1-8 ハイトレントカットソーBK
読んでいただいてありがとうございます。
アントホールから帰還したハヤテは、思った以上に早い帰還で手持無沙汰になり、フォレストガーデンをブラブラと歩いていた。
歩いている間、常に頭に浮かぶのは1人の少女。気が強くて、可憐で、そして戦士としても一流で、花咲くような笑顔の少女。
ハヤテは今日命を落としかけた。|このゲーム(SGO)では、どれだけダメージを受けても、鈍い感覚があるだけで体の動きを阻害しない。ゆえに死ぬまで気付かずに戦闘し続けてしまうこともある。ハヤテはHPが尽く寸前であったことを気付かずに戦っていた。ソロの時はよくあったし、正直それで死んでも仕方がないと思っていた。ハヤテにとってこの世界はどんなにリアルでも現実ではなくゲームだった。例えそれが命がけだとしても。
正直今日のように、狩りの途中で無理やり帰還させられるのは好きではい。そういうのが嫌でソロをしているという部分もある。
ハヤテの狩りの時間は非常に長いし、いつも命がけで強い敵と戦うことが多かったから、そのペースに付いてこられる者がいなかったというのも事実だ。強さを追い求めていた時期に無茶をしたが、今はそれが当たり前になってしまい、自分では無理をしていないつもりでも、相当無茶なことになってしまう。
しかし、今回ハヤテは嫌な気分ではなかった。むしろセーヤが心配してくれたことに喜びの気持ちすらわいていた。
セーヤの涙の意味や、抱きとめた体の感触、なでた髪の柔らかさを思い出すと、いてもたってもいられないようなムズムズした気持ちになる。
だが、恋愛経験など皆無に近いハヤテには、その気持ちがなんなのか、予想はつくが確信が持てなかった。それゆえ、もやもやした気持ちで、フォレストガーデンを歩くことになったわけだ。
ハヤテは、ただブラブラしていてもしょうがないと、ドロップアイテムを露天街に売りに行く。自分に必要な素材以外は、プレイヤーの結成した最大手の生産ギルドかNPCの店に売ってしまう。
狩りの最中も狩りの後もドロップアイテムを見る暇がなかったが、店への道を歩きながら確認すると、ドロップアイテムの中にレア素材を見つけた。ポイズンアントの毒液。毒攻撃の武器を作る時に必要なアイテムで、高値で取引されている。生産ギルドの露天NPCに話しかけると、
「毎度ありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか?①アイテムを買う。②アイテムを売る。③レアアイテムを売る」
と三つの選択肢を告げられる。アイテムを買うは、生産ギルドの倉庫にある在庫の中からアイテムを購入することができる。あらかじめ値段が設定されており、プレイヤーから仕入れたアイテムを1割乗せて販売している。アイテムの値段は、在庫数によってその都度変えられており、多く入荷したアイテムは安く、少ないアイテムの値段は高くなる。また、生産職のプレイヤーが作ったアイテムも販売しておりその値段で買うこともできるし、生産者の名前が分かるので、メッセージで値段交渉することもできる。
ハヤテがアイテムを提示すると、NPCを経由してプレイヤーと交渉に入る。NPCが電話代わりと言ってもいい。交渉の結果、思った以上の高額で売ることができた。
「ラッキー! これでしばらく豪遊できる」
ほくほく顔のハヤテ。露天をブラブラしつつトランスポーターの方へ移動していると、一つの露店の前でハタッと動きを止めた。
『ハイトレントカットソー(ブラック)【¥――――】』
74レベルまで使える良装備だから値段は張る。が、相場よりは少し安い。ハヤテは胸元の赤いシャツを見る。青いベスト青いパンツに、赤いシャツ。
(黒の方が似合うって言ってたな。でも、同じ装備だぜ。性能同じなんだぜ! 必要あるか? いや、絶対ない。絶対必要ないぞ! 絶対・・・)
ハヤテはしばらく立ち止まっていたが、やがて歩き出した。
ハヤテが去った後、その露店からは商品が一つ減っていたということは、ハヤテ以外誰も知らなかった。
感想など、お待ちしております。
しかし、恋愛というものは不可解ですね。文章にするのはむずかしい。