穂の下敷きになっていない方の腕を動かして、手を移動させてゆく。
「ここだからね?ムネじゃないの」
胸をつんつんしながら、笠也は他の場所もつんつんする。
実穂はくすぐったさを覚えて、笠也に抱きしめてもらった。
●この話は大丈夫なのか…。




