第28話:冷たい背中
受験が終わり、3学年の雰囲気も落ち着いてきた頃の2月の後半。
学年末テストも終えて、残す学校行事も数えるほどにしかない。
球技大会、百人一首大会、3年生を送る会、卒業遠足、そして卒業式。
特に最近では卒業式練習が毎日のように入ってきて、はっきり言ってだるい。
背筋を伸ばして話を聞いて、立って、戻って、歌を歌って……。
眠くなるのかどうか聞かれると、絶対に眠くなる。
けれど、実穂にはこんな卒業式練習に少しの楽しみがあった。
入場から練習を始めるとき、1組2組……と順番に入ってゆく。その時に、6組の実穂は7組の前を通るときに、必ず目を合わす事。
さすがに笑ってはくれないが、実穂は心の中がやんわりと揺らぎ、口元さえも緩んでしまう。
卒業をしてしまったもう、会うことがない。
メールだけになってしまい、その後は……。
ふと、実穂は考える。
卒業と考えた途端に、桜子への告白はどうなったのかと気になる。
本来なら気にするまでもない。だが、胸騒ぎがする。どうも、悪い予感らしい。
そんな胸騒ぎを抱えたまま、球技大会も百人一首大会も卒業遠足も終ってゆく。
卒業遠足は笠也と佐々木とで遊び、しかし、そうは楽しくはなかったのが今もこう思い出せる。
不満足に終ってゆく中学3年の行事。
そして何故か、笠也に嫌われてる……?
――東さん以外、基本無理。
ここ最近、笠也とのメールが上手くいってない。
実穂はそんな言葉を文字にされて、涙を流した。
ずっと、好きでいるのはもう無理かもしれない。
笠也が好きなのは桜子で、自分は好いてもなんもない。
ずっと好きでいようだ何て、甘い甘い考えとしかない。
好きでいる意味もない。
もう、笠也は自分に背を、冷たい背を向けて振り返ることはない。
甘えても、どうしようもならない現実を実穂は目の当たりにされて……。
――笠也に身体を触らせて後悔、女遊び程ほどにしておけ。
と、メールを送った。
もう、嫌だ。
嫌だ。
――もう、実穂なんて信じられない。
この時ばかりは、死んでしまいたいと、そう思った。
もう、関係は戻る事はない。
笠也は実穂を好きではない……。
笠也が冷たい背中を向けている光景が、瞼の下で浮かぶ。
実穂はその背中が遠くに行って欲しくはなかった。
手を伸ばしても、決して触れることが出来ないくらい遠くに行ってしまう。
メールの返す言葉が見つからず、実穂はベッドの上で涙を流し続ける。
過ちを犯してしまい、メールの返信が怖くて、けれど、送った。
逃げちゃダメだと、実穂は思う。
涙で視界が見えなくても、前をちゃんと向いていなければ、笠也の背中どこかに行ってしまう。
「死んでしまいたい……」
小さな声でそうつぶやく。
もし、ここに笠也がいれば……と、実穂は逃げ道を探すが、メールの受信音ですぐに現実へと引き戻される。
現実は甘くない。
死んでしまいたいと心から思っている自分が今いるだけで何にもなかった。
けれど……
そんなに死にたいって思うならと考えた時であった。
死んでも意味がないことに気づいた。
今亡くなったとしても、後悔するだけ。
死んでしまっても、何もならなく、物事は変わりもない。
「忘れてしまったらどうだろうか……」
でも、忘れたくはない。
心臓がうるさく鳴っている。
自分は笠也を裏切ってしまった後悔と向き合おうと、実穂は涙を拭った。




