1-2 小さな変化
お気軽にどうぞ!
二人の狩りは、最初は戸惑ったものの、各々の実力を生かしてそれぞれが敵を倒すという方針にしたところ、モンスター討伐の効率が上がった。
何十回と戦闘し、時に連携しつつ、時に自由に、狩りを楽しんだ。
「〈コークスクリュー〉」
捻りを加えた強力なストレートパンチが2足歩行の半魚人の顔面に突き刺さる。
――――――-ヴァアアアアアッ!
悲鳴の様な声を上げて地面に倒れる半魚人。
セーヤの手助けに向かおうと走り出したところで、セーヤの相手にしていた空飛ぶ回転クラゲが、ブジュと音を立てて地面に落ちた。
「お疲れさん」
ハヤテが声をかけると、セーヤも笑顔でお疲れ様と返す。その表情は晴れやかで、一仕事終えたあとの爽快感のようなものが漂っていた。ハヤテはステータス画面を呼び出すと、アイテムポケット欄を確認する。アイテムポケット欄のドロップアイテムの数がかなりの量になっていた。
「そろそろ上がるか?」
ハヤテの問いにセーヤはメニューウインドウを呼び出す。そこには時計もついているため、正確な時間もわかるようになっている。
「えッ! もうこんな時間なの!?」
セーヤのメニューウインドウの時計が示すデジタルの数字は『18:47』。
SGOの世界では午後の5時から7時までが夕方に設定されており、それを過ぎると夜になる。昼と夜でモンスターの出現率や、種類が変わることもある。従って、昼の狩りと夜の狩りでは装備を変えることも多い。
「明日はギルメンで狩りがあるから、帰って準備しなきゃ!」
狩りには準備が必要になる。消費アイテムや場所によっての装備の変更。アイテムの整理、狩りの連絡、狩場の情報収集など、やることはもりだくさんだ。
また、狩りの後なら余分なアイテムの売却なども必要だ。ハヤテのドロップアイテムが相当な量であるなら、セーナも同じであることは推して知るべしである。
「そっか、今日はありがとな。経験値3%も増えたよ」
「こっちこそもうすぐ72レベルになれそう! ありがとね」
笑って礼を言うハヤテに、セーヤも晴れやかな笑顔で答えた。ハヤテは悩む様な、緊張した様な、硬い表情で沈黙した。セーヤはそんなハヤテの緊張が移ったのか、何となく喋り出せず淡い期待を抱いてハヤテの言葉を待った。
「じゃあさ・・・今度会えたら、その時はまたパーティ組んでくれないか」
その期待はずれの言葉に、セーヤは昔ながらのコントの様にカクッと肩を落とし、照れ隠しで笑いながら言う。
「な、なーんだ! そんなこと? もちろんいいよ!」
セーヤの言葉に、ハヤテはホッと息をつく。セーヤは知らないが、もうかなり長い間、ソロしかしていないハヤテがパーティを組みたいと言うこと自体が異例中の異例なのだ。
「おおっ、やった! ありがとな!」
セーヤの言葉にハヤテは異常なほど喜び、その姿を見たセーヤは少し考えた後に、
「―――ヘル抜け手伝ってあげるよ。私にとってもいいレベル上げになるし」
「えっ、いいのか?」
セーヤの意外な言葉にハヤテは戸惑いを隠せない。
「うん。ただし、私が暇なときだけね」
そう言って片目をつぶるセーヤ。
「ああ、十分だよ」
「じゃあ、予定が空いたとき、『メール』するね」
『メール』とは、相手の名前が分かって入ればステータス画面でPCの様なメールが送れるのだ。フレンド登録していれば『WHISPER』と呼ばれる機能が使え、テレパシーの様に話すことができる。『メール』と言ったことから、セーヤがフレンド登録する気がないことはうかがえた。
「了解」
ハヤテは親指を立てて笑う。ハヤテの返事にセーヤは上目使いでハヤテを見た。
「―――フレンド登録しようとか言わないの?」
「何か理由があるんだろ。セーヤも悪い奴じゃなさそうだし、別にいいさ」
フレンド登録をしておけば、常に連絡が取れることと、相手の情報などがすべてではないがわかるため、アイテムの持ち逃げや、PKなどのハラスメント行為を告発しやすくなる。もっとも、運営が機能してない今ではプレーヤー同士での告発になるのだが。
セーヤはまた赤くなって小さな声でありがとうと言った。そしてセーヤはパーティを解除すると、転移石をアイテムポケットから取り出して、ハヤテから離れる。
「じゃあ、また連絡するね」
そう言ってセーヤは小さく手を振る。ハヤテも同じ様に小さく手を振ると、セーヤの足元に魔方陣が現れ、セーヤは魔方陣と共にシュパッと消えた。
セーヤが消えたあと、ハヤテは笑顔を抑えることができずにやにやと笑ってしまう。そして、少し落ち着いてから自分も家を借りている街へ帰るため、転移石を使った。
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