1-11 【疾風の魔狼】ウインザー
いつもありがとうございます。
ハヤテにとって、ウインザーとの戦闘は初めてだった。パーティ推奨のボスモンスターはさすがにソロでは狙わない。
まずは攻撃パターンを知るため、間合いを開けて様子をうかがう。
ウインザーは獲物を狙う肉食獣特有の、隙を見逃さぬ鋭い目でハヤテを捉え、ハヤテを中心に円の動きでゆっくりと移動する。ハヤテもそれに合わせて常に体の向きを変えていく。
―――ザッ
微かな音がした。掻き消える黒の巨体。ハヤテはとっさに右方向に転がる。先ほどまでハヤテがいた場所を黒い風か駆け抜けた。ハヤテが片膝立ちで振り返ると、ウインザーは着地から止まることなく、跳ねるようにして身を翻し、襲いかかってきた。
「くおっ!」
膝立ちの体勢からさらに横に転がって、辛くも2度目の飛びかかりを回避することに成功した。さらなる追撃があるのではと視線を向けると、着地したウインザーがゆっくり振り返るところだった。
あのスピードで延々飛びかかられたら回避し続けるのは難しいだろう。ハヤテは立ちあがると、少し距離を詰める。ウインザーが一歩踏み込めば攻撃が届く距離だ。
ウインザーは走るように接近すると左の爪を外から内へ振るう。ハヤテは余裕を持って後ろにかわす。ウインザーはさらに一歩踏み込み、今度は右の爪を振るう。これもハヤテは後方に避ける。するウインザーは、バンッと地面を蹴り、剣道の突きのように鋭くまっすぐに噛みついてきた。
ハヤテはとっさに大地を蹴って跳び上がり上空に逃れる。
「〈流星脚〉!」
光の尾を引いて目下の黒い狼に、猛禽のように襲いかかるハヤテ。しかし、噛みつき攻撃の突進距離は長く、ウインザーはハヤテの足の下を駆け抜けてしまった。
スキルが不発に終わったハヤテが地面に着地する。攻撃が当らなかったが着地時にわずかに硬直が発生した。
硬直している間は耳を澄ませ、ウインザーの動きを警戒する。
――――ゴスッ!
背後から衝撃が走り、前のめりに転ぶハヤテ。
(噛み付きから次の攻撃までが速すぎる! 硬直はないのか?)
慌てて振り返ると、そこには黒い獣の後ろ足があった。視界の左上にある自分のHPバーの減り具合を見ると、どうやら攻撃ではなく接触ダメージのようだ。恐らくウインザーは、かみつき攻撃後にバックステップをしたのだろう。移動した足元に自分がいて偶然当たってしまったのだとハヤテは理解した。
(チャンス!)
巨体のウインザーが振り返るより、ハヤテが振り返って攻撃をするほうが速い。振り向く途中のウインザーの横腹に3発の攻撃を叩き込む。ハヤテの体は淡く黄色に輝き、3発目で光が弾ける。
ウインザーは攻撃を受けた硬直もなく振り返る。ハヤテの硬直もわずかで、ウインザーの振り返る動きに合わせて回り込む。さらに3連撃。
ウインザーは振り向く動きだけは遅いようで、このまま横方向に回り込みつつ攻撃をしていれば倒せそうだ・・・などということはない。
2度目の3連打を受けたウインザーはサイドステップで移動する。一歩が大きくハヤテの追撃が間に合わない。
ウインザーは周囲に視線を走らせる。どうやらハヤテの姿を見失ったのでサイドステップで距離を開けたらしい。
目が合うと頭を低くし、尻を高く上げた状態で目をつり上げ、牙をむき出しにして威嚇してくる。
下弦の月のように弓なりになったウインザーは、今にも飛びかからんといった様子である。正面にいるのは得策ではない。ハヤテがウインザーから逃れるように移動する。
―――シュタッ
ウインザーは跳び上がって左に移動したハヤテの前に着地する。
「猟犬モードか。厄介な」
猟犬モードとは、主に獣系のモンスターがターゲットしたプレーヤーの正面に移動してくる現象で、ウインザーの様に跳ねて前に現れるものもいれば、駆けて回り込むものもいる。珍しいパターンでは、モグラのモンスターで常に地面を掘って回り込んでくる器用なモンスターまでいる。別名タイマンとも呼ばれている。
モンスターの正面は当然のことながら一番危険だ。ブレスや噛み付き、突進など正面は攻撃範囲も広く、素早い攻撃が多いのだ。
しかし、このモードにも弱点がある。それは、
「ほっ」
ハヤテが左を向く。ウインザーがハヤテの行先に向かって跳ぶ。しかし、ハヤテは左には行かず直進する。すると、着地したウインザーの左脇を陣取ることになった。そう、フェイントが通用するのだ。プレーヤーの視線、あるいは頭部の動きに従って移動するらしく、フェイントに簡単に引っ掛る。だがタイミングはシビアで、フェイントを仕掛けたときに相手が攻撃をする場合もあり、そうすると当然回避はできなくなる。だが、今回は大成功。
「〈ハリケーンアッパー〉!」
ウインザーの着地後の刹那の硬直時間に、ハヤテの竜巻を纏ったアッパーカットが炸裂し、左脇腹を突き上げた。
――――グオオンググッッ!
ウインザーのHPバーが20分の1ほど減った。ダメージ量は大きいらしく、横に一回転すると威嚇の姿勢で素早く立ち上がった。
「〈ハリケーンアッパー〉であのダメージ量か。先は長いな」
呟くハヤテの顔には、楽しげな笑みが浮かんでいた。
短めです。
明日続きを投稿します!