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大好きな彼の背中  作者: 宵賀
6章:ひっくり返った卒業式
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第29話:辛い現実


 実穂はやはり、元気がない日々を送っていた。

 あんなことが精神に響いた事が相当、答えたのだろう。

 式練途中に倒れた実穂は、その場で泣いた。


 歌の歌詞が弱った心を貫き実穂自身を蝕んでいった。

 倒れた日はたまたま笠也が休みの日で特に騒がれる事はなかったが、学校から親に電話が行き、その日の午後は親と一緒に精神科へと行った。


 情緒不安定という、どっかで聞いたことがある言葉が医師から告げられ、薬を幾つか貰って、その次の日は学校へ、重々しい足取りで向かった。

 薬は朝と夜。

 また気が動転した時ように、他の薬を手渡された。


 担任には大丈夫だからとそう言っておいて、式練へ。

 前に泣き倒れた歌は、やはり心に堪えたが、薬のせいがあってか倒れずにはすんだ。



 きっと、笠也は実穂が倒れた事を知っているだろう。

 佐々木がそんなことを笠也と話したと、メールで教えられたとき、実穂は勝手に笠也からメールが来ると勘違いをした。

 けれど、3日経ってもメールは来ないし、メールをしても返信がない。


 実穂の心は再び曇ってゆく。

 一緒に笑い合ったあの時間は来る事がない事を悟られると、胸が引き裂かれたように痛くなり、涙も出てくる。

 あんな事を言ったのだから仕方ないか。

 嫌われてるし、愛想つかされたし。



 薬を飲んで、落ち着く日々がしばらく続いた。

 

 そんなこんなで卒業式一週間前にあった学校行事、合唱コンサート。

 わざわざ、市民館で行った。


 実穂は友達とわいわい会話を交わしつつ、市民館へ向かう。

 市民館が目の前に現れた時、運悪く信号待ちとなった。

 6組から一気に渡ってしまおうという、先生達の判断で信号前に3クラス分の中学生が掻き集められる。


――笠也……いるかな。


 7組が信号の前にやってくる。

 実穂は笠也の姿を目で探し、その姿を捉えた瞬間……!


――あれ……?


 笠也は実穂に気づくことなく、目も合わす事なく、通過。


――無視…されたの?


 胸にしんとした冷たい物が刺さる。

 視界には自分の姿が入っているはずだ。

 けれど……なんで?

 気づかぬ振りをするなんて、どこまで嫌われてしまった?

 どこまで辛い思いをすれば、笠也は振り向いてくれるの?


 信号は未だ変わることはない。

 実穂はうつむき、涙を堪える。


――泣いたら……ダメ。


 信号が赤から青に変わったのだろう。

 うつむいている実穂の腕を友達が引っ張る。


「大丈夫?」

「………」


 友達と目が合い、実穂の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 また、実穂の心が乱れ始めている事は言うまでもなく、そんな実穂を影で見守るひとつの影。




 市民館でも、実穂は笠也の姿を探し、笠也は桜子を懸命に探す。

 いつまでも終らないいたちごっこをしているようで、それでも実穂は笠也への意識を手放さない。


 でも、見知らぬ振りをされた今さっき。

 心はやはり、傷つくのを恐れながらも笠也一筋で。




 コンサートが終ってから、実穂は今日一日のことを振り返った。

 1週間前にはメールをしていたが、今ではもう来る事がない。

 実穂は携帯を握り締めて、笠也のメールが入ったフォルダを全消去。

 自分からメールを送らないようにも、アドレス消去。


 これで、笠也との関わりはない。

 後悔にも似た辛い悲しみが実穂の心を支配し、実穂はまた、涙を浮かばせる。


 薬なんかじゃ、情緒不安定は治せない事を感じた瞬間だった。

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