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大好きな彼の背中  作者: 宵賀
1章:実穂の想い
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第2話:受験と自傷行為

 自分の誕生日以来、実穂の取り巻くオーラは少し変わった。……と、言うのは家族仲が悪くなり実穂自身精神が追いやられていた。

 中学1年の春前に両親の離婚、大好きな人との別れ、そして目前に迫った受験……。

 心の支えがなくなった実穂にとって、今すがっていられるのは過去の良い思い出だけだった。


「なんか実穂元気ないよね~…大丈夫?」


 元気で明るかった実穂を気遣ってか、クラスで一番仲良し、佐々木梨音(ささき りね)が話しをかけてきた。

 梨音とは部活が同じでたまたま今年一緒のクラスになれた。


「嫌な事がありすぎて超疲れた……もう無理」


 タオルを顔に当て、今すぐにでも流れてきそうな涙を堪える実穂。

 本当は学校にいても、授業中でも泣いてスッキリしたいのに、一目が当たり周りに集られたりすると嫌だからこうして涙を押さえ込む。


「何があったのさ? 言える?」


 授業が始まるまで残り5分。

 実穂は梨音に今までの事を話してみる……が、思い出すだけで辛いのにそれをいざ言葉にしてみると涙が止まらない。

 ポロリポロリと大粒の涙が自分の腕の下から落ち、タオルの下で消えていく。

 そんな風に、笠也との思い出が消えてしまうと考えてたら余計に涙が流れる。


「……で、風李と。

 前々から噂にはなってたけど…なるほど。桜子にコクるために別れて、たまたま遊んだら傷つけられて、今ですか…」


 「うん」と、言うように実穂は頷いた。

 また梨音が言葉を発した瞬間、授業開始のチャイムが鳴り、今日もまた実穂は気が重い日を過ごしていた。



 桜子と、いうのは今年の部長になった同学年の女の子。

 容姿は小学校時代に太っていたせいもあり、丸い面影が残っているが今はまぁスマートっぽく痩せている子。

 髪型はいつも短い髪を2つに結び、目元にホクロがあるせいか、異様に男子うけがいい。


 実は実穂、梨音、桜子、笠也は皆同じ部で、顔に面識がある。

 梨音は実穂からの話しを聞いて、たいそう驚いていたが、興味津々に恋愛事情を聞きだそうとしていた。

 実穂の元気なさにしつこくは聞いてこないが。


 受験が今、目前に迫っている時だから、そんな悩みは早く忘れた方が良いと梨音は助言してくれた。

 実穂自身、忘れられるものなら早く忘れてしまいたいと思い、残り少ない部活の時間を精一杯過ごしている。

 もちろん、その部活には笠也も桜子もいる。


 笠也から桜子に話しかける場面――と、いうのもここの部は男女仲がなんだか悪く話しかけれる雰囲気――はないため、実穂にとって、そんな恐ろしい光景を見てしまったら立ち直るどころではないだろう。

 桜子は桜子で元々笠也と実穂が付き合っていたことも、自分が今笠也に好かれていることも知っているが、なにも行動はお越しもしない。

 というのは、桜子は男子うけがいいものの、男子との免疫がないため自分が好かれていると聞かされた時点で行動を起こせない。男子は嫌いと、桜子は言う。


 実穂はそんな桜子に感謝していた。が、逆に恨んでもいた。

 この恋愛は笠也からの一方通行的な片思いで、桜子は全面的に関わってはいない。だが、これから先、桜子は関わろうとしている。

 笠也はそれを望んでいるのだ。


 卒業を控え、受験も控え、誰もが相当焦っている。

 誰もが他人の恋愛に興味がないわけでもない。

 受験に直接関わっているから、同学年の恋愛の噂など――実穂と笠也のこと――に耳を傾ける事も、意識を行かせることもさせなかった。

 もし、受験さえなかったら、実穂達が付き合って別れた位の噂は3日で知れ渡るだろう。



 秋の大会前……11月にそしてまた、実穂を取り巻く関係が大きく変わった。

 笠也のことで悩み続けたあの苦しい日々は思い出となり、笠也がもう傍にいなくても実穂は独りで歩けるように回復した。

 笠也と縁を切る、それが悩んだ末に出した結果だった。

 泣き続けて満足したのだろうか、実穂はもう無駄に涙を流す事もなくなり、普通に生活を出来るようになった。


 しかし、誕生日から続く追い討ちはまだ終ろうとはしなかった。

 当時は笠也のことで一杯一杯だったので、受験に対して全く手をつけていなかった。

 誰もが決まっている志望校も決まらず、三者面談の時には成績が落ちていたのでしつこく母親に怒鳴られ、実穂は母親に対して逆ぎれをした。


 志望校が決まらなくたって良いじゃないか、何度も何度もうるさい、そんな事分かっている。

 ついには母親から「もうアンタなんかいなくていい」などと言われた。

 母親は働く事にしか脳がなく、まるで自分が保護者という事を忘れているかのような素振りを見せる。


 その日、母親が風呂に入っているとき、実穂は鬱憤晴らしにその辺にあった紙をビリビリに破き、捨てた。

 が、それでも怒りは収まらず、実穂は他に何かないのかと周りを見渡すと、自分の机の上の端っこに小さなカッターナイフがあった。

 これで何かを切りつけようと考えている最中、実穂は左手首に鋭い痺れと痛みを感じた。


 見れば、やはり血が出ている手首と、綺麗に切れている痕。

 あ~切っちゃたんだなー…と、他人事に思いつつも血を舐め、絆創膏を丁寧に張る。


「しまった、体育はダンスだった……」


 やってしまった後に気づいた。

 実穂はこれからこの絆創膏を隠さなければいけないことを脳裏が悟った。

 鬱憤は納まったが、他の事が頭を制する。


「いいか、どうせだし」


 実穂は、本当に他人事だった。

 しかし、その自傷行為がきっかけに自分がまた笠也と関わるとは考えてもいなかった。


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